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04. 普通の会話(みたいなもの)が出来る喜び
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「ステファン、おはよう」
「ベルジュード、おはよう」
「今日の調子はどうだい?」
(今日の調子を訊く→身体だけじゃなく心の調子も訊かれている→心配事は特にない→悩み多き世間の皆さんごめんなさい)
「能天気すぎて後ろから石を投げられなければいいな、と思ってる」
「……ということは、今日のステファンには悩み事はないようだね?」
「うん、今のところは」
「良い滑り出しだね。素晴らしいよ」
「ベルジュードの今日の調子はどう?」
「君に会えるというのに、最低な気分になるはずがない。とてもとてもハッピーだよ」
「……褒めてる?」
「褒めているよ、全力で」
ステファンの学校生活は、隣に座る貴公子との挨拶から始まる。
初登校の日から一か月が経った。
挨拶しかり、軽いやりとりしかりで、小さな違和感を問答無用で植えつけられた周囲からの視線に晒される毎日ではあるけれど、さすがに慣れた。
それで何か危害を加えられるということに発展することはなさそうなので、気にしないようにしている。
友達はベルジュードとショーンの二人だけだけれど、両者が常にステファンのそばにいるので全く寂しくない。
その大層な家門に関わらず身分差を感じさせずに親し気に接してくれるので、肩身の狭い思いなどすることはなく。
特にベルジュードは、奇怪な自分の返答も肯定的に受け取ってくれるし、何よりも彼自身の言葉に裏の意味が全くないのが明白で安心する。
ステファンの脳裏に、ここ一か月の己の声が蘇る。
「ううん、登校は徒歩だよ。家に馬車があるか? その問いは、宇宙の創生論に繋がる議題だったりする?」
「一緒に帰ろうっていう誘いは、今日が今生の別れになるかもしれないっていうのと同義?」
「お昼をカフェテリアで? うちは毒草の研究で知られてるけど、それを食したりはしないから特に面白いものは見せられないよ。それでもいい?」
記憶に残っているだけでも数えきれないほどに投げた、脳内で不可思議な方向に錬成された疑問。
その全てにベルジュードは根気強く言葉を返してくれた。
「馬車がないなら、私と共に登校するのはどうかなと思ったんだ。君の家から学校は少し遠いだろう? この宇宙の誕生にはあまり興味はないけれど、君の内側の壮大なる宇宙誕生の秘話は、ゆっくり知っていきたいね」
「ステファンと別れることは、今世ではきっとないから安心して。貴族街に繋がる大通りに新しいケーキ屋さんが建ったと聞いたから、今日一緒にどうかなと思ってね」
「それが例え毒草でも、君が食べてるならご馳走に見えるだろうね。何なら私も食してみたいな」
馬鹿にしない。
眉を顰めて聞き返さない。
諦めて適当にあしらわない。
受け入れてくれる。
相槌を打ってくれる。
最後まで聞いてくれる。
初めて王都で友達が出来た喜びで不安は一瞬消えたけれど、まともな会話が果たして出来るのだろうかと次の瞬間には怯えるステファンを、けれどベルジュードはどの瞬間も見放さなかった。
そればかりか、裏の裏の裏を読むまで待って、言葉が紡がれるのを邪魔せずに聞いて、それに対する返事と最後には自分の意見を付け加えて述べてくれる。
彼の元で軌道修正されて投げ返される会話は、自然と普通の会話を装うことさえも可能なようで。
とても嬉しかった。
そんな二人の、時々歪なやりとりをそばで眺めて肩を震わせて笑うショーンも、ステファンに苛立ちを示すことは一切なく、むしろ笑い倒れる時も多かった。
和やかな雰囲気。
そんな友達との交流は、震えていた小動物の心境の変化を確実に及ぼした。
―――――――――――――――
「ステファン、今日もお茶をして帰ろうか?」
