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三章
10. 31回目の誕生日①
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9月27日土曜日、天気はすこぶる晴天。
今日は月落渉31回目の誕生日だ。
「ぅ……、ん……」
「起きました?おはようございます」
規則正しく陶器の肌を上下させて眠っていた麗人が、髪と同様に色素の薄い睫毛を震わせて夢から醒める。
その様子を枕元に肘をついて上から眺めていた月落が、そっと声を掛けた。
「ぉはよう、ございま、す……」
いつものように金曜日の授業終わりに夕食を共にし、そのまま月落宅で一晩を過ごした。
時計の針が12ぴったりになった時にお祝いの言葉を述べたいという雰囲気がひしひしと鳴成から醸し出されていたが、我慢の出来なかった月落に早々にベッドに連れ込まれ、その願いは泡沫と消えた。
波に流されながらも、壁に表示されたデジタル時計を気にする鳴成の健気な仕草。
純粋に胸に広がる喜びと、自分以外のものに気を取られるなんてと遇にもつかない嫉妬でごちゃ混ぜになった心が、月落の歯止めを効かなくさせた。
甘やかして、視線を外さないように見つめ合ったまま、弄んで、落として、寸でで止めて、また落として。
手荒とは180度対照的な行為だったが、月落の濃密な想いの丈を全て受け止めさせられた鳴成にはさぞ重かっただろう。
最後は、引きずられるようにして眠りに堕ちた。
それでもやはりその見た目通り、下に閉じ込めたその身体の持ち主は内も外も潰れずしっかりと形を保ったままで、月落をひどく安心させた。
「朝、ですね……紛うことなく朝ですね」
「はい、今日はちょっと遅めの10時です」
「10時……珍しく寝坊しました。きみが昨日、老体に無体を働いたせいで」
寝起き特有の、とろんとしたヘーゼルの瞳で抗議される。
昨晩はしたたかに潤んでいた水晶のそのコントラストに、くらりと目眩がするようだ。
朝の光の中で思い出してはいけない映像まで浮かび上がりそうで、月落は己の額を手の平で打って半物理的に記憶を飛ばした。
「えっと、大丈夫そうです?どうしました?いきなり」
「ちょっと自分を戒めてました」
「朝なので、もう少し穏やかにいきましょうね?……あ、そうでした、朝でした。肝心な部分を飛ばしてしまうところでした」
「肝心な?」
「ええ、きみのせいで伝える機会を逃しましたから」
「……ああ」
「お誕生日おめでとうございます。31度目の記念すべき日を、こうして祝えて光栄です」
「ありがとうございます。俺はいま世界で一番幸せです」
豪語する年下の恋人の首に腕を回して抱き締める。
反論も訂正もしない。
鳴成もいま世界で一番幸せだと、そう感じているから。
「秋史さん、起きますか?」
「ええ、そうします」
鳴成の背中に回していた左手はそのまま、右手をベッドに付いて二人分の体重を物ともせず月落は起き上がった。
何度も泊まりに来ているためこの体勢には慣れてしまった感のある鳴成だが、男の自分にそれが出来る年下の恋人の筋力の発達具合に、いつも感心する。
昨日の闇の中でもそう感じないこともなかったが、あいにくその感想は裏に表にひっくり返されている内に、いつの間にか意識の淵に置き忘れてしまった。
だからか鳴成は、何とはなしにするりと月落の肩を撫でる。
「どうしました?」
「いいえ、特に。相変わらず、上腕二頭筋なのか僧帽筋なのか広背筋なのか、それとも腹筋なのか。とにかくとても発達しているなと感心していました」
「筋力と、適度に体脂肪も蓄えてるので先生一人くらいなら余裕です。こうやって――」
「ぅ、わっ」
月落は鳴成の身体を横抱きにしたまま立ち上がった。
思わず、眼前の首に縋りつく。
「僕がこの格好は苦手だと知っているでしょう?」
「はい、でも今日は俺の誕生日なので許してください」
「……きみはそれを、今日一日の免罪符にするつもりですね?」
