206 / 495
第八章 学校と研修
311 一緒に行こうか
しおりを挟む
すぐに出かけようと思ったのだが、そのまま消えればベニ達も心配する。明日は丁度休みだ。安心して出かけられるので、遅くなっても心配しないでくれと伝えに教会へ向かった。
「は~、エリィちゃんは……ちょっと出かけてくるって言っただけだったんだけどねえ。お土産にカニ獲ってくるって」
「そうなの? へえ。カニ、良いね」
そんな呑気な話ではなかったはずだが、どうにもまったりしてしまった。
因みに、パックンとテンキは人化した姿を神官達に見せながら、先に屋上に向かっている。そこに移動に使う予定の『飛行船エイII号機』が用意されているのだ。
コウヤの持つ『光飛行船エイ』を【オリジナル】として、これを基に同型機をいくつか作った。量産型とまで言えるほど誰にでも作れるものにはならなかったが、ゼストラークの技術も習得し始めたドラム組程の技術力があれば、なんとか出来るシロモノだ。
『闇飛行船マンタ』より小さいため、少人数での使い勝手が良い。ドラム組を派遣するための移動手段として丁度良い規模だ。
現在、『Ⅲ号機』までの三機が用意されている。だが、ゆくゆくは一般にも利用できる移動手段として確立させるつもりなので、まだ増える予定だ。とはいえ、現在は教会関連の特別な移動手段としてのみ使用していた。
それはさて置き、お茶でも淹れ出しそうなほどの雰囲気になってしまったコウヤを注意したのは、部屋に入ってきたルディエだった。
「兄さん、もう暗くなるし、行くなら早く向かわないと。それに、遅くなると色々終わっちゃうんじゃない?」
「あ、そうだねっ。急がないとっ」
「ボクも行くよ」
「ルー君、いいの? 疲れてない?」
ルディエは神子として、日によって王都や他の教会にも顔を出していた。神子の服を着て聖堂に居るルディエは、見るだけでも寿命が延びると評判だ。
『ボクを見て拝むのやめて欲しい……』
つい先日も、遠い目をしながらそう言っていた。
「別に、特別やる事もないし。寧ろ、体が鈍りそう」
「訓練はしてるんでしょ?」
「訓練と実戦は違うって知ってるくせに……」
「ふふっ。分かった。なら一緒に行こうか」
「うん」
「じゃあ、ベニばあさま。ルー君と行ってくるね」
振り向いて告げ、ルディエと連れ立って部屋を出て行く所で、なぜか王都に居るはずのニールに出会った。
「あれ? ニール、どうしたの?」
その手には、重箱が抱えられており、思わずそれに目がいった。
「ご一緒させていただきたく、参上いたしました。こちらはお夕食です。エリス様の分も合わせてご用意しました」
最近、ニールは城外でも不意に現れる。コウヤが用が出来てどこかへ行こうとする時が多い。どうやって察知しているのかと思っていたが、どうやら、白夜部隊から連絡を回してもらっているようなのだ。
『実力込みで、認めていただきました』
神官達の訓練にもしれっと紛れていたことがあり、どうしたのかと思っていたのだが、聞いた所によると、コウヤが王子の立場を得ると決まった頃。ふらっとユースールの訓練場に現れて、白夜部隊の面々と手合わせを願い出たらしい。
コウヤの傍に居るに値する実力があるかどうか見て欲しいと言われて、白夜部隊の者たちはそれぞれ相手をしたという。その結果、認められたというわけだ。
それを聞いた時。まるで道場破りみたいだなと思ったものだ。
これにより、コウヤが外出する時にニールへ連絡が入るようになったようだ。今回も、それによりいち早く駆けつけ、更にはできる侍従よろしく、夕食まで用意していた。
実際、コウヤの侍従長候補の筆頭らしい。
「ありがとう。夕食まで頭回ってなかったよ。なら、一緒に行こうか」
「はい!」
嬉しそうに目を輝かせるニールは当然のように斜め後ろについて、コウヤの後を追った。
夕日が完全に沈む前に飛び立ったのだが、問題の島の上空に着いた時には星の光も幾つか確認できる頃になっていた。
魔法によるステルス機能もしっかり搭載されているため、町の上空も問題なく進み、地上の様子を確認する。
「この辺……が、王都? のはずだよね?」
コウヤが首を傾げれば、隣に来たルディエが同じ場所を見ながら頷く。
「うん……この前、偵察した奴から写真を見せてもらったけど……間違いなく、ここに城っぽい建物があったはずなんだけど……」
そこだけ何もなく見える。ぽっかりと広い土地だけが空いているように見えるのだ。
《……主様。もう少し降りてみてください。恐らく、これは特殊な結界です》
「え?」
テンキの助言により、少しだけ高度を落とす。すると、確かに感じられた。ニールやルディエも気付いたらしい。
「歪み……が見えます」
「すごい……なに、この高度な結界……」
本当に集中しないと分からないのだ。そこにあるものが無いように見えるなんてこと、普通はありえない。
しかし、コウヤには中の様子も視えた。その目を通して、テンキやパックンも視えたらしい。この結界の力がダンゴのものだったことも関係しているかもしれない。
「あ~……エリィ姉まで……」
コウヤが思わずそれだけ言って絶句する。
《……ベニ様達とご一緒されるので、予想できないことではありませんでしたが……これは……》