「僕は放課後予定はないけど、木曜日だから、ベルジュードは家庭教師が来る日じゃないの?」
「今日は先方都合でなしになった。その代わり、来週で倍量学ばないといけないけれどね」
「お疲れ様。聞いただけで大変だね」
「ありがとう。労いのハグをしてくれるかい? 癒されたいんだ」
「うん、いいよ」
王都に来てから友人のいなかったステファンだ。
そのスキンシップが友人としての境界線を飛び越えているとは、中々に気づけない。
背の高いベルジュードを抱き締めるように、踵を浮かせて腕を目の前の首に巻きつけた。
腰の辺りに添えられる腕。
その痩身は、覆いかぶさるようにする大きな青年の温もりで包まれる。
うなじ辺りの髪を、そっと撫でられた。
「元気になった?」
「まだかな。もう少しだけ」
「身体が大きいから、チャージにも時間がかかるのかな?」
「そうかもしれない」
「あ、じゃあ、背中からショーンも抱き締めれば速まるんじゃ……」
「それは断固拒否するよ」
「俺だって断固拒否だわ。てかさ、お前らそういうの、教室出てからやろうな? 注目の的な?」
ショーンが両手で作った手刀をステファンとベルジュードの間に差し込むと、力ずくで開いて両者を離れさせた。
恨みがましくショーンを見遣るベルジュードと、周りに視線を巡らせるステファン。
教室の最後方の窓際にいる三名は、帰り支度をしているクラスメイトからのスポットライトを一心に浴びていた。
キャラメルベージュの小動物が怖がらないように、ベルジュードは半ば無意識で壁となる。
「帰ろうか? ステファン」
「うん、そうする」
「カフェに行く? それともこの前のケーキ屋さんにするかい?」
「あのバタークリームのケーキは、ベルジュードでも美味しく食べられた?」
「うん、あれは甘みもほどほどで好きな味だったね」
「じゃあ、それをもう一回食べに行きたい」
「オーケー、そうしよう。じゃあな、ショーン」
「俺は誘わないんかーい!」
鞄を持って去る二人の背中に、友人であるはずの青年の声が当たって砕けた。
制服を着た男子学生ふたりの前に、ケーキが3種類並んでいる。
決められないと悩むステファンに、甘やかし大魔神が降臨した結果だ。
小さな口でクリームの小山を頬張る姿に、炎天下のアイスクリームの如く瞳を溶けさせる。
「美味しい?」
「うん、タルトがすごく美味しい」
「注文するのを諦めなくてよかったね。ステファンはどれが一番好きかな?」
フルーツタルト、バターケーキ、バッテンバーグケーキを手の平で示したベルジュードが問う。
好きな子の情報はひとつでも多い方がいい。
今後、家にステファンを招待した時に好物を並べて点数稼ぎをしたいという、やや邪な気持ちからの質問だった。
ステファンはしばし考える。
そして、出した答えは。
「……僕を捨てないで、ベルジュード」
しゅんとした表情になったステファンはフォークを置いた。
一瞬前までの幸せそうな笑顔から一転、不安そうな表情を浮かべている。
裏の裏の裏を読むことで思考は遥か彼方まで飛んでしまう。
その着地点は往々にして奇妙な場所であるが、負の感情に結び付く時もある。
「捨てないよ、ステファン。どうして私が君を捨てるんだい? こんなにも好きなのに。どうしてその回答にたどり着いたか教えてくれるかな?」
「一番が決められなくて、全部好きで。だけど、それだと強欲だって思われるかなって。呆れられて友人関係は解消、そうすると僕はまたひとりぼっちになるから、寂しくて……」
縺れた糸は、二段階目から間違った方向に結ばれている。
それに気づかないのは、本人ばかりだ。
「たとえば君が強欲だとして、私としてはとても大歓迎だよ」
「どうして? 友達が欲望の塊なのは嫌じゃないの?」
「普通ならば走って逃げるところではあるけれど、それがステファンならば私はむしろ喜び勇んで近づきたいよ。こんな風にね」
そう言いながら、椅子を持ってステファンへと近づく。
