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第五章 王家と守護者と誓約
179 取り潰しじゃないんだ?
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アルキスの後からシンリームとテンキを頭に乗せたルディエが部屋に入ってくる。
「おっ、コウヤ帰ってたか。ん? こいつ、解放したんじゃねえの?」
近衛騎士と共に部屋の隅で控えるビジェを見てアルキスは首を傾げる。
「一緒にいることになりました」
「へえ……やっぱりか……」
どうやら予想していたらしいと知り、コウヤは苦笑するしかなかった。
「アルキス、報告を頼む」
「わかった」
アビリス王に言われ、アルキスはコウヤの横に腰かけた。シンリームは少々距離を取ってだが、カトレアの隣だ。カトレアは目を合わせようとはしなかった。それを目の端で捉えながら、アルキスの報告を聞く。
「足を動けなくしたことで、侯爵もかなり動揺していた。そこのテンキに頼んだら、自白剤に近い効果をもたらす魔法陣を用意してくれた」
「そんなものがあるのか?」
全員の目が、パックンとダンゴと合流して寛いでいるテンキへ集まる。それに気付いてテンキがコウヤの肩に飛び乗った。
《あれは薬の効能を受けられなくしてありますからね。自白剤の代わりです。罪悪感を増幅させるものですが、あれはそれほど悪い行いだと思っていないので、強めにしておきました。守護妖精が居てよかったです》
ユースールの守護妖精、マリーファルニェをカウンセラーにしたように、守護妖精には心を開かせる力がある。自戒の念が強く働いたりするのだ。罪悪感の薄い侯爵には、先ず何がいけないことだったのかを分からせる必要がある。それらも、オスロリーリェができるだろう。
《主様が地下を整えられたと聞きました。この城は、守護妖精の力が満ち始めています。そのお陰で可能となる術式です》
「守護妖精の力……」
アビリス王がどういうことかと、今度はコウヤへやや視線を移す。
「儀式場の聖域が機能しましたからね。守護妖精であるオスローと聖域は相性がいいので、力は増幅されます。場所もいいのでその力の影響は王都全体に渡りますね。犯罪者が減るでしょう」
「そんなことが?」
「ええ。守護妖精は争いを嫌います。だからこそ、罪の意識というものを強く意識させる力を持っているのです。争いを止める力はありませんが、戦おうとする者達の心に問いかけるんです」
「……それが王都に広がると……なるほど、犯罪の抑止力が働くのか」
強い力ではない。だが、心に働きかける。洗脳と呼ぶほど強力でもないが、精神に影響を及ぼすと言えるかもしれない。
この力があるため、妖精は嫌われたりもした。だが、受け入れれば、恩恵はそれだけではない。
「はい。あと、妖精の加護のある土地は、そこに住む人達の治癒力が高まります。ちょっとの風邪は引かなくなりますよ。植物も少し成長がよくなります。効果は聖域に入った所で変わりませんけれど、王都全体にしっかりと行き渡りはしますね」
「なんとっ、素晴らしいではないかっ」
「なので、オスローを追い出したりしないでくださいね?」
「もちろんだ!」
その言葉の後、ふわりと暖かい力が感じられた。
「っ……何か今……」
アビリス王も感じたようだ。
「すみません。言質を取るような形になってしまいましたが、先ほどの言葉で誓約が成されたようです。オスローがこの王都のではなく、この国の守護妖精になりました」
「……では……?」
「他の国よりも確実に、人々の健康と土地の活性化が約束されます」
「っ、それは有難い! 何か礼をっ、礼をせねばなるまい」
意図せずに誓約が成されたことで、オスロリーリェは国の守護妖精になった。聖域のお陰で力も強くなっていたのだろう。場所も関係している。
「ふふっ、そうですね……お供えではないですけれど、たまにお菓子を持って行ってもいいですね。あの子の居場所を取らないでいただければ本当は十分なのですが」
「いやいや、礼がしたいのだ。そうさせてもらうよ」
興奮気味のアビリス王だが、すぐに侯爵の話に戻る。
「侯爵の自白は聞くことになるが、あのまま終身刑となる。侯爵家は次期当主であるカトレアの兄がまとめることになるだろう」
「取り潰しじゃないんだ?」
口を挟んだのは、コウヤの後ろにやって来たルディエだ。今まで白夜部隊の報告を聞いていたらしい。
「そうすると、さすがに領地が管理できんのだ……今回は当主である侯爵の独断の暴走ということになるだろう。もちろん、手を貸していた者、繋がっていた者は処分する。使用人達もかなり捕縛されることになるだろう」
今の段階でも、執事を始め、多くの使用人達が罪人として捕縛されるらしい。
「けど兄上、その息子、復讐しようとか考えないか? 俺は一族全部処分するんだと思ってたんだが……その方が心配もないだろう」
生かせておけば、逆恨みして手を出してこないとも限らない。侯爵を牢から出すことも不可能ではないかもしれない。心配するのは当然だ。だが、王も優しさから言っているわけではないのだ。その理由はルディエが知っていた。