「あ、バレました?はい、今日は絶対的権力として振りかざすつもりですので、どうぞご了承ください」
悪びれた様子もなく言外に甘え倒すと宣言されて、鳴成は苦笑いしながらも頷いた。
言われなくとも、甘やかし倒すつもりでいる。
常日頃、月落から捧げられる無類の献身と同等とまでとはいかなくとも、匹敵する深度の愛情を返したい。
そのために、色々と悩みながら準備をした。
彼のことだからきっと何をしても喜んでくれるだろうとは思うけれど、そこは恋人を想う男としてのプライドがある。
元来サプライズは得意な分野ではないが、あれこれと調べながら用意するのも楽しかった。
その期間も、記念日の序章だった。
「まずは朝ご飯ですね」
「そうしましょう。こんな状態だとどちらが主役が分からなくなるので、一旦降ります」
「このままお連れします、と言いたいところなんですが、安全を期してやめておきます。代わりに手を繋いでほしいです」
「ええ、もちろん」
見つめ合ったまま階段を下りる。
遅めの朝食は和定食だ。
授業のなかった先日の水曜日、お手伝いさんに頼んで美味しい作り方を教えてもらっただし巻き玉子と小松菜の胡麻和え、サラダ、焼き鮭、キャベツと油揚げの味噌汁を、鳴成が頑張って作る予定だ。
―――――――――――――――
昼過ぎに品川を出発した二人は、鳴成の運転する車で美術館へと移動した。
特別展示として開催前から話題だったアールヌーヴォーの絵画やガラス工芸品、家具の曲線美をじっくりと堪能した。
特に、この時代を象徴するチェコ出身画家が描いた植物と女性の融合は、遠くから全体のまとまりを鑑賞する楽しみと、近くでその繊細さを事細かに観察する楽しみのどちらも味わえて、長い時間足を止めてしまった。
「感性を刺激される経験は、畑は違えど翻訳作業に必ず良い影響を及ぼしてくれる」と呟く鳴成を見て、満足そうに微笑む月落だった。
じっくりと2時間アートの世界を堪能した両者は、次の場所へと足を向けた。
「え、先生。ここに座るんですか?」
「ええ、ここです」
月落が手の平で指し示すのは、緑の西陣織が艶やかなペアシートだ。
公共の場でカップルシートと同義の席に男同士で座る。
普段ある程度の人目しか気にしない月落ではあるが、周囲の皆さんの反応はどうなんだろうと周りをちらりと確認する。
室内の絶妙な暗さのおかげか、現実離れした空間のおかげか、不躾な視線に晒されている状況ではなさそうだと安心して、遠慮を捨ててシートに座った。
ちなみに、鳴成はあっけらかんとした様子で靴を脱ぎ、既に仰向けて寝っ転がっている。
普段は公私の線引きをきっちりするのに、ふとした瞬間の行動が予想の斜め上を行くのが興味深くてどうにも頼もしい。
「プラネタリウムは一人だと若干来づらいので、今日連れて来てもらえて嬉しいです」
「実は私は初めて来ました」
「本当ですか?星にあんまり興味がなかったり?」
「そうですね。天体に浪漫を抱くタイプではなかったですね、今までは。でも、きみの家で満天の星空を眺める内に、燃える軌跡に想いを馳せるのも趣があるなと思えるようになりました」
「僕の功績ですか?」
「ええ、きみの功績です」
褒められて、無邪気に喜ぶ月落に優しい視線を送る鳴成。
見つめ合っていると室内灯が消える。
頭上に映し出される全天周映像に、意識が惹き込まれて。
50分の銀河の旅へ。
―――――――――――――――
運転していた車を鳴成の自宅に停めて、徒歩で外苑前へと向かう。
表通りから一本奥へと入った先にあるアーチ型の古びた木製の扉を開けると、草木の整った前庭が現れた。
奥にあるもう一枚の扉の前にはレセプションが置かれている。
「18時に予約をしている鳴成です」
「お待ちしておりました」
白シャツに黒いベスト、黒いサロンエプロンを巻いた男性スタッフに誘われ中へと入る。
進んだ先の空間には、スペインの住宅によくある中庭が広がっていた。
天井は全面ガラスのドーム型。
