悪役貴族に転生した俺、主人公のチート魔法を持ってました〜鬱展開をぶっ壊して、目指せ最高のハッピーエンド!〜

いちまる

文字の大きさ
68 / 101
悪役貴族とタイラントレディー!

因縁の副会長!

しおりを挟む
「んもー、ダスティーってばちっとも変わらないのね」
「当たり前ですわ! 貴女を打ち倒して、わたくしこそがトライスフィア魔導学園の聖徒会会長にふさわしいと認めさせるまで、決して折れませんわよ!」

 幼馴染との再会のようにけらけら笑うジークリンデと、キンキンと怒鳴るダスティー。
 貴族主義の筆頭ひっとうを名乗る彼女が出てきても、俺は感動のひとつも覚えなかった。

(こんなキャラクター、『フュージョンライズ・サーガ』にいたっけか?)

 というのも、俺はジークリンデがバッドエンドを迎えるところまでゲームを進めたけれど、こんなキャラクターは見た覚えがないからだ。
 ストーリーのゆがみで発生したのかもしれないし、もしかしたら設定として存在するのに、ゲームで一度も出せていなかっただけかも。
 もしもそうなら、あのゲームはやっぱりクソゲー寄りだな。
 ひとまず、分からないことはテレサの知識に頼るのが一番だ。

「ええと、テレサ? この人が、聖徒会の副会長?」
「その通りでございます。モンテーロ伯爵家のひとり娘にして聖徒会副会長、属性魔法科所属の3年生、ダスティー・モンテーロです」
「聖徒会所属って……その割には、会長とバチバチじゃねーか」

 確かに、さっき聖徒会副会長とは言ってたが、俺は聞き間違いだと思ってた。
 この仲の悪さ――というか一方的な感情のぶつけ方からして、とても同じ組織に属しているなんて想像できないだろ。

「ふ、副会長は……貴族主義の、筆頭で……ジークリンデ会長を、い、一方的に……敵視しているん、です……」
「片方は自由を、片方は統治を求めてるってか」

 そりが合わない理由に何となく納得していると、ダスティーがやっとこっちを見た。

「……あら、そこにいるのはゴールディングですわね?」
「今気づいたのかよ」
「噂なら聞いてますわよ。名家の生まれでありながら、ジョン・ロックウッドを失脚させて、貴族主義に巨大な穴を開けようとする……台風のような男ですのね」

 台風とは、素直な誉め言葉か、はたまた嫌味か。

「またこの流れか。で、あんたも俺を敵視してるのか?」

 俺が問いかけると、意外にもダスティーは肩をすくめるだけだった。

「憎たらしいとは思っていますわ。でも、ロックウッドとビバリーという、貴族の風上にも置けない連中を倒したことは、素晴らしいとも思っていましてよ」
「あんた、話が意外と通じるんだな」
「『仇敵きゅうてきにも礼儀を』。我がモンテーロ家の家訓でしてよ」

 ほうほう、流石は自分で貴族主義のリーダーを名乗るだけある。
 他の連中よりも、ダスティーはずっと話が通じそうだ。

「とにもかくにも、ジークリンデ! 勝手に聖徒会会長選挙を開催して、貴族主義をなくすなど! 責任も背負わない、奔放身勝手な貴女だけは許せませんわ!」

 ただ、ジークリンデが絡むと、急に話が通じなくなるらしい。
 傍から見れば学園のルールをすべて壊そうとするフリーダムな会長と、規律と正義を守ろうとする副会長の「推せる~」な関係だ。
 問題があるとすれば、ダスティーのマジギレリアクションを、ジークリンデがおちょくるのを心底楽しそうにしている点だな。

「無責任なつもりはないわ。ただ、トライスフィアの在り方をしっちゃかめっちゃかにして、新しい学園を作りたいだけよ♪」
「それを無責任というのですわ! もう我慢なりませんわ、今この場で決闘を――」

 びし、と指さして再度決闘を申し込むダスティー。
 そんな彼女を見ているうち、ジークリンデはぴん、と指を立てた。

「――いいわ、決闘なら受けてあげる」

 決闘を受けるのか。会長と副会長の決闘が見られるのか。
 周囲がわずかに騒めいた時、俺は彼女の視線がこっちに向いているのに気づいた。
 まずい。ソフィーからの経験則で学んだが、こういう表情をしているヒロインは、何かとんでもない計画を思いついたに違いない。
 俺が慌てて口を挟むよりも先に、ジークリンデが高らかに言った。



