元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

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第七章 ギルドと集団暴走

279 隠すのやめた感じだな

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それは、四メートル近くある外壁と同じくらいの大きさだった。

「こんな大きいなんて聞いてない!!」
「いや、コウヤはもしかしたら、数より質でくるかもと言ってた」

冷静に対処しながらも、魔法を維持し続ける。

「師匠! さすがです! こんな非常識な大きさも予想通り!」

そんな中にも、宮廷魔法師が一人。

「ちょっ、あんたなんで、この状況でそんなキラめいてんの!?」
「宮廷魔法師……変人説……」
「宮廷魔法師ってことより、コウヤのせいじゃね?」

印象は決まってしまったらしい。

石や岩を食べるオールロックタートル。通常は甲羅の天辺まで二メートルほど。大きくはあるのだが、今回出てきたのはその倍近い大きさだった。

外壁に取り付かれないよう、常に魔法師たちは結界を張り、攻撃魔法で少しでも遠ざける。

そう。遠ざけることしかできなかったのだ。最も強い衝撃を与えられる火の魔法もほとんど効かない有様で、魔法師たちは確実に魔力を消耗していった。

魔力切れで後ろに下がった魔法師たちは、魔法薬を飲んで、ようやく一息ついた所。疲れでテンションはダダ下がり中だ。

「でも、やっぱ、宮廷魔法師ってスゲエよ……俺らだけじゃ、とっくに外壁を食い破られてる」
「確かに……魔力量は俺らの方がありそうなのに……」
「意外に体力もあるし……」

冒険者をしている魔法師たちは、ほとんど独学で魔法を極めていく。魔力量は実戦をこなすことで増えていき、宮廷魔法師たちより多い者がほとんどだ。

だが、独学だからこそ使い方が荒い。よって、魔力を無駄に消耗している。

これに比べて、宮廷魔法師たちは魔力を上手に使っており、質の高い魔法として結果に現れていた。

「あの金の騎士も反則……すげえ助かるけど、アレ、影だよな? なんで、魔獣の攻撃を跳ね返せんの? あんな、普通に人が入ってそうな状態ってなに?」
「大丈夫だ。アレ作ったのコウヤだから」
「あ、ならおかしくて当たり前だわ。コウヤだし」
「あ~、納得した」
「「「……」」」

ここでも、ユースールの魔法師かベルセンの者かに反応が分かれる。

時折、ユースールで冒険者をしている魔法師たちは、コウヤに特別訓練をお願いしていた。これは、あまり知られていない。

前マスターたちにコウヤが利用されないよう、魔法師たちはコウヤの魔力量が高いことを口にはしなかったのだ。

コウヤは普段、魔力量をかなり抑えている。だが、魔法師たちは分かるのだ。魔力の質が。近付けば近付くほどに感じられる。だから、何度か助言を受けて訓練していた。お陰で、実力は明らかに他とは違うユースールでも申し分ないものになっている。

「コウヤって、まだ隠してんの?」
「元々、あれは隠してるんじゃなく、使う機会がないだけだって」
「あ、やっぱそうなんだ。普通に治癒魔法も使ってたしな」

実際、周りが気を付けているだけで、コウヤは特に隠そうと思っていなかった。レベルなどを詐称していたのは、前マスターたちに知られれば、こき使われると思ったから。

前マスターたちならば、コウヤに難しい依頼などをやらせ、その依頼料を懐に入れようと考えたはずだ。

それにより、ギルド職員としての仕事が出来ず、サポートすべき冒険者たちから仕事を奪うなんてことになっては困ると、コウヤは考えたのだ。

「って、コウヤさあ、レベル普通に百は越えてんだろ」
「だよな? じゃなきゃ、あのテンキ教官が慕ってねえって……なんたって、伝説の『九尾』だもんな……」
「あ、やっと鑑定できたん?」
「いや、正確には無理。レベル、三桁の一番上が微かに見えたけど、七だったし……」
「なっ、な、七!? な、七百っ……こえぇぇぇ……み、味方でよかった……っ」

魔法師たちの中には、鑑定スキルを極めようとする者たちが多い。ユースールでは特にだ。そして、この頃はその成長が顕著だった。理由はテンキたちだ。

「あんなレベルの魔獣ひとを練習相手に鑑定かけてれば、嫌でもスキルも上がるよな~」
「あ~……最初は手合わせのお礼の一貫だったのにな」
「『隠蔽のレベル上げたいから協力しろ』ってやつな……『何を隠蔽する気!?』って、テンパったよな」

テンキたちは眷獣とはいえ、魔獣や魔物のカテゴリーに入る。だから、鑑定を極めた者にはステータスが見えてしまう。だが、隠蔽のスキルがあれば別だ。

魔獣や魔物がそれを修得しようと考えることはないが、修得できないわけでもない。コウルリーヤに静かに、影のように付き従っていた頃は人目に付かなかったから必要ないと思っていたが、今は違う。

人の中で過ごすのならば、それは必要なものになる。何より、コウヤを守るために。

気付いたのは、タリスに鑑定で見られたとパックンがテンキとダンゴに話したのがきっかけだ。そうそうタリスほどに鑑定を極めている者はいないが、だからといって油断もできない。

この結論により、テンキたちは隠蔽スキルを修得することに決めた。

「けど、鑑定スキルって上げとくと得だよな。熟練度上がっていくと、魔獣にかけた時に一瞬、動きがおかしくなるし」
「それ聞いた。テンキ教官曰く『かけられ慣れていないと、体が一瞬弛緩する』んだってさ。俺も最近、それに気付いた。誰かに鑑定をかけられると寒気がする」
「『今かけられた!』ってなるアレな。熟練度が上がったから感じるようになったんだよな」

