悪役貴族に転生した俺、主人公のチート魔法を持ってました〜鬱展開をぶっ壊して、目指せ最高のハッピーエンド!〜

いちまる

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悪役貴族とタイラントレディー!

ジークリンデのお誘い

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 大講堂から出た俺達は、廊下を歩く。

「すごいことになっちゃったねー……」
『ぎゃうーっ』
「せ、聖徒会会長を選びなおすなんて……フヒ、ぜ、前代未聞です……」

 ソフィーやクラリスはまだ夢の中にいる気分みたいだ。
 特にクラリスがフヒフヒ言ってるあたり、現役期間中の再選というのは、これまでのトライスフィアの歴史でもなかったらしい。

「テレサの情報によりますと、すでに4名ほど、次期聖徒会会長に名乗り出る者がいるそうです。いずれも貴族主義、しかも過激派でございます」
「ま、そりゃそうだろうな。自分にとって居心地のいい世界を壊されるのは、誰だっていい気分じゃないさ」

 ジークリンデは平民も貴族も問わないと宣言したけど、そうはいかないだろうよ。
 今のトライスフィア魔導学園で、物事を牽引けんいんしているのは貴族だし。

「でも、カイチョーさんのやろうとしてること、私はすごくいいと思うな。だって、皆がビョードーに魔法を学んで、仲良く学園生活を楽しめるってことでしょ?」
「じ、実際は……そううまく、いかないと……思います……」

 ぱん、と手を叩くソフィーの隣で、クラリスが首を横に振った。

「貴族主義の、横暴はもとより……ボクみたいな、普通の生徒も……貴族を嫌っています……双方の根深い、因縁を……な、なんとかできるんでしょうか……?」

 貴族との因縁で姉を失ったクラリスの話だからこそ、説得力がある。
 普通の生まれ――というと失礼かもしれないが――の生徒には、ただ隅で縮こまっているだけじゃなく、貴族に対して嫌悪感を抱いている者も少なくない。
 一方的に嫌っているというよりは、相互的に憎み合ってる。
 次期聖徒会会長になるというのは、そんな環境をどうにかしろ、と言われているようなものだし、周りの生徒達が迂闊に立候補しようとしないのも当然だ。

「おい、お前立候補しろよ!」
「やーだっ! あんたがやりなさいよ!」
「ジークリンデ会長ほどのカリスマがないと、聖徒会会長なんて無理無理!」
「そもそも、急にあんなことを言い出すなんて、気がふれたんじゃないですか?」

 会長を支持する者、しない者、どちらにも属しない者。
 ゲームの中の世界でも、選挙というイベントに対する認識は同じだ。

「……意見は賛否両論、って感じだな」
「ネイト様、変革には常に大きな犠牲と無理解が伴うものでございます」

 テレサがいつもの調子で話すのに、俺は頷いた。
 どんなイベントが起きようと、テレサの感情が揺れ動かないというのは予想できた。

「――そうね、でもワタシはこの状況も楽しんでるわよ♪」

 だけど、後ろからいきなり聞こえて来たジークリンデの声は予想できなかった。

「うおっ!?」
「わあっ!?」
『ぎゃう!?』
「フヒっ!?」
「ジークリンデ会長。気配がないとは、テレサも驚きです」

 一斉に振り返った俺達の顔が見ていて楽しいのか、彼女はにっこりと笑った。
 周囲の生徒も廊下に出現したジークリンデの存在に、この瞬間まで気づかなかったのか、誰もが勢いよく飛び退いた。
 どうしてここに、と俺が聞くよりも先に、今度は彼女の後方から、ぜいぜいと息を切らしながら聖徒会のメンバーが駆けてきた。

「会長、こちらにいらしたんですか!」
「ゴールディングとはかかわらない方がいいって、あれほど忠告したのに!」

 おいおい、開口一番俺の悪口かよ。
 そりゃあ俺は学園の校舎を破壊したり、貴族主義の悪党を逮捕に追い込んだり、大衆の前で上級生に頭突きをかましたりしたが、悪者じゃあないんだぞ。

