悪役貴族に転生した俺、主人公のチート魔法を持ってました〜鬱展開をぶっ壊して、目指せ最高のハッピーエンド!〜

いちまる

文字の大きさ
76 / 101
悪役貴族とタイラントレディー!

解放者、強襲!

しおりを挟む
「フンフンフンフンフンフンっ」

 ひっくり返る俺の前で、テレサがバスケ部のようなディフェンスを見せる。
 いつの間に残像が見えるほどのブロック技術を会得したんだ、テレサ。

「で、出ました……テレサさんの、フンフン……ディフェンス……!」
「ナイスだよ、テレサちゃん!」
『ぎゃおっ!』

 ジークリンデが目を丸くするほどの防御力をクラリス、ソフィーにパフが褒め称えているけど、正直俺はもう、何が何やらさっぱりだ。

「……お前ら、こんなところで何やってんだ?」

 のそりと起き上がる俺を見て、ジークリンデがくすくすと笑った。

「あらあら、可愛い守護者ガーディアンのおでましね♪」

 そんな余裕しゃくしゃくな彼女が、フンフンディフェンスでダメージを受けていないと知るや否や、3人と1匹は臨戦態勢に入る。
 このコンビネーションを、もっと別のところに活かせないのかよ。

「いくらカッコいいカイチョーさんでも、抜け駆けしていい感じになるなんてダメ! 私達はやらしー雰囲気からネイト君を守る……そうっ!」

 ソフィーの掛け声とともに、全員が一斉にびしっとポーズを決めた。

「「『ネイト様を守り隊』だよ(です)(でございます)っ!」」

 しかもその背後で、パフの炎を使った爆発の演出もセットだ。
 ほら、あれ。戦隊モノで5人そろった時に、後ろで爆発する演出だよ。
 施設の子供達が遠くではしゃぐ気持ちも何となくわかるくらいのド派手さに、俺はもう、俺はただ茫然ぼうぜんとするばかりだった。

「そのまんまじゃねーか」

 さて、敵意を向けられているはずのジークリンデは、なんだか一番楽しそうだ。

「ふーん? つまり、貴方達は皆ネイトが気になるんだけど、まだ一歩踏み出せてないライバル同士ってところかしら?」
「そうだよっ!」

 彼女に聞かれたソフィーは胸を張って答えるけど、他のふたりはそうじゃない。

「え、あ、いや、気があるかって、フヒ、そういうのじゃ……」
「メイドが主人を守るのは当然のこと。テレサは、ウェディングドレスに身を包み、ネイト様と真っ赤なカーペットを歩みたいとはまったく思っておりません」

 さっきまでの気迫はどこへやら、クラリスはともかく、テレサまでもが無表情なのに動きがしどろもどろだ。
 というか、ほんとにこいつらは何をしに来たんだ。

「……わけがわかんねーんだけど。ジークリンデさん、通訳できます?」
「鈍感なネイトには、ちょっと難しいかもしれないわね」

 相変わらずジークリンデだけが、誰よりも楽しそうに笑ってる。

「でも、ワタシとしてはライバルは大歓迎よ! 誰が何人相手でも、ワタシは一度狙った相手を逃がすつもりはないから、覚悟しなさい♪」
「むむっ、相手にとって不足なしだねっ!」

 ついでにソフィー達には話が通じてるんだから、もう何が何やら。
 いくら俺だけが男だからって、置いてきぼりは辛すぎるぞ。

「頼むから、誰か分かるように俺にも事情を説明――」

 とにもかくにも説明不足が極まっているシチュエーションに耐えかねて、俺はヴァリアントナイツの皆をどかして話を聞こうとした。
 ところが、これまたそうはいかなかった。