対面から隣へと移ったベルジュードに、両頬を手で挟まれた。
顔を寄せられる。
「君の欲望を、全部満たせる男になりたいんだ」
「欲望を満たす……どういう意味? 何でも買ってくれるってこと?」
「もちろん、それはそうなんだけど。その裏を読んでみて」
「裏……?」
隅の奥の席ではあるけれど、人目をはばからない過剰なスキンシップにステファンは仰け反る。
けれど、それ以上距離を開けるのは許されなかった。
睫毛を震わせて必死に考える。
そして、出した答えは。
「……税金対策?」
「あはは、思わぬところに飛んで行ってしまった。うん、そんなところもチャーミングだよ。私の心を鷲掴みだ」
やっと身体が離れた。
ほっとため息を吐くステファンの赤く染まった耳元は、ベルジュードに撫でられる。
驚きに肌の感覚が鈍くなっているのか、そこまでの認知機能が働かないのか、されるがままだ。
初対面でのキス以来、ハグ以上の触れ合いはなかったため警戒心を怠っていた。
鈍い小動物の警戒心など、取るに足らないものではあるけれど。
濃いグレーの瞳の麗しい顔に接近されると、なぜだかドキドキが止まらない。
博物館に飾られた精巧な彫刻作品を見たって、こうはならないのに。
「話を戻そうね。ステファン、私が君との関係を解消することは一生ないから、心配しないで」
「うん、ありがとう」
「というよりむしろ、覚悟をしてほしい」
「覚悟……?」
「君を、ステフと呼んでも?」
この国では、名前を縮めた愛称で呼ぶのは恋人か、限りなくそれに近い間柄限定である。
それを両者で認め合えば、つまりはそういうことなのだが。
「うん、いいよ」
簡単に返事をしたステファン、きっと分かっていない。
だからこそ貴公子は、それに乗じて言質を取ってしまおうと画策した。
「私のことはジュードと呼んでくれる?」
「……もしかして、ベルジュードは隣国から亡命してきた姫様の隠し子だったりするの?」
「……どうしてその結論になったのか、説明してもらえるかな? ステフ」
策士、失敗に終わる。
ケーキに囲まれた放課後の論理展開講座は、それからもうしばらく続いた。
「ベルジュード、おはよう」
「今日の調子はどうだい?」
(今日の調子を訊く→身体だけじゃなく心の調子も訊かれている→心配事は特にない→悩み多き世間の皆さんごめんなさい)
「能天気すぎて後ろから石を投げられなければいいな、と思ってる」
「……ということは、今日のステファンには悩み事はないようだね?」
「うん、今のところは」
「良い滑り出しだね。素晴らしいよ」
「ベルジュードの今日の調子はどう?」
「君に会えるというのに、最低な気分になるはずがない。とてもとてもハッピーだよ」
「……褒めてる?」
「褒めているよ、全力で」
ステファンの学校生活は、隣に座る貴公子との挨拶から始まる。
初登校の日から一か月が経った。
挨拶しかり、軽いやりとりしかりで、小さな違和感を問答無用で植えつけられた周囲からの視線に晒される毎日ではあるけれど、さすがに慣れた。
それで何か危害を加えられるということに発展することはなさそうなので、気にしないようにしている。
友達はベルジュードとショーンの二人だけだけれど、両者が常にステファンのそばにいるので全く寂しくない。
その大層な家門に関わらず身分差を感じさせずに親し気に接してくれるので、肩身の狭い思いなどすることはなく。
特にベルジュードは、奇怪な自分の返答も肯定的に受け取ってくれるし、何よりも彼自身の言葉に裏の意味が全くないのが明白で安心する。
ステファンの脳裏に、ここ一か月の己の声が蘇る。
「ううん、登校は徒歩だよ。家に馬車があるか? その問いは、宇宙の創生論に繋がる議題だったりする?」
「一緒に帰ろうっていう誘いは、今日が今生の別れになるかもしれないっていうのと同義?」
「お昼をカフェテリアで? うちは毒草の研究で知られてるけど、それを食したりはしないから特に面白いものは見せられないよ。それでもいい?」
