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悪役貴族のスクールライフ!
ふたりきり≠1+1
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アラーナがソフィーを手に入れたがってるのはありがたかったけど、もしも関係性が続いていると知れば、アラーナはソフィーにも迂闊に近寄らないはずだ。
だから、俺という共通の敵が必要だった。
あいつにとっては、ソフィーを派閥に加え入れるだけじゃない。
面倒な敵である俺をどうにかできるダブルチャンスまで飛び込んでくるんだからな。
「私、いつでも監視されていて……貴族主義の一派閥のリーダーにしか、こんなことは頼めないの……誰かがいると……怖くて……!」
ソフィーの迫真の演技も相まって、アラーナは完全に彼女を信用したみたいだ。
「……分かったわ。皆、オライオンさんとふたりきりで話したいの。いいかしら?」
相談相手の肩を優しく撫でた彼女がそう言うと、しもべ達は頷いてぞろぞろとアラーナから離れていった。
「安心して、私達の集会所に案内してあげるわ。そこならゴールディングの目も届かないだろうし、何を話しても誰にも聞かれる心配はないわよ」
「ありがとうございます、アラーナ先輩……」
「それじゃあ、行きましょ」
不安げな顔のソフィーの肩に手をまわして、アラーナが歩き出した。
当然、俺とパフも後ろからついて行く。
アラーナはなんだかソフィーと友人にでもなったかのような態度で距離感を縮めているし、ソフィーもいつもの友達と一緒にいる感覚で先輩と会話をしてる。
なんというか、罪悪感と尊敬の気持ちがごちゃ混ぜになった気分だ。
(お前の相棒は女優になれるぜ。正直、驚いたよ)
(ぎゃうぎゃう♪)
友人への敬意をパフに代弁しているうち、校舎4階のとある部屋にたどり着いた。
他の生徒の往来がほとんどない、学園の中でも不思議な雰囲気を醸し出している場所だ。
「さあ、入ってちょうだい」
「し、失礼しまーす……」
アラーナに背中を押されて、ソフィーが部屋に入る。
その隙間を突いて俺とパフが侵入すると、中にはとてもいち生徒の集団が使っている空き教室とは思えないほど豪華で、まるで屋敷の一室のような光景が飛び込んできた。
「ここはもともと部活動用の部室だったけど、今は貴族主義のメンバーでも、上級生しか入室を許可されていない場所よ。生徒どころか、先生すら入ってくることはまずないわ」
なるほど、こんな部屋を自由に使えるだけの権限があるなら、貴族主義にあこがれる連中も出てくれば、反抗しない先生もいるわけだ。
「外から話を聞かれたりは?」
「心配無用よ。私の魔法を使えば……風魔法『サイレンスエア』」
彼女が指を振ると、緑色の微風が部屋に満ちて、壁や扉、窓をコーティングした。
「壁全体に防音効果を兼ねた風をまとわせたわ。仮にここであなたがひと晩中騒いだところで、あのネイト・ヴィクター・ゴールディングは気づかないでしょうね」
残念、あのネイトは今、あんたのそばでチャンスをうかがってるよ。
あんたが魔力探知を使われない、あるいは使えなくて本当によかったぜ。
「それじゃあ……オライオンさん。あなたの話を聞かせてちょうだい」
「うん、でも――」
そろそろ頃合い、ネタばらしの時間だな。
竜人族の末裔を仲間に引き入れたと勝ち誇っているアラーナの前で、ソフィーがにっこりと笑って――。
「――話したいのは私じゃなくて、彼の方なんだ♪」
悪魔のごとき一言を放った。
「えっ」
一瞬、アラーナが呆けた。
だけどそのおバカな表情は、たちまち驚愕に取って代わった。
「どうも、アラーナ先輩。騙して悪いけど、こっちにも事情があるんでな」
『ぎゃぎゃう!』
