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悪役貴族のニューゲーム!
テレサとの模擬戦
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(迅い……でも、見切れないほどじゃないっ!)
140センチあるかないかの体から放たれた打撃は、避けても反撃しても大やけどだ。
だったら、第三の選択肢を取るだけだ。
「どりゃあっ!」
雷をまとったいくつもの刃で、俺は斧の一撃を弾いた。
斧の衝撃と雷撃が衝突すると、耳元で落雷が起きたような轟音が鳴り響いた。俺どころか、テレサすら一瞬だけ顔をしかめるほどの爆音だ。
「やりますね。ではもう少し、速くしましょう」
今でも十分追いつけるかどうかだってのに、テレサが静かにそう呟くと、斧を振るうスピードは一層加速する。
まるで踊るように蛇腹剣ですべての攻撃を弾き、地面に逸らす俺との剣劇は、映画のCGをふんだんに使ったバトルシーンのようだ。
大斧と雷、剣がぶつかり合い、地面が削れ、空気が裂ける。
そんな戦いは確かに、もしもゲームのワンシーンなら大盛り上がり間違いなしだな。
周りのメイドや兵士達が、唖然として俺達の戦いに見入ってるのも分かる。
「よっと!」
「良い反応でございます、ネイト様」
そうしているうち、テレサが斧だけじゃなく、打撃も織り交ぜて来た。
メイド服のスカートを翻したテレサの蹴りを、俺はさっと飛び退いて避けた――。
「うわっ!?」
その途端、俺は素っ頓狂な声を上げてしまった。
テレサのスカートの中がばっとあけっぴろげになって、しっかりと見てしまった。
「え、ちょ、テレサ!? お前、その、スカートの下……!」
それだけならまだマシなんだけど、問題なのは中にあったのが白でも黒でも、どぎついピンクでもなくて――つるつるの肌色ってことだ。
つまりどういう意味かって……いや、恥ずかしくて言えるか!
「おや、お話したことがございませんでしたか。テレサは幼い頃からこの健康法を続けております。おかげで風邪のひとつも引いたことがありません」
淡々と言ってるが、もうちょっと恥じらった方がいいと思うぞ。
「おいおいおい、丸見えなのは勘弁しろって! 集中できねえよ!」
「これも修行の一環でございます。もちろん、凝視しても構いませんが」
「しねえっつーのっ!」
俺がそうやってツッコんでる間にも、テレサは容赦なく攻撃を繰り出してくる。
こっちは人生で初めて見る羽目になったものが目の裏に焼き付いて、魔法の維持に集中できない。
そのせいで、魔法の刃を繋ぐ雷に少しだけほころびができてしまう。
(って、動揺してる場合か! ドムの授業を思い出せ、魔法は集中こそが大事だ!)
ぐっと拳を握り締めると、蛇腹剣はもう一度しっかりと雷で紡がれた。
「そろそろこっちもへばってくるし、いい加減ケリをつけるぞ!」
俺は繋がれた刃を雷で鎖のように伸ばし、テレサの大斧『ベノムバイト』にぐるぐると巻きつけた。
そして勢いよく引っ張り、彼女の手元から引き剥がした。
「……おっと」
テレサはまさか武器を奪い取られると思ってなかったのか、力を込めて奪い返すこともできず、斧が宙を舞い、地面に突き刺さるさまを見ているばかりだった。
次に彼女が動こうとした時には、もう俺が王手をかけていた。
雷をまとう刃を直線に伸ばして、切っ先をテレサに突きつけてるからだ。
「ふう……俺の勝ちだな」
「その通りでございます。お見事です、ネイト様」
拳を下ろして小さく頷いたテレサを見て、俺も魔法を解除した。
「おいおい、嬢ちゃんをネイト坊ちゃんが倒しちまったぜ!」
「嘘でしょ!? 給料の3割、テレサに賭けてたのよ!?」
「だから言ったでしょ、ネイト坊ちゃまはやる男だって! とにかくこれで、私のひとり勝ちだから、総取りしちゃうわねーっ!」
まさか俺が彼女に勝つとは誰も思わなかったのか、周囲がたちまち騒めく。
というか誰だ、俺とテレサの訓練で賭け事してる奴は。
「……立派に成長なさいましたね。このテレサ、感激でございます」
半ば歓声に近い会話を聞いて少しはにかむ俺のもとに、テレサが歩み寄ってきた。
「いいや、ここまで強くなれたのはテレサと皆のおかげだ。それに、俺はまだまだ強くならないといけないからな」
「なんと、まだ先を望まれるとは」
「そりゃあそうさ。半端なところでやめて、後悔したくないからな」
そうだ、俺はヒーローじゃない。
あくまで悪役貴族にすぎない。
主人公補正も何もないなら、限界まで頑張って臨むしかないんだぜ。
「だからさ、まだまだ皆にも、テレサにも訓練には付き合ってほしい。俺だって、この融合魔法だって、もっともっと強くなれるはずだからさ!」
