潤 閉ざされた楽園

リリーブルー

文字の大きさ
113 / 435
第十五章 晩餐にて

緊張と解放、抑圧と解放

しおりを挟む
こんなふうに身体の表情が丸見えなのは、交渉時には、不利だった。
 が、言葉にならない気持ちも伝わるということは、相手が、よい人ならば、よいことだ。
 潤のように、自分でも自分の気持ちがよくわからないし、表現もできなくなっている人にとっては、相手に伝えやすくなっているとも言えた。
 しかし、結局のところ、身体的な表情は、いつも、潤は緊張していたし、ほとんど常に、恐怖に近いものを感じているように、瑶には思えた。
 潤が、恐怖と緊張から解放されるのは、おそらく、性的な興奮時だけなのだろう。ピンポイント的には、リラックスを得られるのは、性的な興奮から解放される一瞬だ。だが、そこにいたるプロセスなどでも、脳内麻薬がでるのだろう。
 特にSM的な、セックスを潤は好んでいるようだった。好んでいるというか、必要としていると言った方が正確だっただろう。
 安全な制限の中での、痛みや恐怖によって、逆にリラックスを得られるのかもしれなかった。
 ストレスに対する反応がトラウマのない人とは、逆になっているせいだろうか。
 あるいは、普段の緊張が高いだけに、それを上回るくらい強い緊張、SM的な苦痛を与えられないと、あとにくる解放感が得られなくなっているのか。普段の緊張が高いと、さらなる強い緊張でないと、緊張であると、脳や自律神経系が緊張と認識しないのか?
 緊張と認識すれば、それを中和する、作用が自然に働くからリラックスできるのか? 身体には、恒常性の性質が備わっているらしいので。
 緊張の負荷をかけることで、リラックスを得るならば、例えば、ストレッチなどでも同じような効果があるはずだった。
 これらは、瑶の仮説にすぎない。

 こうして潤は、抑圧されている国民の解放運動のごとく80年代の思想で立ち向かったのだが、相手はびくともしなかった。というより、潤自身の思考が、これでは解体しなかったのだと思う。納得しなかったのだと思う。ポストモダンのフランス現代思想ではだめだった。
 所詮、前世紀の思想だもんなぁ。おじ様の言うように、本人、偶発的とはいえ、死んでるもんなぁ。
 今までもきっと、潤は、何度も新しい武器を手に入れては、おじ様に戦いを挑んで負けてきたのだろうと瑶は思った。
 それは、譲も同じだったかもしれない。
譲は、肉体的な優位性を身につけたが、今だに、おじ様を倒していない。
 大洗家の人々が、内側から、この共同体を自力で変えることは、はたして、できるのだろうか。
 潤は、譲は、おじ様は、いったいどこまでこのカオスに耐え続ける、あるいは継続させようというのか!?
 瑶は、潤を助けたかった。
 大洗家では、近親姦が少なくとも二世代にわたって繰り返されているので、外の世界より、その行為に対するハードルが低くなっているようだった。権威に飾られた習慣、伝統とされるものを変えるのは、難しそうだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

チョコのように蕩ける露出狂と5歳児

ミクリ21
BL
露出狂と5歳児の話。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

処理中です...