(小)や(中)では感じられなかった。時折、違和感を感じてはいただろうが、はっきりしたものではなく、何なのかも分からなかった。けれど(大)になるとコレだと気付く。確かな違和感として。

「それは興味深い! 師匠が言っておられました! 『どんな魔法やスキルも使い方次第で攻撃にも防御にも使える』と! 鑑定スキル! 是非とも取らなくては!」

またキラキラと目を輝かせ、興奮具合により魔力の放出量が変わる。その効果で岩亀が悲鳴を上げていた。

「……宮廷魔法師ってさあ、こんな熱い人たちの集まりなの? もっとエリート! って感じの気難しい人たちってイメージだったんだけど……」
「多分、全部コウヤのせいだから仕方ないよ」
「それ仕方ないわ……」

コウヤの影響力はやはり絶大だと思い知る。

「あ~……俺もうヤバイ」
「そろそろ俺もキツい」
「ってか、倒せる気がしないんだけど」
「え~っと、宮廷魔法師さん。倒せそうです?」

魔力回復薬を飲んだとしても、そろそろ限界だ。魔力を扱うための、精神力は削られたままなのだから。何より、規定量を超えて飲むものではない。

冒険者をしている魔法師たちは、自分たちの限界を知って、引き際を弁えている。

ここは、宮廷魔法師に任せようと声をかけたのだが、返ってきたのはまさかの答えだった。

「え? 倒せませんよ? 私ももう、魔力カツカツですし。でも大丈夫です! きっと師匠は私たちが倒せないことも分かってくださってます!」

この場、この状況で胸を張りながら言い切る言葉ではない。

攻撃を受け流してくれている金の騎士も振り返りながら、ヘコヘコと頭を下げる。まるで、不出来な子をかばう母か姉のようだ。

「……うん。『すみません、すみません』って言ってんの分かるわ……」
「大変だなあ、あの人? も」

その時、大半の魔法師たちが、唐突に膨らんだ膨大な魔力を感知した。

「おおおおおっ!! 師匠!!」
「っ、え? こ、これ、コウヤ?」
「間違いねえ……コウヤだ」

宮廷魔法師は直感的にコウヤだと察知し、それに続くように他の魔法師たちも確信していく。

「……隠すのやめた感じだな……」
「これさあ……この魔力量って、人が持てるもん?」
「神官さんたちも大概だが、コウヤはまた別格だなあ」
「……」
「ん? どうした?」

何人かの魔法師たちが呆然と青ざめていく。

「こ、これ……これ、コウヤなら……っ」

どうしたのかと声をかけようとしたときだった。

「っ、くる!!」
「は?」
「来ます!!」
「伏せて!」

宮廷魔法師の言葉で慌てたように伏せた。



ズシャァァァァン!!



何本もの赤い柱が、天から降り注ぎ、全ての岩亀を貫いたのだ。

「うわぁぁぁっ」
「ひぃぃぃ!」

バチバチと小さな音が聞こえる。そして、パリン、パリンと軽い音がして岩亀が消滅した。

「っ……た、倒した……っ、い、今の……」

一本ずつが確実に貫いたのだ。岩よりも硬い甲羅に穴を空けて。

唐突に終わった戦いに、魔法師たちは座り込む。そこに、少し高めの青年の声が響いた。

「大丈夫でしたか? すみません。結構な音がしましたよね」
「「「「「……っ」」」」」

女だと思ったというのが九割。その後、これコウヤだと思ったのが三割。当然だが、宮廷魔法師は気付く。

「師匠!! そのお姿を間近に見えて光栄です!! さっきの魔法は何ですか!?」
「ふふ。光と火と土を上手く使うんですよ」
「ふ、複合魔法!! こ、今度やってみます!」
「周りに気を付けてお願いしますね」
「はい!! っ、ふっ……」
「あ」
《っ!!》

大興奮で振り切ったらしく、魔力不足もあって宮廷魔法師は気絶した。影騎士かげきしがワタワタしながら頭を下げ、抱き上げて連れて行った。

「あの子に任せれば大丈夫だね」
「あ、あの……こ、コウヤ?」

ユースールの魔法師の一人が声を恐る恐るかけてきた。だが、そのタイミングでフェンリルの姿になったテンキがコウヤの前に現れた。

《お待たせいたしました、主様》
「アルキス様は?」
《まだ前線で戦うというので、振り落とっ、置いて参りました》
「そう。分かった。なら、行こうか」
《は!!》

次の瞬間、テンキの姿は光に包まれる。そして、それが大きく膨らんでいくと、光が弾けたんだ。

現れたのは真っ白な真珠のような鱗を持つドラゴンだった。

《主様。お乗りください》
「うん」

トンと踏み込んで舞い上がったコウヤは、ドラゴンとなったテンキに乗って、前線へと向かっていった。

その前線には、ヒュドラが数体、近付いてきていた。

一方、何も言うことも出来ずに見送ることになった魔法師たちは、完全に見惚れていた。

「……美しい……」

そんな声の中に、その呟きもあった。

「……コウルリーヤさま……っ」

涙を流しながら、神気を感じられるまでに成長していた数人の魔法師たちが息と共に吐き出す。確かな確信を胸に、けれど、そのまま口を閉じたのだった。

*********
読んでくださりありがとうございます◎
三日空きます。
よろしくお願いします◎
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