俺が笑うと、皆は笑顔で返してくれた。
テレサだけは相変わらず無表情だったけど、ぺこりと頭を下げてくれた。
「……頑張っているじゃあないか、ネイト」
するとそこに、屋敷の方から歩いてくるドミニクの声が響いた。
「ドム!」
俺や他のメンツが驚くのも無理はない。
普段、ドミニクは自分の部屋にこもりっきりで仕事をしている。こうして庭の方まで、わざわざ俺の訓練を見に来るなんて、この4か月間で初めてなんだ。
ついでに言うと、態度も軟化した気がする。
ゴミを見る目から、生徒を指導する熱血教師の目になったような感じだな。
「まだまだ私には及ばんが、随分とさまになったな。せっかくだ、褒美をやろう」
そんなドミニクが俺に渡したのは、ちょっと高級な1枚の羊皮紙だ。
この世界、羊皮紙があるんだよな。
ファンタジーの世界観を想像した人の限界を思うと、仕方ないんだろうけど。
「……これは?」
「私宛の舞踏会の招待状だ。良い経験にもなるだろうし、お前も来るといい」
舞踏会ってのは、俺もちょっと困るかな。
戦闘の経験値は積んであるけど、ダンスの経験値はほとんどゼロだ。
「悪いけど、ドム。俺もダンスとかは苦手だし、ここは……」
「分かった。オライオン侯爵には、そう伝えておこう」
だから断るつもりだったんだけど、名前を聞いたとたんに、俺の手のひらがくるくると大回転を始めた。
「オライオン!? オライオン侯爵の屋敷で、舞踏会ってコト!?」
ちょっぴり上ずった声を聞いて、ドミニクが首をかしげる。
「なんだ、気が変わったのか?」
「変わった、変わりました! ドム、俺も舞踏会に行くよ!」
「……おかしな奴だ」
ドミニクは小動物を見るような目でフン、と鼻を鳴らし、ちょっぴり笑った。
「まあ、最初からそのつもりだからな。踊りは期待していないから、テレサに教えてもらえ。三日ほど練習しておけば、恥くらいはかかずにすむだろう」
そしてくるりと背を向けて、さっさと屋敷の方に戻ってしまった。
なんだなんだ、どうしたもんだとテレサや皆が集まってくる中、俺は心臓の高鳴りを抑えられずにいた。
そりゃあそうだ。
なんてったって、オライオンといえば――。
(もしかしたら……もしかしたら、ヒロインのソフィーに会えるかも!)
メインヒロインの一人、ソフィー・オライオンの実家なんだから。
140センチあるかないかの体から放たれた打撃は、避けても反撃しても大やけどだ。
だったら、第三の選択肢を取るだけだ。
「どりゃあっ!」
雷をまとったいくつもの刃で、俺は斧の一撃を弾いた。
斧の衝撃と雷撃が衝突すると、耳元で落雷が起きたような轟音が鳴り響いた。俺どころか、テレサすら一瞬だけ顔をしかめるほどの爆音だ。
「やりますね。ではもう少し、速くしましょう」
今でも十分追いつけるかどうかだってのに、テレサが静かにそう呟くと、斧を振るうスピードは一層加速する。
まるで踊るように蛇腹剣ですべての攻撃を弾き、地面に逸らす俺との剣劇は、映画のCGをふんだんに使ったバトルシーンのようだ。
大斧と雷、剣がぶつかり合い、地面が削れ、空気が裂ける。
そんな戦いは確かに、もしもゲームのワンシーンなら大盛り上がり間違いなしだな。
周りのメイドや兵士達が、唖然として俺達の戦いに見入ってるのも分かる。
「よっと!」
「良い反応でございます、ネイト様」
そうしているうち、テレサが斧だけじゃなく、打撃も織り交ぜて来た。
メイド服のスカートを翻したテレサの蹴りを、俺はさっと飛び退いて避けた――。
「うわっ!?」
その途端、俺は素っ頓狂な声を上げてしまった。
テレサのスカートの中がばっとあけっぴろげになって、しっかりと見てしまった。
「え、ちょ、テレサ!? お前、その、スカートの下……!」
それだけならまだマシなんだけど、問題なのは中にあったのが白でも黒でも、どぎついピンクでもなくて――つるつるの肌色ってことだ。
つまりどういう意味かって……いや、恥ずかしくて言えるか!
「おや、お話したことがございませんでしたか。テレサは幼い頃からこの健康法を続けております。おかげで風邪のひとつも引いたことがありません」
淡々と言ってるが、もうちょっと恥じらった方がいいと思うぞ。
「おいおいおい、丸見えなのは勘弁しろって! 集中できねえよ!」
「これも修行の一環でございます。もちろん、凝視しても構いませんが」
「しねえっつーのっ!」
俺がそうやってツッコんでる間にも、テレサは容赦なく攻撃を繰り出してくる。
こっちは人生で初めて見る羽目になったものが目の裏に焼き付いて、魔法の維持に集中できない。
そのせいで、魔法の刃を繋ぐ雷に少しだけほころびができてしまう。
(って、動揺してる場合か! ドムの授業を思い出せ、魔法は集中こそが大事だ!)
