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バレてる
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王家からはお見舞いの品が大量に届いた。謝罪のつもりだろう。車椅子に乗りながら、メイドが開梱した箱の中を確認していく。
私の趣味とは違う華々しい装飾品は宝物庫から適当に選んで送ってきたのだろうか。帽子やら羽織物などもあるし、ティーセットや花瓶や絵画まで。
『この絵、どうしろって言うのよ』
『こちらは…アルバート・ノーティスの作品ですね』
侍女長が裏を見てからまじまじと絵を見ている。
『有名なの?』
『はい、年老いた新人です』
『え?』
『ご子息に家業を譲り引退したので昔からやりたかった絵を描き始めたんです。口コミで人気が出て売れっ子になりました』
『その辺に飾ってあった絵を包んだわけじゃないのね。全部お父様とお母様に渡して好きにしてもらって』
『かしこまりました』
処分はできないだろうから、しまい込んで王家が忘れた頃に売るなりすればいいわね。
そして王子からの反省文?……燃やそう。
足首の怪我は思っていたよりも重く、治るのに1、2ヶ月かかるのだとか。怪我の原因がアラン王子によるものだということで、王宮に来るのは辛いだろうと2週間後に在宅で王子妃教育が始まった。
『で、では始めましょう』
チェディック夫人が緊張しながらテーブルマナーの講義を始めた。未だに合格をもらえていないのでいつものようにすべきだと思う。
『あの、今日は本を頭の上に乗せないのですか?本はうちにあるものを用意していますよ?
ジェシー、本を持ってきて頭の上に乗せて』
メイドのジェシーが用意しておいた本を手に取った。
『バラン嬢、乗せなくてもいいのですよ、どうしちゃったのかしら、オホホホホッ』
夫人が誤魔化す理由は父が見学すると言って同じ部屋にいるから。ソファに座り脚を組んで微笑みの仮面を付けているけど私にはわかる。父は機嫌が悪い。
いつもなら何度も注意するのに今日の夫人はニコニコとして褒めちぎる。
『問題ありませんよ、学園に通えますね』
そうか、父の影響だけでこうなったんじゃなくて、陛下から何か言われたのね。残念、もう役に立たないわ。
『あり得ません。怪我をする前の授業までは“いつになったら出来るようになるのですか”とか“他の令嬢ならとっくにできていますよ”とか仰っていたではありませんか。怪我で休んでいる間に合格がいただけるはずはありません』
『て、転倒したと聞きましたよ、頭も打ったのですね』
『打っていませんが?
夫人は私が頭を打ったから、誰に似たかわからない出来の悪さが治ったとお考えですか?』
『ほぅ?』
『なっ、何をっ!冗談が過ぎますよ』
父の反応に、夫人は青ざめて父を見ながら言った。
『どの部分が冗談だとお考えですか?頭を打ったかどうかですか?』
『出来が悪いだなんて申したことはありませんわ』
『授業の度に1回から6回は仰っていますよ。“その出来の悪さは誰に似たのでしょうね”と何度と仰ったときも王宮の使用人が聞いているはずです』
『そうか、では今すぐ王宮に調査に向かわせよう』
『そ、そのようなつもりで申したわけではございません』
夫人は慌てて床に座り手を付いた。父に向かって頭を下げている。
『誤解しようもない表現だぞ?
エリンが似るのは私か妻だ。だとすると出来の悪さは私か妻のせいなのだな?』
『違いますっ!』
『まさか、エリンが他の家の子だと?』
『ち、違います!違うんです!!』
『娘は王子妃教育を受ける前からテーブルマナーは完璧だった。娘がスプーンを持った時から帝国の皇族が教えているからな。王子妃教育が始まった頃も今もエリンのマナーは変わっていない。それなのに何年も合格しなかったのはこの国のマナーと帝国のマナーが著しく違うからなのか?おかしいな、陛下や王妃と何度か食事をしたが同じだったぞ?もしかして成人前と後ではマナーが違うのか?』
父は私が離乳食を食べ出したときから膝の上に乗せて、スプーンを私に握らせ、その上から包むように握り離乳食をすくって口元へ持っていった。道具を使って食べるということを覚えさせた。
普通食に切り替わると膝の上に乗せ、ナイフとフォークを掴んだ私の手を握り、料理を切って口まで運んだりしてきた。背が伸びて1人で座ってテーブルにつけるようになったら本格的に教えてくれた。もちろん本なんて頭の上に乗せないし、できないからといってデザートを抜きにすることもない。できなくても抱きしめてくれたし、できたら大袈裟に褒めてくれた。
私の部屋にはメダルがたくさんある。寝返りをうてた、ハイハイできた、掴まり立ちできた、歩いて父の元まで行けた、階段を登り降りできた、1人でトイレができた、などなど。できるようになったことに対する褒賞として金でできた特徴のメダルをプレゼントしてくれた。
お茶のマナーが身に付いた、食事のマナーが身に付いた、ダンスが踊れるようになった、帝国史をある程度覚えた、などには白金貨でできた特注の褒賞メダルをプレゼントしてくれた。メダルは関連のある絵になっていて、文字と日付けが刻まれているのでそれを見れば父との思い出と愛情を振り返ることができる。
『そ、そのようなことはございません』
『不可解だな』
つまり帝国の皇族である父仕込みのマナーを習得した私を、いつまでも合格させずに学園へも通えないと私に言わせてしまっては、父に喧嘩を売ったのと同じなのだ。
『何か誤解があったようです。バラン嬢は完璧ですわ』
『では何故授業内容が進んでいないのだ?』
『これは復習で、』
『本を頭の上に乗せて食べにくいものを食べさせたり、倒れるまでカーテシーをさせることがか?』
バレてる……
私の趣味とは違う華々しい装飾品は宝物庫から適当に選んで送ってきたのだろうか。帽子やら羽織物などもあるし、ティーセットや花瓶や絵画まで。
『この絵、どうしろって言うのよ』
『こちらは…アルバート・ノーティスの作品ですね』
侍女長が裏を見てからまじまじと絵を見ている。
『有名なの?』
『はい、年老いた新人です』
『え?』
『ご子息に家業を譲り引退したので昔からやりたかった絵を描き始めたんです。口コミで人気が出て売れっ子になりました』
『その辺に飾ってあった絵を包んだわけじゃないのね。全部お父様とお母様に渡して好きにしてもらって』
『かしこまりました』
処分はできないだろうから、しまい込んで王家が忘れた頃に売るなりすればいいわね。
そして王子からの反省文?……燃やそう。
足首の怪我は思っていたよりも重く、治るのに1、2ヶ月かかるのだとか。怪我の原因がアラン王子によるものだということで、王宮に来るのは辛いだろうと2週間後に在宅で王子妃教育が始まった。
『で、では始めましょう』
チェディック夫人が緊張しながらテーブルマナーの講義を始めた。未だに合格をもらえていないのでいつものようにすべきだと思う。
『あの、今日は本を頭の上に乗せないのですか?本はうちにあるものを用意していますよ?