「ただし、代理決闘よ。ここにいるネイトと、貴女のお友達全員とで、どうかしら?」

 彼女が宣言したのは、ネイトを自分の代理とした決闘。
 ――俺の予想よりもずっとひどい、最悪の計画だった。

「はあああああーっ!?」

 周りの驚きをかき消すほどの大声が、俺の喉から飛び出すのも当然だ。

「おいおいおいおいおいおいおい!? なんで俺が、どうして決闘を!?」
「そう慌てないでちょうだい。ちゃんとした理由があるのよ」

 仮に理由があってもどうかと思うが、一応聞いておかなくちゃな。

「理由ってのは?」
「ドミニクが育てた弟弟子の実力が見たいからー♪」
「最悪だな、あんたは!」

 聞くだけ損だった。
 どうやらこのジークリンデ・ハーケンベルクという女性は、その場の思い付きとやりたいこと、楽しいことだけで頭の中が構築されているみたいだ。
 ドミニクから話を聞いただけの男に、自分の命運をあっさり託すなんて。
 こんなのでよく、聖徒会の会長としてやってこれたもんだよ。

「お待ちくださいませ、聖徒会会長。テレサが異論を唱えます」

 俺が心底大きなため息をついていると、テレサが会話に割って入ってくれた。

「テレサ……!」

 ああ、やっぱりいざという時に頼れるのはクール系有能メイドだよ。

「ネイト様ひとりでは不利かと。ここはテレサ達も参戦の許可をください」
「止めるんじゃないんかーいっ!?」

 前言撤回。
 テレサは天然系ポンコツメイドです。
 助けてくれるのはありがたいけど、そこは止めてくれ、頼むから。

「ネイト君と私達なら、百人力どころか一億万人力だよっ!」
『ぎゃーう!』
「フヒ……ぼ、ボクなんかでよければ、じょ、助力します……」

 しかもそこに、ソフィーやパフ、クラリスまで参戦する始末だ。
 大乱闘なゲームじゃあるまいし、『全員参戦!』しなくたっていいんだよ。
 挙句の果てにジークリンデは、ヴァリアントナイツが皆、代理決闘に参加すると聞いても止めずに、一層ニコニコ笑うだけだ。
 ……もしかすると、これが目的だったのか?

「いいお友達を持ったわね、ネイト。さて、ダスティー、あとは貴女の返事次第よ?」

 真相を聞く前に、ジークリンデがダスティーに問いかける。
 彼女は後ろに連なる、自分を慕う者達をちらりと見た。

「こちらの人数は20を超えますわ。数の差を承知の上で?」
「もちろんよ」
「貴女が負けたなら、今朝の集会での発言を撤回してもらいますわ。そちらの条件は?」
「校内のカフェの新作『辛さ3000倍悶絶タイマ・カレー』を完食してもらうわ」
「なかなか刺激的な条件ですわね……っておバカ! どこまでわたくしをおちょくれば気が済むんですの!?」

 ここまで来ると、もはやコントだな。

「もういいですわ! そちらから提示した条件で、今更不利だなんだと言い訳は聞きませんわよ! い・ま・す・ぐ、あそこのグラウンドで代理決闘ですわーっ!」

 頬をげっ歯類か狸のように膨らませたダスティーは、ジークリンデの横を、他の貴族主義の生徒を連れてすり抜けていった。
 授業も何もかも無視して決闘開始って、ここは蛮族の棲み処かよ。

 残されたのは、久方ぶりの決闘に沸き立つトライスフィアの生徒達。
 俺の力になろうとなんだか活き活きしている、ヴァリアントナイツの仲間達。
 そして、決闘を受けておきながら、自分は高みの見物を決め込もうとする、とてもゲームの同一人物とは思えないジークリンデ。

「頑張ってね、ネイト♪」
「頑張ろうね、ネイト君っ!」
「気合でございます、ネイト様」
「フヒヒ……やるからには、と、とことんです……」

 花も咲き乱れるほどの、美少女4人の笑顔を見せられた俺は――。

「……最悪だ……」

 げんなりと、肩を落とした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。

棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

処理中です...