ぐっと拳を握り締めると、蛇腹剣はもう一度しっかりと雷で紡がれた。
「そろそろこっちもへばってくるし、いい加減ケリをつけるぞ!」
俺は繋がれた刃を雷で鎖のように伸ばし、テレサの大斧『ベノムバイト』にぐるぐると巻きつけた。
そして勢いよく引っ張り、彼女の手元から引き剥がした。
「……おっと」
テレサはまさか武器を奪い取られると思ってなかったのか、力を込めて奪い返すこともできず、斧が宙を舞い、地面に突き刺さるさまを見ているばかりだった。
次に彼女が動こうとした時には、もう俺が王手をかけていた。
雷をまとう刃を直線に伸ばして、切っ先をテレサに突きつけてるからだ。
「ふう……俺の勝ちだな」
「その通りでございます。お見事です、ネイト様」
拳を下ろして小さく頷いたテレサを見て、俺も魔法を解除した。
「おいおい、嬢ちゃんをネイト坊ちゃんが倒しちまったぜ!」
「嘘でしょ!? 給料の3割、テレサに賭けてたのよ!?」
「だから言ったでしょ、ネイト坊ちゃまはやる男だって! とにかくこれで、私のひとり勝ちだから、総取りしちゃうわねーっ!」
まさか俺が彼女に勝つとは誰も思わなかったのか、周囲がたちまち騒めく。
というか誰だ、俺とテレサの訓練で賭け事してる奴は。
「……立派に成長なさいましたね。このテレサ、感激でございます」
半ば歓声に近い会話を聞いて少しはにかむ俺のもとに、テレサが歩み寄ってきた。
「いいや、ここまで強くなれたのはテレサと皆のおかげだ。それに、俺はまだまだ強くならないといけないからな」
「なんと、まだ先を望まれるとは」
「そりゃあそうさ。半端なところでやめて、後悔したくないからな」
そうだ、俺はヒーローじゃない。
あくまで悪役貴族にすぎない。
主人公補正も何もないなら、限界まで頑張って臨むしかないんだぜ。
「だからさ、まだまだ皆にも、テレサにも訓練には付き合ってほしい。俺だって、この融合魔法だって、もっともっと強くなれるはずだからさ!」
俺が笑うと、皆は笑顔で返してくれた。
テレサだけは相変わらず無表情だったけど、ぺこりと頭を下げてくれた。
「……頑張っているじゃあないか、ネイト」
するとそこに、屋敷の方から歩いてくるドミニクの声が響いた。
「ドム!」
俺や他のメンツが驚くのも無理はない。
普段、ドミニクは自分の部屋にこもりっきりで仕事をしている。こうして庭の方まで、わざわざ俺の訓練を見に来るなんて、この4か月間で初めてなんだ。
ついでに言うと、態度も軟化した気がする。
ゴミを見る目から、生徒を指導する熱血教師の目になったような感じだな。
「まだまだ私には及ばんが、随分とさまになったな。せっかくだ、褒美をやろう」
そんなドミニクが俺に渡したのは、ちょっと高級な1枚の羊皮紙だ。
この世界、羊皮紙があるんだよな。
ファンタジーの世界観を想像した人の限界を思うと、仕方ないんだろうけど。
「……これは?」
「私宛の舞踏会の招待状だ。良い経験にもなるだろうし、お前も来るといい」
舞踏会ってのは、俺もちょっと困るかな。
戦闘の経験値は積んであるけど、ダンスの経験値はほとんどゼロだ。
「悪いけど、ドム。俺もダンスとかは苦手だし、ここは……」
「分かった。オライオン侯爵には、そう伝えておこう」
だから断るつもりだったんだけど、名前を聞いたとたんに、俺の手のひらがくるくると大回転を始めた。
「オライオン!? オライオン侯爵の屋敷で、舞踏会ってコト!?」
ちょっぴり上ずった声を聞いて、ドミニクが首をかしげる。
「なんだ、気が変わったのか?」
「変わった、変わりました! ドム、俺も舞踏会に行くよ!」
「……おかしな奴だ」
ドミニクは小動物を見るような目でフン、と鼻を鳴らし、ちょっぴり笑った。
「まあ、最初からそのつもりだからな。踊りは期待していないから、テレサに教えてもらえ。三日ほど練習しておけば、恥くらいはかかずにすむだろう」
そしてくるりと背を向けて、さっさと屋敷の方に戻ってしまった。
なんだなんだ、どうしたもんだとテレサや皆が集まってくる中、俺は心臓の高鳴りを抑えられずにいた。
そりゃあそうだ。
なんてったって、オライオンといえば――。
(もしかしたら……もしかしたら、ヒロインのソフィーに会えるかも!)
メインヒロインの一人、ソフィー・オライオンの実家なんだから。
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