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第八章 学校と研修
314 来ちゃった♪
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コウヤはまずルディエとお揃いで作ったグラビティボードで上空から島を確認する。
ニールにはダンゴと話の分かりそうな人を探してもらっていた。上が好き勝手にやる国だ。そういう国は民達の方で独自のまとめ役を作っていたりする。
『この人を押さえれば、皆んながついてくる』という人を探すのだ。そして、安全地帯を作るための場所の選定もお願いしている。
最後に逃げ込む場所。シェルターを確保するのだ。そこには、ダンゴに結界を張ってもらう。
コウヤが上空から確認しているのは、どの迷宮から集団暴走が進んでいくのかだ。
それによって優先度を付け、それぞれの迷宮に一番近い町での民の中の有力者を探す必要がある。さすがに精霊達の方もやる気はあっても準備が整っていない。一気にとはいかないのは、こちらとしては有難い。
それでも迷宮内で徐々に氾濫は起きており、民達も異変を感じているようだ。町ごとで不安になった民達が頼ろうとする者の所へ、ニールとダンゴが転移し、同じように話を通して逃げ込める場所を確保していく。
ニールはそういった人の流れを読むのと説得が上手く、コウヤは順にダンゴへ転移を指示するだけで良かった。
「次は西ね」
《了解です!》
領主による理不尽な土地の奪い合いに民達が慣れているからか、結束が固く、速やかに避難が開始されていた。
どうやら、こんな日が来ることは予想していたらしい。冒険者ギルドが無くなったとはいえ、冒険者達から最後まで迷宮の情報などは受け取っていたのだろう。引退した者たちもいるはずなのだから。
「……それにしても、外壁が少し低いし、脆そうだな……人対策しかしてないのかな」
上の者たちは、真に集団暴走の恐ろしさを知らないのだろう。魔獣や魔物が少なくなっていたこともあり、人同士が争うことしか想定していなかったのかもしれない。
魔獣や魔物は、生きるために全力で人を襲う。外壁など、個々の能力で飛び越えたり破壊したりしようとするものだ。
しかし、人の場合。領土を、民を手に入れることが念頭にある。よって、殲滅しようなどとは考えない。町に入って来る時も、外壁を壊す奇襲ではなく、正々堂々正面から、門を制圧して入ってくる。だから、外壁の強固さは重要視されていない。
「これは本当に……全部壊されるね……」
なんと言っても、精霊達は更地にする気満々なのだから。脆い外壁などひとたまりも無いだろう。
「う~ん。揃って軒並みCランクって所かな。古いのがB……資料だと……」
以前、ビジェが里帰りするならと思い、この国にあった冒険者ギルドの資料を取り寄せていた。
正式な冒険者ギルドの撤退から二十年ほどが経っており、民達が必要最低限の物を求めて迷宮に入るということを加味しても、そろそろ、迷宮が暴走する頃だとは予想できた。
恐らく、この国にいる引退した冒険者達も予想しているだろう。そういう人たちがまとめ役になっているはずだ。ニールやダンゴの話が通りやすいのも、そのおかげ。
そして、彼らは上の人間には言っても無駄だと諦めているため、この危機を知るのは、民達だけだ。
迷宮にも入る一般人達。冒険者ギルドが無いから一般人ではあるが、ギルドがあったら立派な冒険者だ。よって、彼らにより、これまでの小さいランクの集団暴走は、何とか乗り越えてこられた。
上がほとんど民達のために動かないこの国では、兵士に助けを求めても意味がない。自分たちで自分達の身は守らなければならないと、民達は自立心が高くなるのは自然なこと。
逞しい民達によって、これまで迷宮からの厄災は除けられてきたのだ。
「古いのがBのまま堪えてくれてたのは運が良かったな……」
古い迷宮は三つ。上手く場所はばらけてくれている。しかし、その場所を資料で確認して首を捻る。
「ん? 二つ足りない……」
資料にあるBランクの迷宮は五つ。この国にあった冒険者ギルドは、この危険性から、撤退を渋っていたと聞いた。
この五つの迷宮が一つでも暴走すれば、島の規模からいっても、たった一度の放出で甚大な被害となる。
そう考えれば、Bランクの迷宮が通常の手順によって消滅したわけではないと分かる。
迷宮の通常の消滅までの手順は、Aランクでの暴走。Aランクにまでなったなら、その後暴走するか、核の力が衰え、自然消滅するかだ。
