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第六章 新教会のお披露目
203 ヒミツのみち!
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ジルファスが次期王と決まったことと、カトレアが実質謹慎処分となっているため、王族内での確執が解消された。
それにより、シンリームとリルファムという、今まではあり得なかった組み合わせで行動することも許されるようになっているようだ。
「コウヤ君っ。来てたんだね」
「はい。こんにちは、シン様」
「うん」
コウヤの笑顔に、シンリームの目がふにゃりと蕩けた。それを羨ましく思ったらしいリルファムが主張するように飛びついてきた。
「コウヤにいさまぁ。あいたかったですっ」
「俺もです。リルファム殿下。体の調子も良さそうですね」
「はい! あ、あの、にいさま……リルってよんでほしいです」
「ふふ、ではリル様」
「むぅ……はい。いまはそれでいいです」
ちょっと剥れる表情を見せるリルファム。兄と慕う彼には、様付けも不満だった。だが、それに気付いていても、ここはせっかく王族が上手くまとまったのだから、波風を立てる気はない。
「もしかして、もう帰ってしまうのかな……」
シンリームが寂しそうな表情を見せる。こんなにもわかりやすくて良いのだろうか。
「いえ。地下のオスローの所に行きます」
「あ、なら、ついて行っても良いかな? ついでに何があったのか聞きたいんだけど……」
そう言って、コウヤの後ろに控えるように立っているニールを見る。
「そうですね。何があったか、知ってもらうのは良いかもしれません」
「っ、コウヤ様、ですが……」
ニールは反対なのだろう。第二王子派が大人しくなったというか、一掃されたが、それでも何かの拍子にまた二つに分かれてしまう可能性がある。余計な知識は与えたくないというのが一般的な考えだろう。
だが、それはシンリームという人物や、カトレアの思いなどを知らないから出てくる不安だ。
「大丈夫ですよ。心配するようなことにはなりません。シン様も、この国を支える大事な戦力です。知ってもらうのは悪いことではありませんよ」
彼に、王位に就こうとする野心はない。自身に足りないことも知り、ジルファスとの関係も考えるようになったシンリームは、せめて王族としての務めは果たせるようになろうという思いがあった。
「君が心配するのも分かるよ。母上の今までの行動を思えばね……けど、僕はもう誰かの言いなりになる気はないし、何より、コウヤ君に嫌われるようなことは絶対にしないよ!」
「理解しました。コウヤ様はやはり偉大です」
「だよねっ」
「はい」
なんだか一瞬で二人は思いを一つにしたらしかった。不思議だ。
一方、除け者にされているリルファムは、甘えるようにコウヤの袖を掴んで引っ張った。
「にいさま。ぼくもいきますよ」
「良いんですか? そういえば、イスリナ様はどうされました?」
例え、関係がよくなったとしても、まだ幼いリルファムをシンリームに任せるようなイスリナではないはずだと思ったのだが、コウヤが思うよりもイスリナはシンリームを信用したようだ。
「おかあさまなら、カトレアさんのところで、おしごとしてます」
「そうですか……分かりました。行きましょう」
「はい! ぼくにもなにがあったのかおしえてほしいです! コウヤにいさまのそばにいると、おべんきょうになりますから!」
そう言われたらしい。今回も恐らく、イスリナがコウヤが居るならと、こちらへ寄越したのだろう。彼女は自身の息子にするという考えを捨ててはいない。その影響がリルファムにもきているようだ。
「では、行きましょうか。秘密の道を通って」
「ほんとですかっ。ヒミツのみち! いくですっ」
「ふふ。ここからだととっておきがあるんですよ。ニールさんも覚えておいてください」
「はあ……私が知ってもよろしいのでしょうか」
「ニールさんなら、いざという時に正しく使ってくれそうなので」
「っ、分かりました」
感動したようにグッと唇を噛み締め、ニールは頷いた。実際、有事の際にニールならば騎士達よりも動けるだろう。ルディエが気にするくらいだ。戦闘力も高いはず。ならば、隠し通路は教えておくべきだ。
「地下はオスローの護りが強く働くので、天災、人災からも守ってくれます。だから、いざという時の避難所にしてくださいね」
「承知しました」
そうして、隠し通路では、ちょっと速めのエレベーターで地下まで降りた。出たのはニール達の休憩所の斜め前だ。
この城は、地下への通路が一番多い。元々、避難路としてあったものが数個。だが、大半はおそらく、何者かによる改造の結果だ。
「すごいです! たのしかったですっ」
「どうしてこんなに隠し通路があるんだろう……」
リルファムは楽しそうに。隠し通路を通るのが初めてではないシンリームは、不思議そうに首を捻る。二人とも、絶叫マシンほどではなくとも、それなりにヒュッとなるのは平気だったようだ。そこで、こちらも平気な様子で何やら考えていたらしいニールが呟く。
