元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

文字の大きさ
209 / 495
第八章 学校と研修

314 来ちゃった♪

しおりを挟む
コウヤはまずルディエとお揃いで作ったグラビティボードで上空から島を確認する。

ニールにはダンゴと話の分かりそうな人を探してもらっていた。上が好き勝手にやる国だ。そういう国は民達の方で独自のまとめ役を作っていたりする。

『この人を押さえれば、皆んながついてくる』という人を探すのだ。そして、安全地帯を作るための場所の選定もお願いしている。

最後に逃げ込む場所。シェルターを確保するのだ。そこには、ダンゴに結界を張ってもらう。

コウヤが上空から確認しているのは、どの迷宮から集団暴走スタンピードが進んでいくのかだ。

それによって優先度を付け、それぞれの迷宮に一番近い町での民の中の有力者を探す必要がある。さすがに精霊達の方もやる気はあっても準備が整っていない。一気にとはいかないのは、こちらとしては有難い。

それでも迷宮内で徐々に氾濫は起きており、民達も異変を感じているようだ。町ごとで不安になった民達が頼ろうとする者の所へ、ニールとダンゴが転移し、同じように話を通して逃げ込める場所を確保していく。

ニールはそういった人の流れを読むのと説得が上手く、コウヤは順にダンゴへ転移を指示するだけで良かった。

「次は西ね」
《了解です!》

領主による理不尽な土地の奪い合いに民達が慣れているからか、結束が固く、速やかに避難が開始されていた。

どうやら、こんな日が来ることは予想していたらしい。冒険者ギルドが無くなったとはいえ、冒険者達から最後まで迷宮の情報などは受け取っていたのだろう。引退した者たちもいるはずなのだから。

「……それにしても、外壁が少し低いし、もろそうだな……ひと対策しかしてないのかな」

上の者たちは、真に集団暴走スタンピードの恐ろしさを知らないのだろう。魔獣や魔物が少なくなっていたこともあり、人同士が争うことしか想定していなかったのかもしれない。

魔獣や魔物は、生きるために全力で人を襲う。外壁など、個々の能力で飛び越えたり破壊したりしようとするものだ。

しかし、人の場合。領土を、民を手に入れることが念頭にある。よって、殲滅しようなどとは考えない。町に入って来る時も、外壁を壊す奇襲ではなく、正々堂々正面から、門を制圧して入ってくる。だから、外壁の強固さは重要視されていない。

「これは本当に……全部壊されるね……」

なんと言っても、精霊達は更地にする気満々なのだから。脆い外壁などひとたまりも無いだろう。

「う~ん。揃って軒並みCランクって所かな。古いのがB……資料だと……」

以前、ビジェが里帰りするならと思い、この国にあった冒険者ギルドの資料を取り寄せていた。

正式な冒険者ギルドの撤退から二十年ほどが経っており、民達が必要最低限の物を求めて迷宮に入るということを加味しても、そろそろ、迷宮が暴走する頃だとは予想できた。

恐らく、この国にいる引退した冒険者達も予想しているだろう。そういう人たちがまとめ役になっているはずだ。ニールやダンゴの話が通りやすいのも、そのおかげ。

そして、彼らは上の人間には言っても無駄だと諦めているため、この危機を知るのは、民達だけだ。

迷宮にも入る一般人達。冒険者ギルドが無いから一般人ではあるが、ギルドがあったら立派な冒険者だ。よって、彼らにより、これまでの小さいランクの集団暴走スタンピードは、何とか乗り越えてこられた。

上がほとんど民達のために動かないこの国では、兵士に助けを求めても意味がない。自分たちで自分達の身は守らなければならないと、民達は自立心が高くなるのは自然なこと。

たくましい民達によって、これまで迷宮からの厄災は除けられてきたのだ。

「古いのがBのまま堪えてくれてたのは運が良かったな……」

古い迷宮は三つ。上手く場所はばらけてくれている。しかし、その場所を資料で確認して首を捻る。

「ん? 二つ足りない……」

資料にあるBランクの迷宮は五つ。この国にあった冒険者ギルドは、この危険性から、撤退を渋っていたと聞いた。

この五つの迷宮が一つでも暴走すれば、島の規模からいっても、たった一度の放出で甚大な被害となる。

そう考えれば、Bランクの迷宮が通常の手順によって消滅したわけではないと分かる。

迷宮の通常の消滅までの手順は、Aランクでの暴走。Aランクにまでなったなら、その後暴走するか、核の力が衰え、自然消滅するかだ。

なんであれ、集団暴走スタンピードを起こしてAランクまでは上げなければならない。しかし、この島にAランクの迷宮は存在しないのだ。

そして、Bランクの迷宮一つの暴走で無事に済むような体制はこの島にはない。町への距離が近過ぎるのもある。その上、野生の魔獣や魔物が少ないために、氾濫の余波を伝える前触れが機能していない。

この状態で仮に民達のほとんどが冒険者化していたとしても、Bランクの暴走に対処できるわけがない。

平和ボケしていたとはいえ、外壁もしっかりしており、冒険者達が普通に活動していたベルセンでさえ、一度の集団暴走スタンピードで潰れかけたのだから。あそこは、まだ距離もあった。