テンキも、うわあと顔を顰める様だ。
首を傾げるルディエとニールに伝えるべきか迷う。しかし、そんな迷いを持たない素直な子がパックンだ。
《すごいよ! エリス様、金ピカのメイスでどんどん鎧の人達を壁に張り付けてく!》
「……え?」
「……メイス……」
そこにあったのは、愛と再生の女神が笑顔で無双する姿だったのだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
三日空きます。
よろしくお願いします◎
「は~、エリィちゃんは……ちょっと出かけてくるって言っただけだったんだけどねえ。お土産にカニ獲ってくるって」
「そうなの? へえ。カニ、良いね」
そんな呑気な話ではなかったはずだが、どうにもまったりしてしまった。
因みに、パックンとテンキは人化した姿を神官達に見せながら、先に屋上に向かっている。そこに移動に使う予定の『飛行船エイII号機』が用意されているのだ。
コウヤの持つ『光飛行船エイ』を【オリジナル】として、これを基に同型機をいくつか作った。量産型とまで言えるほど誰にでも作れるものにはならなかったが、ゼストラークの技術も習得し始めたドラム組程の技術力があれば、なんとか出来るシロモノだ。
『闇飛行船マンタ』より小さいため、少人数での使い勝手が良い。ドラム組を派遣するための移動手段として丁度良い規模だ。
現在、『Ⅲ号機』までの三機が用意されている。だが、ゆくゆくは一般にも利用できる移動手段として確立させるつもりなので、まだ増える予定だ。とはいえ、現在は教会関連の特別な移動手段としてのみ使用していた。
それはさて置き、お茶でも淹れ出しそうなほどの雰囲気になってしまったコウヤを注意したのは、部屋に入ってきたルディエだった。
「兄さん、もう暗くなるし、行くなら早く向かわないと。それに、遅くなると色々終わっちゃうんじゃない?」
「あ、そうだねっ。急がないとっ」
「ボクも行くよ」
「ルー君、いいの? 疲れてない?」
ルディエは神子として、日によって王都や他の教会にも顔を出していた。神子の服を着て聖堂に居るルディエは、見るだけでも寿命が延びると評判だ。
『ボクを見て拝むのやめて欲しい……』
つい先日も、遠い目をしながらそう言っていた。
「別に、特別やる事もないし。寧ろ、体が鈍りそう」
「訓練はしてるんでしょ?」
「訓練と実戦は違うって知ってるくせに……」
「ふふっ。分かった。なら一緒に行こうか」
「うん」
「じゃあ、ベニばあさま。ルー君と行ってくるね」
振り向いて告げ、ルディエと連れ立って部屋を出て行く所で、なぜか王都に居るはずのニールに出会った。
「あれ? ニール、どうしたの?」
その手には、重箱が抱えられており、思わずそれに目がいった。
「ご一緒させていただきたく、参上いたしました。こちらはお夕食です。エリス様の分も合わせてご用意しました」
最近、ニールは城外でも不意に現れる。コウヤが用が出来てどこかへ行こうとする時が多い。どうやって察知しているのかと思っていたが、どうやら、白夜部隊から連絡を回してもらっているようなのだ。
『実力込みで、認めていただきました』
神官達の訓練にもしれっと紛れていたことがあり、どうしたのかと思っていたのだが、聞いた所によると、コウヤが王子の立場を得ると決まった頃。ふらっとユースールの訓練場に現れて、白夜部隊の面々と手合わせを願い出たらしい。
コウヤの傍に居るに値する実力があるかどうか見て欲しいと言われて、白夜部隊の者たちはそれぞれ相手をしたという。その結果、認められたというわけだ。
それを聞いた時。まるで道場破りみたいだなと思ったものだ。
これにより、コウヤが外出する時にニールへ連絡が入るようになったようだ。今回も、それによりいち早く駆けつけ、更にはできる侍従よろしく、夕食まで用意していた。
実際、コウヤの侍従長候補の筆頭らしい。
「ありがとう。夕食まで頭回ってなかったよ。なら、一緒に行こうか」
「はい!」
嬉しそうに目を輝かせるニールは当然のように斜め後ろについて、コウヤの後を追った。
夕日が完全に沈む前に飛び立ったのだが、問題の島の上空に着いた時には星の光も幾つか確認できる頃になっていた。
魔法によるステルス機能もしっかり搭載されているため、町の上空も問題なく進み、地上の様子を確認する。
「この辺……が、王都? のはずだよね?」
コウヤが首を傾げれば、隣に来たルディエが同じ場所を見ながら頷く。
「うん……この前、偵察した奴から写真を見せてもらったけど……間違いなく、ここに城っぽい建物があったはずなんだけど……」
そこだけ何もなく見える。ぽっかりと広い土地だけが空いているように見えるのだ。
《……主様。もう少し降りてみてください。恐らく、これは特殊な結界です》
「え?」
テンキの助言により、少しだけ高度を落とす。すると、確かに感じられた。ニールやルディエも気付いたらしい。
「歪み……が見えます」
「すごい……なに、この高度な結界……」
本当に集中しないと分からないのだ。そこにあるものが無いように見えるなんてこと、普通はありえない。
