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完結おまけ:とある隠密頭の訴え
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ノキバの隠密頭は報告書を片手に戻ってきたフツイの引退しようと思いますという言葉に、呆然とオウム返しで応じた。
「え? 引退?」
「はい」
「えー…ちなみに、理由は? 待遇改善要求があるなら応じるけど…」
前兆のない突然の引退宣言に、何かの交渉かと一応聞いてみる。
「いえ、もう私もいい歳ですし」
「いやいやいやぁ、お前さんは全然だろ」
「それが行く先々でバレてしまって」
「…バレた?」
「仕事に支障はきたしてませんが、もう潮時かなと」
応えながら、ああそろそろか、と隠密頭は思っていた。
特徴の無い事が特徴な情報収集担当の隠密達はだいたい三十前後で引退する事が多い。単純に体力と言うのもあるが、一般に年嵩な人間は屋敷の中だと中堅の役職に就いている事が増えてくるため、紛れ難くなるのだ。それに、精神面での疲れが出始めたりもする。
フツイなどは、こいつ歳止まっていないか、と感じるほど二十五を過ぎたあたりから変化が見あたらなかったのだが。本人の意思が一番の問題なので、誤魔化すように言いながらも、隠密頭は頭の中でフツイの引退と補充人員の算段を付け始めた。
「まぁお前さんが引退したいってのに引き止めはしねぇけどよ…引退ってのは、ノキバをだろ? 後の事は決めてんのか?」
「ええ、キョートウ国の王太子殿下に就職口をいただきました」
「………………えー…」
フツイの言葉に隠密頭の顔が何とも表現し難いが、嫌な感情なのだろうなとは察せられる表情を浮かべる。
「それってさ、今離宮で第二王子探ってる新人の件とかと関係あったりするのか?」
「直接的な関係は一切ありませんね。引退と再就職の件は私と王太子殿下の間での事ですし。彼の問題は…一応第二王子殿下との間だけの事でしょうし」
「お前さん、もしかして何か知ってるな?」
「何をでしょう?」
「…ひとまず、魔道具の指輪の効果とかだな」
「ジンナ王家の男系に伝わる呪いの指輪で、何でも運命の相手を引き寄せるそうですよ」
「はぁあ?」
フツイの言葉に隠密頭は頭を抱えたくなった。
(運命の相手ってなんだよ。そんな指輪で隠密引き寄せるってなんだよ。もうキョートウ国って何なんだよ。あの国本当にどうかしてるぞ。もうあそこの王家に新しい人員入れるの嫌だわぁ…)
隠密頭は前からずっと思っていたが、キョーナン国民の性質にキョートウ国王家の性質は水と油だ。新人研修めいた人員の投入を繰り返しているが、だいたい戻ってきた隠密が、あの国は何で国として成立しているんですか、という疑問を抱く。勿論、その隠密達から報告を受ける隠密頭も同じ疑問を常に持っている。
「あいつにゃ気の毒だが…もうキョートウ国付になってもらうかな………。なぁ、お前さんもどうせキョートウ国に居るんならよ、王太子さんの合意が得られてからってんでも良いからこっちに報告上げてくんねぇか? 組織外協力者として報酬は支払うからよ」
「構いませんよ」
「ありがとよ」
うんざりと諦めを綯い交ぜにした感情で、隠密頭はそれでも仕事をしなくては、と人員手配とミツマへの手紙を書いた。
そんな隠密頭の元に、何故か知らないが、うちに来てくれそうな隠密の女性はいませんか、という第三王子からの問い合わせの文が、ミツマ経由で届く事になるのだが、それは半年ほど先の話である。
「見合い斡旋所じゃねぇんだよ!」
叫ぶ隠密頭の訴えは、特に誰の耳にも届かず消えていった。