コウヤは土地の様子から予想を立てる。

「……迷宮の力を放出して、新しい迷宮を作ったってことか……それも、底上げした状態のを……」

それがあり得なくはない。

外壁の様子から見ても、人々の危機感から考えても、恐らく新たな迷宮のほとんどは、集団暴走スタンピードを起こしてランクを上げた訳ではないのだろう。いくつかは段階を経たかもしれないが、大半は規定外。

「最初からCランクで作った……」

Fランクから始まる迷宮。それをすっ飛ばして、Bランクの迷宮二つの力を使って底上げした。それだけのことをしてでもと思うほど、この島の者は精霊を怒らせていたようだ。

「……」

コウヤは島を見回してから考え込む。

「……落とし所が難しそうだな……」

精霊達の思いも分かる。けれど、無関係な者達まで巻き込まれてしまう。本来ならばどちらにも肩入れするべきではない。この島の精霊と、人の問題なのだから。

「冒険者ギルドもないし……」

コウヤがどうにかしてやる問題でもないのだ。だが、このままではダンゴが気に病む。そう考えていると、背後で声が響いた。

「コウヤくんがどうこうしてやる義理も義務もないね。でも、全部見捨てるほど非情にもなれないんでしょ? ダンゴちゃんのためにも」
「リクト兄?」

リクトルスが濃い緑色の着色をしたバイクに跨り、滞空していた。

「来ちゃった♪」
「……」

常とは違うゴキゲンな様子。これは間違いなく楽しむ気だった。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎
しおりを挟む
感想 2,830

あなたにおすすめの小説

お前を愛することはないと言われたので、姑をハニトラに引っ掛けて婚家を内側から崩壊させます

碧井 汐桜香
ファンタジー
「お前を愛することはない」 そんな夫と 「そうよ! あなたなんか息子にふさわしくない!」 そんな義母のいる伯爵家に嫁いだケリナ。 嫁を大切にしない?ならば、内部から崩壊させて見せましょう

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

婚約破棄? そもそも君は一体誰だ?

歩芽川ゆい
ファンタジー
「グラングスト公爵家のフェルメッツァ嬢、あなたとモルビド王子の婚約は、破棄されます!」  コンエネルジーア王国の、王城で主催のデビュタント前の令息・令嬢を集めた舞踏会。  プレデビュタント的な意味合いも持つこの舞踏会には、それぞれの両親も壁際に集まって、子供たちを見守りながら社交をしていた。そんな中で、いきなり会場のど真ん中で大きな女性の声が響き渡った。  思わず会場はシンと静まるし、生演奏を奏でていた弦楽隊も、演奏を続けていいものか迷って極小な音量での演奏になってしまった。  声の主をと見れば、ひとりの令嬢が、モルビド王子と呼ばれた令息と腕を組んで、令嬢にあるまじきことに、向かいの令嬢に指を突き付けて、口を大きく逆三角形に笑みを浮かべていた。

婚約破棄?ありがとうございます!では、お会計金貨五千万枚になります!

ばぅ
恋愛
「お前とは婚約破棄だ!」 「毎度あり! お会計六千万金貨になります!」 王太子エドワードは、侯爵令嬢クラリスに堂々と婚約破棄を宣言する。 しかし、それは「契約終了」の合図だった。 実は、クラリスは王太子の婚約者を“演じる”契約を結んでいただけ。 彼がサボった公務、放棄した社交、すべてを一人でこなしてきた彼女は、 「では、報酬六千万金貨をお支払いください」と請求書を差し出す。 王太子は蒼白になり、貴族たちは騒然。 さらに、「クラリスにいじめられた」と泣く男爵令嬢に対し、 「当て馬役として追加千金貨ですね?」と冷静に追い打ちをかける。 「婚約破棄? かしこまりました! では、契約終了ですね?」 痛快すぎる契約婚約劇、開幕!

【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。

ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」 実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて…… 「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」 信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。 微ざまぁあり。

「美しい女性(ヒト)、貴女は一体、誰なのですか?」・・・って、オメエの嫁だよ

猫枕
恋愛
家の事情で12才でウェスペル家に嫁いだイリス。 当時20才だった旦那ラドヤードは子供のイリスをまったく相手にせず、田舎の領地に閉じ込めてしまった。 それから4年、イリスの実家ルーチェンス家はウェスペル家への借金を返済し、負い目のなくなったイリスは婚姻の無効を訴える準備を着々と整えていた。 そんなある日、領地に視察にやってきた形だけの夫ラドヤードとばったり出くわしてしまう。 美しく成長した妻を目にしたラドヤードは一目でイリスに恋をする。 「美しいひとよ、貴女は一体誰なのですか?」 『・・・・オメエの嫁だよ』 執着されたらかなわんと、逃げるイリスの運命は?

「お前との婚約はなかったことに」と言われたので、全財産持って逃げました

ほーみ
恋愛
 その日、私は生まれて初めて「人間ってここまで自己中心的になれるんだ」と知った。 「レイナ・エルンスト。お前との婚約は、なかったことにしたい」  そう言ったのは、私の婚約者であり王太子であるエドワルド殿下だった。 「……は?」  まぬけな声が出た。無理もない。私は何の前触れもなく、突然、婚約を破棄されたのだから。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。