周りの白い壁には青に塗られた本物のアパートのような窓や扉、階段が造られ、緑と花で飾られている。
モザイクタイルの上には間隔を広めに取られた二人掛けの大きめのテーブルが9席のみ。
ランタンの街灯が、厳かに照らしている。
「世界観が作りこまれてて、見事ですね」
「ええ、まるでスペインのパティオにワープしたようですね」
白いテーブルクロスが掛けられた、一番端の丸いテーブルに着席する。
「本日はようそこお越しくださいました。こちらが本日ご予約頂きました、お食事のメニューでございます」
席へと案内をしてくれた男性スタッフと同じ格好をした女性スタッフがどこからともなく現れ、鳴成と月落それぞれに2枚のメニュー表を渡す。
ひとつは食事の、そしてもうひとつはドリンクメニューのようだ。
ワインやビール、サングリア、カクテル、ノンアルコールと種類豊富に記載されている。
「お先にお飲み物をお伺いいたします」
「せっかくなのでスペインの食前酒を頂きたいんですが、おすすめはありますか?」
「食前酒ですとシェリー酒がおすすめでございます。こちらの辛口のシェリーはさっぱりと軽い口当たりで食欲が湧くと、現地でも人気でございます」
「美味しそうですね?」
「はい、飲んでみたいです」
尋ねる鳴成に、月落はすぐさま同意する。
「ご用意いたします。お待ちくださいませ」
そう言葉とドリンクメニューを残して、女性は去って行った。
「スペイン料理、久しぶりなので本当に楽しみです」
「ここはコースの品数も一皿の量も多いらしいので、きっときみのお腹も満たされると思います」
「友人に話したら驚かれました。先生、よく予約取れましたね?」
この日訪れた店は、スペイン料理のレストラン。
本場スペインバル仕込みの本格タパスが、レストラン仕様の優雅さで提供される。
その圧倒的な美味しさとテーマ性の強い空間演出が口コミで広がり、いま絶賛予約超困難な有名店だ。
先週参列した結婚式で会った友人も知っていて、予約できたことに驚かれ、一緒に行かせてほしいとまるでプロポーズするかの如く真剣な眼差しで懇願されて、その暑苦しい顔を引き剝がすのに月落は大変苦労した。
今日は月落渉31回目の誕生日だ。
「ぅ……、ん……」
「起きました?おはようございます」
規則正しく陶器の肌を上下させて眠っていた麗人が、髪と同様に色素の薄い睫毛を震わせて夢から醒める。
その様子を枕元に肘をついて上から眺めていた月落が、そっと声を掛けた。
「ぉはよう、ございま、す……」
いつものように金曜日の授業終わりに夕食を共にし、そのまま月落宅で一晩を過ごした。
時計の針が12ぴったりになった時にお祝いの言葉を述べたいという雰囲気がひしひしと鳴成から醸し出されていたが、我慢の出来なかった月落に早々にベッドに連れ込まれ、その願いは泡沫と消えた。
波に流されながらも、壁に表示されたデジタル時計を気にする鳴成の健気な仕草。
純粋に胸に広がる喜びと、自分以外のものに気を取られるなんてと遇にもつかない嫉妬でごちゃ混ぜになった心が、月落の歯止めを効かなくさせた。
甘やかして、視線を外さないように見つめ合ったまま、弄んで、落として、寸でで止めて、また落として。
手荒とは180度対照的な行為だったが、月落の濃密な想いの丈を全て受け止めさせられた鳴成にはさぞ重かっただろう。
最後は、引きずられるようにして眠りに堕ちた。
それでもやはりその見た目通り、下に閉じ込めたその身体の持ち主は内も外も潰れずしっかりと形を保ったままで、月落をひどく安心させた。
「朝、ですね……紛うことなく朝ですね」
「はい、今日はちょっと遅めの10時です」
「10時……珍しく寝坊しました。きみが昨日、老体に無体を働いたせいで」
寝起き特有の、とろんとしたヘーゼルの瞳で抗議される。
昨晩はしたたかに潤んでいた水晶のそのコントラストに、くらりと目眩がするようだ。
朝の光の中で思い出してはいけない映像まで浮かび上がりそうで、月落は己の額を手の平で打って半物理的に記憶を飛ばした。
「えっと、大丈夫そうです?どうしました?いきなり」
