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第七章 ギルドと集団暴走
252 師匠から何か?
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ガルタ辺境伯領の隣。
長く仲が悪かった領主の伯爵一家は捕らえられていた。いわゆる第二王妃派とされていた侯爵の派閥に与していたのだ。
これにより、この伯爵領だけでなく、多くの領が領主不在となる状況になった。国としては早急にその穴を埋めなくてはならない。特に神教国の教会の問題もある。長く空ければそこに付け込まれ、民達が食い潰されてしまうかもしれない。
そこで国は、この騒動の発端となった『霧の狼』のメンバーを使うことにした。表向きは『仮の領主』だ。ただし、見事立て直せたならば、そのまま正式に領主となってもらう予定らしい。これは国の上層部しか知らない。
国を回すための人員は足りていないのだ。捕縛対象となった家の令息達や、残された貴族の三男以降を現在調査し、使える者を救い上げる計画だった。
そんな中、この場所の仮の領主が『霧の狼』の首領であった男だった。
「なあ、ゼフィル。これと同じ内容のやつを昨日も一昨日も見た気がするんだが……」
「そうですね。因みに、一週間前から毎日紛れてます」
「知ってたんなら教えてくれても……」
元貴族の令息ではあっても、三男以降の男児だ。領主として教育は受けていないため、優秀な補佐官をつけている。
「あなたが気付かないでどうするんですか」
「だってよお……」
ゼフィルと呼ばれた文官は、大きくため息を吐く。自分たちが志願して正解だった。教養はある。そして、長く逃亡生活にも似た潜伏生活をしていたため、いざという時の察しも良い。その上に頭領だったのだ。上に立つ者としての責任感もある。
足りないのは民を治めるための知識と、信頼できる部下だ。
「はあ……いいですか、ディーン。私は任期が終われば王都に帰ってしまうんですよ? 最初の意気込みはどうしました? これくらいのことに頭が回らなくて、駆け付けてくれた奥方に申し訳ないとは思いませんか?」
「……猛省します……」
付けられた補佐官は、全員がゼフィルのような庶民からの成り上がり。
ニールと一緒にオスロリーリェとも面識のある文官達だった。彼らは全員、この話を聞いて志願したのだ。
『是非我々をお使いください。数ヶ月で、使える領主にしてみせます!』
ゼフィル達は、ユースールの現状を見てきたニールによって、密かに確実にその仕事の効率を上げていた。だが、庶民出というのは中央ではどうしても制限がかかる。
変えたいのに変えられない。やりたいのにやれない。その不満は日に日に膨れ上がっていた。
もういっそのこと、上司達に毒でも盛ろうかなんて考え始めた頃。この話がきたのだ。
当然だが『霧の狼』の者達は元貴族であっても犯罪者。目立たないが今でも腕には枷がついている。
オスロリーリェが、その枷を腕輪にしか見えないようにしてくれているが、行動は制御されているのだ。
こんな者たちに、貴族の血を引く文官達が補佐としてつくはずもなく、逆に彼らを付ければ、悪い影響も出るだろうと王達は悩んでいた。
もう、裏切り者は作ってはならないのだ。
そこでニールの口利きにより、彼らが志願した。
『ここに居ても、力を出し切れませんし、上司にはお前は無能だから雑用をしてろとか言われました。我々が居なくていいそうなので、行ってきます!』
宰相を前に高らかに宣言したゼフィル達。相当苛ついているのが伝わったのだろう。その場で宰相は異動の書類を用意した。若干、この後の城はまた荒れるなと思いながらも許可を出したのだ。
国中に散らばった文官達は、生き生きと仕事を始めた。妻子もおらず、ただただ上から抑えられながら仕事に邁進していたゼフィル達の顔色は、かつてないほど良い。
「この辺はしっかり読んでください。で、こっちは陳情書をまとめたものです。順位を一度決めるようにお願いします」
「……はい……というか、お前、休んでる?」
自分は犯罪者だと強く自覚しているディーンにとって、この庶民出だというゼフィルは付き合いやすかった。その優秀さも理解できたのだ。
