悪役貴族に転生した俺、主人公のチート魔法を持ってました〜鬱展開をぶっ壊して、目指せ最高のハッピーエンド!〜

いちまる

文字の大きさ
18 / 101
悪役貴族のスクールライフ!

おさらいストーリー

しおりを挟む
「魔導学園って、こんなに疲れる場所だったのかなぁ……?」
「入学初日から災難でございますね、ネイト様」

 マッコール先生の熱血指導が終わると、その日の授業も終わった。
 トライスフィア魔導学園の伝統として、初日の授業は簡単なレクリエーションや校内の案内のみに留まる。
 あとは学校を好きに楽しむもよし、明日に備えて休むもよし。
 ソフィーのようにクラスメートと仲良くなって、学校を散策するもよし、だ。
 彼女はたちまち他の女子生徒と仲良くなって、大型犬の如く冒険に出かけて行った。

(友達を引っ張って教室を出てったけど、ソフィーの気持ちも分かるな。こんな広い学園は、あの子にとっちゃダンジョンみたいなもんだ)

 というのも、トライスフィア魔導学園は比較的大規模な町よりもはるかに広い。迷う生徒は毎年絶えず、中には何日も迷子になる生徒もいるとか、いないとか。
 そんな特徴だけど、ゲームでは全く活かされてなかった。行けない施設もあったり、そもそも名前だけでデータもない場所もあって、がっかりしたのを覚えてる。
 だけど今は、魔導学園の色んなところを余るところなく散策できる!

 ゲームじゃ見られなかった施設を体験できると思うと、どうにもわくわくしてきたけど、それは後でだってできる。
 今やらなきゃいけないのは、腹ごしらえと今後の目的の再確認だ。

「テレサ、食堂で食べたいもんとかあるか? 俺がおごるよ」
「では、お言葉に甘えて『カフェ・マジカリテ』のチョコラーメンをいただきます」
「……ほ、本当にそれでいいんだな?」
「甘いものは、テレサの好物でございます」

 長い、長い廊下を歩いた先にあるらしい『カフェ・マジカリテ』に向かう道中で、テレサの妙な味覚に肩をすくめる俺は、校舎の中庭に視線を向ける。

(……やっぱり、ここは設定どおりだ。明らかに貴族……主義がはびこってるって感じだな)

 えばった様子で歩く女子生徒と、その視界に入らないようにする新入生の集団を見て、俺は思った。

 ――トライスフィア魔導学園は、決して平和な場所なんかじゃない。
 悪の巣窟でなくとも、ここには魔法が使えれば、身分が高ければ何をしてもいいって勘違いしてるやつがこれでもかってほどいるんだ。
 貴族エリートと平民の格差は、いかんともしがたい。
 当然の如くいじめに発展するし、それが原因で退学を選ぶ生徒もいる。

(で、そんな弱みや怒りを狙って渡されるのが――『紫の石』だ)

 俺のゲームの記憶が、邪悪の根源を思い起こさせる。
 コンプレックスや選民思想につけこみ、誰かが紫の宝石を配り始めるんだ。
 もちろん、善意なんて微塵みじんもない。魔力を増幅させる代償に精神を乗っ取り、自我を崩壊させるのが『紫の石』の恐ろしいところにして、石を配る秘密結社の目的だ。
 で、ノアとヒロインが『ヴァリアントナイツ』ってチームを組んで、正体を突き止めるべく東奔西走する――これが、『フュージョンライズ・サーガ』の大まかなストーリー。

(もっとゲームを進めてれば、今よりずっと情報が手に入ったかもしれないのにな……)

 サブクエストだ何だにうつつを抜かさなきゃよかった、と俺は後悔する。
 一方で、安心できることもある。

(でも、もともと石を使う立場のネイトが石を持ってないから、テレサは犠牲にならない。それに、ソフィーは唯一石の犠牲にならないヒロインだ)

 そう。
 今の時点で、俺は運よくふたりも石の脅威から守れているんだ。
 ネイトが悪役じゃないから、テレサは自爆しない。ソフィーはストーリーの都合上、石の被害に遭わないまま主人公と合流する。
 話の本筋とずれはあるけど、ひとまずそこについては気を張らないでよさそうだ。

「ねえ、あれって、ゴールディングの……」
「初日から学園の備品を壊したらしいぜ。乱暴者の次男坊じなんぼうって噂は、本当らしいな」
「しかも、ソフィー様をはべらせていたんでしょう? なんだか弱みを握っているようで、怖い人だわ……」

