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無意味なお膳立て
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今夜はアラン王子の誕生日パーティ。来たくなかったし向こうも来て欲しくなかったと思うけど、招待状の送り主は王妃なので来ないわけにはいかなかった。ファーストダンスまでの辛抱だとは思っているけど声を聞くのも嫌だ。ダンスで触れられるのも嫌だ。でも仕方ない。飲みたくない酒を何口か飲んで気を紛らわし、王子のそばに立ち貴族達の挨拶を見守っていた。
ああ、この令嬢は王子と関係を持ったことがあるのね。分かりやすいわ。噂は聞かないから一度きりか数回の体だけの関係なのだろう。令嬢は王子を見つめ頬を染めて恍惚とした表情を浮かべているから頭の中で昔の情事を反芻しているのだろう。令嬢はチラリと私を見てニヤリと片方の口角を上げた。優越感なのかな?交際に発展するならともかく性欲の発散か何かに使われただけなのに優越感が生まれるの?馬鹿ね。
「殿下、こちらのご令嬢がお話しし足りないようですわ。ファーストダンスでもお誘いしてはいかがでしょう」
「は? 何言ってるんだ。馬鹿なことを言うな、行くぞ」
食い散らかす噂は耳にするけど恋人の噂がない王子と哀れな令嬢にお膳立てをしたのに、王子の冷たいこと…。私が勧めたから嫌なのかな?令嬢は崖下に落とされたように顔を引き攣らせていた。“ごめんなさいね”と心の中で謝った。
そんなことを繰り返していると隅に連れてこられた。
「いい加減にしろ。さっきから何なんだ」
「殿下のお情けを頂戴したご令嬢方ではありませんか」
「え?」
「だから気を利かせたつもりです」
王子は驚いていた。私がそんなことを言い出したことではなく、そうだったっけ?と言いたそうな顔だった。寝た相手さえ覚えていないなんて。令嬢達が不憫になってきた。
「遠慮なくお気に召すご令嬢をお誘いください」
「おまえは女をあてがう係じゃないだろう!」
「ですが、ご令嬢方が…」
「何も言われてないだろう」
「表情で分かります」
「おまえは表情云々を語らず大人しく笑ってろ。得意だろう」
「かしこまりました」
それからは大人しく王子の横に立ち、令嬢達に微笑みながら哀れみの目を向けた。
ファーストダンスが始まると、王子の顔は不満そう。やっぱり王宮で雇う教育係はダメね。チェディック夫人はあんなだったし、王子は自分の誕生日パーティに来てくれた人達の前で仏頂面。このまま結婚したら王子の教育係の入れ替えが最初の進言になりそう。
…というか、この王子としなくちゃいけないのか。最低でも男児を産むまでは義務だものね。
王子との子作りの過程を想像したら具合が悪くなってきた。
ダンスを終えた瞬間に傍にはけた。2階のバルコニーに出て夜風に当たった。
こんなに生理的に受け付けないのに結婚しなきゃいけないの?嫌われてるのに?見下されているのに?
「はぁ~」
「大きな溜息ですね、何かありましたか?」
振り向くとそこには一度だけ接触のあった令息が立っていた。彼はアラン王子の側近の1人レイモンド・アンカー子爵令息だ。殿下に引き倒されて怪我をした時に運んでくれた人。
「こういうのはまだ慣れなくて。その節はありがとうございました」
「随分昔のことを覚えていらっしゃるのですね」
「痛かったですから」
「悪いのは殿下ですが一つだけ。あのとき殿下は引き止めようとしただけで倒したり怪我をさせたりするつもりはなかったんです。バラン嬢の歳の令嬢との関わりがなくて力加減がわからず間違えてしまったのです。あれでも落ち込んでいらしたのですよ」
「……喉元は過ぎたようですが」
「完治なさったと聞くまではずっと苛立っていらっしゃいました」
「それが通常だと思っておりました」
「バラン嬢は何故この婚約を続けるのですか?」
「側近の質問としては不適切ですわ」
「もし自分なら耐えられただろうかと思いまして。もしバラン嬢が殿下をお慕いしていて好転を期待なさっているのでしたら尽力いたします」
「うちはちょっと特殊な伯爵家になってしまいましたが臣下です。婚約を回避する正当な理由がありませんでした。正直全くお慕いしておりません。最初からあの態度でいられては微塵も好感度は上がりません」
「容姿はいかがですか」
「髪が黄色くて目が青いだけで何になります?顔は整っていらっしゃっても独特な内面が滲み出てもったいないことになっていらっしゃると思いませんか?」
「否定できませんね」
「待っていればこの婚約は取り消されると思っておりました。私を毛嫌いしていらっしゃいますし、女性に興味をお持ちなのでそのうち恋人ができてめでたいことになるかと。ですが違う方向で期待を裏切ってくださいました。恋人を作るわけではなく、食い散らかしたお相手の顔さえ覚えていないこともあるとは思いませんでした。きっと殿下はご自分を一番愛していらっしゃるのでしょう」
「なるほど。
バラン嬢はこのまま黙って結婚を待ちますか?」
「何もしていないわけではありません。さっきも昔のお相手とのお膳立てをしようとしたのですが興味を示していただけずに余計なことをするなとお叱りを受けました。どこかの国の美しい王女様でも来ていただければすぐに乗り換えると思いますけど。予定はありませんか?」
「王女……」
「心当たりでも?」
「ここではちょっと」
「では場所を移しましょう」
こそこそと会場を抜けて廊下に出ると上着を頭に被せられた。顔を隠しながら手を引かれて歩く。
どこまで行くのかと不安になってきたところで到着したようだ。
「ここは?」
「私の部屋です」
はい!?