水と風のヴェールを剥がして、俺とパフがいきなり部屋の中に姿を現したからだ。
これにはさすがのアラーナもかなり驚いたみたいで、いつもの余裕はどこへやら、素っ頓狂な声を上げてひっくり返った。
いやあ、余裕かましてるやつが転げるさまは面白いな。
「ちょ、ちょっと、どういうことなの、オライオンさん? あなた、ゴールディングに脅されてるって言ってなかったかしら!?」
狼狽する貴族の前で、演技派女優がぺろりと舌を出してウインクする。
「えーと……ごめんなさい先輩、嘘ついちゃいました!」
「ソフィーを責めないでやってくれ、俺が無理言って協力してもらったんだ。でも、そもそもあんたが紫の石をダンカンに渡さなきゃ、こうはならなかったんだぜ」
紫の石。ダンカン。ソフィーと組んだ悪役貴族。
ここまで言ってやれば、アラーナも自分がハメられたって気づいたみたいだ。
「さてと、石について知ってること全部話してもらおうか……セ・ン・パ・イ?」
悪役そのものの笑みを俺が浮かべると、とうとうアラーナの困惑が怒りに変貌した。
「よ、よくも騙したわねええっ! 水魔法――」
勢いそのままに水魔法で俺達を攻撃しようとするあたり、やっぱり貴族主義って乱暴者が多いのか?
ま、今回の場合はダマした俺達にも非があるんだけど。
そんでもって、その程度の魔法じゃ、俺に太刀打ちなんてできないっての!
「融合魔法レベル5、『突風岩錠』!」
「ぎゃあああっ!?」
風魔法と土魔法を融合させた俺の『突風岩錠』は、手錠の形をした岩を生成して風で吹き飛ばし、ダメージを与えたうえで壁や地面に拘束する融合魔法だ。
その威力は俺のお墨付き。水魔法を発動させる間もなく、アラーナは壁に叩きつけられた。
こんな騒ぎが外にまるで聞こえないのは、皮肉なことに彼女の防音処理のせいだな。
「安心してくれ、衝撃波と岩で拘束してるだけだ。先輩がちゃんと話をしてくれるなら、これ以上は何もしない。けど、もしもしらばっくれたりだんまりなら……」
『ぐうるるる……!』
「俺よりも先に、パフが喉元に噛みつくかもしれない。あいつは石の被害者だからな」
ずい、と近づいた俺とソフィー、そして唸るパフ。
「ひっ……」
怯えるアラーナを見て、効果てきめんと判断した俺は、意地の悪い笑みを浮かべた。
「それくらい切羽詰まった状況だってことを念頭に置いて、俺の質問に答えてくれ……単刀直入に聞くぜ、紫の石にどんな力が宿ってるんだ?」
「ど、どんな力って……魔力を増幅させるだけじゃないの!?」
こいつ、紫の石を配った張本人のくせにしらを切るつもりだな。
ダンカンやテレサがああなったのも、こいつが何かを仕組んだはずだ。
「とぼけんなよ。ダンカンに甘い言葉をささやいて、石を渡して操ってただろ!」
そう確信していた俺の前で、アラーナがきっと俺を睨んだ。
「石って、紫の石でしょ!? 私も行商人から買ったわ、魔力を爆発的に高めるアイテムだって言われて、試しに使ったら効果があったから買い占めたのよ!」
――買い占めた?
怒鳴り散らす彼女の言葉に、確信が揺らいだ。
「……お前、石を買っただけで、作り方も何も知らないのか……?」
「ええ、そうよ! 第一、ダンカンなんて、石を渡してヨイショしたらカンタンに乗せられるマヌケ、裏で動かすまでもないわよ! このアラーナ・ビバリーにもそんな魔法が使えないのに、あんな石ころに人を操る力でもあるっていうの!?」
喚き叫ぶ声を聞いて、俺の白い髪の内側を、冷たい汗が伝った。
これまで立ててきた仮説に、ひびが入る音が聞こえた。
俺はてっきり、石を人に与えてそそのかしたこいつが、ストーリーに反して黒幕になっているんじゃないかって思い込んでた。
けど、こいつには――いや、きっと他の誰にも、石を介して人を操る力なんてない。
(アラーナ・ビバリー……こいつは黒幕じゃない……!)