 ――少し離れたところで、いきなり爆発が起きたんだ。

「……今のは?」

 俺だけじゃなく、その場にいる全員が固まった。
 さっきの演出のような爆発じゃない。
 大通りから少し離れた家屋から火や煙が見えるほどの、大火事のような破壊だ。

「テレサ、あの爆発も演出のひとつなんだよな?」
「いいえ、違います。あの方向からの炎は、テレサ達の予定に入っておりません」
「じゃあ、誰が……」

 困惑する俺達の耳に、今度は別方向からの爆発と、甲高い声が聞こえてきた。

『――我らは人の手に余るものから、人を解き放つ! 貴族の、王族の誤った治世から人を解き放つ! 刃向かうならばすべてを焼き払う!』

 魔法で拡声されたようなそれは、大通りを中心として響き渡る悲鳴に混じり、恐るべき炸裂と延焼えんしょう、恐怖を間違いなく煽り立てていた。

『我らは『解放者』! 新たなる世界の先駆けとなる存在である!』

 それもそのはず――爆発を起こしたのは彼らだ。
 よりによってこんなタイミングで、テロ活動が始まったんだ!

「『解放者』って、まさか!」

 俺がジークリンデの方を見ると、彼女の顔も険しくなっていた。

「さっき話していた通りよ! 近頃王都を騒がせてるテロリストだわ!」

 テロリストが現れるというのは、『フュージョンライズ・サーガ』のシナリオを追っていれば、中盤の頭で戦う羽目になるからよく知っている。
 でも、いざ戦うとなれば話は別だ。
 相手はトライスフィアの生徒と違って、腹を括ってるマジの人殺しで、こっちの挑発やしょぼくれた作戦なんか通用しない。
 要するに、敵の格が違うってわけだ。

「大通りから、人が逃げてきます……き、きっと、すぐ近くで活動してます……!」

 クラリスの顔にも焦りが浮かぶ中、俺はやるべきことを頭の中で整理する。
 それはもちろん、敵を倒す、テロリストの正体を探るとかなんかじゃない。

「こりゃ、ちんたらしてられないな、ジークリンデさん!」

 俺とジークリンデの考えは同じ――子供達を守ることだ。

「ええ、『太陽の家』の保母さんと子供達を逃がさないと! ネイトと『守り隊』の貴女達も一緒に逃げてちょうだい、ワタシが護衛するわ!」

 彼女が遠くを見据えてぐっと拳を握ると、俺よりもずっと正義感の強い、ヴァリアントナイツも呼応する。

「ひとりだけ戦わせるなんてできないよ! 私もパフと一緒に、皆を守る!」
「ならば、テレサも助力いたしましょう」
「やめとけ、今はジークリンデさんの言うことに従うんだ!」

 ソフィーやテレサを制するのは、同じ仲間である俺だ。
 テロリストとヒロインを戦わせるなんて、彼女達にバッドエンドを迎えさせるわけにはいかない俺としては絶対に勧められない。
 そもそも、ファンタジー世界のテロリストは銃や爆弾を使ったり、特攻なんて仕掛けたりはしてこないけど、もっとヤバい武器を使い回す。

「この世界のテロリストは、魔物を放って攻撃を仕掛けてくるんだよ! あの手の連中は飼ってる魔物はデカいんだ、下手な魔法じゃ返り討ちに遭うぞ!」

 魔物――普通の生物とは違う、異形いぎょうにして凶暴な生命。
 彼らは火を吹き、牙をむくそいつらを飼い慣らして解き放つんだ。

「随分と詳しいのね、ネイト?」
「そりゃまあ、ゲームで一度だけ戦ったことが……いや、何でもない!」

 危うくネタバレしそうになった自分の口を、俺は慌てて塞いだ。

「とにかく、これまでどうにかしてきた生徒とは勝手が違うんだ! 相手は俺達を殺すのに何の躊躇もない連中だぜ、今は避難を……」

 そんなコントまがいのやり取りをしている時間は、明らかに無駄だった。
 というのも、もうとっくに俺達の近くまで来ていたんだ。

『グウルル……!』

 恐ろしい唸り声を響かせて、悲鳴の間を抜けるようにして姿を現したのは、やはり人間ではない奇怪な生物だった。

「……来やがったか、って、あれは……!」

 ただし、黒い外皮に覆われたあれは、魔物なんかじゃない。

「ネイト様、間違いございません。あの姿は……」
「ああ――あれは、『ケイオス』だ!」

 俺達の前に出てきたのは、このゲームの大敵『ケイオス』だったんだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。

棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

処理中です...