皇太子の愛妾は城を出る

小鳥遊郁

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 バッカーの掛け声であっという間に馬車の中はわたしとパックの二人だけになった。
 馬車の幌が上げられた為、敵の姿も丸見えになり、攻撃を受ける度にビクッとした。バリアのおかげで大丈夫なんだけど、少し馬車が揺れるからドキドキする。

「大丈夫。こっちが優勢だよ」

 パックが興奮したように言う。
 正直、どの人が敵でどの人が味方かよくわからない。でも向こうの魔術師はまだこちらを攻撃をしてる。

「あの魔術師を倒さないと終わりそうにないし、最後には全力で馬車を攻撃してきそうね」

 捕まえるとなったらどんな攻撃をしてくるかわからない。

「でもお姉ちゃんのバリアは破られないと思うよ。それよりお姉ちゃんの方の魔力は大丈夫? こんな大きな魔法使ってどのくらい持つの?」

 そういえば長時間バリアを張ってたことないなぁ。練習でしか使ったことないし。どのくらい持つかって? わからないわ。

「よくわからないけど、まだ魔力があるのはわかるから大丈夫よ。そんなに長引かないでしょ」

 バッカーたちは強い。バッサバッサと山賊は倒されていく。多分あの魔術師がわたしのバリアに拘らなければ、魔法でバッカーたちを狙えば違った結果もあったかもしれない。
 魔術師が自分たちの不利に気付いた時には戦況は決まっていた。

「終わりそうだね」

「うん。でも最後に油断するのが一番ダメだってバッカーさんが言ってたからまだバリアはそのままだよ」

「了解です!」

 少し疲れたからもういいかなぁ~と思っていたのを見透かされたようで、慌ててバリアに集中した。
 危ない、危ない。
 やはり魔術師との戦いは苦戦した。だけどもう山賊は魔術師一人しか残っていなかったので多勢に無勢、なんとか勝利を収めた。
 バッカーがこちらを見て手を振ったのを見てバリアを解いた。結構魔力を使ったようで身体が怠い。

 縄をかけられた山賊たちはこれから隣街に連れて行くそうだ。取り調べがあるらしい。亡くなった山賊は置いていく。おそらく魔物達の餌になるのだろう。
 なかなか馬車が発車しないのでバッカーたちが集まっているところにパックと二人で行く。なるべく死体は見ないように歩く。
 血の匂いがひどい。空の上から鳥の鳴き声がする。わたしたちを警戒しているが、おそらく死体を狙っているのだろう。
 バッカーたちは一人の男を囲んでいた。その男はわたしの隣に座っていた人だった。足を怪我したようで立ち上がれないようだ。てっきり馬車まで運ぶのに困っているのかと思っていたら

「仕方ねえな。ここから切り落とすぞ」

というバッカーの物騒な言葉に唖然とした。バッカーの右手には大きな剣が握られているから冗談とかではなさそうだ。

「ど、どういうことですか?」

 わたしが慌てて尋ねるとバッカーが

「早くしねえと腐っていく。右足は残念だが命の方が大切だ」

と悔しそうに言った。

「ポ、ポーションで治らないのですか?」

 確か怪我はポーションで治ると聞いたことがある。

「ここまでひどい怪我を治すポーションなんて、おいそれと買える額じゃねえ」

「でも、彼は冒険者なんでしょう! 足を切断したら働けなくなるのだから少々高くても使った方が.....」

 最後までは言えなかった。そんな事はみんなわかっているのだ。わたしなんかより彼らの方が詳しいのだから。

「そんな高級なポーション持ってないんだよ。まさか魔術師がいるとは思ってなかったから用意してないんだ。まあ、いるとわかっててもとても買えるような商品じゃねえが、今ここに売っていれば借金してでも買うんだが....。街にはあるかもしれねえが、今切断しねえと命に関わる。嬢ちゃんは見ない方が良い。下がっててくれ」

 わたしは目を閉じて考える。お父様に禁じらてるけれど、ここで見て見ぬふりをして後悔しないだろうか? 治らないかもしれない。でも.....。

「ま、待って、少しだけ待ってください」

 バッカーが手を振り上げ、数人で抑えている男の前にわたしは跪く。

「どいてくれ」

 バッカーが怒ったように叫ぶ。

「わたしは治癒魔法も使えます。他人には言ってはいけないとずっと言われてるから、どこまで使えるかもわからない。でも試してみます。もしダメだったらその時は諦めます」

 少し怠いけど魔力が足りるだろうか? 足の怪我はほとんど潰れているようで正視するのが辛い。でももう逃げない。
 わたしは一息つくと足に手をかざした。緑の光が足を包み込む。
 
「す、すげえ」

「な、治ってるのか?」

「う、嘘だろ?」

 身体が熱い。どんどん魔力が失われていく。でもまだだ。お祖母様が光が消えるまで魔力を注がないとダメだって言ってたから、まだ頑張らないと。
 熱かった身体が今度は冷たくなっていく。あっ、これって魔力切れ? と思った瞬間に意識を手放していた。














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