それは夢のような

荷稲 まこと

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 サークルに所属していない僕は、講義が終わった後はもっぱらアルバイトに勤しんでいる。バイト先は自宅近所のスーパー。ネット部門スタッフのため、接客はない。部門担当の社員さんから指示を受け、商品をピックアップしたり梱包したりするのが僕の仕事。時給はお世辞にも高いとは言えないが、ストレスの少ない作業でお金がもらえるので、僕はかなり気に入っている。
 同じネット部門で働く人たちは、ほぼほぼ僕と似たタイプなのだろう。非常にドライで、休憩が被った時でさえ会話をすることはない。兼業主婦の方々はおしゃべりに花を咲かせ、僕にもよく話しかけてくれるが、輪に入れるわけではなく。僕は大学同様、孤独に過ごしている。
 今日の講義を終え、一度自宅アパートに帰ってからスーパーに出勤した僕は、裏手側──倉庫に直接つながる出入口の前で一度深呼吸をした。業務内容にはすっかり慣れたのに、この出勤する瞬間の緊張感はなかなか消えてくれそうにない。
 ここから入るとすぐに僕たちネット部門が作業をする空間がある。後から増設された部門のため、倉庫の端を整理して半ば強引に作業場所を捻出したらしい。だから、僕より早く出勤して作業をしている人たちの脇を通りながら、全員に届くよう挨拶をしなければならないのだ。それが僕には論文を提出するよりずっと難しい。
 大丈夫、たとえ声が届かなかったとして、そこまで気にする人たちではない。そう自分に暗示をかけ、ドアノブを握った時、後ろから「じゃりっ」と地面を擦る音が聞こえた。
 慌てて振り返ると、そこには僕の上司──ネット部門担当社員の東海林ショウジさんが立っていた。作業服であるエプロンを外し、カッターシャツにパーカーを羽織ったラフな格好から、休憩時間なのだろうと推測する。
 僕は咄嗟にショウジさんに道を譲り、軽く頭を下げた。

「おっ……おはようございます……!」
小鳥遊タカナシ、おはよう。……入らないの? 随分長いこと立ち尽くしていたけど」

 そちらこそ、いつからそこにおいでなのですか? 見ていたなら声をかけるなりしてほしい。
 僕はこのショウジさんのことが少し苦手だ。入社二年目にして部門長を任されているところや、指示の的確さには憧れの気持ちもあるのだけれど。なんというか……視線が怖い。ショウジさんは背が高いから自然と見下ろされる形になるし、目つきが爬虫類を思わせるような鋭さで、僕は内心いつもガクブルだ。あと、黒い短髪で全体的に爽やかな印象なのに耳たぶにピアス穴があって、『元ヤン』なのではないかと勝手に想像している。
 僕が扉の前から退いたにもかかわらず、ショウジさんが先に入る素振りはない。こういう何を考えているかわからないところも、苦手だ。
 結局、「は、入りま~す……」と謎の宣言をしながら僕が先に入ることとなった。ショウジさんは「ふっ」と小さく鼻で笑っていて、やっぱりこの人はいじめる側の人間なのでは、と僕の中の疑惑が大きくなった。
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