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そのななじゅうご
片鱗すら無い
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廊下を歩いていたリシェは、ぼんやりしていたせいで目の前に人が居る事に気付かずどしんとぶつかってしまう。
真正面からそのまま体を打ち、かくりとバランスを崩していると「おっと」としっかり相手に支えられた。
倒れずに済んだと安心しつつ申し訳無い気持ちになる。
「す、すみません…」
ぼーっとしていた自分に落ち度がある…とリシェは相手を見上げ、そして反射的に「んひっ!?」と変な叫び声を放ってしまった。
見上げた先は目を輝かせた美貌の保健医。
「り…リシェ…!!私が恋しい余りに飛び込んできたのですか!?」
どこをどう解釈したらそんな考えに至るのだろうか。あまりの飛躍振りについ「違います!!」と叫んだ。
「いやいや、そんな事を言って」
しかし自分の世界にはまり込みがちなロシュは照れ臭そうに首を降る。いくらこちらが否定しても、彼には話を聞く余地が無い。
「あなたが私に対する愛の感情を少しずつ取り戻しているに違いない。向こうでは私達は確かに愛しあっていたのですから、その記憶の片鱗が出現しつつあるのですよ…はぁあ、全てを思い出してくれたら私は最高に幸せなんですけどねぇ…」
両肩をがっしりとホールドされたままで謎の発言を浴びるリシェは、居心地悪そうな様子で身動ぎしていた。
何を言っているのか、記憶が無いリシェは変質者を見るような目をロシュに向ける。
「ですから、多分それは人違いだと思うんです…」
絶対俺じゃない、と否定した。知らないものは知らない。
「いえ、絶対あなたです。この私が言うのですから間違いなどありません。いくら説明しても分かりにくいのは無理も無いですが…はあ…悲しい…」
「いや、本当に分からないので…」
そう言いながら後ずさりしようとするリシェは、電波な事をひたすら喋ってくるロシュを完全に引き気味に見ていた。
「私を見て下さい、リシェ」
「へ…?」
ロシュはリシェの肩を掴んだまま、真っ直ぐ見つめてきた。
「何か思い出しませんか?」
こうして見れば相当モテるであろう文句無しの美形青年だが、リシェには単なる変質者のイメージが強過ぎてそれ以上の感想が出てこない。
今までの彼が行ってきた奇行の数々が脳裏に浮かんでは消える。
「うう…」
思わず顔を逸らし、呻く。
その様子が何故か記憶を引き出しているのではないかと勝手に解釈するロシュは、期待するかのように「何か思い出しますか?」と急かした。
うまくいけばこちらの世界でも甘々な学園生活…いや、性活が期待出来るはずだ。制服姿のリシェといちゃつく事が可能になる。
甘くて少しいやらしい日常を過ごせるはず。
とにかく思い出してくれるだけでいいのだ。
ロシュは外見にそぐわない下品な事を考えながらリシェに迫る。
「さあさあ、私の可愛いリシェ。何か少しでも」
ググッと掴む手に力が込められる。
わくわくするロシュを前に、リシェはひいいと半泣きになりながら呟いた。
意味不明な事を要求されても困るだけだ。
「や、やっぱり変な人にしか見えません…」
思い出せと言われても今のリシェには無理らしい。
彼を見ても、やはりロシュは変態にしか思えないようだった。
「そ、そんなぁ…」
「絶対に人違いだと思います…すみません…」
記憶を思い出し、自分に抱き着くリシェのイメージを抱いていたロシュは残念そうにかくりと肩を落とした。
真正面からそのまま体を打ち、かくりとバランスを崩していると「おっと」としっかり相手に支えられた。
倒れずに済んだと安心しつつ申し訳無い気持ちになる。
「す、すみません…」
ぼーっとしていた自分に落ち度がある…とリシェは相手を見上げ、そして反射的に「んひっ!?」と変な叫び声を放ってしまった。
見上げた先は目を輝かせた美貌の保健医。
「り…リシェ…!!私が恋しい余りに飛び込んできたのですか!?」
どこをどう解釈したらそんな考えに至るのだろうか。あまりの飛躍振りについ「違います!!」と叫んだ。
「いやいや、そんな事を言って」
しかし自分の世界にはまり込みがちなロシュは照れ臭そうに首を降る。いくらこちらが否定しても、彼には話を聞く余地が無い。
「あなたが私に対する愛の感情を少しずつ取り戻しているに違いない。向こうでは私達は確かに愛しあっていたのですから、その記憶の片鱗が出現しつつあるのですよ…はぁあ、全てを思い出してくれたら私は最高に幸せなんですけどねぇ…」
両肩をがっしりとホールドされたままで謎の発言を浴びるリシェは、居心地悪そうな様子で身動ぎしていた。
何を言っているのか、記憶が無いリシェは変質者を見るような目をロシュに向ける。
「ですから、多分それは人違いだと思うんです…」
絶対俺じゃない、と否定した。知らないものは知らない。
「いえ、絶対あなたです。この私が言うのですから間違いなどありません。いくら説明しても分かりにくいのは無理も無いですが…はあ…悲しい…」
「いや、本当に分からないので…」
そう言いながら後ずさりしようとするリシェは、電波な事をひたすら喋ってくるロシュを完全に引き気味に見ていた。
「私を見て下さい、リシェ」
「へ…?」
ロシュはリシェの肩を掴んだまま、真っ直ぐ見つめてきた。
「何か思い出しませんか?」
こうして見れば相当モテるであろう文句無しの美形青年だが、リシェには単なる変質者のイメージが強過ぎてそれ以上の感想が出てこない。
今までの彼が行ってきた奇行の数々が脳裏に浮かんでは消える。
「うう…」
思わず顔を逸らし、呻く。
その様子が何故か記憶を引き出しているのではないかと勝手に解釈するロシュは、期待するかのように「何か思い出しますか?」と急かした。
うまくいけばこちらの世界でも甘々な学園生活…いや、性活が期待出来るはずだ。制服姿のリシェといちゃつく事が可能になる。
甘くて少しいやらしい日常を過ごせるはず。
とにかく思い出してくれるだけでいいのだ。
ロシュは外見にそぐわない下品な事を考えながらリシェに迫る。
「さあさあ、私の可愛いリシェ。何か少しでも」
ググッと掴む手に力が込められる。
わくわくするロシュを前に、リシェはひいいと半泣きになりながら呟いた。
意味不明な事を要求されても困るだけだ。
「や、やっぱり変な人にしか見えません…」
思い出せと言われても今のリシェには無理らしい。
彼を見ても、やはりロシュは変態にしか思えないようだった。
「そ、そんなぁ…」
「絶対に人違いだと思います…すみません…」
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