王太子からは逃げられない!

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【10】驚愕の秘策!試される二人の絆!

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黒い霧がゆっくりと迫り、不気味な赤い光がさらに鋭さを増す。塔の中の空気は冷たく重く、逃げ場のない圧迫感が全身を締めつけた。
「ユーリ、これ以上は危険だ。ここから出るぞ!」
アルフレード様が僕の手を掴み、出口の方向へ引っ張ろうとする。だが、刻印の輝きが強まるにつれ、僕はその場を動けなくなっていた。
「待ってください!この刻印……また光ってるんです!」
手の刻印が放つ光は、一瞬一瞬で力強さを増している。その光を見つめていると、まるで何かが心の中に直接語りかけてくるような感覚に囚われた。
「これは……どういうことだ?」
アルフレード様が驚いたように僕の手を見る。そのとき、刻印からまるで意思が流れ込んでくるような感覚がした――。
「二人の心を……通じ合わせる?」
思わず呟いた言葉に、アルフレード様が眉をひそめた。
「どういう意味だ?」
「分かりません……でも、刻印がそう言っているんです。アルフレード様と僕が……心を通じ合わせることで、この状況を何とかできるんじゃないかって」
僕の言葉に、彼は一瞬驚いたようだったが、すぐに柔らかい表情に変わる。そして、静かに僕の手を取った。
「もしそれが解決策だというなら……やってみる価値はあるな」
彼の手の温もりが、刻印の光と共鳴するように伝わってくる。その瞬間、光が一層強く輝き、塔の中に広がっていた黒い霧が揺らぎ始めた。
その瞬間、さらに刻印から明確な意思を感じ取り、思わず目を見開いた。
「アルフレード様……!」
「どうした、ユーリ?何か分かったのか?」
アルフレード様が不安そうに問いかける中、僕は顔が熱くなるのを感じながら、言葉を絞り出すように続けた。
「あの……心を通じ合わせる方法が……僕たちが……その……」
言葉が詰まり、どうしても直視できなくなり、僕は視線を逸らした。そして意を決して続ける。
「キ、キスとか……そういうことをしないと、解決しないみたいで……!」
一瞬、時間が止まったような沈黙が流れる。
「……なるほど」
アルフレード様は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐにその青い瞳に真剣な光を宿した。そして僕の手をそっと握り直し、落ち着いた声で言う。
「ユーリ。それが必要だというのなら、僕は全力で応じよう」
「いやいやいや!そんな簡単に割り切れますか!?僕はまだ心の準備が――」
「準備なら、今からすればいいだろう?」
アルフレード様が穏やかに微笑みながら顔を近づけてきた。そんな距離で見つめられると、心臓が早鐘のように鳴り、まともに呼吸さえできなくなる。
「ちょ、ちょっと待ってください!冷静になってください!別の方法があるかもしれないじゃないですか!」
必死に抗議する僕に、彼は少しだけ目を細めて言った。
「ユーリ、君がそう言うなら、もう少し考えよう。ただ……僕たちにはもう時間がない」
その言葉に、再び刻印を見つめる。光はますます強まり、警鐘を鳴らすように脈打っていた。塔全体が不安定に揺れ始め、足元の石畳が不気味に軋む。刻印は、猶予がないことを僕に訴えているようだった。
「……分かりました。やります。でも!」
「でも?」
「絶対に他言無用です!これが終わったら、忘れたことにしてください!」
僕の必死な訴えに、アルフレード様は今にも吹き出しそうになりながらも、真剣に頷いた。
「分かった。君の望む通り、誰にも言わないよ」
そう言ってから、ふっと微笑む。
「でも、忘れるのは無理かな」
その一言に、顔が一気に熱くなるのを感じた。こんな状況でも、そんなことを言うなんて――そう思うのに、なぜか胸の奥がぎゅっと締め付けられるようだった。自分の心に正直になれば、きっと僕もこの瞬間を忘れることなんてできないんだろうと思う。
「こ……これが本当に解決策なんですからね!誤解しないでください!アルフレード様とキスしたいとか、そういうのじゃなくて――」
自分でも分かるくらい早口で言い訳を並べていた、その時。
そっと頬に触れる指先の温もりに、息が詰まる。心臓がうるさいくらいに跳ね上がり、まともに思考が追いつかない。冷静でいようとするほど、逆に意識がそこへ引き寄せられていく。
「ユーリ……目を閉じて」
低く落ち着いた彼の声が耳元で囁かれる。その響きには不思議な安心感があり、僕は自然と彼の言葉に従っていた。
目を閉じると、周囲の世界が闇に包まれる。その中で、刻印の光だけがぼんやりと瞼の裏側に映り、静かに鼓動しているのを感じる。
本当にこれで解決するのか――疑問と不安が胸をよぎる。けれど、彼の手が頬からゆっくりと下がり、肩に触れた瞬間、それらは不思議と霧散していく。
薄く目を開けると、アルフレード様が今までにないほど真剣な表情を浮かべているのが見えた。
(こんな時に見なければ良かった……!)
急いで目を閉じ直す。すると、ほんの一瞬――唇が触れ合う感覚が僕を包んだ。
柔らかく、温かい。その短い接触に、刻印が一際強く輝き、僕の心の中に何かが流れ込んできた。それは言葉では言い表せない感覚――彼の心の奥底にある優しさや、僕を想う気持ちのようなものが、直接伝わってくるようだった。

次の瞬間――
ゴォォォッ……!
黒い霧が光に飲み込まれるように消え去り、塔の中が静寂を取り戻した。重く冷たかった空気が、まるで浄化されたように変わり、心地よい風が吹き抜けていく。
「……消えた?」
恐る恐る目を開けると、アルフレード様が穏やかな微笑みを浮かべていた。
「成功したみたいだね。……ユーリ、大丈夫?」
低く柔らかな声が耳に届き、僕は思わず顔を伏せた。
「だ、だいじょうぶじゃないです……」
顔が熱く、胸の鼓動はまだ収まらない。震える声でそう答えると、アルフレード様がふっと顔を近づけてきた。やたらと優しげな瞳が、すぐそこにある。
けれど、その視線をまともに受け止める勇気は、どうしても湧かなかった。
「やはり、心を通わせることが鍵だったようだな」
「いやいやいや、僕はただ解決のために……!本当に心が通ったわけじゃ――!」
慌てて言い訳を並べる僕に、彼はどこか楽しげに微笑みながら続ける。
「分かっているよ。だけど……君のその赤い顔を見ると、少しは違う気もするけど?」
「う、うるさいです!」
言い返しながら、胸の奥で芽生え始めた何かに気づかないふりをする。それが恐怖から解放された安堵なのか、それとも――。
自分でも説明のつかない感情が胸の奥で渦を巻き、思考をかき乱していた。
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