「休憩三時間、睡眠四時間は取っておりますよ」
「……残りの十七時間は何やってんだよ……」
「仕事ですが?」
まさかのプライベートの時間がないという回答。いや、知ってたとため息を吐く。
「お前にいい人でもいればな……」
「なんですか急に。休日もいただいていますよ」
「……そうじゃなくて……ってか、その休みの日に冒険者ギルド行ってんのは何なんだよ。絶対に休んでねえだろ」
「時間を自由に使っているんです。休みに決まっているでしょう」
「……」
ゼフィルはここへ来てそれほど経っていないが、領官達に『疲れを知らない仕事狂い』とまで言われるようになっていた。
「……冒険者ギルドで何してんだよ……」
「冒険者の方に稽古をつけていただいています。近いとはいえ、辺境まで一人で行くには危険ですからね」
ゼフィルは書類を確認しながら告げる。一方のディーンは、顔を上げて確認する。
「辺境? 隣か?」
「ええ。一人でユースールまで行ける実力をつけるのが当面の目標です」
「会いたい女でもいるのか?」
頬杖を突いて、ディーンは少し微笑む。そうだったら良いと思うのは、この仕事以外不器用な友人にも幸せになってほしいと願うから。
ディーンが捕らえられてすぐ、元婚約者が城に駆け付けてくれたのだ。これは、コウヤの命で動いた白夜部隊の仕業だった。
仲間たちの婚約者も続々と駆け付けた。中には既に亡くなっている者も居たが、結婚も拒み、親に見捨てられても、頑として彼ら以外とは結婚しないと誓いを立てていたのだ。
彼女達なりの抗議の仕方だった。
王は温情をくれた。ディーン達が原因で荒れた国。その立て直しを命じた。本来ならば、処刑か終身奴隷。けれど、犯罪者としての枷を着けながらも、国の政策に関わらせるというのには驚いた。
その上に元婚約者達との結婚も許してくれたのだ。すまなかったとの言葉と共に。
ディーン達は間違いなく救われたのだ。
「師匠……コウヤ様がいらっしゃいます」
「コウヤ様……っ、あの少年か!」
「会ったことが?」
ゼフィルも顔を上げた。
「あ、ああ……恩人だ」
「……そうですか」
ゼフィルは、ディーンの表情だけで全て察した。一瞬の気まずさ、その後の苦笑気味な表情。日々上司達の顔色を伺いながら仕事をこなしてきたからこそ、身に付いた。
「ユースールに自力で行けないと、ご指導いただけないので」
「文官の? いや、だって、確か冒険者ギルド職員だって……それに若いぞ?」
「年齢など関係ありませんよ。そういえば、見たのでは? あの報告書」
「報告書……俺らの?」
ディーン達『霧の狼』で集めた不正の証拠書類。それをまとめて提出されたものを確認させてもらっていた。
「ええ。見せたと聞いていましたけれど」
「見た……完璧な書類ってのがすごいものだって分かったよ。文官ってすごいんだなってな」
「何寝ぼけてるんですか? あれをまとめたのが師匠。コウヤ様です」
動きを止めたディーンは、グルグルと思考が定まらなかった。それは確かに約束したこと。だが、信じるにはコウヤの姿はそれを否定させる。
「……本当にまとめたのか? あの子が? 子どもだったぞ?」
「別に信じないならそれで良いです。あの方の偉大さは、我々だけ知っていればいいですから」
もうゼフィルは書類へ目を落としていた。これが本音だからだ。
「信じないなんて言ってないだろ……」
「そうですか。ほら、さっさと手を動かしてください。明日は私、休みなんです。師匠とも交流のある冒険者の方の予約が取れたので、予定を変えるわけにはいかないんですよ」
「……だからお前、今日は容赦ないのか……」
「いいから手を動かせ」
「それ、もう命令だから。はい。分かりました」
短い間だが、仕事を共にして、こうなったゼフィルは何を言っても手を緩めたりしないとディーンも分かっているのだ。
それからしばらくペンが進む音だけが部屋に響いた。しかし、不意にゼフィルが飛び上がるようにして立ち上がった。
「誰です!」
「っ!?」
部屋の隅にゼフィルは目を向けている。だが、慌ててディーンがそこを見る時には、ゼフィルは警戒を解いていた。何者かの正体が分かったらしい。
「あ、失礼しました。聖魔教の神官様ですね」
「せいまきょう……」
