アリスと魔王の心臓

金城sora

文字の大きさ
17 / 52

鼓動

しおりを挟む
「・・・・・ま・・じかっ・・・・」

その光景を見たウェインは呟いた。

絶句しているウェインをこきつかって馬車を起こし、一応ミシェルに位置探査の魔法で他に飛翔悪魔ガーゴイルがいないか調べてもたった。

反応が無かったので大丈夫だろうということにした。

ダナンさん(助けた家族の父親)一家は北の港町から闘都に向かう途中だったらしい。

せっかくなので一緒に行くことにした。

お礼に闘都まで飛翔悪魔ガーゴイルを運んで貰うことになった。

私が棄てていこうと思っていたら、飛翔悪魔ガーゴイルの遺体3つでかなりの金額になるらしい。

回復薬ポーションに関してはこっちが勝手に使っただけだからいいと押し切った。

「どうして闘都へ?」

道中の馬車の中で奥さんのヨーメさんに聞いてみた。

「この子達がどうしても武闘大会を見たいと言うので行商ついでに家族で行くことにしたんです」

エレナちゃんを膝枕で寝かして頭を撫でながら喋るヨーメさん。

えっ?

「もう武闘大会終わっちゃってますよ?」

私が言うと

「えーーーっ!そーなの?」

息子のエレンががっくりと肩を落とした。

「そうなんですか?
残念だったわね、エレン」

ヨーメさんが肩を落とすエレン君を慰める。

ミシェルがクスクスと笑っている。

「でも、良かったですね。
今年の優勝者の本気を間近で見れたではありませんか」

えっ?っとヨーメさんが顔をあげる。

「どーゆーこと?」

エレン君がうなだれながらミシェルを見る。

「何を隠そう、そこにいるアリスさんが今年の武闘大会の優勝者ですよ」

「「「えー!!!」」」

ヨーメさんにエレン君、御者しているダナンさんまで叫んだ。

なんか照れる。

「それに、武闘大会でも本気は出していませんでした。
さっきの飛翔悪魔ガーゴイルとの戦いの方がよっぽど凄かったですよ。
武闘大会で戦った私が言うんですから間違いありません」

「通りで、飛翔悪魔ガーゴイルをまるで子供扱いするわけだ!」

ダナンさんが感嘆の声をあげた。

「ちなみにあちらで走っておられるのが準優勝者のウェイン様です」

馬車は幌が燃えて見晴らしが良くなっている。

ゆっくり走る馬車の横を私の言われて走らされているのはウェイン君だ。

「ほらっ!  疲れた時こそしっかり集中して心現術を使えるようになんないとっ!」

一応、荷物は全部馬車に乗せてもらって身軽ではあるが、かなりキツそうだ。

全然、心現術は発動出来ていない。

完璧に体だけの力で走っている。

心現術に弱点だ、頭がしっかりしていないと発動が難しい。

私もランピオンに襲われたとき、最初に頭を強く打ったせいで心現術を使えなくて負けた。

それが悔しくて、あれから散々鍛練してかなりの疲労状態、酸欠状態でも使えるように訓練した。

そのお陰で心現術の精度もかなり良くなった。

ウェイン君はもう無言で走っている。

「スッゲーや!おねーちゃんあの人を弟子にしたの?
俺のことも弟子にしてよ!」

エレン君が無邪気にはしゃぐ。

「いや、弟子じゃないんだけど」

「ほらっ、エレン。
アリスおねーちゃん困ってるでしょ」

ヨーメさんに言われてはーいと返事をする。

「でも、それを言うならミシェルも武闘大会の準決勝で私と戦ったのよ。
凄く強かったんだから」

「凄いな、武闘大会の上位者が三人もいるんじゃ魔物の群れが来ても安心だ」

ダナンさんが笑いながら言った。

「俺もおっきくなったら武闘大会に出るよ!」

キラキラした瞳が良いなエレン君。

「でも、本当に凄かったですね。
空中で飛閃を撃つなんて初めて見ました。
飛閃は発動がそもそも難しいですし、それを踏ん張りの効かない空中でなんて・・・
アリスさんは一体、心現術をどれくらい鍛練なさってこられたんですか?」