「これは……何代か前の王族の方が作られたのかもしれません……」
「王族が?」
そんな王族が居たのかとシンリームが目を瞬かせる。とても興味深そうに隠し部屋を見ていたので、彼も作ってみたいとでも思ったのだろうか。期待するような色が瞳に宿っていた。
「ルー君も言ってたなあ。確か、すごく奔放な方が居たとか。サーナさんは、アルキス様の数倍は自由人だったって言ってましたね。何か資料が残ってますか?」
「え、ええ。記録があったように思うのです」
「そうでしたか」
サーナという人物について、ニールは知らない。なのでコウヤの言葉を反芻していたのだが、理解できなかった。コウヤにどう尋ねれば良いのかも分からず、疑問はそのままになった。
その王族は、追いかけてくる教育係たちから逃げるために通路を作った。彼は奔放だが天才だった。
基礎は傷付けず、それらを作って見せたのだ。建築の知識は持っていたのだろう。本来ならば城を作り上げる時に作る隠し通路。それを増設していったのだから凄いことだ。会ってみたかったというのがコウヤの感想だった。
「ここ、ステキなおへやがありますっ」
リルファムが、その部屋に吸い寄せられるように覗き込む。地下の薄暗い場所の中にあって、そこからは光が溢れていた。
「ふふ。ここはニールさん達の休憩室ですからね。みんなには内緒ですよ」
「わかりました! これが、きかれても、こたえちゃいけないヤツですね! がんばります!」
「うん。頑張ろうね」
「はい!」
「「……」」
シンリームとニールは、色々と言いたいこともあったが、コウヤが肯定している手前、口を閉ざしていた。
「しんかんさん……たちですか?」
「そうですよ。少し待っててくださいね」
「はい」
頷きながらも、コウヤのやることをしっかり見ようとリルファムは必死だ。何と言っても憧れのお兄ちゃん。コウヤにやれないことはないと思っている。そんなコウヤと一緒に居るためにはどうすればいいのか。それを、幼いながらにリルファムは考えていた。
「アレは……いきをかくにんしてる?」
「そのようですね。顔色を見て、呼吸が落ち着いているかを確認しているのかと」
「そういえば、コウヤ君は薬師でもあるんだもんね」
「やっぱりすごいです!」
そんな風に観察されていると感じながらも、コウヤは全ての神官を診終わった。
「これならあと一時間もしないで起き出すかな。話しながらお茶でもして待ちましょう」
そうして、また地下でのお茶会が始まる。
************
読んでくださりありがとうございます◎
三日空きます。
よろしくお願いします◎
それにより、シンリームとリルファムという、今まではあり得なかった組み合わせで行動することも許されるようになっているようだ。
「コウヤ君っ。来てたんだね」
「はい。こんにちは、シン様」
「うん」
コウヤの笑顔に、シンリームの目がふにゃりと蕩けた。それを羨ましく思ったらしいリルファムが主張するように飛びついてきた。
「コウヤにいさまぁ。あいたかったですっ」
「俺もです。リルファム殿下。体の調子も良さそうですね」
「はい! あ、あの、にいさま……リルってよんでほしいです」
「ふふ、ではリル様」
「むぅ……はい。いまはそれでいいです」
ちょっと剥れる表情を見せるリルファム。兄と慕う彼には、様付けも不満だった。だが、それに気付いていても、ここはせっかく王族が上手くまとまったのだから、波風を立てる気はない。
「もしかして、もう帰ってしまうのかな……」
シンリームが寂しそうな表情を見せる。こんなにもわかりやすくて良いのだろうか。
「いえ。地下のオスローの所に行きます」
「あ、なら、ついて行っても良いかな? ついでに何があったのか聞きたいんだけど……」
そう言って、コウヤの後ろに控えるように立っているニールを見る。
「そうですね。何があったか、知ってもらうのは良いかもしれません」
「っ、コウヤ様、ですが……」
ニールは反対なのだろう。第二王子派が大人しくなったというか、一掃されたが、それでも何かの拍子にまた二つに分かれてしまう可能性がある。余計な知識は与えたくないというのが一般的な考えだろう。
だが、それはシンリームという人物や、カトレアの思いなどを知らないから出てくる不安だ。
「大丈夫ですよ。心配するようなことにはなりません。シン様も、この国を支える大事な戦力です。知ってもらうのは悪いことではありませんよ」
彼に、王位に就こうとする野心はない。自身に足りないことも知り、ジルファスとの関係も考えるようになったシンリームは、せめて王族としての務めは果たせるようになろうという思いがあった。
「君が心配するのも分かるよ。母上の今までの行動を思えばね……けど、僕はもう誰かの言いなりになる気はないし、何より、コウヤ君に嫌われるようなことは絶対にしないよ!」
「理解しました。コウヤ様はやはり偉大です」