「ちょっと自分を戒めてました」
「朝なので、もう少し穏やかにいきましょうね?……あ、そうでした、朝でした。肝心な部分を飛ばしてしまうところでした」
「肝心な?」
「ええ、きみのせいで伝える機会を逃しましたから」
「……ああ」
「お誕生日おめでとうございます。31度目の記念すべき日を、こうして祝えて光栄です」
「ありがとうございます。俺はいま世界で一番幸せです」
豪語する年下の恋人の首に腕を回して抱き締める。
反論も訂正もしない。
鳴成もいま世界で一番幸せだと、そう感じているから。
「秋史さん、起きますか?」
「ええ、そうします」
鳴成の背中に回していた左手はそのまま、右手をベッドに付いて二人分の体重を物ともせず月落は起き上がった。
何度も泊まりに来ているためこの体勢には慣れてしまった感のある鳴成だが、男の自分にそれが出来る年下の恋人の筋力の発達具合に、いつも感心する。
昨日の闇の中でもそう感じないこともなかったが、あいにくその感想は裏に表にひっくり返されている内に、いつの間にか意識の淵に置き忘れてしまった。
だからか鳴成は、何とはなしにするりと月落の肩を撫でる。
「どうしました?」
「いいえ、特に。相変わらず、上腕二頭筋なのか僧帽筋なのか広背筋なのか、それとも腹筋なのか。とにかくとても発達しているなと感心していました」
「筋力と、適度に体脂肪も蓄えてるので先生一人くらいなら余裕です。こうやって――」
「ぅ、わっ」
月落は鳴成の身体を横抱きにしたまま立ち上がった。
思わず、眼前の首に縋りつく。
「僕がこの格好は苦手だと知っているでしょう?」
「はい、でも今日は俺の誕生日なので許してください」
「……きみはそれを、今日一日の免罪符にするつもりですね?」
「あ、バレました?はい、今日は絶対的権力として振りかざすつもりですので、どうぞご了承ください」
悪びれた様子もなく言外に甘え倒すと宣言されて、鳴成は苦笑いしながらも頷いた。
言われなくとも、甘やかし倒すつもりでいる。
常日頃、月落から捧げられる無類の献身と同等とまでとはいかなくとも、匹敵する深度の愛情を返したい。
そのために、色々と悩みながら準備をした。
彼のことだからきっと何をしても喜んでくれるだろうとは思うけれど、そこは恋人を想う男としてのプライドがある。
元来サプライズは得意な分野ではないが、あれこれと調べながら用意するのも楽しかった。
その期間も、記念日の序章だった。
「まずは朝ご飯ですね」
「そうしましょう。こんな状態だとどちらが主役が分からなくなるので、一旦降ります」
「このままお連れします、と言いたいところなんですが、安全を期してやめておきます。代わりに手を繋いでほしいです」
「ええ、もちろん」
見つめ合ったまま階段を下りる。
遅めの朝食は和定食だ。
授業のなかった先日の水曜日、お手伝いさんに頼んで美味しい作り方を教えてもらっただし巻き玉子と小松菜の胡麻和え、サラダ、焼き鮭、キャベツと油揚げの味噌汁を、鳴成が頑張って作る予定だ。
―――――――――――――――
昼過ぎに品川を出発した二人は、鳴成の運転する車で美術館へと移動した。
特別展示として開催前から話題だったアールヌーヴォーの絵画やガラス工芸品、家具の曲線美をじっくりと堪能した。
特に、この時代を象徴するチェコ出身画家が描いた植物と女性の融合は、遠くから全体のまとまりを鑑賞する楽しみと、近くでその繊細さを事細かに観察する楽しみのどちらも味わえて、長い時間足を止めてしまった。
「感性を刺激される経験は、畑は違えど翻訳作業に必ず良い影響を及ぼしてくれる」と呟く鳴成を見て、満足そうに微笑む月落だった。
じっくりと2時間アートの世界を堪能した両者は、次の場所へと足を向けた。
「え、先生。ここに座るんですか?」
「ええ、ここです」
月落が手の平で指し示すのは、緑の西陣織が艶やかなペアシートだ。
公共の場でカップルシートと同義の席に男同士で座る。