更に数日後、隠密頭の愛娘が忽然と姿を消す事案が発生し、人材盗難被害届けはどこに出せば良いのか、と役人に問い合わせる隠密頭が居たが、キョートウ国の人間は誰も知らない事である。
□fin
「え? 引退?」
「はい」
「えー…ちなみに、理由は? 待遇改善要求があるなら応じるけど…」
前兆のない突然の引退宣言に、何かの交渉かと一応聞いてみる。
「いえ、もう私もいい歳ですし」
「いやいやいやぁ、お前さんは全然だろ」
「それが行く先々でバレてしまって」
「…バレた?」
「仕事に支障はきたしてませんが、もう潮時かなと」
応えながら、ああそろそろか、と隠密頭は思っていた。
特徴の無い事が特徴な情報収集担当の隠密達はだいたい三十前後で引退する事が多い。単純に体力と言うのもあるが、一般に年嵩な人間は屋敷の中だと中堅の役職に就いている事が増えてくるため、紛れ難くなるのだ。それに、精神面での疲れが出始めたりもする。
フツイなどは、こいつ歳止まっていないか、と感じるほど二十五を過ぎたあたりから変化が見あたらなかったのだが。本人の意思が一番の問題なので、誤魔化すように言いながらも、隠密頭は頭の中でフツイの引退と補充人員の算段を付け始めた。
「まぁお前さんが引退したいってのに引き止めはしねぇけどよ…引退ってのは、ノキバをだろ? 後の事は決めてんのか?」
「ええ、キョートウ国の王太子殿下に就職口をいただきました」
「………………えー…」
フツイの言葉に隠密頭の顔が何とも表現し難いが、嫌な感情なのだろうなとは察せられる表情を浮かべる。
「それってさ、今離宮で第二王子探ってる新人の件とかと関係あったりするのか?」
「直接的な関係は一切ありませんね。引退と再就職の件は私と王太子殿下の間での事ですし。彼の問題は…一応第二王子殿下との間だけの事でしょうし」
「お前さん、もしかして何か知ってるな?」
「何をでしょう?」
「…ひとまず、魔道具の指輪の効果とかだな」
「ジンナ王家の男系に伝わる呪いの指輪で、何でも運命の相手を引き寄せるそうですよ」
「はぁあ?」
フツイの言葉に隠密頭は頭を抱えたくなった。
(運命の相手ってなんだよ。そんな指輪で隠密引き寄せるってなんだよ。もうキョートウ国って何なんだよ。あの国本当にどうかしてるぞ。もうあそこの王家に新しい人員入れるの嫌だわぁ…)
隠密頭は前からずっと思っていたが、キョーナン国民の性質にキョートウ国王家の性質は水と油だ。新人研修めいた人員の投入を繰り返しているが、だいたい戻ってきた隠密が、あの国は何で国として成立しているんですか、という疑問を抱く。勿論、その隠密達から報告を受ける隠密頭も同じ疑問を常に持っている。
「あいつにゃ気の毒だが…もうキョートウ国付になってもらうかな………。なぁ、お前さんもどうせキョートウ国に居るんならよ、王太子さんの合意が得られてからってんでも良いからこっちに報告上げてくんねぇか? 組織外協力者として報酬は支払うからよ」
「構いませんよ」
「ありがとよ」
うんざりと諦めを綯い交ぜにした感情で、隠密頭はそれでも仕事をしなくては、と人員手配とミツマへの手紙を書いた。
そんな隠密頭の元に、何故か知らないが、うちに来てくれそうな隠密の女性はいませんか、という第三王子からの問い合わせの文が、ミツマ経由で届く事になるのだが、それは半年ほど先の話である。
「見合い斡旋所じゃねぇんだよ!」
叫ぶ隠密頭の訴えは、特に誰の耳にも届かず消えていった。
更に数日後、隠密頭の愛娘が忽然と姿を消す事案が発生し、人材盗難被害届けはどこに出せば良いのか、と役人に問い合わせる隠密頭が居たが、キョートウ国の人間は誰も知らない事である。
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