「だよねっ」
「はい」
なんだか一瞬で二人は思いを一つにしたらしかった。不思議だ。
一方、除け者にされているリルファムは、甘えるようにコウヤの袖を掴んで引っ張った。
「にいさま。ぼくもいきますよ」
「良いんですか? そういえば、イスリナ様はどうされました?」
例え、関係がよくなったとしても、まだ幼いリルファムをシンリームに任せるようなイスリナではないはずだと思ったのだが、コウヤが思うよりもイスリナはシンリームを信用したようだ。
「おかあさまなら、カトレアさんのところで、おしごとしてます」
「そうですか……分かりました。行きましょう」
「はい! ぼくにもなにがあったのかおしえてほしいです! コウヤにいさまのそばにいると、おべんきょうになりますから!」
そう言われたらしい。今回も恐らく、イスリナがコウヤが居るならと、こちらへ寄越したのだろう。彼女は自身の息子にするという考えを捨ててはいない。その影響がリルファムにもきているようだ。
「では、行きましょうか。秘密の道を通って」
「ほんとですかっ。ヒミツのみち! いくですっ」
「ふふ。ここからだととっておきがあるんですよ。ニールさんも覚えておいてください」
「はあ……私が知ってもよろしいのでしょうか」
「ニールさんなら、いざという時に正しく使ってくれそうなので」
「っ、分かりました」
感動したようにグッと唇を噛み締め、ニールは頷いた。実際、有事の際にニールならば騎士達よりも動けるだろう。ルディエが気にするくらいだ。戦闘力も高いはず。ならば、隠し通路は教えておくべきだ。
「地下はオスローの護りが強く働くので、天災、人災からも守ってくれます。だから、いざという時の避難所にしてくださいね」
「承知しました」
そうして、隠し通路では、ちょっと速めのエレベーターで地下まで降りた。出たのはニール達の休憩所の斜め前だ。
この城は、地下への通路が一番多い。元々、避難路としてあったものが数個。だが、大半はおそらく、何者かによる改造の結果だ。
「すごいです! たのしかったですっ」
「どうしてこんなに隠し通路があるんだろう……」
リルファムは楽しそうに。隠し通路を通るのが初めてではないシンリームは、不思議そうに首を捻る。二人とも、絶叫マシンほどではなくとも、それなりにヒュッとなるのは平気だったようだ。そこで、こちらも平気な様子で何やら考えていたらしいニールが呟く。
「これは……何代か前の王族の方が作られたのかもしれません……」
「王族が?」
そんな王族が居たのかとシンリームが目を瞬かせる。とても興味深そうに隠し部屋を見ていたので、彼も作ってみたいとでも思ったのだろうか。期待するような色が瞳に宿っていた。
「ルー君も言ってたなあ。確か、すごく奔放な方が居たとか。サーナさんは、アルキス様の数倍は自由人だったって言ってましたね。何か資料が残ってますか?」
「え、ええ。記録があったように思うのです」
「そうでしたか」
サーナという人物について、ニールは知らない。なのでコウヤの言葉を反芻していたのだが、理解できなかった。コウヤにどう尋ねれば良いのかも分からず、疑問はそのままになった。
その王族は、追いかけてくる教育係たちから逃げるために通路を作った。彼は奔放だが天才だった。
基礎は傷付けず、それらを作って見せたのだ。建築の知識は持っていたのだろう。本来ならば城を作り上げる時に作る隠し通路。それを増設していったのだから凄いことだ。会ってみたかったというのがコウヤの感想だった。
「ここ、ステキなおへやがありますっ」
リルファムが、その部屋に吸い寄せられるように覗き込む。地下の薄暗い場所の中にあって、そこからは光が溢れていた。
「ふふ。ここはニールさん達の休憩室ですからね。みんなには内緒ですよ」
「わかりました! これが、きかれても、こたえちゃいけないヤツですね! がんばります!」
「うん。頑張ろうね」
「はい!」
「「……」」
シンリームとニールは、色々と言いたいこともあったが、コウヤが肯定している手前、口を閉ざしていた。
「しんかんさん……たちですか?」
「そうですよ。少し待っててくださいね」
「はい」
頷きながらも、コウヤのやることをしっかり見ようとリルファムは必死だ。何と言っても憧れのお兄ちゃん。コウヤにやれないことはないと思っている。そんなコウヤと一緒に居るためにはどうすればいいのか。それを、幼いながらにリルファムは考えていた。
「アレは……いきをかくにんしてる?」
「そのようですね。顔色を見て、呼吸が落ち着いているかを確認しているのかと」
「そういえば、コウヤ君は薬師でもあるんだもんね」
「やっぱりすごいです!」
そんな風に観察されていると感じながらも、コウヤは全ての神官を診終わった。
「これならあと一時間もしないで起き出すかな。話しながらお茶でもして待ちましょう」
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