記憶に残っているだけでも数えきれないほどに投げた、脳内で不可思議な方向に錬成された疑問。
その全てにベルジュードは根気強く言葉を返してくれた。
「馬車がないなら、私と共に登校するのはどうかなと思ったんだ。君の家から学校は少し遠いだろう? この宇宙の誕生にはあまり興味はないけれど、君の内側の壮大なる宇宙誕生の秘話は、ゆっくり知っていきたいね」
「ステファンと別れることは、今世ではきっとないから安心して。貴族街に繋がる大通りに新しいケーキ屋さんが建ったと聞いたから、今日一緒にどうかなと思ってね」
「それが例え毒草でも、君が食べてるならご馳走に見えるだろうね。何なら私も食してみたいな」
馬鹿にしない。
眉を顰めて聞き返さない。
諦めて適当にあしらわない。
受け入れてくれる。
相槌を打ってくれる。
最後まで聞いてくれる。
初めて王都で友達が出来た喜びで不安は一瞬消えたけれど、まともな会話が果たして出来るのだろうかと次の瞬間には怯えるステファンを、けれどベルジュードはどの瞬間も見放さなかった。
そればかりか、裏の裏の裏を読むまで待って、言葉が紡がれるのを邪魔せずに聞いて、それに対する返事と最後には自分の意見を付け加えて述べてくれる。
彼の元で軌道修正されて投げ返される会話は、自然と普通の会話を装うことさえも可能なようで。
とても嬉しかった。
そんな二人の、時々歪なやりとりをそばで眺めて肩を震わせて笑うショーンも、ステファンに苛立ちを示すことは一切なく、むしろ笑い倒れる時も多かった。
和やかな雰囲気。
そんな友達との交流は、震えていた小動物の心境の変化を確実に及ぼした。
―――――――――――――――
「ステファン、今日もお茶をして帰ろうか?」
「僕は放課後予定はないけど、木曜日だから、ベルジュードは家庭教師が来る日じゃないの?」
「今日は先方都合でなしになった。その代わり、来週で倍量学ばないといけないけれどね」
「お疲れ様。聞いただけで大変だね」
「ありがとう。労いのハグをしてくれるかい? 癒されたいんだ」
「うん、いいよ」
王都に来てから友人のいなかったステファンだ。
そのスキンシップが友人としての境界線を飛び越えているとは、中々に気づけない。
背の高いベルジュードを抱き締めるように、踵を浮かせて腕を目の前の首に巻きつけた。
腰の辺りに添えられる腕。
その痩身は、覆いかぶさるようにする大きな青年の温もりで包まれる。
うなじ辺りの髪を、そっと撫でられた。
「元気になった?」
「まだかな。もう少しだけ」
「身体が大きいから、チャージにも時間がかかるのかな?」
「そうかもしれない」
「あ、じゃあ、背中からショーンも抱き締めれば速まるんじゃ……」
「それは断固拒否するよ」
「俺だって断固拒否だわ。てかさ、お前らそういうの、教室出てからやろうな? 注目の的な?」
ショーンが両手で作った手刀をステファンとベルジュードの間に差し込むと、力ずくで開いて両者を離れさせた。
恨みがましくショーンを見遣るベルジュードと、周りに視線を巡らせるステファン。
教室の最後方の窓際にいる三名は、帰り支度をしているクラスメイトからのスポットライトを一心に浴びていた。
キャラメルベージュの小動物が怖がらないように、ベルジュードは半ば無意識で壁となる。
「帰ろうか? ステファン」
「うん、そうする」
「カフェに行く? それともこの前のケーキ屋さんにするかい?」
「あのバタークリームのケーキは、ベルジュードでも美味しく食べられた?」
「うん、あれは甘みもほどほどで好きな味だったね」
「じゃあ、それをもう一回食べに行きたい」
「オーケー、そうしよう。じゃあな、ショーン」
「俺は誘わないんかーい!」
鞄を持って去る二人の背中に、友人であるはずの青年の声が当たって砕けた。
制服を着た男子学生ふたりの前に、ケーキが3種類並んでいる。
決められないと悩むステファンに、甘やかし大魔神が降臨した結果だ。
