潤 閉ざされた楽園

リリーブルー

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第一章 学校と洋講堂にて

公園で

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「あはは」
潤は、声をたてて笑った。愉快だから、ではなさそうだった。
「ひどいセンチメンタリスムに侵されているんだな」
潤は冷笑を浮かべて言った。
「まあ、通俗的なメロドラマを好むのは人の自由だけど、よりによって僕に、そんなことを求められてもね。無駄だから、他をあたったら?」
潤の笑いは攻撃的で、僕は、どうやら潤の機嫌を損ねたらしいとわかった。けれど僕は自分が、そこまで間違っているとは思わなかった。今まで誰も潤の中の愛の源泉に届かず、それに手を浸すことがなかったとしても、僕ができないとは限らない。潤自身でさえ、わからなくなっているから、そんな風に、僕を嘲笑うのだろう。
 僕が起き上がろうとすると、それでも潤は助け起こしてくれた。
「腹が減ってるから、倒れたり、愛がほしいとか言いだすんだよ。瑤のほしいのは、愛じゃなくて飯だろう?」
などと言っていたけれども。潤は、カバンから、栄養ゼリー飲料を取り出して、僕に手渡した。
「ありがとう」
僕は、お腹がぺこぺこだった。
「あの三年も、瑤を釣りたいんだったら、学食でカツ丼定食くらいおごれよ。いくら瑤でもパンぐらいでは買収されないよな?」
「そういう問題じゃないけど」
僕は、ゼリー飲料をチューチューする合間に言った。
「へえ。じゃあ、何? もう何か約束しちゃったの?」
潤は、僕が吸うのに夢中で潤の問いに答えないので、いまいましそうに吸いかけのゼリー飲料のパックを僕の口から奪いとった。
「あっ」
潤は僕から奪いとったゼリー飲料の吸い口に口をつけた。間接キスだ。潤が凸起に吸い付くと、それだけで卑猥な感じがした。潤は、吸い口を前歯で噛んで、
「何?」
と聞いた。
「ううん? 何も」
僕は、首を振った。
「ほしいの?」
「それもあるけど」
「なんだよ」
「潤の唇が……卑猥」
潤は、ふっと笑った。
「何、想像してんだよ、瑤」
潤は、僕の髪を左手でかきあげて、耳穴にふっと息を入れた。
「いや……ん」
僕は、肩をすくめた。
「何なんだよ、その女子みたいな反応は」
潤は、ゼリー飲料のパックを吸い切って、口うつしで僕に飲ませた。
「んっ、ん」
潤は、僕の口から漏れた飲料を、舌で獣のように舐めた。
「ちゃんと飲み込めよ、俺のアレだと思って」
僕は、飲み込もうとしていたのに、それを聞いて躊躇した。
「ほら、飲みこめったら、俺の愛の結晶だぜ?」
潤が、僕の首筋を撫でた。
「可愛いな、瑤。後で寝ようか? いっぱい可愛いがってあげるよ」
潤は、サディスティックで、荒々しかった。僕は、いつもの、たおやかな潤との違いに、なんだか、ゾクゾクした。
「だから、俺のアレを飲……」
僕は、ごくりと飲み込んだ。潤は、僕の喉頭隆起に指でコチョコチョ触れた。
「よしよし、いい子だ。瑤、いい子だよ」
潤は、僕の唇に、何度も軽い口づけをした。ついばまれると、また感じてきてしまった。
「ん? ここでは、もうおしまいだよ?  そんなに悶えてもだめ」
潤は、子どもにおあずけするみたいに言った。
 それでも、僕の火照った上半身をジャケットのボタンを外して、手で撫でまわしてくれた。
「ああ、潤、気持ちいい」
潤は、僕のシャツのボタンの隙間から指を入れた。
「下着着ているのか、つまらないな」
「潤は?」
「見る?」
潤は、ジャケットのボタンを外した。
白いシャツの生地から肌色が透けて見えた。潤は、シャツのボタンの鳩尾あたりのを一つ外した。
「触りたい?」
潤が、僕の髪に指を差し込んで撫でた。
「んっ」
「俺のアレって、何だと思ったの?」
潤が、また恋人たちのように肩を抱いて、僕の顔を覗き込んだ。潤の手が、僕の顎のあたりをつかんで、撫でまわした。
「キス……キス」
僕が言うと
「言わないと、してやらない」
潤の指が、唇の近くに触れた。僕は舌をのばして、舐めようとした。
「ねえ、何を飲んだんだっけ?」
「ううん?」
潤が、僕の口に指を突っ込んだ。
「んっ、んあっ」
「気持ちいいの? 口の中攻められて、感じちゃうんだ?」
潤の息遣いが荒くなった。
「さっき、この口の中を、どろどろに侵したのは、何だっけ?」
「んっ、んあっ」
僕は、口の中がこんなに感じるとは思わなかった。潤の指が、魔法の杖のように僕の口腔内を侵した。
「この中を、べちゃべちゃにしたのは、何? ほら、愛されたいんでしょ?」
僕は潤の指先を前歯で軽く噛んだ。
「何?」
「潤の、へひへひ」
「なんで、そこだけへひへひになるの?  おかしいでしょ」
潤は、僕を両腕でぎゅうっと抱きしめて、チュッチュと顔や髪にキスした。僕は手をのばして、潤のシャツの隙間から指を入れた。
「ああっ、あっ」
乳首にいきなり当たったので、潤が、喘ぎ始めてしまった。潤が潤んだ目で恨むように僕を見た。
「責任とってよね」
「どんな風に?」
「ちゃんと、いかせて」
「ここで?」
「違うよ、さすがにここではまずいよ。この公園、中学生もくるから」
「ああ、中学校が近いし、通学路になっているのかな?」
「前、ここで可愛い中学生の男の子たちが、二人で、学ランのままキスしてたよ、このベンチで」
「潤って、年下にも興味あるの?」
「違うよ。自分も、あんなだったんだな、と思って。というか、だから場所変えようって話」
「わかった」
僕たちは、ベンチから立ち上がり、公園を出た。
「俺は、年上のが好きだな。その中学生カップルの先生らしき人も来てたんだけど、その人は、いいと思った」
潤が年上好きだと、上級生が言っていたのは、本当だったのか。
「ふうん、じゃあ、僕は、あまり好みじゃないってことだね?」
僕は、がっかりして聞いた。
「瑤の方が、俺より何ヶ月か年上だろう?」
そう。潤は秋生まれだけど、僕は春生まれなのだ。だから、同級生だけど、ちょっとだけ僕の方が年上だ。
「え、僕の誕生日、知ってるの?」
「忘れたけど、前、教室で、誕生日だって、言ってた時あったから」
潤が、少しは僕のことを気にしていたんだと知って、僕は少し嬉しくなった。
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