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流したのか流されたのか
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到着したのは王宮内に第一王子の側近に与えられた部屋だった。
「ど、どうしてここへ?」
「あの手の話を第三者に聞かれるわけにはまいりません」
「だとしてもアンカー様は殿下の側近ではありませんか。貴方とこの部屋で2人きりになるのはマズイです」
「殿下に誤解されたくないからですか?」
「意味のない醜聞は嫌なんです」
「意味があればいいと?」
「アンカー様?」
彼はグラスと酒を取り出して、注いで私に渡した。
「実は、アラン王子殿下はバラン嬢の表情を崩したいようなのです」
「まだ幼稚なことを」
「しかも口説いてバラン嬢が食いついたらバラせと」
「は!?」
「もちろん我々側近は反対でした。ですが他の者を雇ってでもやるとおっしゃって。それならばと私が手を挙げました」
「あのバカ。婚約を解消してくれたらお好きな表情をして差し上げましたのに」
「得体の知れない者に頼めば事故が起こるかもしれません。私でしたらバラン嬢をお慕いしておりますし、妻も婚約者も恋人もおりませんから醜聞にはなりません。婚前の恋愛は王子殿下の婚約者の立場でも咎められることはありません。妊娠すれば咎められますが。
バラン嬢、私にしませんか?」
頭が混乱してきた。手に持ったグラスの中身を一気に飲み干したら強いお酒で食道が焼け付いた。
「えっと…」
「焦茶色の髪に若葉色の瞳ではご不満ですか?」
「ご不満?…じゃないです」
「子爵家の息子でも?」
「子爵家?…別に気にはしませんけど」
「良かった」
私から空いたグラスを取り上げたアンカー様は口付けした。柔らかく優しい唇が触れ、若葉色の瞳がじっと私を見つめている。
彼の舌が私の唇を押し割って慎重に舌に絡めた。驚いて体を引こうとすると彼の手が私の頭部を捉えていた。耳を指で擦りながら口内を掻き回した後は唇を離して抱きしめた。
彼の鼓動は異常なほどに早く、外に響きそうなほど強く動いていた。
「貴女を抱き上げたとき、一瞬表情か変わったんです。耳も赤くなって可愛いなと思いました。まだ貴女は若過ぎましたが少し待てばいいだけでした。
ですが貴女は殿下の婚約者。言い寄るべきではないと自分を律しました。お見かけする度に貴女を視界に入れては気持ちを飲み込んできました。
今回、その理性を殿下が壊したんです。表情を崩したいから他の男を近付ける?そんなこと許せるわけがない」
「私は、」
「レイス家の次男と距離が近くて、どれだけモヤモヤしたことか」
クリストファーと仲が良いことを知ってるの?
「クリストファーは友人で、」
「彼は友人以上に見ていましたよ。成人のパーティで貴女とダンスをしながら他の男を寄せ付けませんでした」
「あのときは殿下の代わりに、」
「風邪をひいた殿下の代わりにエスコートをしたのでしたね」
「そうです」
「さっき殿下を慕う令嬢を表情で見つけ出せたように、クリストファー・レイスも表情に出ていました。近過ぎて気付けませんでしたか?
