【完結】君の声しか届かない〜癒し系配信者は、不器用な美形同級生でした⁉〜

リリーブルー

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大学二年生

柊の、ちょっとした秘密

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 昼下がりのカフェテラス。
 千歳と柊は向かい合ってマンゴージュースとパイナップルジュースをそれぞれ飲んでいた。風が心地よくて、ふたりの間には穏やかな空気が流れていた……はずだった。

「ねえ、ちょっと柊くん」

 何気ないふりをしながら、千歳はストローをくるくると回す。

「前から気になってたんだけど、前言ってた『理工学部の“ちょっと奥手なイケメンの友達”』って誰?」

 ぴく、と柊の眉が動いた。

「あれって、後輩の女子に言ってたけどさ、後輩の女子の彼氏のことじゃないよね? だって、その後も芝生で野々村に紹介しようかって言ってたよね」

 千歳は視線を外さずに続ける。

「理工学部のイケメンって、最初は、てっきり適当に言ったのかと思ってたけど……類型を提示しただけとかなんとか言ってたからさ……でも、紹介するとまで言ってるってことは、実在する誰かがいるってことだよね?」

 柊は氷の溶けたコップの中を見つめながら、少し間を置いて、口を開いた。

「……え、何、千歳、興味持ってしまった?」

 わざと軽く返す柊の口調が、かえって引っかかる。

「違うよ。あやしいと思ったんだよなあ」

 千歳は、肘をテーブルについたまま柊を見つめた。

「頻繁にうちの大学来るの。それに理工学部キャンパスのこと、やけに知ってるっぽかったし」

 柊は目をそらした。

「それは……音響の授業の関係で……」

「そんな話、聞いてないし。何か隠してるでしょ」

 声のトーンは落とさないまま、千歳はじわじわと攻めていく。

「音響のバイトで、いっしょだったんだよ、最初は」

「は? バイトとかしてたの? 知らないし」

 柊のことで、知らないことがあった。それが地味に、胸に引っかかる。僕の知らない柊くん……。こんなに近くにいるのに、言ってくれないことがあるなんて。
 ママが乗り移ったみたいで自分でも嫌になるけれど、不安……。

「単発のバイトだったからさ。それで、いろいろ、音響の仕事のこととか情報交換してるんだよ」

 柊は少し笑ってみせたけど、その笑顔はどこか誤魔化し気味だった。

 千歳はカップを置いたまま、小さく呟く。

「ふうん……イケメンなんだぁ……」

 柊は肩をすくめた。

「そうだよ。だから、千歳にバレたら、千歳がそいつのこと好きになると困るから隠してた。ごめん」

「好きにならないよ。柊で定員いっぱいだもん」

 返しながら、千歳はちょっとだけ、唇をかんだ。
 照れでも怒りでもない――複雑な気持ちのせいだった。悲しい。寂しい。不安。一人ぼっちな感じ。取り残されたみたいな。

「だといいけど」

 冗談めかして言いながらも、柊の声は少しだけ本気めいていた。

「顔がいい人なんて、僕の周りにはいっぱいいるんだよ? 俳優志望の人多いから」

「うん……。だよね……恐ろしいな……」

 柊が小さく肩をすくめた。

「大丈夫だって」

 千歳は、少しだけ優しく微笑んだ。
 ほんとうにそう思ってる。
 だけど、そのあとに残る小さな胸のざらつきは、どうしてだろう。
 やっぱり、少し不安。
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