聖域を守る乙女は王弟の愛に気付かない

ユユ

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睡眠不足

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「ネスティフィーネ、おはよう」

「おはよう、サヴィ」

帰国した日の翌朝、1階に降りるとサヴィが来ていて朝食の準備をしてくれていた。

「一緒に食べよう」

「うん」

落ち着く家、慣れたベッド、美味しい食事
なのにネスティフィーネは足りなさを感じていた。

「みんな心配してたんだよ、なかなか帰って来ないから」

「うん」

「楽しかった?」

「まあまあかな」

「一番楽しかったことは?」

「小狼達と遊んだ。ふわふわで可愛かった」

「怖がられなかったの?」

「ゼノンや園長さん達がいるし、仰向けになってじっと待っていたの」

「あの大きな狼殿下も赤ちゃんの頃は可愛かったんだろうな」

「うん。黒いふわふわの塊みたいになっていて可愛かった」

「肖像画?」

「うん」

「ふふっ」

「サヴィ?」

「ネスティフィーネがまだ言葉を話す前に村長さんが会いに行ったんだって。お母さんに抱っこされたネスティフィーネが火を吐いて、村長さん咄嗟に避けたらしいわよ。“あの頃はまだ若かったから避けられたけど、今は自信ない”って笑っていたわ」

「燃やさなくて良かった」

「何で村長さん燃やそうとしたの?」

「全く覚えてない。きっと機嫌が悪かったんじゃないかな」

「食べ終わったらどうするの?」

「今日は一日中ゴロゴロして、明日は森に行ってくる」

「じゃあ、食事の時間に来るね」

「ありがとう」

サヴィが帰ると歯磨きをしてベッドに潜り込んだ。実のところ1人で寝るようになってからよく眠れないでいた。寝付きが悪く、寝てもすぐ起きてしまう。それを繰り返していて体がだるかった。

それでも翌日から森で討伐と採取、湖の掃除に明け暮れた。不在の間に遺体と遺品が増えていたので処理にも忙しかった。

それが3ヶ月近く続いた頃、夕食後の食器洗いをしているとノックの音がした。

「入っていいよ」

サヴィか誰かだろうと思った。
ずっと寝不足が続いていたネスティフィーネは疲れも蓄積され、ドアを開けに行くのが面倒だった。

ガチャ

家の中に入ってきた者はゆっくりと、食器を洗うネスティフィーネの背後に立ち抱きしめた。

「ネスティフィーネ、会いたかった」

ドポン

「ゼノン!?」

持っていたカップを桶の水の中に落としたネスティフィーネは濡れた手のままゼノンの手を掴んだ。

「いい子にしていたか?」

「眠い」

ゼノンはネスティフィーネに歯磨きをさせている間に外套を脱ぎ装備を外した。
彼女を抱き上げて2階へ上がるとベッドの上に降ろして服を脱ぎシャワーを浴びに向かおうとしたら引き止められた。

「お湯にするから待って」

既に水が溜まっていた浴槽の水を温めるとネスティフィーネも服を脱いだ。久しぶりに見たネスティフィーネの裸にゼノンの体が反応するが、それはいつものこと。
一緒に湯に浸かりゼノンが一方的に話しかけ、ネスティフィーネはただ“うん”“ううん”を繰り返した。
大人しく身を任せて寄りかかるネスティフィーネにゼノンは顔を近付けた。
 
「ネスティフィーネ、愛してる」

ゼノンの口付けを受け入れ続けるネスティフィーネの体には異変が起きていた。

「んっ」

それをゼノンは逃さなかった。


この夜、2人は初めて交わった。





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