【完結】喰われる秘書、囁く社長(3部作の1)

リリーブルー

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第十章:曝け出す覚悟、ふたりの選択

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「社長、そろそろ役員会議のお時間です」

「――ああ。行こうか、律」

律の名前を呼びながら東条陸が立ち上がるその声に、社長秘書室の空気が少し揺れた。
“名前”で呼ばれる。しかも、社員がいる前で。
それがほんのわずかな変化でも、空気を察する人間には充分すぎる違和感だった。

「……東条さん、さっきの」

「わざとだ。お前を“個人”として扱った。もう社内で取り繕うつもりはない」

「……怖くないんですか?」

「怖いよ」

陸は立ち止まり、律を振り返る。
その顔には、ほんの少しだけ疲れた影があった。

「俺はいつだって、“何かを守るために、何かを犠牲にしてきた”」

「……」

「でも今は……お前のことを“守るために、何かを背負いたい”って思ってる。俺の“立場”よりも、お前の心を」

律は、それがどれほどの覚悟の表明かを理解していた。
社長という肩書きを守るために、自分を飼い殺しにすることだってできた。
でも陸は、自分のために“人前で愛すること”を選ぼうとしている。

その夜。ふたりは初めて、スーツのまま抱き合った。

「脱がさなくていい……このまま、触れてほしい」

「……スーツ越しのままか?」

「うん。今日は、東条“社長”に、じゃなくて……“陸さん”に、愛されたい」

ネクタイを緩めると、陸は律の頬を両手で包み、静かにキスを落とす。
いつものような情熱ではない。
これは、決意と愛情のキスだった。

「俺の名前を呼んでくれ。仕事じゃなくて、俺の腕の中で」

「……陸」

それだけで、陸の瞳が揺れた。

律はゆっくりと脚を開き、椅子に座る陸の膝の上にまたがる。
背広のまま、Yシャツの下に指を差し入れ、薄く割れた腹筋に触れると、呼吸がひとつ深くなる。

「触れて、奥まで。……“あなたのモノ”にして」

「……何度でも。毎晩、お前を俺だけのものにする」

ズボンをずらして、ぬめりのある先端を穴に添えると、すでにそこは十分に受け入れ態勢にあった。
スーツの裾が揺れ、律が自ら腰を落とす。

「ふ、ぁ……っ……はいって……くる……!」

「……可愛い声、抑えるな。今日は、誰が聞いてもいいくらいに、俺のモノになってみろ」

「や……やだ、そんなの……でも、っ、奥、あたる……っ、ん、う……!」

快楽と羞恥が混じるその表情を見ながら、陸は腰を深く沈めていく。
衣擦れの音と淫靡な水音だけが部屋に響き、何度も突き上げられる律の背中は、スーツのまま汗で濡れていた。

「だめ、またイく、っ……イっちゃう、陸さん……!」

「イけ。……俺の名を呼びながら、全部、出せ」

「――陸、陸っ……だいすき、だいすき……っ、あああっ!」

絶頂の瞬間、律は叫ぶように陸の名前を呼んだ。
それはもう、社長と秘書という関係を超えた、ふたりだけの“誓い”のようだった。



――翌週、役員会議。

「東条社長。最近、社内で妙な噂が出ています。“秘書に私情を挟んでいる”と」

「……そうですね。では、私から明言します」

陸は一度だけ深く息を吸い込むと、はっきりとこう言った。

「秘書、瀬名律とは、私的な交際関係にあります。
 ですがその事実が業務に支障をきたしたことは一切なく、今後もそれは変わりません」

――沈黙。

その重さを破るように、年配の役員のひとりが、ゆっくりと口を開いた。

「……ならば逆に、それだけの覚悟を見せた責任は、我々の方でも信頼しなければならないな」

空気が、変わった。

陸の強さに、律の誠実さに――
ふたりの“覚悟”が伝わった瞬間だった。



夜、社長室。

「僕……正直、もっと揉めるかと思ってた」

「ふたりで信じたものは、案外、揺るがない。
 ――もう、お前を隠したりしないよ」

「うん……ありがとう、陸さん」

そして再び、抱き合った。

ただの所有物でもなく、ただの秘書でもない――
ひとりの“男”として、恋人として、ふたりはようやく並んで立つことを選んだ。

---

最終章予告(第十一章):

「運命に名前をつけて」
関係を明かしたふたりに訪れる、新たな試練と未来。
“誰かのもの”ではなく、“ふたりのもの”として生きる覚悟。
愛と欲の果てに選び取る、ふたりだけのエンディング。

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