潤 閉ざされた楽園

リリーブルー

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第十五章 晩餐にて

譲とおじ様 2

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「こんなの間違ってる」
譲が、おじ様に、あらがうように言った。
「何をためらっているんだ? インセストタブーか?」
おじ様は、譲に対峙して聞いた。
「だって、こんなの……」
譲は、瑶たちののぞいている戸の方を気にしているようだった。おじ様は、そんな譲に言った。
「お前が鎖に繋がれて、変態的に喘ぐ姿を見られるよりは、ましだろう? あの時は、どうして、あんなに興奮したんだ?」
にやりとおじ様は笑った。
「いや、それは……」
譲は、たじたじのようだった。
「尻の穴に、ジェルを注入されただけで、いきそうになってたじゃないか。君は快感に耐えかねて震えていたね」
「そんなこと……」
譲はふたたび壁ぎわに追いつめられていた。
「羞恥に喘ぐ姿もいい。少年たちも、お前のそんな姿に興奮するだろう」
「……見るなよ!」
譲が瑶たちの方を見て威嚇するように言った。
「お前の艶麗な姿に、美少年たちも釘付けだよ。もっと、見せつけてやったらいい、お前の傲慢な美を」
「あっ」
譲はおじ様に腕をつかまれた。
「弟の潤と、いつも、しているじゃないか。あの子とするのは、いいんだろう?」
「ん……」
譲は、後ろ向きになって壁に手をつき、腰を突き出した。
「んあっ、んっ」
何をしているのかよく見えないが、こちらにひねった譲の顔は紅潮し、目は閉じて、口は半開きだった。
瑶の足元の床で二人のようすを覗いていた潤が、がまんできなくなったらしく立ち上がって、下半身の衣服を脱ぎ出した。手を貸してやると、潤の息が、はぁはぁと熱く、むき出しの上半身も火傷しそうなほど熱くなっていた。
「んっ、あっ」
隣から、聞こえてくる、譲の喘ぎ声と、潤の息遣いが合わさった。瑶と潤の素肌が触れ合った。潤の身体がからみついてきた。瑶は熱く調理された料理のような潤の身体の熱を味わった。

「あぁ……」
隣から、喘ぎ声が聞こえてきた。潤は、瑶にからみつかせた腕を離し、キッチンとの境の戸に寄った。潤は、熱心に覗いていた。瑶は、潤の後ろに立って、いっしょに覗きながら、潤の熱い背中をなでた。
おじ様が譲に聞いた。
「いいんだろう?」
おじ様は、譲のあごに手をそえて、瑶たちの方に譲の表情を見せつけるようにして聞いた。譲は、目を閉じることすら忘れたように、半眼のまま、うつろな瞳を漂わせて答えた。
「いい……」
半裸の背の高い男たちが、身体の前面と背面を、ぴったりくっつけて立っているのが、横向きに見えた。譲は、おじ様の前で、身体をかがめて、もがくようなしぐさをした。

「潤も、譲にああいうことをするの?」
瑶は、おそるおそる潤に話しかけてみた。
「叔父様で、あれだけ抵抗してるんだから、俺なんかじゃ、無理だろうな」
と潤は、客観的なようすで答えた。
「そういう問題なの?」
「譲は、叔父様と覇権争いしてるから。これで、負けたってことだな」
「そういう観点?」
「結局、叔父様のが、まだまだ上ってことだな。譲の方が、もう、とっくに、肉体的な力は、上回ってるのに」
「なんかマチスモっぽいね」
挿入する側が権力を持っていて、挿入される側は支配される側だというとらえ方は、フェミニストに批判されそうだなあと瑶は危ぶんで言った。
「自虐だよ」
「ああ、潤からしたらそうか」
潤は、受け身側だったから。
「古代ギリシャの少年たちだって、そうだったんだよ」
先日の洋講堂喫茶室では、潤は、古代ギリシャを男性同性愛の理想郷のように言ってた気がするけど。潤は、学校の宿題もしないで、またなにか新しく本を読んだのだろう。
「古代ギリシャでは、成人男性と少年との理想的関係があったとされるけれど、互恵関係では、なかったんだ※」
「ごけいかんけいじゃなかったって、何?」
「古代ギリシャの少年にとっても、成人男性との関係で、肉体的な快楽を体験するのは、不名誉なことだったらしいんだ」
と潤は熱く語った。瑶は、そんな潤と、ふにゃけた潤の下半身を可愛く思った。

※ 「倫理の系譜学について」思考集成IX 、フーコーコレクション5 ちくま学芸文庫 P179~183
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