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大学二年生
暮らすってこと。同棲初日 ―夜編―
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夜のキッチンには、2人分の湯気が立っている。
テーブルの上には、簡単な炒め物と味噌汁、冷ややっこ。グラスには麦茶。箸は2膳。どこにでもある食卓。だけど、今日から“ふたりの”食卓。
「……いただきます」
「いただきます」
柊が、千歳の横でごはんを食べているのは珍しくない。でも、「今日から毎日こうかもしれない」と思った瞬間、 千歳の胸の奥が、ふわっと、あたたかくなった。
「この味噌汁、千歳作?」
「うん。ちゃんと出汁とった」
「すご」
「柊くん、作るときインスタントだから」
「だって千歳がいるし」
「……何それ」
「料理、分業でいいよね。俺、洗い物得意だから」
「じゃあそれで」
他愛のない会話だけど、“誰かと分担する暮らし”は、千歳にとって初めてだった。
ご飯を食べ終わると、柊が自然に立ち上がって、皿を持って流しへ。千歳が後ろから眺めていると、慣れた手つきで水を流し、スポンジを取って洗い始める。
「……ねえ」
「ん?」
「今日から、ほんとに“住む”ってことで、いいの?」
「うん。もう合鍵あるし、歯ブラシも2本あるし、今日なんて俺、タオルも使ってるし」
「いや、それは前から使ってた」
「じゃあ、冷蔵庫のゼリー」
「それも前から入ってた」
「……なんか俺、最初から住んでた説あるな」
「あるかも」
そんなやりとりのあと、柊が水を止め、手を拭きながら振り返る。
「でもさ」
「うん」
「“一緒に住む”って、そうやってちゃんと確認してからがいいじゃん。気持ちの問題っていうか」
千歳は、ぽかんと柊を見つめたあと、少しだけ笑った。
「意外と律儀だよね、柊って」
「えー、褒められてる?」
「褒めてる」
「じゃあごほうびちょうだい」
「ごほうびってなに」
「俺の布団、そろそろ開封していい?」
「ああ、新しく買ったんだっけ?」
「千歳の部屋で一緒に寝てもいいかって話」
「え、二部屋あるのに?」
「だって、今日から恋人同士で一緒に暮らすんだよ?」
柊が小さく笑う。イタズラっぽいその顔は、いつだってずるい。
千歳は視線を逸らしながら、
「……一緒に寝るの、今日が初めてじゃないくせに」
と、小さく呟いた。
「高校生のとき、ビジネスホテルで泊まったのが最初だよね」
「あのときは、夜通し話したんだよな」
「うん、すごく楽しかった」
「でも、今日は、“初めての夜”ってことでしょ?」
そう言って、柊が近づいてきて、千歳の頬にほんの少しだけ、指先が触れた。軽くて、あったかくて、ちゃんと、やさしい。
結局、ふたり布団を並べて敷いた。やがて部屋の灯りが落ちる。
寄り添って眠るのは、今日が何回目でも、“いまこの瞬間”の大切さは、ちゃんと新しい。
暗闇の中で柊が、千歳の方を向いて囁く。
「……明日からは、おはようから一緒だね」
千歳も、柊の方を向いて、
「そうだね……」
と答えた。
柊の手が、そっと手さぐりで千歳の指に触れてくる。
お揃いの銀のリングがカチリと触れ合う。
指と指が絡まる静かな夜。心の中では、“ふたりの暮らし”が確かに始まっていた。
テーブルの上には、簡単な炒め物と味噌汁、冷ややっこ。グラスには麦茶。箸は2膳。どこにでもある食卓。だけど、今日から“ふたりの”食卓。
「……いただきます」
「いただきます」
柊が、千歳の横でごはんを食べているのは珍しくない。でも、「今日から毎日こうかもしれない」と思った瞬間、 千歳の胸の奥が、ふわっと、あたたかくなった。
「この味噌汁、千歳作?」
「うん。ちゃんと出汁とった」
「すご」
「柊くん、作るときインスタントだから」
「だって千歳がいるし」
「……何それ」
「料理、分業でいいよね。俺、洗い物得意だから」
「じゃあそれで」
他愛のない会話だけど、“誰かと分担する暮らし”は、千歳にとって初めてだった。
ご飯を食べ終わると、柊が自然に立ち上がって、皿を持って流しへ。千歳が後ろから眺めていると、慣れた手つきで水を流し、スポンジを取って洗い始める。
「……ねえ」
「ん?」
「今日から、ほんとに“住む”ってことで、いいの?」
「うん。もう合鍵あるし、歯ブラシも2本あるし、今日なんて俺、タオルも使ってるし」
「いや、それは前から使ってた」
「じゃあ、冷蔵庫のゼリー」
「それも前から入ってた」
「……なんか俺、最初から住んでた説あるな」
「あるかも」
そんなやりとりのあと、柊が水を止め、手を拭きながら振り返る。
「でもさ」
「うん」
「“一緒に住む”って、そうやってちゃんと確認してからがいいじゃん。気持ちの問題っていうか」
千歳は、ぽかんと柊を見つめたあと、少しだけ笑った。
「意外と律儀だよね、柊って」
「えー、褒められてる?」
「褒めてる」
「じゃあごほうびちょうだい」
「ごほうびってなに」
「俺の布団、そろそろ開封していい?」
「ああ、新しく買ったんだっけ?」
「千歳の部屋で一緒に寝てもいいかって話」
「え、二部屋あるのに?」
「だって、今日から恋人同士で一緒に暮らすんだよ?」
柊が小さく笑う。イタズラっぽいその顔は、いつだってずるい。
千歳は視線を逸らしながら、
「……一緒に寝るの、今日が初めてじゃないくせに」
と、小さく呟いた。
「高校生のとき、ビジネスホテルで泊まったのが最初だよね」
「あのときは、夜通し話したんだよな」
「うん、すごく楽しかった」
「でも、今日は、“初めての夜”ってことでしょ?」
そう言って、柊が近づいてきて、千歳の頬にほんの少しだけ、指先が触れた。軽くて、あったかくて、ちゃんと、やさしい。
結局、ふたり布団を並べて敷いた。やがて部屋の灯りが落ちる。
寄り添って眠るのは、今日が何回目でも、“いまこの瞬間”の大切さは、ちゃんと新しい。
暗闇の中で柊が、千歳の方を向いて囁く。
「……明日からは、おはようから一緒だね」
千歳も、柊の方を向いて、
「そうだね……」
と答えた。
柊の手が、そっと手さぐりで千歳の指に触れてくる。
お揃いの銀のリングがカチリと触れ合う。
指と指が絡まる静かな夜。心の中では、“ふたりの暮らし”が確かに始まっていた。
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