ディーンが聴き慣れないそれを口にして確認する。突然部屋の中に現れたその人は、濃紺の騎士の様な服を着ていた。混乱するディーンを放っておいて、ゼフィルはその神官に話しかける。
「師匠から何か?」
「はい。本来ならば冒険者ギルドが率先して報告に上がるのですが……使えないのが多く、直接参りました」
「何でしょう」
「……」
ゼフィルとディーンはこの領の冒険者ギルドのことを思い出す。ゼフィルは何度も出向いているが、身分は明かしていない。前領主との裏での癒着があったことが知れているのだ。領城が落ち着いてからテコ入れしようと思っていたこともある。
本来のあるべき姿の冒険者ギルドを知らないが、ゼフィルなどはコウヤの印象とニールから得た話でなんとなく想像している。それとは、ここの冒険者ギルドは違うと思っていたのだ。
この神官が使えないと口にしたことで、その予想が正しかったと確認できた。
「『大蛇の迷宮』に氾濫の兆しがあります。速やかに北方の門を閉ざし、警戒してください。集団暴走までそれほど時間はありません」
「なっ!?」
ディーンが飛び上がる。しかし、ゼフィルは冷静だった。
「予想ではどれくらいの時間がありますでしょうか」
「私の見解でよろしいですか?」
「はい」
「過去の記録から推測すれば五時間以内。ですが、今回は人為的なものの可能性があるとのこと。三時間ほどと見ております」
「人為的……分かりました。早急に動きます。その……冒険者達はきちんと動いてくれるでしょうか」
「ユースールより応援が来ます。無理やり動かす予定だとタリス様のお言葉です」
余裕で微笑まれる。それを見て、大丈夫だとゼフィルは確信した。
「っ、ありがとうございます! ほら、ディーン! さっさと指示を出しますよ! 氾濫、集団暴走の対応マニュアルは頭に入っていますね? 死ぬ気で走り回らせますよ!」
「それ、俺? 走り回んの? あ、はい! マニュアル大丈……大丈夫です!」
「よろしい。行きますよ!」
領官達に召集をかけるのに数分とかからなかった。
************
読んでくださりありがとうございます◎
三日空きます。
よろしくお願いします◎
長く仲が悪かった領主の伯爵一家は捕らえられていた。いわゆる第二王妃派とされていた侯爵の派閥に与していたのだ。
これにより、この伯爵領だけでなく、多くの領が領主不在となる状況になった。国としては早急にその穴を埋めなくてはならない。特に神教国の教会の問題もある。長く空ければそこに付け込まれ、民達が食い潰されてしまうかもしれない。
そこで国は、この騒動の発端となった『霧の狼』のメンバーを使うことにした。表向きは『仮の領主』だ。ただし、見事立て直せたならば、そのまま正式に領主となってもらう予定らしい。これは国の上層部しか知らない。
国を回すための人員は足りていないのだ。捕縛対象となった家の令息達や、残された貴族の三男以降を現在調査し、使える者を救い上げる計画だった。
そんな中、この場所の仮の領主が『霧の狼』の首領であった男だった。
「なあ、ゼフィル。これと同じ内容のやつを昨日も一昨日も見た気がするんだが……」
「そうですね。因みに、一週間前から毎日紛れてます」
「知ってたんなら教えてくれても……」
元貴族の令息ではあっても、三男以降の男児だ。領主として教育は受けていないため、優秀な補佐官をつけている。
「あなたが気付かないでどうするんですか」
「だってよお……」
ゼフィルと呼ばれた文官は、大きくため息を吐く。自分たちが志願して正解だった。教養はある。そして、長く逃亡生活にも似た潜伏生活をしていたため、いざという時の察しも良い。その上に頭領だったのだ。上に立つ者としての責任感もある。
足りないのは民を治めるための知識と、信頼できる部下だ。
「はあ……いいですか、ディーン。私は任期が終われば王都に帰ってしまうんですよ? 最初の意気込みはどうしました? これくらいのことに頭が回らなくて、駆け付けてくれた奥方に申し訳ないとは思いませんか?」
「……猛省します……」
付けられた補佐官は、全員がゼフィルのような庶民からの成り上がり。
ニールと一緒にオスロリーリェとも面識のある文官達だった。彼らは全員、この話を聞いて志願したのだ。