とにかく、殿下の愚かな計画を利用して貴女に近付くことにしました。口説くのは殿下公認ですし問題ありません。キスは嫌ではなさそうでしたので、可能性はあると実感しました。私は一生に一度のチャンスを逃すつもりはありません」
「本気ですか!?」
「私の心臓が証明したでしょう」
「でも」
「殿下のことが嫌いですよね?」
「もちろんです」
「半年後の結婚までこのまま待つつもりですか?」
「結婚なんか…」
「私ではお気に召さないということでしょうか」
「そんなことはありません」
昔、王子に怪我をさせられてアンカー様に抱き上げられたとき、確かにときめいた。
王子の金髪に青い瞳より、アンカー様の方がタイプだった。微笑みの仮面を維持していたと思ったのに、一瞬表情を変えて耳を赤くしていたなんて。
上手い下手は未経験の私にはわからないけど、彼のキスは嫌じゃなかった。むしろ、彼とならできると思ってしまった。
あの王子に散らされるくらいなら。
髪留めを取り、立ち上がると背を向けた。
「解いてください」
「バラン嬢!?」
「やっぱり本気じゃないんですね」
アンカー様はドレスの紐に手をかけ解き始めたけど、その手からは戸惑いを感じる。
「無理しなくていいんですよ」
「すまない、ドレスを脱がすのは初めてで。よし、解けた」
アンカー様は自身の服を脱ぐと灯りを小さくした。
「ど、どうしてここへ?」
「あの手の話を第三者に聞かれるわけにはまいりません」
「だとしてもアンカー様は殿下の側近ではありませんか。貴方とこの部屋で2人きりになるのはマズイです」
「殿下に誤解されたくないからですか?」
「意味のない醜聞は嫌なんです」
「意味があればいいと?」
「アンカー様?」
彼はグラスと酒を取り出して、注いで私に渡した。
「実は、アラン王子殿下はバラン嬢の表情を崩したいようなのです」
「まだ幼稚なことを」
「しかも口説いてバラン嬢が食いついたらバラせと」
「は!?」
「もちろん我々側近は反対でした。ですが他の者を雇ってでもやるとおっしゃって。それならばと私が手を挙げました」
「あのバカ。婚約を解消してくれたらお好きな表情をして差し上げましたのに」
「得体の知れない者に頼めば事故が起こるかもしれません。私でしたらバラン嬢をお慕いしておりますし、妻も婚約者も恋人もおりませんから醜聞にはなりません。婚前の恋愛は王子殿下の婚約者の立場でも咎められることはありません。妊娠すれば咎められますが。
バラン嬢、私にしませんか?」
頭が混乱してきた。手に持ったグラスの中身を一気に飲み干したら強いお酒で食道が焼け付いた。
「えっと…」
「焦茶色の髪に若葉色の瞳ではご不満ですか?」
「ご不満?…じゃないです」
「子爵家の息子でも?」
「子爵家?…別に気にはしませんけど」
「良かった」
私から空いたグラスを取り上げたアンカー様は口付けした。柔らかく優しい唇が触れ、若葉色の瞳がじっと私を見つめている。
彼の舌が私の唇を押し割って慎重に舌に絡めた。驚いて体を引こうとすると彼の手が私の頭部を捉えていた。耳を指で擦りながら口内を掻き回した後は唇を離して抱きしめた。
彼の鼓動は異常なほどに早く、外に響きそうなほど強く動いていた。
「貴女を抱き上げたとき、一瞬表情か変わったんです。耳も赤くなって可愛いなと思いました。まだ貴女は若過ぎましたが少し待てばいいだけでした。
ですが貴女は殿下の婚約者。言い寄るべきではないと自分を律しました。お見かけする度に貴女を視界に入れては気持ちを飲み込んできました。
今回、その理性を殿下が壊したんです。表情を崩したいから他の男を近付ける?そんなこと許せるわけがない」
「私は、」
「レイス家の次男と距離が近くて、どれだけモヤモヤしたことか」
クリストファーと仲が良いことを知ってるの?
「クリストファーは友人で、」
「彼は友人以上に見ていましたよ。成人のパーティで貴女とダンスをしながら他の男を寄せ付けませんでした」
「あのときは殿下の代わりに、」
「風邪をひいた殿下の代わりにエスコートをしたのでしたね」
「そうです」
「さっき殿下を慕う令嬢を表情で見つけ出せたように、クリストファー・レイスも表情に出ていました。近過ぎて気付けませんでしたか?
とにかく、殿下の愚かな計画を利用して貴女に近付くことにしました。口説くのは殿下公認ですし問題ありません。キスは嫌ではなさそうでしたので、可能性はあると実感しました。私は一生に一度のチャンスを逃すつもりはありません」
「本気ですか!?」
「私の心臓が証明したでしょう」
「でも」
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