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悪役貴族のスクールライフ!
おかしなメイド
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「ビバリー様、紫の石とは……?」
後ろに従えた生徒のひとりがアラーナに問いかけると、彼女はしらばっくれた。
「私にもさっぱりだわ。友人へのプレゼントを、危険な何かと勘違いしているみたい」
「なんだって!? ゴールディングめ、ビバリー様を侮辱するのか!」
「即刻立ち去りなさい! 今ならまだ、ビバリーさんは情けをかけてくれるわよ!」
もちろん、アラーナの見え見えな嘘に言及するやつはいない。
彼女の取り巻きだけじゃなく、周りの連中も何も言わない。そもそも、俺が何の話をしているのかも分かってないだろうよ。
アウェーで話を進められないのは承知の上だったけど、ここまでとはな。
「その通り。あなたはきっと話を終わらせて、そこをどいてくれるわ」
勝ち誇ったような顔で、アラーナが言った。
「竜魔法の持ち主のオライオンさんが、あなたと仲が良いのは残念だわ。ここにいるのがあなたじゃなくて彼女なら、私の派閥に迎え入れたかったのに」
まったく、ダンカンといい彼女といい、ソフィーはどんなやつでも構わず引き寄せる魅力でもあるんだろうか。
「ダンカンの時と結果は同じだ。貴族主義なんて、ソフィーは一番嫌がるぞ」
「私は辛抱強いの、彼女が折れるまで勧誘するわ。もちろん、ふたりきりの機会があればの話だけど……いずれ来るでしょう」
ふう、とため息をついたアラーナは、もう俺と話す気がないと表情で言っていた。
「さて、最終通達よ。私は何も見なかった、何も聞かなかったことにして、校外のレストランでランチを楽しませてもらうわ。あなたは、どうする?」
ここでアラーナに馬乗りになって、融合魔法で叩きのめして情報を吐かせるのはリスクが高すぎるし、第一俺はそこまで野蛮人じゃない。
少なくとも、彼女が紫の石に関わっていると知れただけでも十分だ。
「……俺とあんたは鉢合わせなかった。これからもそうだろうよ」
「お利口さんね。では、ごきげんよう」
俺が静かに告げると、アラーナは大ぶりな態度で挨拶をすると、そのまま廊下の脇にどいた俺の前を歩いていくけど、彼女を慕う生徒は姿が見えなくなるまで俺を睨みつけてた。
そうして廊下を曲がっていなくなった頃に、辺りにいつもの空気が戻ってきた。
生徒達の談笑が再開し、昼食をとり始める。
だけど誰も俺を見ない状況を見れば、やっぱり俺は厄介者の悪役貴族だな。
(アラーナ・ビバリー……ダンカンの時みたいに挑発に乗るかと思ったんだけど、そうはいかないか。ありゃ石について聞きだすのに、骨が折れそうだ)
そりゃあ、近寄ってくる人が減るのは残念だけど、必要経費でもある。
(さすがに早計だったかな。でも、目標がはっきり定まったし、よしとするか)
なんせ俺は、石を配る張本人という最高の情報を手に入れたからな。
俺はこれからアラーナとどうにかして再び接触して、もう一度トラブルを引き起こす前に石のありかを吐かせて、悪さをしないようにお仕置きする必要がある。
もちろん、褒められた行いじゃない。
だとしても、誰ひとりとして死なせないようにするには、俺が悪役にならないと。
「……ハッピーエンドのためだ、やってやるぜ」
ソフィーの、他のヒロインの笑顔を守る使命の炎が、俺の心臓の奥で燃え盛った。
「――やってやるとは良い心意気でございますね、ネイト様」
「うおっ!?」
だけど、炎はすぐに鎮火された。
どこからともかく現れたテレサが、耳元でささやいてきたからだ。
彼女は少し離れたところにいたのに、音もなくどうやって俺のそばまで近寄ってきたんだろうか。まわりが見えなくなるほど集中していたわけでもないのに。
「あの上級生、どうやらネイト様を侮辱したようでございますね。一言お申し付けください、テレサが腐った脳髄もろとも頭をかち割りましょう」
「よせよせ、斧を出そうとするな!」
いや、今はそれよりも気にするべき事柄がある。
3日前から――テレサは何というか、とても乱暴な言動と行動が目立つんだ。
俺に近づく人間が皆、敵か障害物に見えているのか、ちょっとしたことですぐに大斧『ベノムバイト』を取り出して攻撃しようとするし、悪態までつく。
『あの女、ネイト様の挨拶を無視しました。万死に値します』
『ふむ、魔法を披露したネイト様を褒めないとは。あの教え手は無能の極みでございます』
『ネイト様を舐るような目つきの雌が多すぎます。屠殺しなければ、テレサが……』
特に言葉遣いにいたっては日に日に悪化して、今朝はソフィーが俺にいつものようにハグをするのすら許さなかった。
『ソフィー様、ネイト様との距離が近すぎます。まるで発情……』
その時の言動が、これだ。