ジェシー、本を持ってきて頭の上に乗せて』
メイドのジェシーが用意しておいた本を手に取った。
『バラン嬢、乗せなくてもいいのですよ、どうしちゃったのかしら、オホホホホッ』
夫人が誤魔化す理由は父が見学すると言って同じ部屋にいるから。ソファに座り脚を組んで微笑みの仮面を付けているけど私にはわかる。父は機嫌が悪い。
いつもなら何度も注意するのに今日の夫人はニコニコとして褒めちぎる。
『問題ありませんよ、学園に通えますね』
そうか、父の影響だけでこうなったんじゃなくて、陛下から何か言われたのね。残念、もう役に立たないわ。
『あり得ません。怪我をする前の授業までは“いつになったら出来るようになるのですか”とか“他の令嬢ならとっくにできていますよ”とか仰っていたではありませんか。怪我で休んでいる間に合格がいただけるはずはありません』
『て、転倒したと聞きましたよ、頭も打ったのですね』
『打っていませんが?
夫人は私が頭を打ったから、誰に似たかわからない出来の悪さが治ったとお考えですか?』
『ほぅ?』
『なっ、何をっ!冗談が過ぎますよ』
父の反応に、夫人は青ざめて父を見ながら言った。
『どの部分が冗談だとお考えですか?頭を打ったかどうかですか?』
『出来が悪いだなんて申したことはありませんわ』
『授業の度に1回から6回は仰っていますよ。“その出来の悪さは誰に似たのでしょうね”と何度と仰ったときも王宮の使用人が聞いているはずです』
『そうか、では今すぐ王宮に調査に向かわせよう』
『そ、そのようなつもりで申したわけではございません』
夫人は慌てて床に座り手を付いた。父に向かって頭を下げている。
『誤解しようもない表現だぞ?
エリンが似るのは私か妻だ。だとすると出来の悪さは私か妻のせいなのだな?』
『違いますっ!』
『まさか、エリンが他の家の子だと?』
『ち、違います!違うんです!!』
『娘は王子妃教育を受ける前からテーブルマナーは完璧だった。娘がスプーンを持った時から帝国の皇族が教えているからな。王子妃教育が始まった頃も今もエリンのマナーは変わっていない。それなのに何年も合格しなかったのはこの国のマナーと帝国のマナーが著しく違うからなのか?おかしいな、陛下や王妃と何度か食事をしたが同じだったぞ?もしかして成人前と後ではマナーが違うのか?』
父は私が離乳食を食べ出したときから膝の上に乗せて、スプーンを私に握らせ、その上から包むように握り離乳食をすくって口元へ持っていった。道具を使って食べるということを覚えさせた。
普通食に切り替わると膝の上に乗せ、ナイフとフォークを掴んだ私の手を握り、料理を切って口まで運んだりしてきた。背が伸びて1人で座ってテーブルにつけるようになったら本格的に教えてくれた。もちろん本なんて頭の上に乗せないし、できないからといってデザートを抜きにすることもない。できなくても抱きしめてくれたし、できたら大袈裟に褒めてくれた。
私の部屋にはメダルがたくさんある。寝返りをうてた、ハイハイできた、掴まり立ちできた、歩いて父の元まで行けた、階段を登り降りできた、1人でトイレができた、などなど。できるようになったことに対する褒賞として金でできた特徴のメダルをプレゼントしてくれた。
お茶のマナーが身に付いた、食事のマナーが身に付いた、ダンスが踊れるようになった、帝国史をある程度覚えた、などには白金貨でできた特注の褒賞メダルをプレゼントしてくれた。メダルは関連のある絵になっていて、文字と日付けが刻まれているのでそれを見れば父との思い出と愛情を振り返ることができる。
『そ、そのようなことはございません』
『不可解だな』
つまり帝国の皇族である父仕込みのマナーを習得した私を、いつまでも合格させずに学園へも通えないと私に言わせてしまっては、父に喧嘩を売ったのと同じなのだ。
『何か誤解があったようです。バラン嬢は完璧ですわ』
『では何故授業内容が進んでいないのだ?』
『これは復習で、』
『本を頭の上に乗せて食べにくいものを食べさせたり、倒れるまでカーテシーをさせることがか?』
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