しかし、コウヤには中の様子も視えた。その目を通して、テンキやパックンも視えたらしい。この結界の力がダンゴのものだったことも関係しているかもしれない。
「あ~……エリィ姉まで……」
コウヤが思わずそれだけ言って絶句する。
《……ベニ様達とご一緒されるので、予想できないことではありませんでしたが……これは……》
テンキも、うわあと顔を顰める様だ。
首を傾げるルディエとニールに伝えるべきか迷う。しかし、そんな迷いを持たない素直な子がパックンだ。
《すごいよ! エリス様、金ピカのメイスでどんどん鎧の人達を壁に張り付けてく!》
「……え?」
「……メイス……」
そこにあったのは、愛と再生の女神が笑顔で無双する姿だったのだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
三日空きます。
よろしくお願いします◎
357
あなたにおすすめの小説
お前を愛することはないと言われたので、姑をハニトラに引っ掛けて婚家を内側から崩壊させます
碧井 汐桜香
ファンタジー
「お前を愛することはない」
そんな夫と
「そうよ! あなたなんか息子にふさわしくない!」
そんな義母のいる伯爵家に嫁いだケリナ。
嫁を大切にしない?ならば、内部から崩壊させて見せましょう
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
婚約破棄? そもそも君は一体誰だ?
歩芽川ゆい
ファンタジー
「グラングスト公爵家のフェルメッツァ嬢、あなたとモルビド王子の婚約は、破棄されます!」
コンエネルジーア王国の、王城で主催のデビュタント前の令息・令嬢を集めた舞踏会。
プレデビュタント的な意味合いも持つこの舞踏会には、それぞれの両親も壁際に集まって、子供たちを見守りながら社交をしていた。そんな中で、いきなり会場のど真ん中で大きな女性の声が響き渡った。
思わず会場はシンと静まるし、生演奏を奏でていた弦楽隊も、演奏を続けていいものか迷って極小な音量での演奏になってしまった。
声の主をと見れば、ひとりの令嬢が、モルビド王子と呼ばれた令息と腕を組んで、令嬢にあるまじきことに、向かいの令嬢に指を突き付けて、口を大きく逆三角形に笑みを浮かべていた。
婚約破棄?ありがとうございます!では、お会計金貨五千万枚になります!
ばぅ
恋愛
「お前とは婚約破棄だ!」
「毎度あり! お会計六千万金貨になります!」
王太子エドワードは、侯爵令嬢クラリスに堂々と婚約破棄を宣言する。
しかし、それは「契約終了」の合図だった。
実は、クラリスは王太子の婚約者を“演じる”契約を結んでいただけ。
彼がサボった公務、放棄した社交、すべてを一人でこなしてきた彼女は、
「では、報酬六千万金貨をお支払いください」と請求書を差し出す。
王太子は蒼白になり、貴族たちは騒然。
さらに、「クラリスにいじめられた」と泣く男爵令嬢に対し、
「当て馬役として追加千金貨ですね?」と冷静に追い打ちをかける。
「婚約破棄? かしこまりました! では、契約終了ですね?」
痛快すぎる契約婚約劇、開幕!
【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。
紺
ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」
実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて……
「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」
信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。
微ざまぁあり。
「美しい女性(ヒト)、貴女は一体、誰なのですか?」・・・って、オメエの嫁だよ
猫枕
恋愛
家の事情で12才でウェスペル家に嫁いだイリス。
当時20才だった旦那ラドヤードは子供のイリスをまったく相手にせず、田舎の領地に閉じ込めてしまった。
それから4年、イリスの実家ルーチェンス家はウェスペル家への借金を返済し、負い目のなくなったイリスは婚姻の無効を訴える準備を着々と整えていた。
そんなある日、領地に視察にやってきた形だけの夫ラドヤードとばったり出くわしてしまう。
美しく成長した妻を目にしたラドヤードは一目でイリスに恋をする。
「美しいひとよ、貴女は一体誰なのですか?」
『・・・・オメエの嫁だよ』
執着されたらかなわんと、逃げるイリスの運命は?
「お前との婚約はなかったことに」と言われたので、全財産持って逃げました
ほーみ
恋愛
その日、私は生まれて初めて「人間ってここまで自己中心的になれるんだ」と知った。
「レイナ・エルンスト。お前との婚約は、なかったことにしたい」
そう言ったのは、私の婚約者であり王太子であるエドワルド殿下だった。
「……は?」
まぬけな声が出た。無理もない。私は何の前触れもなく、突然、婚約を破棄されたのだから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。