俺がテレサの口を塞いで止めたのは言うまでもない。
あまりにもおかしいと思って、まさか紫の石の影響を知らない間に受けてるんじゃないかと不安になった俺が、とうとうテレサに聞いたくらいだ。
『テレサ、最近変な石を拾わなかったか? 紫色の、宝石っぽい……』
『体育館での一件で破壊したような石でございましょうか。あの時完全に砕きましたが、お疑いのようであれば、テレサの体を余すことなく触り、お調べください』
『や、やっぱいい! いいから脱ぐなって!』
こんな調子で、茶化すようにスルーされたんだけども。
階段の踊り場でメイド服を脱ごうとしたら、そりゃあ止めるだろうよ。
とにかく、テレサをアラーナとの交渉の場に呼ばなかったのは、数日間の変化が原因だ。もしもあの場にいたなら、有無を言わさずビバリー一派に襲いかかってたかもしれない。
そうじゃなくても、テレサの態度は改めさせないと。
「テレサ、昨日も言ったけど、最近のお前はちょっと乱暴すぎるぞ」
「さようでございますか」
「さようで……じゃなくてさ、俺はテレサを心配して――」
言いたくないけど、主人の注意に対してこのリアクションもないだろう。
あんまり気は進まないが、俺が語気を強めようとした時だった。
「うわっ」
ドン、と俺の肩に衝撃が奔った。
何があったのかと思って振り返ると、属性魔法科の上級生らしい生徒と肩がぶつかったらしい。こちらを睨みながら歩く男女のペアが、きっとそうだ。
「おっと、ごめんな」
俺が謝ると、返ってきたのは舌打ちだ。
「ったく、気を付けるんだな、下級生が!」
「ぼーっとしている暇があるなら、魔法の勉強のひとつでもしたらどう!」
属性魔法科は気が強い生徒が多いのか、いや、トライスフィア全体がそうなのか。
魔法を使えるのが特権だと思い込んでるやつがほとんどなんだから、無理もないか。
「はは、随分な言われようだ。一度ぶつかっただけであの反応だと、二度ぶつかったらぶちのめされるんじゃないかな、テレサ……」
ぐちぐちと文句を言いながら立ち去る上級生から、俺は隣のテレサに視線を移した。
そこに、テレサはいなかった。
代わりに彼女は、すたすたとさっきの上級生に歩み寄って行ったんだ。
「……テレサ? お前、何をして……」
何か嫌な予感がして声をかけたけど、テレサは構わず、ぱきりと指の骨を鳴らしてから、逆の腕で男子生徒の服の裾を掴んだ。
――まずい、絶対にまずい。
俺とテレサの付き合いだから分かる、あいつが指の骨を鳴らした時は危険だ。
「もし、そこのお方」
「うん? なんだ、さっきの下級生のメイドか――」
俺がテレサに「やめろ」と怒鳴るよりも先に、彼女が動いた。
「――くたばりあそばせ」
「がぼぎゃッ!?」
テレサの渾身の右ストレートが、上級生の男の右頬を撃ち抜いた!
血とともに、歪んだ男の口から歯が5本も飛び散ったんだ!
後ろに従えた生徒のひとりがアラーナに問いかけると、彼女はしらばっくれた。
「私にもさっぱりだわ。友人へのプレゼントを、危険な何かと勘違いしているみたい」
「なんだって!? ゴールディングめ、ビバリー様を侮辱するのか!」
「即刻立ち去りなさい! 今ならまだ、ビバリーさんは情けをかけてくれるわよ!」
もちろん、アラーナの見え見えな嘘に言及するやつはいない。
彼女の取り巻きだけじゃなく、周りの連中も何も言わない。そもそも、俺が何の話をしているのかも分かってないだろうよ。
アウェーで話を進められないのは承知の上だったけど、ここまでとはな。
「その通り。あなたはきっと話を終わらせて、そこをどいてくれるわ」
勝ち誇ったような顔で、アラーナが言った。
「竜魔法の持ち主のオライオンさんが、あなたと仲が良いのは残念だわ。ここにいるのがあなたじゃなくて彼女なら、私の派閥に迎え入れたかったのに」
まったく、ダンカンといい彼女といい、ソフィーはどんなやつでも構わず引き寄せる魅力でもあるんだろうか。
「ダンカンの時と結果は同じだ。貴族主義なんて、ソフィーは一番嫌がるぞ」
「私は辛抱強いの、彼女が折れるまで勧誘するわ。もちろん、ふたりきりの機会があればの話だけど……いずれ来るでしょう」
ふう、とため息をついたアラーナは、もう俺と話す気がないと表情で言っていた。
「さて、最終通達よ。私は何も見なかった、何も聞かなかったことにして、校外のレストランでランチを楽しませてもらうわ。あなたは、どうする?」
ここでアラーナに馬乗りになって、融合魔法で叩きのめして情報を吐かせるのはリスクが高すぎるし、第一俺はそこまで野蛮人じゃない。
少なくとも、彼女が紫の石に関わっていると知れただけでも十分だ。
「……俺とあんたは鉢合わせなかった。これからもそうだろうよ」
「お利口さんね。では、ごきげんよう」
俺が静かに告げると、アラーナは大ぶりな態度で挨拶をすると、そのまま廊下の脇にどいた俺の前を歩いていくけど、彼女を慕う生徒は姿が見えなくなるまで俺を睨みつけてた。
