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一章
01. 出会い
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「結構です、ありがとうございました。結果は明日中にご連絡いたします」
その言葉を合図に、六人掛けの木製テーブルを挟んで対面に座っていた二人の男性が立ち上がった。
9月中旬の木曜日、東京都内にキャンパスを構える逢宮大学の研究棟3階、その一室での出来事である。
一人は陶器の肌に映えるダークブラウンの三つ揃えに臙脂のネクタイを締め、もう一人はパーカーで学生のような出で立ちだ。
ラフな格好にリュックを背負う男性が無機質な扉を開けて部屋を出て行くのと入れ替わりに、前髪を大胆にウェーブさせたワガママ豊満ボディの女性が入室した。
濃淡違いの2色のベージュで構成されたチェックのタイルカーペットを、ヒールの低い靴で踏みしめながらずんずんと進んでくる。
部屋の中央にあるヴィトラ社のオフィスチェアに座り直した三つ揃えの男性は、テーブルの上に散らばっていた書類を片付けながら尋ねた。
「次で最後の方ですね?」
「ええ、最終日の最後の方、つまり最後オブ最後です。まさか応募が30名に達するとは思わず、面接が1週間にも及ぶとは思いませんでした。鳴成准教授、本当にお疲れ様でございました」
「許斐さんもお疲れ様でした。受付も大変でしたね」
「いいえ、私はご案内するだけでしたので。初対面の相手との会話というものは思いのほか体力を消耗するものですし、それが面接ともなればより一層神経をお使いになったことと思います」
「そうですね。私は人付き合いにあまり明るくないので、大変でなかったと言えば嘘になりますが、意欲ある沢山の方とお会いできたことはとても有意義でした。お一人に絞らなければならないのが心苦しいところですが」
「ときめく方はいらっしゃいました?29名からの熱烈な愛の告白で、いつもは冷静な鳴成准教授もクラクラっときていらっしゃったりして……だはっ」
許斐と呼ばれた女性は、艶々の赤リップを豪快に開きながら笑う。
綺麗に繕った外見とは違い、その内面は三枚目路線であるようだ。
その様子を見ながら、鳴成と呼ばれた男性も口元に薄く笑みを乗せる。
差し出した陶器の手に、マニキュアを施した手から新しい履歴書が渡される。
「……月落さんですね。もういらしてますか?」
「ええ、10分前からお待ちです。お通ししますね」
「お願いします」
センターパートに分けた髪に一度ざっくりと手を入れ、軽く伸びをする。
マグカップに淹れたミルクティーを飲みながら履歴書に目を通すと、これから会う人物の経歴は今までに面接した応募者のどれとも違い、異彩を放っていた。
「SaSコンサル?……外資最大手のコンサル会社か……それを辞めてMBA取得のために渡米……」
会社名をスマホで調べながら経歴を辿っていく。
色々と疑問が浮かんだが、それと同時になぜかとても興味を引かれた。
疲れて些かかすんだ視界に鮮やかさが戻ってくるのを感じていると、薄く開けられた扉を3回ノックする音が響いた。
「どうぞ」
「失礼いたします」
現れたのは、180を優に超えるだろう長身に黒髪黒眼、甘めの顔立ちの清潔感溢れる青年だった。
水色のシャツにダークグレーのピンストライプパンツ、すっきりした長さの髪の右側だけを後ろに撫でつけたその人は、音もなく大股で歩いてくる。
「月落渉と申します。本日はお時間を頂きありがとうございます。よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。どうぞ、お掛けください」
「失礼いたします」
座って上半身しか見えなくなると更によく分かるその体格の良さを見つつ、鳴成は先ほどから気になっていたことを単刀直入に切り出した。
「私は外国語学部英語学科の准教授をしております、鳴成秋史と申します。月落さんの履歴書を拝見しました。お訊きしたいことが数点ありますので、さっそく質問をさせていただいてもよろしいでしょうか」
「はい、構いません」
「今回は私のTA兼秘書を募集しています。つまり、私の授業サポートを主軸として、授業準備や学生の質疑に対する応答、テストの採点、大学側からの連絡の対応等、幅広く任せられる方を探しています。業務内容は多岐に渡りますが、月落さんのこれまでの経歴とはあまり接点がないように見受けられます。今回はどのような経緯で、この面接を受けようと思われたのでしょうか」
「そうですね。確かに、そのご質問は当然だと思います」
月落は極自然な様子でそう答えた。
面接に臨む際特有の緊張感や気負いはまったくない。