「ああ、思い出した。その女の兄って、元々侯爵と合わなくて家出した奴だよね」
「そのようだな。かなり優秀だと聞いていたが、どこにいるのか探さねばならん……もしや、知っていたりはせんか?」
「知ってるよ」
「どこにいる?」
まさか知っているとはと驚きながらも王がルディエに尋ねる。
「ユースールで文官やってる」
「へ?」
コウヤも予想外の答えに思わず声を上げる。そして、そのまま問いかける。
「ユースールで? 誰?」
「財務局長の補佐」
「えっ、あ、ミディルさん?」
「そう。いつか侯爵から当主の座を奪うつもりだったとか言ってたらしい。ほら、ユースールって文官も鍛えるでしょ。領地経営を学んで力をつけたらって思ってたみたい」
「へえ……ミディルさんなら大丈夫かもね」
コウヤも知っている彼は、仕事に情熱のある人だった。いつも局長に真っ先に張り付いていく人だ。ただ、彼がユースールから出るとなると問題が一つ。
「……ミディルさん引き抜かれたら、メイノさんを止められる人居なくなるね……」
「あの局長さんの面倒見るの大変だよ?」
「うん。財務局長の補佐って、みんな嫌がるから……」
「必死で止めようとするのあの人だけだったっけ。他は面白がって取り付いてる感じ」
「本気でメイノさんを止めようとはしないもんね。みんな、仕事はできるから問題ないんだけど……」
ちょっと問題だ。
これを聞いていたアビリス王は申し訳なさそうに顔をしかめた。
「何やら難しそうだが、返してもらえるか?」
「……レンス様に相談してください……」
「うむ……そうしよう」
レンスフィートは彼の出自を知っていたかもしれない。それならば、後任についても考えていただろう。それを期待する。
「なあなあ、メイノって、メイノか?……十何年か前まで総隊長やってた……財務局長? 何やってんだ、あの親父……」
アルキスはジルファスとコソコソと確認し、信じられないと呟いていた。
ユースールの大半は、そういった信じられないものでできている。
少々の混乱の中、セイがコウヤへ顔を向ける。
「そういえばコウヤ、教会はいつ頃できそうだい?」
「図面をこれから引っ張っるから……一週間後ぐらいかな」
「ドラム組を呼ぶのだろう? 屋台は連れて来るのかい?」
「え? あ~、どうするかな……出すならこっちの商業ギルドにも伝えないといけないし……どう思います?」
コウヤはジルファスへ話を振った。唐突だったが、セイとの会話は王達も注目していたらしい。視線はいつの間にかこちらに集まっていた。
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読んでくださりありがとうございます◎
三日空きます。
よろしくお願いします◎
「おっ、コウヤ帰ってたか。ん? こいつ、解放したんじゃねえの?」
近衛騎士と共に部屋の隅で控えるビジェを見てアルキスは首を傾げる。
「一緒にいることになりました」
「へえ……やっぱりか……」
どうやら予想していたらしいと知り、コウヤは苦笑するしかなかった。
「アルキス、報告を頼む」
「わかった」
アビリス王に言われ、アルキスはコウヤの横に腰かけた。シンリームは少々距離を取ってだが、カトレアの隣だ。カトレアは目を合わせようとはしなかった。それを目の端で捉えながら、アルキスの報告を聞く。
「足を動けなくしたことで、侯爵もかなり動揺していた。そこのテンキに頼んだら、自白剤に近い効果をもたらす魔法陣を用意してくれた」
「そんなものがあるのか?」
全員の目が、パックンとダンゴと合流して寛いでいるテンキへ集まる。それに気付いてテンキがコウヤの肩に飛び乗った。
《あれは薬の効能を受けられなくしてありますからね。自白剤の代わりです。罪悪感を増幅させるものですが、あれはそれほど悪い行いだと思っていないので、強めにしておきました。守護妖精が居てよかったです》
ユースールの守護妖精、マリーファルニェをカウンセラーにしたように、守護妖精には心を開かせる力がある。自戒の念が強く働いたりするのだ。罪悪感の薄い侯爵には、先ず何がいけないことだったのかを分からせる必要がある。それらも、オスロリーリェができるだろう。
《主様が地下を整えられたと聞きました。この城は、守護妖精の力が満ち始めています。そのお陰で可能となる術式です》
「守護妖精の力……」
アビリス王がどういうことかと、今度はコウヤへやや視線を移す。
「儀式場の聖域が機能しましたからね。守護妖精であるオスローと聖域は相性がいいので、力は増幅されます。場所もいいのでその力の影響は王都全体に渡りますね。犯罪者が減るでしょう」
「そんなことが?」
「ええ。守護妖精は争いを嫌います。だからこそ、罪の意識というものを強く意識させる力を持っているのです。争いを止める力はありませんが、戦おうとする者達の心に問いかけるんです」
「……それが王都に広がると……なるほど、犯罪の抑止力が働くのか」
強い力ではない。だが、心に働きかける。洗脳と呼ぶほど強力でもないが、精神に影響を及ぼすと言えるかもしれない。