普段ある程度の人目しか気にしない月落ではあるが、周囲の皆さんの反応はどうなんだろうと周りをちらりと確認する。
室内の絶妙な暗さのおかげか、現実離れした空間のおかげか、不躾な視線に晒されている状況ではなさそうだと安心して、遠慮を捨ててシートに座った。
ちなみに、鳴成はあっけらかんとした様子で靴を脱ぎ、既に仰向けて寝っ転がっている。
普段は公私の線引きをきっちりするのに、ふとした瞬間の行動が予想の斜め上を行くのが興味深くてどうにも頼もしい。
「プラネタリウムは一人だと若干来づらいので、今日連れて来てもらえて嬉しいです」
「実は私は初めて来ました」
「本当ですか?星にあんまり興味がなかったり?」
「そうですね。天体に浪漫を抱くタイプではなかったですね、今までは。でも、きみの家で満天の星空を眺める内に、燃える軌跡に想いを馳せるのも趣があるなと思えるようになりました」
「僕の功績ですか?」
「ええ、きみの功績です」
褒められて、無邪気に喜ぶ月落に優しい視線を送る鳴成。
見つめ合っていると室内灯が消える。
頭上に映し出される全天周映像に、意識が惹き込まれて。
50分の銀河の旅へ。
―――――――――――――――
運転していた車を鳴成の自宅に停めて、徒歩で外苑前へと向かう。
表通りから一本奥へと入った先にあるアーチ型の古びた木製の扉を開けると、草木の整った前庭が現れた。
奥にあるもう一枚の扉の前にはレセプションが置かれている。
「18時に予約をしている鳴成です」
「お待ちしておりました」
白シャツに黒いベスト、黒いサロンエプロンを巻いた男性スタッフに誘われ中へと入る。
進んだ先の空間には、スペインの住宅によくある中庭が広がっていた。
天井は全面ガラスのドーム型。
周りの白い壁には青に塗られた本物のアパートのような窓や扉、階段が造られ、緑と花で飾られている。
モザイクタイルの上には間隔を広めに取られた二人掛けの大きめのテーブルが9席のみ。
ランタンの街灯が、厳かに照らしている。
「世界観が作りこまれてて、見事ですね」
「ええ、まるでスペインのパティオにワープしたようですね」
白いテーブルクロスが掛けられた、一番端の丸いテーブルに着席する。
「本日はようそこお越しくださいました。こちらが本日ご予約頂きました、お食事のメニューでございます」
席へと案内をしてくれた男性スタッフと同じ格好をした女性スタッフがどこからともなく現れ、鳴成と月落それぞれに2枚のメニュー表を渡す。
ひとつは食事の、そしてもうひとつはドリンクメニューのようだ。
ワインやビール、サングリア、カクテル、ノンアルコールと種類豊富に記載されている。
「お先にお飲み物をお伺いいたします」
「せっかくなのでスペインの食前酒を頂きたいんですが、おすすめはありますか?」
「食前酒ですとシェリー酒がおすすめでございます。こちらの辛口のシェリーはさっぱりと軽い口当たりで食欲が湧くと、現地でも人気でございます」
「美味しそうですね?」
「はい、飲んでみたいです」
尋ねる鳴成に、月落はすぐさま同意する。
「ご用意いたします。お待ちくださいませ」
そう言葉とドリンクメニューを残して、女性は去って行った。
「スペイン料理、久しぶりなので本当に楽しみです」
「ここはコースの品数も一皿の量も多いらしいので、きっときみのお腹も満たされると思います」
「友人に話したら驚かれました。先生、よく予約取れましたね?」
この日訪れた店は、スペイン料理のレストラン。
本場スペインバル仕込みの本格タパスが、レストラン仕様の優雅さで提供される。
その圧倒的な美味しさとテーマ性の強い空間演出が口コミで広がり、いま絶賛予約超困難な有名店だ。
先週参列した結婚式で会った友人も知っていて、予約できたことに驚かれ、一緒に行かせてほしいとまるでプロポーズするかの如く真剣な眼差しで懇願されて、その暑苦しい顔を引き剝がすのに月落は大変苦労した。
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