『是非我々をお使いください。数ヶ月で、使える領主にしてみせます!』
ゼフィル達は、ユースールの現状を見てきたニールによって、密かに確実にその仕事の効率を上げていた。だが、庶民出というのは中央ではどうしても制限がかかる。
変えたいのに変えられない。やりたいのにやれない。その不満は日に日に膨れ上がっていた。
もういっそのこと、上司達に毒でも盛ろうかなんて考え始めた頃。この話がきたのだ。
当然だが『霧の狼』の者達は元貴族であっても犯罪者。目立たないが今でも腕には枷がついている。
オスロリーリェが、その枷を腕輪にしか見えないようにしてくれているが、行動は制御されているのだ。
こんな者たちに、貴族の血を引く文官達が補佐としてつくはずもなく、逆に彼らを付ければ、悪い影響も出るだろうと王達は悩んでいた。
もう、裏切り者は作ってはならないのだ。
そこでニールの口利きにより、彼らが志願した。
『ここに居ても、力を出し切れませんし、上司にはお前は無能だから雑用をしてろとか言われました。我々が居なくていいそうなので、行ってきます!』
宰相を前に高らかに宣言したゼフィル達。相当苛ついているのが伝わったのだろう。その場で宰相は異動の書類を用意した。若干、この後の城はまた荒れるなと思いながらも許可を出したのだ。
国中に散らばった文官達は、生き生きと仕事を始めた。妻子もおらず、ただただ上から抑えられながら仕事に邁進していたゼフィル達の顔色は、かつてないほど良い。
「この辺はしっかり読んでください。で、こっちは陳情書をまとめたものです。順位を一度決めるようにお願いします」
「……はい……というか、お前、休んでる?」
自分は犯罪者だと強く自覚しているディーンにとって、この庶民出だというゼフィルは付き合いやすかった。その優秀さも理解できたのだ。
「休憩三時間、睡眠四時間は取っておりますよ」
「……残りの十七時間は何やってんだよ……」
「仕事ですが?」
まさかのプライベートの時間がないという回答。いや、知ってたとため息を吐く。
「お前にいい人でもいればな……」
「なんですか急に。休日もいただいていますよ」
「……そうじゃなくて……ってか、その休みの日に冒険者ギルド行ってんのは何なんだよ。絶対に休んでねえだろ」
「時間を自由に使っているんです。休みに決まっているでしょう」
「……」
ゼフィルはここへ来てそれほど経っていないが、領官達に『疲れを知らない仕事狂い』とまで言われるようになっていた。
「……冒険者ギルドで何してんだよ……」
「冒険者の方に稽古をつけていただいています。近いとはいえ、辺境まで一人で行くには危険ですからね」
ゼフィルは書類を確認しながら告げる。一方のディーンは、顔を上げて確認する。
「辺境? 隣か?」
「ええ。一人でユースールまで行ける実力をつけるのが当面の目標です」
「会いたい女でもいるのか?」
頬杖を突いて、ディーンは少し微笑む。そうだったら良いと思うのは、この仕事以外不器用な友人にも幸せになってほしいと願うから。
ディーンが捕らえられてすぐ、元婚約者が城に駆け付けてくれたのだ。これは、コウヤの命で動いた白夜部隊の仕業だった。
仲間たちの婚約者も続々と駆け付けた。中には既に亡くなっている者も居たが、結婚も拒み、親に見捨てられても、頑として彼ら以外とは結婚しないと誓いを立てていたのだ。
彼女達なりの抗議の仕方だった。
王は温情をくれた。ディーン達が原因で荒れた国。その立て直しを命じた。本来ならば、処刑か終身奴隷。けれど、犯罪者としての枷を着けながらも、国の政策に関わらせるというのには驚いた。
その上に元婚約者達との結婚も許してくれたのだ。すまなかったとの言葉と共に。
ディーン達は間違いなく救われたのだ。
「師匠……コウヤ様がいらっしゃいます」
「コウヤ様……っ、あの少年か!」
「会ったことが?」
ゼフィルも顔を上げた。
「あ、ああ……恩人だ」
「……そうですか」
ゼフィルは、ディーンの表情だけで全て察した。一瞬の気まずさ、その後の苦笑気味な表情。日々上司達の顔色を伺いながら仕事をこなしてきたからこそ、身に付いた。
「ユースールに自力で行けないと、ご指導いただけないので」