落ち着いた空気感は、履歴書に書かれた30歳という年齢以上の人生経験があるように感じさせる。
「国立大学経済学部を卒業後、外資系コンサルティングファームにて6年間勤務いたしました。退職後はコロンビアビジネススクールでMBAを取得し、先月帰国いたしました。実家が商売をしております関係で何の疑問も持たずに10年ほど経営周りを勉強して参りましたが、恥ずかしながら少し道に迷いまして」
「道に迷う?」
「はい、端的に言うと迷子です。迷える子羊のような気持ちで」
「……はい?」
立派な成人男性が一体何を言い出すのか。
ハイスペックな舗装道路を歩んできたであろうことは、履歴書を見れば一目瞭然。
順風満帆が約束された未来が燦然と輝いていることは火を見るよりも明らかなのに、まさかの迷子とは。
加えて、その表情にも話す声のトーンにも少しの悲壮感も漂っていないので、鳴成の胸中には訝しさの風が吹く。
遅れて冗談だと言われた方が、むしろ腑に落ちる。
「ああ、申し訳ありません。冗談がすぎました。でも本当です」
冗談なのか真実なのかどちらかにしてほしい。
ほっとしたのも束の間、鳴成の頭の上には疑問符がいくつも浮かんでしまった。
独特なペースのある男。
それを、角のない口調と優し気な見た目で上手く調和させて、絶妙なバランスに仕立てることが出来るようだ。
過去にもこういう種族には何度か会ったことがある。
わざとらしくなく他人を操り、いつの間にか場を掌握するタイプの男。
あらゆる物事に対して感覚があまり鋭敏でない、一言でいうと鈍感だと自覚している自分でさえも、その片鱗を感じ取ってしまいそうな。
感じ取って、後退りしてしまいそうな。
けれど逃れられなくて、最終的には絡め取られ付け入られてしまう未来が垣間見える気がするのは、幻想だろうか。
「今後30数年は会社の中で責務を全うしながら社会貢献をするとして、このままずっと経営の分野に縛られ続けてそれでいいのか、とふと考えてしまいまして。実家に生まれた義務と責任を捨てる選択肢はないのですが、少しの間他分野に身を置くのも良い人生経験になると思い、今回応募いたしました」
今日まで1週間、面接した29名は皆、熱意に満ち溢れていた。
「雇ってください」「きっとお役に立てます」「なんでもします」「鳴成先生のファンです」
何度も聞いた言葉たち。
それに比べると目の前に座る彼は、至極冷静だ。
けれど、冷淡だという印象は受けない。
その絶妙なバランスが、実に魅力的だ。
通常の採用面接ならば意欲が感じられないと、不採用の方に天秤が傾くかもしれないだろうが、鳴成が求めていたのはまさしくこういう人間だった。
他学部と同様に外国語学部のTAも担当教員との関わり合いだけでなく、授業への積極的な参加を通して学生との交流も多くしなければならない。
激情型でなく、かといってローテンションでもなく、相手に好印象を与えつつコミュニケーションも適切に行えて、何より鳴成本人に興味のなさそうな人間。
「ご尊顔を拝謁し光栄です」「とてもお綺麗です」「ルーブル美術館の彫像かと思いました」などと、罷り間違っても言わなさそうなのがとても良い。
さらに。
「コロンビアのビジネススクールで学んだと仰っていましたね?」
「はい」
「GMATは?」
「750です」
「TOEFL?」
「110です」
「IELTS?」
「8.0です」
「I have no doubt that you could gain admittance to any business school in the world. Could you tell me what made you choose CBS?」
「The main reason I chose CBS was because it offered a comprehensive curriculum in finance and real estate, which are essential for my future career. Additionally, the opportunity to attend special lectures held frequently was a major draw.」
能力もずば抜けているし、日本語から英語の切り替えも速い。
人生のほぼ半分を英語で過ごした自分の授業内容をきちんと理解しながら、学生へのサポートも行えるであろう英語運用能力の持ち主。
これは採用しない手はない。
いわゆる、ときめいてクラクラっとするやつだろう。
先ほど会話していた女性の、大きな口を開けて笑う姿が鳴成の脳裏をよぎる。
「いいですね、申し分ない。弊学の外国語学部では2年次から全授業が英語で行われますが、全く問題ないでしょう」