ミシェルも興味深く聞いてきた。

「えっと、1年弱くらいかな」

「まじかっ!」

馬車の隣で聞き耳をたてていたウェインが叫んだ。

ミシェルも信じられないとばかりに目を見開いている。

ウェインが馬車に飛び乗ってきた。

「いくらなんでも天才すぎないか?
普通、飛閃を撃てるようになるにも2~3年はかかる!」

ウェインが納得いかなそうに言う。

「飛閃ってなに?」

「まじか、心現術で斬撃を飛ばす事を飛閃って言うんだ」

「そーなんだ、そう言えば。
私に心現術を教えてくれた人も言ってたな」

2~3年やっても出来ないやつは出来ないって

「その、アリスに心現術を教えたのってどんな奴なんだ?名前は?」

「ノイマン・ヴァンデルフよ」

「「えぇっ?」」

ウェインとミシェルが同時に驚いた。

ミシェルはウェインが喋っているときは絶対に口を挟まない。

そんなミシェルが声をあげたのだからよっぽど驚いたんだろう。

「知ってるの?」

「知ってるも何も、まぁついでみたいなもんだけど。
ノイマンさんを探している旅の途中でもあったんだ」

「そーなの?」

「あぁ、ノイマンさんは今どこに?」

「あの・・・」

気分がどっぷりと沈んでいく。

まだ、全然吹っ切れた訳じゃない。

考えないようにしてただけ。

ノイマンはもう

「彼は死んだわ」

また、涙が出そうになる。

「なっ!」   「っ!!!」

二人がまたあり得ないという顔をする

「そんなバカな、彼が死ぬはずがない」

「私だって信じたくないけど」

「違う!そう言うことじゃない!」

私の言葉をウェインが遮った。

「信じたく無いとかじゃない、死なないんだ。
ノイマンさんは天秤の大賢者、フォン・ヴァンデルフが造り出した人造人間ホムンクルス!!
不老不死だ!!」

はい?

「だから、死ぬはずがない!
死なないんだ」

じゃあ・・・・

「ウェイン様、まずはアリスさんの話を詳しく聞きましょう。
特長や何か魔法を使っていなかったかなど」

そうか、人違いということもある。

ウェインも頷いた。

「すまない、じゃあ何か魔法は使っていなかったか?」

「えっと、私が見たのは指を弾いてられた木をなん十本もいっぺんに治したり。
私を抱えて空を翔んだりとか」

「呪文詠唱無しで指を弾いて?」

ウェインが確認する。

「えぇ」

「翔んだ時は?」

「ただジャンプしたらどんどん高く上がっていったわ」

「そんな真似が出来るのが他に何人もいるはず無い。
ましてや、同姓同名で」

ウェインはミシェルの方へ目で同意を求める。

「そうですね。
亡くなられたときの状況は?」

ミシェルが聞く。

「分からない、私が気を失っている間だったから。」

「どうして気を失っていたんだ?」

「心臓を魔法剣で貫かれて焼かれたのよ、気が付いたのは二週間後。
起きたときにはノイマンは死んだと聞かされた。
私はそれでノイマンが私を助けるために無茶な魔法を使って助けたせいで死んだと思ってたわ」

一息に喋る。

「心臓を焼かれた?
いくらなんでも、ノイマンさんでも治せないはずだ・・・・」

ウェインが黙りこんだ。

ミシェルは暗い顔をしている。

「アリスさん、少し失礼します」

そう言って私の胸に、心臓の位置に手を触れた。

「まさか・・・・」

ウェインが見守るなかミシェルは私の胸から手を放した。

「間違い無さそうです」

ウェインは何も言わない

「なに?どーしたの?」

言い様の無い不安が襲う・・・



「・・・・・アリスさん・・・心臓が・・・・・・・動いていません・・・・・」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

それは思い出せない思い出

あんど もあ
ファンタジー
俺には、食べた事の無いケーキの記憶がある。 丸くて白くて赤いのが載ってて、切ると三角になる、甘いケーキ。自分であのケーキを作れるようになろうとケーキ屋で働くことにした俺は、無意識に周りの人を幸せにしていく。

処理中です...