小さな口でクリームの小山を頬張る姿に、炎天下のアイスクリームの如く瞳を溶けさせる。
「美味しい?」
「うん、タルトがすごく美味しい」
「注文するのを諦めなくてよかったね。ステファンはどれが一番好きかな?」
フルーツタルト、バターケーキ、バッテンバーグケーキを手の平で示したベルジュードが問う。
好きな子の情報はひとつでも多い方がいい。
今後、家にステファンを招待した時に好物を並べて点数稼ぎをしたいという、やや邪な気持ちからの質問だった。
ステファンはしばし考える。
そして、出した答えは。
「……僕を捨てないで、ベルジュード」
しゅんとした表情になったステファンはフォークを置いた。
一瞬前までの幸せそうな笑顔から一転、不安そうな表情を浮かべている。
裏の裏の裏を読むことで思考は遥か彼方まで飛んでしまう。
その着地点は往々にして奇妙な場所であるが、負の感情に結び付く時もある。
「捨てないよ、ステファン。どうして私が君を捨てるんだい? こんなにも好きなのに。どうしてその回答にたどり着いたか教えてくれるかな?」
「一番が決められなくて、全部好きで。だけど、それだと強欲だって思われるかなって。呆れられて友人関係は解消、そうすると僕はまたひとりぼっちになるから、寂しくて……」
縺れた糸は、二段階目から間違った方向に結ばれている。
それに気づかないのは、本人ばかりだ。
「たとえば君が強欲だとして、私としてはとても大歓迎だよ」
「どうして? 友達が欲望の塊なのは嫌じゃないの?」
「普通ならば走って逃げるところではあるけれど、それがステファンならば私はむしろ喜び勇んで近づきたいよ。こんな風にね」
そう言いながら、椅子を持ってステファンへと近づく。
対面から隣へと移ったベルジュードに、両頬を手で挟まれた。
顔を寄せられる。
「君の欲望を、全部満たせる男になりたいんだ」
「欲望を満たす……どういう意味? 何でも買ってくれるってこと?」
「もちろん、それはそうなんだけど。その裏を読んでみて」
「裏……?」
隅の奥の席ではあるけれど、人目をはばからない過剰なスキンシップにステファンは仰け反る。
けれど、それ以上距離を開けるのは許されなかった。
睫毛を震わせて必死に考える。
そして、出した答えは。
「……税金対策?」
「あはは、思わぬところに飛んで行ってしまった。うん、そんなところもチャーミングだよ。私の心を鷲掴みだ」
やっと身体が離れた。
ほっとため息を吐くステファンの赤く染まった耳元は、ベルジュードに撫でられる。
驚きに肌の感覚が鈍くなっているのか、そこまでの認知機能が働かないのか、されるがままだ。
初対面でのキス以来、ハグ以上の触れ合いはなかったため警戒心を怠っていた。
鈍い小動物の警戒心など、取るに足らないものではあるけれど。
濃いグレーの瞳の麗しい顔に接近されると、なぜだかドキドキが止まらない。
博物館に飾られた精巧な彫刻作品を見たって、こうはならないのに。
「話を戻そうね。ステファン、私が君との関係を解消することは一生ないから、心配しないで」
「うん、ありがとう」
「というよりむしろ、覚悟をしてほしい」
「覚悟……?」
「君を、ステフと呼んでも?」
この国では、名前を縮めた愛称で呼ぶのは恋人か、限りなくそれに近い間柄限定である。
それを両者で認め合えば、つまりはそういうことなのだが。
「うん、いいよ」
簡単に返事をしたステファン、きっと分かっていない。
だからこそ貴公子は、それに乗じて言質を取ってしまおうと画策した。
「私のことはジュードと呼んでくれる?」
「……もしかして、ベルジュードは隣国から亡命してきた姫様の隠し子だったりするの?」
「……どうしてその結論になったのか、説明してもらえるかな? ステフ」
策士、失敗に終わる。
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