ああ、この令嬢は王子と関係を持ったことがあるのね。分かりやすいわ。噂は聞かないから一度きりか数回の体だけの関係なのだろう。令嬢は王子を見つめ頬を染めて恍惚とした表情を浮かべているから頭の中で昔の情事を反芻しているのだろう。令嬢はチラリと私を見てニヤリと片方の口角を上げた。優越感なのかな?交際に発展するならともかく性欲の発散か何かに使われただけなのに優越感が生まれるの?馬鹿ね。
「殿下、こちらのご令嬢がお話しし足りないようですわ。ファーストダンスでもお誘いしてはいかがでしょう」
「は? 何言ってるんだ。馬鹿なことを言うな、行くぞ」
食い散らかす噂は耳にするけど恋人の噂がない王子と哀れな令嬢にお膳立てをしたのに、王子の冷たいこと…。私が勧めたから嫌なのかな?令嬢は崖下に落とされたように顔を引き攣らせていた。“ごめんなさいね”と心の中で謝った。
そんなことを繰り返していると隅に連れてこられた。
「いい加減にしろ。さっきから何なんだ」
「殿下のお情けを頂戴したご令嬢方ではありませんか」
「え?」
「だから気を利かせたつもりです」
王子は驚いていた。私がそんなことを言い出したことではなく、そうだったっけ?と言いたそうな顔だった。寝た相手さえ覚えていないなんて。令嬢達が不憫になってきた。
「遠慮なくお気に召すご令嬢をお誘いください」
「おまえは女をあてがう係じゃないだろう!」
「ですが、ご令嬢方が…」
「何も言われてないだろう」
「表情で分かります」
「おまえは表情云々を語らず大人しく笑ってろ。得意だろう」
「かしこまりました」
それからは大人しく王子の横に立ち、令嬢達に微笑みながら哀れみの目を向けた。
ファーストダンスが始まると、王子の顔は不満そう。やっぱり王宮で雇う教育係はダメね。チェディック夫人はあんなだったし、王子は自分の誕生日パーティに来てくれた人達の前で仏頂面。このまま結婚したら王子の教育係の入れ替えが最初の進言になりそう。
…というか、この王子としなくちゃいけないのか。最低でも男児を産むまでは義務だものね。
王子との子作りの過程を想像したら具合が悪くなってきた。
ダンスを終えた瞬間に傍にはけた。2階のバルコニーに出て夜風に当たった。
こんなに生理的に受け付けないのに結婚しなきゃいけないの?嫌われてるのに?見下されているのに?
「はぁ~」
「大きな溜息ですね、何かありましたか?」
振り向くとそこには一度だけ接触のあった令息が立っていた。彼はアラン王子の側近の1人レイモンド・アンカー子爵令息だ。殿下に引き倒されて怪我をした時に運んでくれた人。
「こういうのはまだ慣れなくて。その節はありがとうございました」
「随分昔のことを覚えていらっしゃるのですね」
「痛かったですから」
「悪いのは殿下ですが一つだけ。あのとき殿下は引き止めようとしただけで倒したり怪我をさせたりするつもりはなかったんです。バラン嬢の歳の令嬢との関わりがなくて力加減がわからず間違えてしまったのです。あれでも落ち込んでいらしたのですよ」
「……喉元は過ぎたようですが」
「完治なさったと聞くまではずっと苛立っていらっしゃいました」
「それが通常だと思っておりました」
「バラン嬢は何故この婚約を続けるのですか?」
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「もし自分なら耐えられただろうかと思いまして。もしバラン嬢が殿下をお慕いしていて好転を期待なさっているのでしたら尽力いたします」
「うちはちょっと特殊な伯爵家になってしまいましたが臣下です。婚約を回避する正当な理由がありませんでした。正直全くお慕いしておりません。最初からあの態度でいられては微塵も好感度は上がりません」
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「ここは?」
「私の部屋です」
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