「文官の? いや、だって、確か冒険者ギルド職員だって……それに若いぞ?」
「年齢など関係ありませんよ。そういえば、見たのでは? あの報告書」
「報告書……俺らの?」
ディーン達『霧の狼』で集めた不正の証拠書類。それをまとめて提出されたものを確認させてもらっていた。
「ええ。見せたと聞いていましたけれど」
「見た……完璧な書類ってのがすごいものだって分かったよ。文官ってすごいんだなってな」
「何寝ぼけてるんですか? あれをまとめたのが師匠。コウヤ様です」
動きを止めたディーンは、グルグルと思考が定まらなかった。それは確かに約束したこと。だが、信じるにはコウヤの姿はそれを否定させる。
「……本当にまとめたのか? あの子が? 子どもだったぞ?」
「別に信じないならそれで良いです。あの方の偉大さは、我々だけ知っていればいいですから」
もうゼフィルは書類へ目を落としていた。これが本音だからだ。
「信じないなんて言ってないだろ……」
「そうですか。ほら、さっさと手を動かしてください。明日は私、休みなんです。師匠とも交流のある冒険者の方の予約が取れたので、予定を変えるわけにはいかないんですよ」
「……だからお前、今日は容赦ないのか……」
「いいから手を動かせ」
「それ、もう命令だから。はい。分かりました」
短い間だが、仕事を共にして、こうなったゼフィルは何を言っても手を緩めたりしないとディーンも分かっているのだ。
それからしばらくペンが進む音だけが部屋に響いた。しかし、不意にゼフィルが飛び上がるようにして立ち上がった。
「誰です!」
「っ!?」
部屋の隅にゼフィルは目を向けている。だが、慌ててディーンがそこを見る時には、ゼフィルは警戒を解いていた。何者かの正体が分かったらしい。
「あ、失礼しました。聖魔教の神官様ですね」
「せいまきょう……」
ディーンが聴き慣れないそれを口にして確認する。突然部屋の中に現れたその人は、濃紺の騎士の様な服を着ていた。混乱するディーンを放っておいて、ゼフィルはその神官に話しかける。
「師匠から何か?」
「はい。本来ならば冒険者ギルドが率先して報告に上がるのですが……使えないのが多く、直接参りました」
「何でしょう」
「……」
ゼフィルとディーンはこの領の冒険者ギルドのことを思い出す。ゼフィルは何度も出向いているが、身分は明かしていない。前領主との裏での癒着があったことが知れているのだ。領城が落ち着いてからテコ入れしようと思っていたこともある。
本来のあるべき姿の冒険者ギルドを知らないが、ゼフィルなどはコウヤの印象とニールから得た話でなんとなく想像している。それとは、ここの冒険者ギルドは違うと思っていたのだ。
この神官が使えないと口にしたことで、その予想が正しかったと確認できた。
「『大蛇の迷宮』に氾濫の兆しがあります。速やかに北方の門を閉ざし、警戒してください。集団暴走までそれほど時間はありません」
「なっ!?」
ディーンが飛び上がる。しかし、ゼフィルは冷静だった。
「予想ではどれくらいの時間がありますでしょうか」
「私の見解でよろしいですか?」
「はい」
「過去の記録から推測すれば五時間以内。ですが、今回は人為的なものの可能性があるとのこと。三時間ほどと見ております」
「人為的……分かりました。早急に動きます。その……冒険者達はきちんと動いてくれるでしょうか」
「ユースールより応援が来ます。無理やり動かす予定だとタリス様のお言葉です」
余裕で微笑まれる。それを見て、大丈夫だとゼフィルは確信した。
「っ、ありがとうございます! ほら、ディーン! さっさと指示を出しますよ! 氾濫、集団暴走の対応マニュアルは頭に入っていますね? 死ぬ気で走り回らせますよ!」
「それ、俺? 走り回んの? あ、はい! マニュアル大丈……大丈夫です!」
「よろしい。行きますよ!」
領官達に召集をかけるのに数分とかからなかった。
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読んでくださりありがとうございます◎
三日空きます。
よろしくお願いします◎
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