この黒幕もどきは、物語通り、序盤の雑魚に過ぎなかったんだ。
だから、俺という共通の敵が必要だった。
あいつにとっては、ソフィーを派閥に加え入れるだけじゃない。
面倒な敵である俺をどうにかできるダブルチャンスまで飛び込んでくるんだからな。
「私、いつでも監視されていて……貴族主義の一派閥のリーダーにしか、こんなことは頼めないの……誰かがいると……怖くて……!」
ソフィーの迫真の演技も相まって、アラーナは完全に彼女を信用したみたいだ。
「……分かったわ。皆、オライオンさんとふたりきりで話したいの。いいかしら?」
相談相手の肩を優しく撫でた彼女がそう言うと、しもべ達は頷いてぞろぞろとアラーナから離れていった。
「安心して、私達の集会所に案内してあげるわ。そこならゴールディングの目も届かないだろうし、何を話しても誰にも聞かれる心配はないわよ」
「ありがとうございます、アラーナ先輩……」
「それじゃあ、行きましょ」
不安げな顔のソフィーの肩に手をまわして、アラーナが歩き出した。
当然、俺とパフも後ろからついて行く。
アラーナはなんだかソフィーと友人にでもなったかのような態度で距離感を縮めているし、ソフィーもいつもの友達と一緒にいる感覚で先輩と会話をしてる。
なんというか、罪悪感と尊敬の気持ちがごちゃ混ぜになった気分だ。
(お前の相棒は女優になれるぜ。正直、驚いたよ)
(ぎゃうぎゃう♪)
友人への敬意をパフに代弁しているうち、校舎4階のとある部屋にたどり着いた。
他の生徒の往来がほとんどない、学園の中でも不思議な雰囲気を醸し出している場所だ。
「さあ、入ってちょうだい」
「し、失礼しまーす……」
アラーナに背中を押されて、ソフィーが部屋に入る。
その隙間を突いて俺とパフが侵入すると、中にはとてもいち生徒の集団が使っている空き教室とは思えないほど豪華で、まるで屋敷の一室のような光景が飛び込んできた。
「ここはもともと部活動用の部室だったけど、今は貴族主義のメンバーでも、上級生しか入室を許可されていない場所よ。生徒どころか、先生すら入ってくることはまずないわ」
なるほど、こんな部屋を自由に使えるだけの権限があるなら、貴族主義にあこがれる連中も出てくれば、反抗しない先生もいるわけだ。
「外から話を聞かれたりは?」
「心配無用よ。私の魔法を使えば……風魔法『サイレンスエア』」
彼女が指を振ると、緑色の微風が部屋に満ちて、壁や扉、窓をコーティングした。
「壁全体に防音効果を兼ねた風をまとわせたわ。仮にここであなたがひと晩中騒いだところで、あのネイト・ヴィクター・ゴールディングは気づかないでしょうね」
残念、あのネイトは今、あんたのそばでチャンスをうかがってるよ。
あんたが魔力探知を使われない、あるいは使えなくて本当によかったぜ。
「それじゃあ……オライオンさん。あなたの話を聞かせてちょうだい」
「うん、でも――」
そろそろ頃合い、ネタばらしの時間だな。
竜人族の末裔を仲間に引き入れたと勝ち誇っているアラーナの前で、ソフィーがにっこりと笑って――。
「――話したいのは私じゃなくて、彼の方なんだ♪」
悪魔のごとき一言を放った。
「えっ」
一瞬、アラーナが呆けた。
だけどそのおバカな表情は、たちまち驚愕に取って代わった。
「どうも、アラーナ先輩。騙して悪いけど、こっちにも事情があるんでな」
『ぎゃぎゃう!』
水と風のヴェールを剥がして、俺とパフがいきなり部屋の中に姿を現したからだ。
これにはさすがのアラーナもかなり驚いたみたいで、いつもの余裕はどこへやら、素っ頓狂な声を上げてひっくり返った。
いやあ、余裕かましてるやつが転げるさまは面白いな。
「ちょ、ちょっと、どういうことなの、オライオンさん? あなた、ゴールディングに脅されてるって言ってなかったかしら!?」
狼狽する貴族の前で、演技派女優がぺろりと舌を出してウインクする。
「えーと……ごめんなさい先輩、嘘ついちゃいました!」
「ソフィーを責めないでやってくれ、俺が無理言って協力してもらったんだ。でも、そもそもあんたが紫の石をダンカンに渡さなきゃ、こうはならなかったんだぜ」
紫の石。ダンカン。ソフィーと組んだ悪役貴族。
ここまで言ってやれば、アラーナも自分がハメられたって気づいたみたいだ。
「さてと、石について知ってること全部話してもらおうか……セ・ン・パ・イ?」
悪役そのものの笑みを俺が浮かべると、とうとうアラーナの困惑が怒りに変貌した。
「よ、よくも騙したわねええっ! 水魔法――」
勢いそのままに水魔法で俺達を攻撃しようとするあたり、やっぱり貴族主義って乱暴者が多いのか?