「ワタシが誰と話して、誰の意見を求めるかは勝手でしょう? それに、次の選挙の結果が出るまでは、ワタシはただのジークリンデ・ハーケンベルクよ?」

 聖徒会の男子生徒の説得に、ジークリンデは口を尖らせた。

「し、しかしっ!」
「はいはい、忠犬じゃないんだし、ついてくるのはおしまい。それよりも……」

 さらりと話を受け流して、彼女は俺に言った。

「ネイト、ちょっとだけお話がしたいの。ワタシとお散歩デートしましょ♪」

 いや、言ったんじゃない。
 誘ったんだ――俺を、に。

「「はいぃーっ!?」」

 廊下の窓が割れかねないくらいの、生徒達の叫び声が響いた。

「で、ででで、デートぉ!?」

 それに遅れて、俺の口からマヌケな声が飛び出した。
 そりゃそうだ。
 学園で一番美しいと言っても過言じゃない、しかも一番強いと言っても誰も疑わないような完全無欠の美女が、どうしようもない悪党をデートに誘ったんだから。

「デートってあれだよね、男の人と女の人が手をつないで街を歩いて、一緒にランチを食べて、最後は夕陽の見える丘でチューしちゃう、あれだよねっ!?」
『ぎゃぎゃうぎゃーう!?』

 もちろん俺もテンパったけど、なぜかソフィー達が俺以上に慌てている。

「間違いございません。主人と女性の逢瀬おうせなど、メイドとして見過ごせない案件です」
「い、い、いけません……不純、リア充許すまじ、です……!」

 テレサは明らかに目が泳いでるし、クラリスは顔がだこのように真っ赤だ。
 そして何より、聖徒会の面々が口から泡を吹きかねないほど狼狽ろうばいしてるんだ。

「それだけは、それだけは考え直してください、会長!」
「貴方達がどう思おうと、ワタシは彼を気に入ってるわ。だから話したいし、その程度で落ちる評価なんて、最初からないのと同じだと思わない?」

 でも、ジークリンデは彼ら、彼女らの頼みなんて聞きやしない。
 これはあくまで想像だけど、俺が入学するまでの間――要するに去年もこいつらは、ジークリンデに振り回され続けてたんだろうな。
 本当なら、そんな会長は人望なんてたちまち失ってしまう。

「相変わらず奔放な人だ……」
「でもそこがいいのよね……」

 そうならないのは、ひとえに銀髪美少女のジークリンデが常に放ち続けるカリスマと、「この人についていけば間違いない」と思わせる謎の説得力のなせるわざだ。
 もっとも、今回は彼女のそれをもってしても、混乱を巻き起こしてるんだが。
 聖徒会を無理矢理納得させながら、ジークリンデはにこりと笑った。

「もちろん、ネイトが忙しいなら話は別よ。どうかしら?」
「えーと、授業までまだ時間はあるし、俺ならいいですよ」

 俺がそう答えると、彼女は一層明るく笑った。

「なら決まりね……って言いたいんだけど、ワタシのお客さんが来たみたい」
「え?」

 来客とは誰だろう、と俺が思うよりも先に、答えの方からやって来た。

「――やっと会えましたわね、ジークリンデっ!」

 廊下の向こう側から、どかどかと乱暴な足音が聞こえた。
 しかもひとつじゃない、いくつもの足音は軍隊の行進のようだ。
 何が侵攻してきたんだって驚きながら振り向いた俺の目に飛び込んできたのは、そりゃあ軍隊と間違えるよ、と言いたくなるような連中だった。

「ちょこまかと逃げ回って、ですがもう逃がしませんわよっ!」

 医療ドラマの教授回診のように生徒を連れて歩くのは、赤い髪の女子生徒。
 クラリスに負けないくらいボリュームのある髪をくるくるとカールさせて、頭頂部にどでかいリボンをつけている。
 信じられないほど厚底のブーツと、フリル装飾をこれでもかと付けた改造制服。
 きっと吊り上がった桃色の瞳に、長いまつ毛と太い眉毛。

「ここで会ったが100年目! 聖徒会副会長にして貴族主義最大筆頭、ダスティー・モンテーロとの学園の命運を賭けた決闘、今日こそ受けてもらいますわっ!」

 生成AIに「気の強いお嬢様を描いてくれ」と入力した結果出てきたような、高慢ちきなお嬢様といえばこれって見た目の彼女は、ジークリンデを指さして叫んだ。

「こりゃまた、ややこしくなりそうだ……」

 俺はというと、ふたりに挟まれて流石にげんなりしていた。
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