潤 閉ざされた楽園

第四章

竹春の語り 16 caution

私は、意地悪く言った。

「違う、触られてなんかいない。手をちょっと触られただけだ。みんなだって気づいていない。僕は、身動きもせず、声もあげなかったから」

「そうか。怖くて、かたまってしまって、身動きも声をあげることもできなかったんだね。かわいそうな兄さん」

私は、兄の腕を解放した。

「できなかったわけじゃない、周りに気づかれないように、反応しなかったんだ」

「反応してるじゃない。かたまってしまうっていう反応を」

「何もしないのは反応じゃないだろう」

「何もできないのは反応だよ」

「何を言ってるんだ？」

「想像できるんだ、俺だってそうだったから」

「いつ？  何の話？」

「兄さんが、幼い頃、父さんにお仕置きを受けてただろう？  あの時、兄さんは、硬直して、かたまっていた。見ていた俺もそうだった。びっくりして、怖くて、何がなんだかわからなかった」

「ああ、そんな昔の話か。そんなの忘れてたよ」

「忘れてたなんて、嘘だろ？  俺はいつも」

私は、かっとなりかかった。

「竹春、怒らないで。あとで、気持ちいいことしてあげるから」

「え？」

「僕のクラスメイトに無理やり触られて、興奮したから、そんな昔のことも思い出して、動揺しているんだろう？」

「兄さん、ごまかさないでよ。幼い頃は、わからなかったけど、最近、はっきりわかったんだ。セックスしてたよね、兄さん、幼い頃、父さんと」

「挿入は、されてないからセックスじゃない」

「でも、お尻を出されて、叩かれて」

「それは、セックスじゃないだろう？」

「でも……ベッドで」

「竹春は、何か勘違いしているんだろう。そんなことされてないよ」