ま、今回の場合はダマした俺達にも非があるんだけど。
そんでもって、その程度の魔法じゃ、俺に太刀打ちなんてできないっての!
「融合魔法レベル5、『突風岩錠』!」
「ぎゃあああっ!?」
風魔法と土魔法を融合させた俺の『突風岩錠』は、手錠の形をした岩を生成して風で吹き飛ばし、ダメージを与えたうえで壁や地面に拘束する融合魔法だ。
その威力は俺のお墨付き。水魔法を発動させる間もなく、アラーナは壁に叩きつけられた。
こんな騒ぎが外にまるで聞こえないのは、皮肉なことに彼女の防音処理のせいだな。
「安心してくれ、衝撃波と岩で拘束してるだけだ。先輩がちゃんと話をしてくれるなら、これ以上は何もしない。けど、もしもしらばっくれたりだんまりなら……」
『ぐうるるる……!』
「俺よりも先に、パフが喉元に噛みつくかもしれない。あいつは石の被害者だからな」
ずい、と近づいた俺とソフィー、そして唸るパフ。
「ひっ……」
怯えるアラーナを見て、効果てきめんと判断した俺は、意地の悪い笑みを浮かべた。
「それくらい切羽詰まった状況だってことを念頭に置いて、俺の質問に答えてくれ……単刀直入に聞くぜ、紫の石にどんな力が宿ってるんだ?」
「ど、どんな力って……魔力を増幅させるだけじゃないの!?」
こいつ、紫の石を配った張本人のくせにしらを切るつもりだな。
ダンカンやテレサがああなったのも、こいつが何かを仕組んだはずだ。
「とぼけんなよ。ダンカンに甘い言葉をささやいて、石を渡して操ってただろ!」
そう確信していた俺の前で、アラーナがきっと俺を睨んだ。
「石って、紫の石でしょ!? 私も行商人から買ったわ、魔力を爆発的に高めるアイテムだって言われて、試しに使ったら効果があったから買い占めたのよ!」
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怒鳴り散らす彼女の言葉に、確信が揺らいだ。
「……お前、石を買っただけで、作り方も何も知らないのか……?」
「ええ、そうよ! 第一、ダンカンなんて、石を渡してヨイショしたらカンタンに乗せられるマヌケ、裏で動かすまでもないわよ! このアラーナ・ビバリーにもそんな魔法が使えないのに、あんな石ころに人を操る力でもあるっていうの!?」
喚き叫ぶ声を聞いて、俺の白い髪の内側を、冷たい汗が伝った。
これまで立ててきた仮説に、ひびが入る音が聞こえた。
俺はてっきり、石を人に与えてそそのかしたこいつが、ストーリーに反して黒幕になっているんじゃないかって思い込んでた。
けど、こいつには――いや、きっと他の誰にも、石を介して人を操る力なんてない。
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