なんであれ、集団暴走を起こしてAランクまでは上げなければならない。しかし、この島にAランクの迷宮は存在しないのだ。
そして、Bランクの迷宮一つの暴走で無事に済むような体制はこの島にはない。町への距離が近過ぎるのもある。その上、野生の魔獣や魔物が少ないために、氾濫の余波を伝える前触れが機能していない。
この状態で仮に民達のほとんどが冒険者化していたとしても、Bランクの暴走に対処できるわけがない。
平和ボケしていたとはいえ、外壁もしっかりしており、冒険者達が普通に活動していたベルセンでさえ、一度の集団暴走で潰れかけたのだから。あそこは、まだ距離もあった。
コウヤは土地の様子から予想を立てる。
「……迷宮の力を放出して、新しい迷宮を作ったってことか……それも、底上げした状態のを……」
それがあり得なくはない。
外壁の様子から見ても、人々の危機感から考えても、恐らく新たな迷宮のほとんどは、集団暴走を起こしてランクを上げた訳ではないのだろう。いくつかは段階を経たかもしれないが、大半は規定外。
「最初からCランクで作った……」
Fランクから始まる迷宮。それをすっ飛ばして、Bランクの迷宮二つの力を使って底上げした。それだけのことをしてでもと思うほど、この島の者は精霊を怒らせていたようだ。
「……」
コウヤは島を見回してから考え込む。
「……落とし所が難しそうだな……」
精霊達の思いも分かる。けれど、無関係な者達まで巻き込まれてしまう。本来ならばどちらにも肩入れするべきではない。この島の精霊と、人の問題なのだから。
「冒険者ギルドもないし……」
コウヤがどうにかしてやる問題でもないのだ。だが、このままではダンゴが気に病む。そう考えていると、背後で声が響いた。
「コウヤくんがどうこうしてやる義理も義務もないね。でも、全部見捨てるほど非情にもなれないんでしょ? ダンゴちゃんのためにも」
「リクト兄?」
リクトルスが濃い緑色の着色をしたバイクに跨り、滞空していた。
「来ちゃった♪」
「……」
常とは違うゴキゲンな様子。これは間違いなく楽しむ気だった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎
ニールにはダンゴと話の分かりそうな人を探してもらっていた。上が好き勝手にやる国だ。そういう国は民達の方で独自のまとめ役を作っていたりする。
『この人を押さえれば、皆んながついてくる』という人を探すのだ。そして、安全地帯を作るための場所の選定もお願いしている。
最後に逃げ込む場所。シェルターを確保するのだ。そこには、ダンゴに結界を張ってもらう。
コウヤが上空から確認しているのは、どの迷宮から集団暴走が進んでいくのかだ。
それによって優先度を付け、それぞれの迷宮に一番近い町での民の中の有力者を探す必要がある。さすがに精霊達の方もやる気はあっても準備が整っていない。一気にとはいかないのは、こちらとしては有難い。
それでも迷宮内で徐々に氾濫は起きており、民達も異変を感じているようだ。町ごとで不安になった民達が頼ろうとする者の所へ、ニールとダンゴが転移し、同じように話を通して逃げ込める場所を確保していく。
ニールはそういった人の流れを読むのと説得が上手く、コウヤは順にダンゴへ転移を指示するだけで良かった。
「次は西ね」
《了解です!》
領主による理不尽な土地の奪い合いに民達が慣れているからか、結束が固く、速やかに避難が開始されていた。
どうやら、こんな日が来ることは予想していたらしい。冒険者ギルドが無くなったとはいえ、冒険者達から最後まで迷宮の情報などは受け取っていたのだろう。引退した者たちもいるはずなのだから。
「……それにしても、外壁が少し低いし、脆そうだな……人対策しかしてないのかな」
上の者たちは、真に集団暴走の恐ろしさを知らないのだろう。魔獣や魔物が少なくなっていたこともあり、人同士が争うことしか想定していなかったのかもしれない。
魔獣や魔物は、生きるために全力で人を襲う。外壁など、個々の能力で飛び越えたり破壊したりしようとするものだ。
しかし、人の場合。領土を、民を手に入れることが念頭にある。よって、殲滅しようなどとは考えない。町に入って来る時も、外壁を壊す奇襲ではなく、正々堂々正面から、門を制圧して入ってくる。だから、外壁の強固さは重要視されていない。
「これは本当に……全部壊されるね……」