「1年生からではないんですね」
「ええ、そうです。帰国子女やインターナショナル出身の学生も一部います。ですが、基本的には日本の学校を卒業した学生の英語運用能力をネイティブと同レベルまで養う、ということを教育の第一方針としています。初年度は徹底した基礎固めのため、日本語を交えた授業が主です」
「コンサル時代に貴学の外国語学部を卒業した方に数名お会いして、皆さんの英語やフランス語のレベルが高かったことに驚きましたが、そのお話を聴いて納得しました」
「レベルの高い学生を育成するためには、レベルの高い教育環境が必要です。それを実現するためには、教員のレベルの高さが必要不可欠です。ということで月落渉さん、きみを採用することにしましょう」
「ありがとうございます。ですが……あの、採用するか否かは、少し時間を置いて熟考された方がよろしいのではないでしょうか?」
至極まっとうな意見。
能力だけでなく、常識もあるようで尚良い。
「ああ、確かにそうですね。けれど、こんなに千載一遇のチャンスはありませんから。悩む時間は必要ないかと」
「そう言っていただけて嬉しいです」
「こちらこそ、巡り合わせに感謝しています。来週の火曜日からさっそく出勤可能でしょうか?待遇面の重要項目は全て募集要項に記載してありますが、その他の細かい処遇の擦り合わせをさせてください」
「承知しました」
「採用内定通知書や労働条件通知書等の必要書類に関しては、明日または来週の月曜日に大学事務室よりメールで送付いたします」
「ありがとうございます」
鳴成が立ち上がるのに合わせて月落も立ち上がった。
やはり、背が高い。
177の自分と比べると10cmほど上だろうか。
差し出した手を力強く握り返される。
「これからよろしくお願いいたします」
「採用していただきありがとうございます」
すっきりとした額にきりりとした眉。
視線を合わせた甘めの印象の瞳が、やわらかく微笑んだ。
9月中旬、新しい色の風が吹いた。
-.-.-.-.-.-.-.-.-.-.-.-.-.-.-.-.-.-
「月落さんは世界中どのビジネススクールにも入学できたと思いますが、どうしてコロンビアを選んだんですか?」
「コロンビアを選んだ主な理由は、ファイナンスと不動産に関する包括的なカリキュラムを提供していたからです。それらは私の将来のキャリアにとって必要不可欠でした。加えて、頻繁に行われる特別講義に参加できるのも大きな魅力でした」
その言葉を合図に、六人掛けの木製テーブルを挟んで対面に座っていた二人の男性が立ち上がった。
9月中旬の木曜日、東京都内にキャンパスを構える逢宮大学の研究棟3階、その一室での出来事である。
一人は陶器の肌に映えるダークブラウンの三つ揃えに臙脂のネクタイを締め、もう一人はパーカーで学生のような出で立ちだ。
ラフな格好にリュックを背負う男性が無機質な扉を開けて部屋を出て行くのと入れ替わりに、前髪を大胆にウェーブさせたワガママ豊満ボディの女性が入室した。
濃淡違いの2色のベージュで構成されたチェックのタイルカーペットを、ヒールの低い靴で踏みしめながらずんずんと進んでくる。
部屋の中央にあるヴィトラ社のオフィスチェアに座り直した三つ揃えの男性は、テーブルの上に散らばっていた書類を片付けながら尋ねた。
「次で最後の方ですね?」
「ええ、最終日の最後の方、つまり最後オブ最後です。まさか応募が30名に達するとは思わず、面接が1週間にも及ぶとは思いませんでした。鳴成准教授、本当にお疲れ様でございました」
「許斐さんもお疲れ様でした。受付も大変でしたね」
「いいえ、私はご案内するだけでしたので。初対面の相手との会話というものは思いのほか体力を消耗するものですし、それが面接ともなればより一層神経をお使いになったことと思います」
「そうですね。私は人付き合いにあまり明るくないので、大変でなかったと言えば嘘になりますが、意欲ある沢山の方とお会いできたことはとても有意義でした。お一人に絞らなければならないのが心苦しいところですが」
「ときめく方はいらっしゃいました?29名からの熱烈な愛の告白で、いつもは冷静な鳴成准教授もクラクラっときていらっしゃったりして……だはっ」
許斐と呼ばれた女性は、艶々の赤リップを豪快に開きながら笑う。
綺麗に繕った外見とは違い、その内面は三枚目路線であるようだ。
その様子を見ながら、鳴成と呼ばれた男性も口元に薄く笑みを乗せる。
差し出した陶器の手に、マニキュアを施した手から新しい履歴書が渡される。
「……月落さんですね。もういらしてますか?」
「ええ、10分前からお待ちです。お通ししますね」
「お願いします」
センターパートに分けた髪に一度ざっくりと手を入れ、軽く伸びをする。