 ただ、ネイトの評価があまり良くないのは、もうそういう世界だからとしか言えないな。
 こんな状況も、もうちょっとましになってくれるとありがたいんだけど。

「ネイト様、あなたの良さはこのテレサが一番よく知っておりますよ、なでなで」
「はは、ありがとな……」

 テレサの慰めが胸に染みる現状を噛みしめつつ、俺はこれからに思いを馳せる。

(これから出会うヒロインにも嫌われるかもしれないけど……絶対に、守らないとな)

 俺が知っている範囲で出会うヒロインは、今のところ3人。

 無属性魔法科に属するデコメガネ真面目系剣士、クラリス・ブレイディ。
 100年にひとりの逸材と呼ばれる異質な属性魔法の使い手、ジークリンデ・ハーケンベルク。

 それにソフィーを加えた4人と、隣にいるテレサと、死なせないという意味なら学園にいる全員が、俺の守るべき対象だ。

(ははは、随分と厄介なプレイみたいだな)

 ゲームなら死んでも何度だってやりなおせるけど、ここはリアルだ。死ねば蘇らないし、死んだ人にもそれぞれ悲しむ人がいる。

(だけど、やらなきゃいけない。主人公と同じ話の展開にはならないのなら、早めにヒロインと会っておかないとな。紫の石を渡そうとする奴らもいるだろうし、俺が先に……)

 だからこそ、どれだけ傷つこうとも、誰も死なせちゃいけないんだ。

「……ネイト様? 何かお考え事を?」
「ん? ああ、いや、何でもないよ」

 おっと、自分でも知らない間に険しい表情にでもなってたのかな。
 ひらひらと誤魔化すように手を振りながら俺が笑うと、テレサは少しだけじっと俺を見つめてから、足早に歩きだした。
 従者を心配させるなんて、これじゃあご主人様失格だな。
 廊下の先に見えてきたカフェで、チョコラーメンだけじゃなくて、スイーツも買おうか。
 なんて考えながらカフェのすぐ前までついた時、俺もテレサも、ふと足を止めた。



「――何を言ってるのか、自分で分かってるのか!?」

 耳をつんざくような怒声が、カフェの中から聞こえてきたからだ。
 しかも、がちゃん、どたんと何かが倒れて割れる音とともに、別の声まで聞こえてくる。

「何度でも言ってあげる! キミ達、すごく、すーっごく、カッコ悪いよ!」

 前者はともかく、後者には聞き覚えがある。

「ネイト様、今のお声は……」
「ああ、分かってる。ソフィーだな」

 何が起きてるかはさっぱりだ。
 けど、ソフィーの声が聞こえただけじゃなく、中にいた生徒が面倒ごとから逃げるようにドタバタとカフェから出てきたんだから、放っておけない。
 生徒の波を裂くようにして、俺とテレサはカフェに入った。
 そこにはやっぱり、ある程度予想していた光景が広がっていた。

「あ、ネイト君!」
『ぎゃうーっ!』

 モダンな雰囲気の漂うカフェは、テーブルや椅子がひっくり返った惨状と化していた。
 その中心にいるのは、しゃがみ込んで泣いている生徒を庇うように立つソフィーとパフ。
 そしてソフィーと向かい合うように立つのは、いかにも貴族のお坊ちゃまって感じの新入生が4人と、彼らを率いるように仁王立ちする男子生徒。
 入学式の前に、俺を睨んでいた生徒だ。

「……お前……」

 あの時はソフィーとパフの乱入でそれどころじゃなかったけど、今、違和感の正体が分かった。俺はこいつをゲームで見たし、知っている。

 いや、俺が知らないはずがない。
 こいつは――。

「――ダンカン?」

 ネイトの腰巾着――ダンカン・メイジャーだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。

棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

【死に役転生】悪役貴族の冤罪処刑エンドは嫌なので、ストーリーが始まる前に鍛えまくったら、やりすぎたようです。

いな@
ファンタジー
【第一章完結】映画の撮影中に死んだのか、開始五分で処刑されるキャラに転生してしまったけど死にたくなんてないし、原作主人公のメインヒロインになる幼馴染みも可愛いから渡したくないと冤罪を着せられる前に死亡フラグをへし折ることにします。 そこで転生特典スキルの『超越者』のお陰で色んなトラブルと悪名の原因となっていた問題を解決していくことになります。 【第二章】 原作の開始である学園への入学式当日、原作主人公との出会いから始まります。 原作とは違う流れに戸惑いながらも、大切な仲間たち(増えます)と共に沢山の困難に立ち向かい、解決していきます。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

処理中です...