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第十五章 晩餐にて
緊張と解放、抑圧と解放
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こんなふうに身体の表情が丸見えなのは、交渉時には、不利だった。
が、言葉にならない気持ちも伝わるということは、相手が、よい人ならば、よいことだ。
潤のように、自分でも自分の気持ちがよくわからないし、表現もできなくなっている人にとっては、相手に伝えやすくなっているとも言えた。
しかし、結局のところ、身体的な表情は、いつも、潤は緊張していたし、ほとんど常に、恐怖に近いものを感じているように、瑶には思えた。
潤が、恐怖と緊張から解放されるのは、おそらく、性的な興奮時だけなのだろう。ピンポイント的には、リラックスを得られるのは、性的な興奮から解放される一瞬だ。だが、そこにいたるプロセスなどでも、脳内麻薬がでるのだろう。
特にSM的な、セックスを潤は好んでいるようだった。好んでいるというか、必要としていると言った方が正確だっただろう。
安全な制限の中での、痛みや恐怖によって、逆にリラックスを得られるのかもしれなかった。
ストレスに対する反応がトラウマのない人とは、逆になっているせいだろうか。
あるいは、普段の緊張が高いだけに、それを上回るくらい強い緊張、SM的な苦痛を与えられないと、あとにくる解放感が得られなくなっているのか。普段の緊張が高いと、さらなる強い緊張でないと、緊張であると、脳や自律神経系が緊張と認識しないのか?
緊張と認識すれば、それを中和する、作用が自然に働くからリラックスできるのか? 身体には、恒常性の性質が備わっているらしいので。
緊張の負荷をかけることで、リラックスを得るならば、例えば、ストレッチなどでも同じような効果があるはずだった。
これらは、瑶の仮説にすぎない。
こうして潤は、抑圧されている国民の解放運動のごとく80年代の思想で立ち向かったのだが、相手はびくともしなかった。というより、潤自身の思考が、これでは解体しなかったのだと思う。納得しなかったのだと思う。ポストモダンのフランス現代思想ではだめだった。
所詮、前世紀の思想だもんなぁ。おじ様の言うように、本人、偶発的とはいえ、死んでるもんなぁ。
今までもきっと、潤は、何度も新しい武器を手に入れては、おじ様に戦いを挑んで負けてきたのだろうと瑶は思った。
それは、譲も同じだったかもしれない。
譲は、肉体的な優位性を身につけたが、今だに、おじ様を倒していない。
大洗家の人々が、内側から、この共同体を自力で変えることは、はたして、できるのだろうか。
潤は、譲は、おじ様は、いったいどこまでこのカオスに耐え続ける、あるいは継続させようというのか!?
瑶は、潤を助けたかった。
大洗家では、近親姦が少なくとも二世代にわたって繰り返されているので、外の世界より、その行為に対するハードルが低くなっているようだった。権威に飾られた習慣、伝統とされるものを変えるのは、難しそうだった。
が、言葉にならない気持ちも伝わるということは、相手が、よい人ならば、よいことだ。
潤のように、自分でも自分の気持ちがよくわからないし、表現もできなくなっている人にとっては、相手に伝えやすくなっているとも言えた。
しかし、結局のところ、身体的な表情は、いつも、潤は緊張していたし、ほとんど常に、恐怖に近いものを感じているように、瑶には思えた。
潤が、恐怖と緊張から解放されるのは、おそらく、性的な興奮時だけなのだろう。ピンポイント的には、リラックスを得られるのは、性的な興奮から解放される一瞬だ。だが、そこにいたるプロセスなどでも、脳内麻薬がでるのだろう。
特にSM的な、セックスを潤は好んでいるようだった。好んでいるというか、必要としていると言った方が正確だっただろう。
安全な制限の中での、痛みや恐怖によって、逆にリラックスを得られるのかもしれなかった。
ストレスに対する反応がトラウマのない人とは、逆になっているせいだろうか。
あるいは、普段の緊張が高いだけに、それを上回るくらい強い緊張、SM的な苦痛を与えられないと、あとにくる解放感が得られなくなっているのか。普段の緊張が高いと、さらなる強い緊張でないと、緊張であると、脳や自律神経系が緊張と認識しないのか?
緊張と認識すれば、それを中和する、作用が自然に働くからリラックスできるのか? 身体には、恒常性の性質が備わっているらしいので。
緊張の負荷をかけることで、リラックスを得るならば、例えば、ストレッチなどでも同じような効果があるはずだった。
これらは、瑶の仮説にすぎない。
こうして潤は、抑圧されている国民の解放運動のごとく80年代の思想で立ち向かったのだが、相手はびくともしなかった。というより、潤自身の思考が、これでは解体しなかったのだと思う。納得しなかったのだと思う。ポストモダンのフランス現代思想ではだめだった。
所詮、前世紀の思想だもんなぁ。おじ様の言うように、本人、偶発的とはいえ、死んでるもんなぁ。
今までもきっと、潤は、何度も新しい武器を手に入れては、おじ様に戦いを挑んで負けてきたのだろうと瑶は思った。
それは、譲も同じだったかもしれない。
譲は、肉体的な優位性を身につけたが、今だに、おじ様を倒していない。
大洗家の人々が、内側から、この共同体を自力で変えることは、はたして、できるのだろうか。
潤は、譲は、おじ様は、いったいどこまでこのカオスに耐え続ける、あるいは継続させようというのか!?
瑶は、潤を助けたかった。
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