マグカップに淹れたミルクティーを飲みながら履歴書に目を通すと、これから会う人物の経歴は今までに面接した応募者のどれとも違い、異彩を放っていた。
「SaSコンサル?……外資最大手のコンサル会社か……それを辞めてMBA取得のために渡米……」
会社名をスマホで調べながら経歴を辿っていく。
色々と疑問が浮かんだが、それと同時になぜかとても興味を引かれた。
疲れて些かかすんだ視界に鮮やかさが戻ってくるのを感じていると、薄く開けられた扉を3回ノックする音が響いた。
「どうぞ」
「失礼いたします」
現れたのは、180を優に超えるだろう長身に黒髪黒眼、甘めの顔立ちの清潔感溢れる青年だった。
水色のシャツにダークグレーのピンストライプパンツ、すっきりした長さの髪の右側だけを後ろに撫でつけたその人は、音もなく大股で歩いてくる。
「月落渉と申します。本日はお時間を頂きありがとうございます。よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。どうぞ、お掛けください」
「失礼いたします」
座って上半身しか見えなくなると更によく分かるその体格の良さを見つつ、鳴成は先ほどから気になっていたことを単刀直入に切り出した。
「私は外国語学部英語学科の准教授をしております、鳴成秋史と申します。月落さんの履歴書を拝見しました。お訊きしたいことが数点ありますので、さっそく質問をさせていただいてもよろしいでしょうか」
「はい、構いません」
「今回は私のTA兼秘書を募集しています。つまり、私の授業サポートを主軸として、授業準備や学生の質疑に対する応答、テストの採点、大学側からの連絡の対応等、幅広く任せられる方を探しています。業務内容は多岐に渡りますが、月落さんのこれまでの経歴とはあまり接点がないように見受けられます。今回はどのような経緯で、この面接を受けようと思われたのでしょうか」
「そうですね。確かに、そのご質問は当然だと思います」
月落は極自然な様子でそう答えた。
面接に臨む際特有の緊張感や気負いはまったくない。
落ち着いた空気感は、履歴書に書かれた30歳という年齢以上の人生経験があるように感じさせる。
「国立大学経済学部を卒業後、外資系コンサルティングファームにて6年間勤務いたしました。退職後はコロンビアビジネススクールでMBAを取得し、先月帰国いたしました。実家が商売をしております関係で何の疑問も持たずに10年ほど経営周りを勉強して参りましたが、恥ずかしながら少し道に迷いまして」
「道に迷う?」
「はい、端的に言うと迷子です。迷える子羊のような気持ちで」
「……はい?」
立派な成人男性が一体何を言い出すのか。
ハイスペックな舗装道路を歩んできたであろうことは、履歴書を見れば一目瞭然。
順風満帆が約束された未来が燦然と輝いていることは火を見るよりも明らかなのに、まさかの迷子とは。
加えて、その表情にも話す声のトーンにも少しの悲壮感も漂っていないので、鳴成の胸中には訝しさの風が吹く。
遅れて冗談だと言われた方が、むしろ腑に落ちる。
「ああ、申し訳ありません。冗談がすぎました。でも本当です」
冗談なのか真実なのかどちらかにしてほしい。
ほっとしたのも束の間、鳴成の頭の上には疑問符がいくつも浮かんでしまった。
独特なペースのある男。
それを、角のない口調と優し気な見た目で上手く調和させて、絶妙なバランスに仕立てることが出来るようだ。
過去にもこういう種族には何度か会ったことがある。
わざとらしくなく他人を操り、いつの間にか場を掌握するタイプの男。
あらゆる物事に対して感覚があまり鋭敏でない、一言でいうと鈍感だと自覚している自分でさえも、その片鱗を感じ取ってしまいそうな。
感じ取って、後退りしてしまいそうな。
けれど逃れられなくて、最終的には絡め取られ付け入られてしまう未来が垣間見える気がするのは、幻想だろうか。
「今後30数年は会社の中で責務を全うしながら社会貢献をするとして、このままずっと経営の分野に縛られ続けてそれでいいのか、とふと考えてしまいまして。実家に生まれた義務と責任を捨てる選択肢はないのですが、少しの間他分野に身を置くのも良い人生経験になると思い、今回応募いたしました」
今日まで1週間、面接した29名は皆、熱意に満ち溢れていた。
「雇ってください」「きっとお役に立てます」「なんでもします」「鳴成先生のファンです」
何度も聞いた言葉たち。
それに比べると目の前に座る彼は、至極冷静だ。
けれど、冷淡だという印象は受けない。
その絶妙なバランスが、実に魅力的だ。
通常の採用面接ならば意欲が感じられないと、不採用の方に天秤が傾くかもしれないだろうが、鳴成が求めていたのはまさしくこういう人間だった。
