聖域を守る乙女は王弟の愛に気付かない

ユユ

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ペットなら

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村に寄ってサヴィの店に入った。この時間は仕込みの最中だ。

「エルおばさん」

「あら、ネスティフィーネ」

「うちにゼノンがいるの」

「一緒にいて大丈夫?」

「今のところは」

「着替えに困っているんじゃない?」

「?」

「狼になって出かけたみたいだから。狼のままだと人の服は着られないからね。殿下の荷物を届けておくわね」

「宿に帰す」

家に荷物増えるのかと思ったネスティフィーネはやっぱりゼノンを追い出したくなった。

「もう少し様子を見てあげて。客室は殿下が借りたままにしておくから」

「うん」

ネスティフィーネはサヴィの母の言うことは特に素直に聞く。

「食事はお肉が中心なのね。狼になっているからかしら」

「野菜も食べさせる」

「分かったわ。殿下の料理はうちで作って届けるから」

「うん、ありがとう。先にゼノンの靴を一個欲しい」

「片方ってこと?」

「うん。サイズ知りたい」

「持ってくるわね」

エルおばさんがゼノンの靴を片方持ってきた。

「どこにいくの?森?」

「うん」

「気を付けてね」

「うん」


次は革の加工をしているダニエルの所へ寄った。

「お、ネスティフィーネ」

「ダニエルさん。これと同じブーツをゼノンに作って」

ネスティフィーネは自分の履いているブーツを指差し、さっき預かったゼノンの靴を渡した。

「いいけど、革が足りるかな」

ダニエルは奥の部屋に行って革を持って来た。

「ギリギリ足りるかな。手伝ってくれ」

「うん」

ゼノンの靴を元にして革に線を描いていく。

「靴底を作るから、ネスティフィーネは革を切ってくれ」

「うん」

その後はダニエルの指導の元、ネスティフィーネが手伝う。革が硬くてネスティフィーネでないと縫製ができないからだ。
ほぼ仕上がると後は任せて村長の家に向かった。

「お、ネスティフィーネ、どうした?」

「村長さん、うちにゼノンがいるから」

「え?」

ゼノンがネスティフィーネの元へ行ったことは伝え聞いていたが泊まっているとは思わなかった村長は驚いた。

「その内、狼の姿で彷徨くと思うけど、心配しないでって村のみんなに言っておいて。ちゃんと躾けておくから」

「…一応確認するが、フォルモントの王弟殿下のことかな?」

「うん。お座りも待てもできるし返事もできるから」

「そ、そうか」

村長はまた胃の辺りを押さえて家の中に戻った。


そして湖側の森の境に来た。じっと待つこと20分、急に駆け出したネスティフィーネが森に消えるとすぐに動物の悲鳴が響いた。

「ギィーッ!!」

ガサガサ

戻って来たネスティフィーネは自身より大きなイノシシを担いでいた。
森を出るとイノシシを置いてまた森に入りいくつかの草を手にしていた。
村に戻るとサヴィの店の裏に周りイノシシを下ろした。あの森で生き残れる動物達はある程度の毒の耐性をもつ進化体だ。


「エルおばさーん」

「お帰り、またすごいのを仕留めてきたのね」

「うん。ゼノンがたくさんお肉を食べるから。コレで毒消しをして」

「ありがとうね」

イノシシを解体してカットした後にネスティフィーネが渡した草を擦り潰して肉に塗り込み1時間放置すると菌や寄生虫を排除することができる。

「これも」

「まあ、立派ね」

「オナガココドリの青(い卵)だから」

「分かったわ。オムレツとかデザートがたくさんできそうね」

「うん」

「届けるから早く帰ってお風呂に入るのよ」

「分かった」

オナガココドリの卵は産み落とされてあまり時間が経っていないと殻が青っぽい色をしている。こくと甘みがありとても美味しいが、母鳥が凶暴で大きな鉤爪には毒があるので滅多に取ってくることはできない。親鳥が餌を探しに行っている隙を狙うのだが、あの森でじっとして隙ができるまで待てるのはネスティフィーネだけ。親鳥ごと仕留めることもできるが、オナガココドリは数が少ないため生かして卵だけ年に1度ちょうだいするのがネスティフィーネの流儀だ。

家に帰り外風呂の準備を始めた。

キュコキュコキュコ

井戸水を汲んで浴槽にため、火を起こす。

「ゴォォォ」

その間に下着を洗い、頭も体も洗う。

「はぁ~」

湯に浸かり目を閉じた。

ペロッ

大きな舌がネスティフィーネの頬を舐めた。

「なぁに?ゼノン」

ゼノンは尻尾を大きく振ってネスティフィーネを舐め続ける。

「お帰りって言ってるの?お利口さんに留守番できた?」

「クゥン」

「どっちかな」

ペロッ ペロッ

「ずっと狼ならいいのにな」

「……」

ペットを飼ったことのないネスティフィーネはいぬが待ってる暮らしもいいなと思えてきた。

お湯から上がり体を拭いて湯を抜き浴槽を洗って家の中に入った。
既にゼノンの荷物が届いていて荷解きまで済んでいた。ネスティフィーネの服と一緒にゼノンの服が並んでいる。注文してあったゼノンのブーツも届いていた。

髪を乾かしていると、髪に別の布が当てられた。ふと見るとシャツとズボンを着た人化したゼノンがいてネスティフィーの髪を乾かし始めた。

「……」

大きく力強い手はネスティフィーネの美しい髪を優しく扱っている。

「お利口さんにしてた?」

「“ワン”」

「ふふっ」

初めてネスティフィーネが笑ったのでゼノンも嬉しくなった。

コンコンコンコン

ノックの音に手を止めて応対したのはゼノンだ。玄関には荷物を持ったサヴィと彼女の父親がいた。

「ネス……ゼノン殿下」

2人はネスティフィーネがドアを開けると思っていたが、自分の家かのように隣国の王弟殿下がドアを開けたので少し驚いた。

「お、食事か?ありがたい」

「ネスティフィーネはいますか」

「風呂上がりだ」

「では私がテーブルに並べます」

「俺がやるからいい」

「こちらは今夜のお食事です。私が持っている方が明日の朝と昼のお食事です。デザートも付いています。ではお願いします」

2人が去るとゼノンは食事をテーブルに並べた。

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