そうして廊下を曲がっていなくなった頃に、辺りにいつもの空気が戻ってきた。
生徒達の談笑が再開し、昼食をとり始める。
だけど誰も俺を見ない状況を見れば、やっぱり俺は厄介者の悪役貴族だな。
(アラーナ・ビバリー……ダンカンの時みたいに挑発に乗るかと思ったんだけど、そうはいかないか。ありゃ石について聞きだすのに、骨が折れそうだ)
そりゃあ、近寄ってくる人が減るのは残念だけど、必要経費でもある。
(さすがに早計だったかな。でも、目標がはっきり定まったし、よしとするか)
なんせ俺は、石を配る張本人という最高の情報を手に入れたからな。
俺はこれからアラーナとどうにかして再び接触して、もう一度トラブルを引き起こす前に石のありかを吐かせて、悪さをしないようにお仕置きする必要がある。
もちろん、褒められた行いじゃない。
だとしても、誰ひとりとして死なせないようにするには、俺が悪役にならないと。
「……ハッピーエンドのためだ、やってやるぜ」
ソフィーの、他のヒロインの笑顔を守る使命の炎が、俺の心臓の奥で燃え盛った。
「――やってやるとは良い心意気でございますね、ネイト様」
「うおっ!?」
だけど、炎はすぐに鎮火された。
どこからともかく現れたテレサが、耳元でささやいてきたからだ。
彼女は少し離れたところにいたのに、音もなくどうやって俺のそばまで近寄ってきたんだろうか。まわりが見えなくなるほど集中していたわけでもないのに。
「あの上級生、どうやらネイト様を侮辱したようでございますね。一言お申し付けください、テレサが腐った脳髄もろとも頭をかち割りましょう」
「よせよせ、斧を出そうとするな!」
いや、今はそれよりも気にするべき事柄がある。
3日前から――テレサは何というか、とても乱暴な言動と行動が目立つんだ。
俺に近づく人間が皆、敵か障害物に見えているのか、ちょっとしたことですぐに大斧『ベノムバイト』を取り出して攻撃しようとするし、悪態までつく。
『あの女、ネイト様の挨拶を無視しました。万死に値します』
『ふむ、魔法を披露したネイト様を褒めないとは。あの教え手は無能の極みでございます』
『ネイト様を舐るような目つきの雌が多すぎます。屠殺しなければ、テレサが……』
特に言葉遣いにいたっては日に日に悪化して、今朝はソフィーが俺にいつものようにハグをするのすら許さなかった。
『ソフィー様、ネイト様との距離が近すぎます。まるで発情……』
その時の言動が、これだ。
俺がテレサの口を塞いで止めたのは言うまでもない。
あまりにもおかしいと思って、まさか紫の石の影響を知らない間に受けてるんじゃないかと不安になった俺が、とうとうテレサに聞いたくらいだ。
『テレサ、最近変な石を拾わなかったか? 紫色の、宝石っぽい……』
『体育館での一件で破壊したような石でございましょうか。あの時完全に砕きましたが、お疑いのようであれば、テレサの体を余すことなく触り、お調べください』
『や、やっぱいい! いいから脱ぐなって!』
こんな調子で、茶化すようにスルーされたんだけども。
階段の踊り場でメイド服を脱ごうとしたら、そりゃあ止めるだろうよ。
とにかく、テレサをアラーナとの交渉の場に呼ばなかったのは、数日間の変化が原因だ。もしもあの場にいたなら、有無を言わさずビバリー一派に襲いかかってたかもしれない。
そうじゃなくても、テレサの態度は改めさせないと。
「テレサ、昨日も言ったけど、最近のお前はちょっと乱暴すぎるぞ」
「さようでございますか」
「さようで……じゃなくてさ、俺はテレサを心配して――」
言いたくないけど、主人の注意に対してこのリアクションもないだろう。
あんまり気は進まないが、俺が語気を強めようとした時だった。
「うわっ」
ドン、と俺の肩に衝撃が奔った。
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魔法を使えるのが特権だと思い込んでるやつがほとんどなんだから、無理もないか。
「はは、随分な言われようだ。一度ぶつかっただけであの反応だと、二度ぶつかったらぶちのめされるんじゃないかな、テレサ……」
ぐちぐちと文句を言いながら立ち去る上級生から、俺は隣のテレサに視線を移した。
そこに、テレサはいなかった。
代わりに彼女は、すたすたとさっきの上級生に歩み寄って行ったんだ。
「……テレサ? お前、何をして……」
何か嫌な予感がして声をかけたけど、テレサは構わず、ぱきりと指の骨を鳴らしてから、逆の腕で男子生徒の服の裾を掴んだ。
――まずい、絶対にまずい。
俺とテレサの付き合いだから分かる、あいつが指の骨を鳴らした時は危険だ。
「もし、そこのお方」
「うん? なんだ、さっきの下級生のメイドか――」
俺がテレサに「やめろ」と怒鳴るよりも先に、彼女が動いた。
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