他学部と同様に外国語学部のTAも担当教員との関わり合いだけでなく、授業への積極的な参加を通して学生との交流も多くしなければならない。
激情型でなく、かといってローテンションでもなく、相手に好印象を与えつつコミュニケーションも適切に行えて、何より鳴成本人に興味のなさそうな人間。
「ご尊顔を拝謁し光栄です」「とてもお綺麗です」「ルーブル美術館の彫像かと思いました」などと、罷り間違っても言わなさそうなのがとても良い。
さらに。
「コロンビアのビジネススクールで学んだと仰っていましたね?」
「はい」
「GMATは?」
「750です」
「TOEFL?」
「110です」
「IELTS?」
「8.0です」
「I have no doubt that you could gain admittance to any business school in the world. Could you tell me what made you choose CBS?」
「The main reason I chose CBS was because it offered a comprehensive curriculum in finance and real estate, which are essential for my future career. Additionally, the opportunity to attend special lectures held frequently was a major draw.」
能力もずば抜けているし、日本語から英語の切り替えも速い。
人生のほぼ半分を英語で過ごした自分の授業内容をきちんと理解しながら、学生へのサポートも行えるであろう英語運用能力の持ち主。
これは採用しない手はない。
いわゆる、ときめいてクラクラっとするやつだろう。
先ほど会話していた女性の、大きな口を開けて笑う姿が鳴成の脳裏をよぎる。
「いいですね、申し分ない。弊学の外国語学部では2年次から全授業が英語で行われますが、全く問題ないでしょう」
「1年生からではないんですね」
「ええ、そうです。帰国子女やインターナショナル出身の学生も一部います。ですが、基本的には日本の学校を卒業した学生の英語運用能力をネイティブと同レベルまで養う、ということを教育の第一方針としています。初年度は徹底した基礎固めのため、日本語を交えた授業が主です」
「コンサル時代に貴学の外国語学部を卒業した方に数名お会いして、皆さんの英語やフランス語のレベルが高かったことに驚きましたが、そのお話を聴いて納得しました」
「レベルの高い学生を育成するためには、レベルの高い教育環境が必要です。それを実現するためには、教員のレベルの高さが必要不可欠です。ということで月落渉さん、きみを採用することにしましょう」
「ありがとうございます。ですが……あの、採用するか否かは、少し時間を置いて熟考された方がよろしいのではないでしょうか?」
至極まっとうな意見。
能力だけでなく、常識もあるようで尚良い。
「ああ、確かにそうですね。けれど、こんなに千載一遇のチャンスはありませんから。悩む時間は必要ないかと」
「そう言っていただけて嬉しいです」
「こちらこそ、巡り合わせに感謝しています。来週の火曜日からさっそく出勤可能でしょうか?待遇面の重要項目は全て募集要項に記載してありますが、その他の細かい処遇の擦り合わせをさせてください」
「承知しました」
「採用内定通知書や労働条件通知書等の必要書類に関しては、明日または来週の月曜日に大学事務室よりメールで送付いたします」
「ありがとうございます」
鳴成が立ち上がるのに合わせて月落も立ち上がった。
やはり、背が高い。
177の自分と比べると10cmほど上だろうか。
差し出した手を力強く握り返される。
「これからよろしくお願いいたします」
「採用していただきありがとうございます」
すっきりとした額にきりりとした眉。
視線を合わせた甘めの印象の瞳が、やわらかく微笑んだ。
9月中旬、新しい色の風が吹いた。
-.-.-.-.-.-.-.-.-.-.-.-.-.-.-.-.-.-
「月落さんは世界中どのビジネススクールにも入学できたと思いますが、どうしてコロンビアを選んだんですか?」
「コロンビアを選んだ主な理由は、ファイナンスと不動産に関する包括的なカリキュラムを提供していたからです。それらは私の将来のキャリアにとって必要不可欠でした。加えて、頻繁に行われる特別講義に参加できるのも大きな魅力でした」
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