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卒業と成人と友人の婚約
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17歳で卒業して、成人もしてデビューして、本格的な王子妃教育が始まった。
貴族科ではなく経営科を選んだことが良かったようで、理解度も増し余裕のある授業となった。だから時間にも余裕ができた。
4人の友人と交流は続いたけど、全員が揃うことは半年に一度あるかどうか。アリエルは家業を手伝っているし、ヨナは領地にいる。ケイシーは無事王宮騎士団の試験に受かった。一番の問題はクリストファーがほとんど外国にいるということ。
正直寂しい。
あれ以来カトリーヌ妃がかまってくれる。困ったことに王妃様も負けずとお茶に呼ぼうとするようになった。
今日は久々にクリストファーが帰国したと連絡と招待状を受け取った。
「エリン!」
「クリストファー!」
レイス邸で友情の熱い抱擁を交わす。
「元気にしていたか?」
「うん。でも寂しかった」
「ヨナ達は?」
「アリエルとは時々会っていて、ケイシーは2ヶ月に一度会ってるわ。ヨナは年内に一、二度しか王都に来ないからあまり。この間フィードリフ領に行ったの。すごく虫だらけだった」
「そうか」
あの頃のクリストファーはまだ成長途中の青年だったけど、すっかり成人男性に育っていた。胸も広く胴回りも厚くなったし、背も伸びて頭一個半近く差がある。力強い腕が優しく私を包み込む。
「大きくなって…お姉様は嬉しいわ」
「7ヶ月前と変わってないだろう、それに何でお姉様なんだよ」
「クリストファーを愛でる会の会長だから」
「はぁ…」
「溜息なんて失礼ね」
「クリス、いつまで入り口にいるんだ。ちゃんと案内しなさい」
「レイス侯爵、お久しぶりです」
「よく来てくれたね。コーネリアもエリンが来るのを楽しみに待っていたんだ。顔を見せてやってくれ」
「はい」
レイス一家は私やアリエル達を自分の子のように名前で呼ぶ。侯爵は知らないみたいだけど、侯爵が外国にいる間、侯爵夫人であるコーネリア様にお呼ばれして時々会っている。
昼食をご馳走になった後、レイス侯爵から改まって知らせがあると言われた。
「クリスが婚約したんだ」
「え!?」
クリストファーに顔を向けると彼はあまり幸せそうな顔をしていなかった。
「バーテル(王国)の公爵家に婿入りすることになった。相手の家門は男児が生まれなくてね。ご令嬢の年代は高位貴族の男児が少なくて、国内の縁談に乗り遅れたみたいなんだ。それでゆっくり国外で探そうということになって、ご令嬢がクリストファーを気に入ってくれたんだ。
バーテルは帝国の傘下でありながら重要な役割を担っている。良縁だと思うよ」
「おめでとう、クリストファー」
「…ありがとう」
「いつ頃になるんですか?」
「来年の冬が始まった頃だよ」
私の結婚式の予定は再来年の春に私が二十歳になったら。式には呼べそうにないわね。まあ、私の場合はどうなるかわからないけど。
「冬ですか?」
「バーテルはここより南にあるから冬の方が向いているんだ。冬といっても雪が降ることは滅多にないし」
ドレスのことを考えると温暖な国なら冬の方が執り行いやすいのかもしれないわね。
「大事にしてもらえそうで良かったです」
相手のご令嬢がクリストファーを気に入ってくれたのなら安心ね。
だけどクリストファーは浮かない顔をしていた。他国に婿入りするのは不安なのかもしれない。
「そういえば、残るはケイシーだけだったね」
侯爵は婚約していない息子の友人が気になったようだ。
「ケイシーは強い女性と結婚したいから急いでいないそうです。今のケイシーの想い人をご存知ですか?第3大隊のスカーレット隊長ですよ」
「え?あの!?」
第3は王宮内の警備を任されている隊で、スカーレット隊長は男爵家の庶子だが身長は177㎝で騎乗戦の優勝経験もある実力者。既に男爵家とは縁を切って平民の身だが、洞察力に優れた独身の女性騎士だ。
コーネリア様が驚くのは無理もない。スカーレット隊長は私達より二十歳近く歳上だからだ。
「それはまた…高望みだな」
「全く相手にされないとボヤいていました」
その後もアリエルやヨナ達の話で盛り上がり、泊まることになった。
夜、おやすみを言いに来たクリストファーは酔ったのか疲れたのか、その両方なのか分からないけど私の手を握って言った。
「もし、エリンが婚約していなかったとしたら、僕が求婚したら受けてくれたか?」
「クリストファーが?」
「うん」
「クリストファーと夫婦なんて想像できないけど断ることはなかったと思う」
「そうか。ありがとう、おやすみ」
「おやすみなさい」
お酒は控えるように言った方がいいわね。
1週間後、クリストファーはまた別の外国へ向かった。
月日は流れ、ヨナが結婚、アリエルも結婚、そしてクリストファーが結婚のために国を出発する日が近付いた。私を含めた4人が集まりクリストファーの幸せを願ってお祝いをした。その席で知らされたのはケイシーとスカーレット隊長の入籍だった。おかげでしんみりした晩餐にならずに済んだ。