この力があるため、妖精は嫌われたりもした。だが、受け入れれば、恩恵はそれだけではない。
「はい。あと、妖精の加護のある土地は、そこに住む人達の治癒力が高まります。ちょっとの風邪は引かなくなりますよ。植物も少し成長がよくなります。効果は聖域に入った所で変わりませんけれど、王都全体にしっかりと行き渡りはしますね」
「なんとっ、素晴らしいではないかっ」
「なので、オスローを追い出したりしないでくださいね?」
「もちろんだ!」
その言葉の後、ふわりと暖かい力が感じられた。
「っ……何か今……」
アビリス王も感じたようだ。
「すみません。言質を取るような形になってしまいましたが、先ほどの言葉で誓約が成されたようです。オスローがこの王都のではなく、この国の守護妖精になりました」
「……では……?」
「他の国よりも確実に、人々の健康と土地の活性化が約束されます」
「っ、それは有難い! 何か礼をっ、礼をせねばなるまい」
意図せずに誓約が成されたことで、オスロリーリェは国の守護妖精になった。聖域のお陰で力も強くなっていたのだろう。場所も関係している。
「ふふっ、そうですね……お供えではないですけれど、たまにお菓子を持って行ってもいいですね。あの子の居場所を取らないでいただければ本当は十分なのですが」
「いやいや、礼がしたいのだ。そうさせてもらうよ」
興奮気味のアビリス王だが、すぐに侯爵の話に戻る。
「侯爵の自白は聞くことになるが、あのまま終身刑となる。侯爵家は次期当主であるカトレアの兄がまとめることになるだろう」
「取り潰しじゃないんだ?」
口を挟んだのは、コウヤの後ろにやって来たルディエだ。今まで白夜部隊の報告を聞いていたらしい。
「そうすると、さすがに領地が管理できんのだ……今回は当主である侯爵の独断の暴走ということになるだろう。もちろん、手を貸していた者、繋がっていた者は処分する。使用人達もかなり捕縛されることになるだろう」
今の段階でも、執事を始め、多くの使用人達が罪人として捕縛されるらしい。
「けど兄上、その息子、復讐しようとか考えないか? 俺は一族全部処分するんだと思ってたんだが……その方が心配もないだろう」
生かせておけば、逆恨みして手を出してこないとも限らない。侯爵を牢から出すことも不可能ではないかもしれない。心配するのは当然だ。だが、王も優しさから言っているわけではないのだ。その理由はルディエが知っていた。
「ああ、思い出した。その女の兄って、元々侯爵と合わなくて家出した奴だよね」
「そのようだな。かなり優秀だと聞いていたが、どこにいるのか探さねばならん……もしや、知っていたりはせんか?」
「知ってるよ」
「どこにいる?」
まさか知っているとはと驚きながらも王がルディエに尋ねる。
「ユースールで文官やってる」
「へ?」
コウヤも予想外の答えに思わず声を上げる。そして、そのまま問いかける。
「ユースールで? 誰?」
「財務局長の補佐」
「えっ、あ、ミディルさん?」
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「へえ……ミディルさんなら大丈夫かもね」
コウヤも知っている彼は、仕事に情熱のある人だった。いつも局長に真っ先に張り付いていく人だ。ただ、彼がユースールから出るとなると問題が一つ。
「……ミディルさん引き抜かれたら、メイノさんを止められる人居なくなるね……」
「あの局長さんの面倒見るの大変だよ?」
「うん。財務局長の補佐って、みんな嫌がるから……」
「必死で止めようとするのあの人だけだったっけ。他は面白がって取り付いてる感じ」
「本気でメイノさんを止めようとはしないもんね。みんな、仕事はできるから問題ないんだけど……」
ちょっと問題だ。
これを聞いていたアビリス王は申し訳なさそうに顔をしかめた。
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「……レンス様に相談してください……」
「うむ……そうしよう」
レンスフィートは彼の出自を知っていたかもしれない。それならば、後任についても考えていただろう。それを期待する。
「なあなあ、メイノって、メイノか?……十何年か前まで総隊長やってた……財務局長? 何やってんだ、あの親父……」
アルキスはジルファスとコソコソと確認し、信じられないと呟いていた。
ユースールの大半は、そういった信じられないものでできている。
少々の混乱の中、セイがコウヤへ顔を向ける。
「そういえばコウヤ、教会はいつ頃できそうだい?」
「図面をこれから引っ張っるから……一週間後ぐらいかな」
「ドラム組を呼ぶのだろう? 屋台は連れて来るのかい?」
「え? あ~、どうするかな……出すならこっちの商業ギルドにも伝えないといけないし……どう思います?」
コウヤはジルファスへ話を振った。唐突だったが、セイとの会話は王達も注目していたらしい。視線はいつの間にかこちらに集まっていた。
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