なんと言っても、精霊達は更地にする気満々なのだから。脆い外壁などひとたまりも無いだろう。
「う~ん。揃って軒並みCランクって所かな。古いのがB……資料だと……」
以前、ビジェが里帰りするならと思い、この国にあった冒険者ギルドの資料を取り寄せていた。
正式な冒険者ギルドの撤退から二十年ほどが経っており、民達が必要最低限の物を求めて迷宮に入るということを加味しても、そろそろ、迷宮が暴走する頃だとは予想できた。
恐らく、この国にいる引退した冒険者達も予想しているだろう。そういう人たちがまとめ役になっているはずだ。ニールやダンゴの話が通りやすいのも、そのおかげ。
そして、彼らは上の人間には言っても無駄だと諦めているため、この危機を知るのは、民達だけだ。
迷宮にも入る一般人達。冒険者ギルドが無いから一般人ではあるが、ギルドがあったら立派な冒険者だ。よって、彼らにより、これまでの小さいランクの集団暴走は、何とか乗り越えてこられた。
上がほとんど民達のために動かないこの国では、兵士に助けを求めても意味がない。自分たちで自分達の身は守らなければならないと、民達は自立心が高くなるのは自然なこと。
逞しい民達によって、これまで迷宮からの厄災は除けられてきたのだ。
「古いのがBのまま堪えてくれてたのは運が良かったな……」
古い迷宮は三つ。上手く場所はばらけてくれている。しかし、その場所を資料で確認して首を捻る。
「ん? 二つ足りない……」
資料にあるBランクの迷宮は五つ。この国にあった冒険者ギルドは、この危険性から、撤退を渋っていたと聞いた。
この五つの迷宮が一つでも暴走すれば、島の規模からいっても、たった一度の放出で甚大な被害となる。
そう考えれば、Bランクの迷宮が通常の手順によって消滅したわけではないと分かる。
迷宮の通常の消滅までの手順は、Aランクでの暴走。Aランクにまでなったなら、その後暴走するか、核の力が衰え、自然消滅するかだ。
なんであれ、集団暴走を起こしてAランクまでは上げなければならない。しかし、この島にAランクの迷宮は存在しないのだ。
そして、Bランクの迷宮一つの暴走で無事に済むような体制はこの島にはない。町への距離が近過ぎるのもある。その上、野生の魔獣や魔物が少ないために、氾濫の余波を伝える前触れが機能していない。
この状態で仮に民達のほとんどが冒険者化していたとしても、Bランクの暴走に対処できるわけがない。
平和ボケしていたとはいえ、外壁もしっかりしており、冒険者達が普通に活動していたベルセンでさえ、一度の集団暴走で潰れかけたのだから。あそこは、まだ距離もあった。
コウヤは土地の様子から予想を立てる。
「……迷宮の力を放出して、新しい迷宮を作ったってことか……それも、底上げした状態のを……」
それがあり得なくはない。
外壁の様子から見ても、人々の危機感から考えても、恐らく新たな迷宮のほとんどは、集団暴走を起こしてランクを上げた訳ではないのだろう。いくつかは段階を経たかもしれないが、大半は規定外。
「最初からCランクで作った……」
Fランクから始まる迷宮。それをすっ飛ばして、Bランクの迷宮二つの力を使って底上げした。それだけのことをしてでもと思うほど、この島の者は精霊を怒らせていたようだ。
「……」
コウヤは島を見回してから考え込む。
「……落とし所が難しそうだな……」
精霊達の思いも分かる。けれど、無関係な者達まで巻き込まれてしまう。本来ならばどちらにも肩入れするべきではない。この島の精霊と、人の問題なのだから。
「冒険者ギルドもないし……」
コウヤがどうにかしてやる問題でもないのだ。だが、このままではダンゴが気に病む。そう考えていると、背後で声が響いた。
「コウヤくんがどうこうしてやる義理も義務もないね。でも、全部見捨てるほど非情にもなれないんでしょ? ダンゴちゃんのためにも」
「リクト兄?」
リクトルスが濃い緑色の着色をしたバイクに跨り、滞空していた。
「来ちゃった♪」
「……」
常とは違うゴキゲンな様子。これは間違いなく楽しむ気だった。
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読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎
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