クリストファーが出発する4日前に私達は最終のお別れをした。後は親戚と、家族と別れの時間を過ごすだろう。
幸せになってね。
貴族科ではなく経営科を選んだことが良かったようで、理解度も増し余裕のある授業となった。だから時間にも余裕ができた。
4人の友人と交流は続いたけど、全員が揃うことは半年に一度あるかどうか。アリエルは家業を手伝っているし、ヨナは領地にいる。ケイシーは無事王宮騎士団の試験に受かった。一番の問題はクリストファーがほとんど外国にいるということ。
正直寂しい。
あれ以来カトリーヌ妃がかまってくれる。困ったことに王妃様も負けずとお茶に呼ぼうとするようになった。
今日は久々にクリストファーが帰国したと連絡と招待状を受け取った。
「エリン!」
「クリストファー!」
レイス邸で友情の熱い抱擁を交わす。
「元気にしていたか?」
「うん。でも寂しかった」
「ヨナ達は?」
「アリエルとは時々会っていて、ケイシーは2ヶ月に一度会ってるわ。ヨナは年内に一、二度しか王都に来ないからあまり。この間フィードリフ領に行ったの。すごく虫だらけだった」
「そうか」
あの頃のクリストファーはまだ成長途中の青年だったけど、すっかり成人男性に育っていた。胸も広く胴回りも厚くなったし、背も伸びて頭一個半近く差がある。力強い腕が優しく私を包み込む。
「大きくなって…お姉様は嬉しいわ」
「7ヶ月前と変わってないだろう、それに何でお姉様なんだよ」
「クリストファーを愛でる会の会長だから」
「はぁ…」
「溜息なんて失礼ね」
「クリス、いつまで入り口にいるんだ。ちゃんと案内しなさい」
「レイス侯爵、お久しぶりです」
「よく来てくれたね。コーネリアもエリンが来るのを楽しみに待っていたんだ。顔を見せてやってくれ」
「はい」
レイス一家は私やアリエル達を自分の子のように名前で呼ぶ。侯爵は知らないみたいだけど、侯爵が外国にいる間、侯爵夫人であるコーネリア様にお呼ばれして時々会っている。
昼食をご馳走になった後、レイス侯爵から改まって知らせがあると言われた。
「クリスが婚約したんだ」
「え!?」
クリストファーに顔を向けると彼はあまり幸せそうな顔をしていなかった。
「バーテル(王国)の公爵家に婿入りすることになった。相手の家門は男児が生まれなくてね。ご令嬢の年代は高位貴族の男児が少なくて、国内の縁談に乗り遅れたみたいなんだ。それでゆっくり国外で探そうということになって、ご令嬢がクリストファーを気に入ってくれたんだ。
バーテルは帝国の傘下でありながら重要な役割を担っている。良縁だと思うよ」
「おめでとう、クリストファー」
「…ありがとう」
「いつ頃になるんですか?」
「来年の冬が始まった頃だよ」
私の結婚式の予定は再来年の春に私が二十歳になったら。式には呼べそうにないわね。まあ、私の場合はどうなるかわからないけど。
「冬ですか?」
「バーテルはここより南にあるから冬の方が向いているんだ。冬といっても雪が降ることは滅多にないし」
ドレスのことを考えると温暖な国なら冬の方が執り行いやすいのかもしれないわね。
「大事にしてもらえそうで良かったです」
相手のご令嬢がクリストファーを気に入ってくれたのなら安心ね。
だけどクリストファーは浮かない顔をしていた。他国に婿入りするのは不安なのかもしれない。
「そういえば、残るはケイシーだけだったね」
侯爵は婚約していない息子の友人が気になったようだ。
「ケイシーは強い女性と結婚したいから急いでいないそうです。今のケイシーの想い人をご存知ですか?第3大隊のスカーレット隊長ですよ」
「え?あの!?」
第3は王宮内の警備を任されている隊で、スカーレット隊長は男爵家の庶子だが身長は177㎝で騎乗戦の優勝経験もある実力者。既に男爵家とは縁を切って平民の身だが、洞察力に優れた独身の女性騎士だ。
コーネリア様が驚くのは無理もない。スカーレット隊長は私達より二十歳近く歳上だからだ。
「それはまた…高望みだな」
「全く相手にされないとボヤいていました」
その後もアリエルやヨナ達の話で盛り上がり、泊まることになった。
夜、おやすみを言いに来たクリストファーは酔ったのか疲れたのか、その両方なのか分からないけど私の手を握って言った。
「もし、エリンが婚約していなかったとしたら、僕が求婚したら受けてくれたか?」
「クリストファーが?」
「うん」
「クリストファーと夫婦なんて想像できないけど断ることはなかったと思う」
「そうか。ありがとう、おやすみ」
「おやすみなさい」
お酒は控えるように言った方がいいわね。
1週間後、クリストファーはまた別の外国へ向かった。
月日は流れ、ヨナが結婚、アリエルも結婚、そしてクリストファーが結婚のために国を出発する日が近付いた。私を含めた4人が集まりクリストファーの幸せを願ってお祝いをした。その席で知らされたのはケイシーとスカーレット隊長の入籍だった。おかげでしんみりした晩餐にならずに済んだ。
クリストファーが出発する4日前に私達は最終のお別れをした。後は親戚と、家族と別れの時間を過ごすだろう。
幸せになってね。
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