【完結】婚約者に浮気のお膳立てをされたので乗ってみることにしました

ユユ

文字の大きさ
11 / 18

流したのか流されたのか

しおりを挟む
到着したのは王宮内に第一王子の側近に与えられた部屋だった。

「ど、どうしてここへ?」

「あの手の話を第三者に聞かれるわけにはまいりません」

「だとしてもアンカー様は殿下の側近ではありませんか。貴方とこの部屋で2人きりになるのはマズイです」

「殿下に誤解されたくないからですか?」

「意味のない醜聞は嫌なんです」

「意味があればいいと?」

「アンカー様?」

彼はグラスと酒を取り出して、注いで私に渡した。

「実は、アラン王子殿下はバラン嬢の表情を崩したいようなのです」

「まだ幼稚なことを」

「しかも口説いてバラン嬢が食いついたらバラせと」

「は!?」

「もちろん我々側近は反対でした。ですが他の者を雇ってでもやるとおっしゃって。それならばと私が手を挙げました」

「あのバカ。婚約を解消してくれたらお好きな表情をして差し上げましたのに」

「得体の知れない者に頼めば事故が起こるかもしれません。私でしたらバラン嬢をお慕いしておりますし、妻も婚約者も恋人もおりませんから醜聞にはなりません。婚前の恋愛は王子殿下の婚約者の立場でも咎められることはありません。妊娠すれば咎められますが。
バラン嬢、私にしませんか?」

頭が混乱してきた。手に持ったグラスの中身を一気に飲み干したら強いお酒で食道が焼け付いた。

「えっと…」

「焦茶色の髪に若葉色の瞳ではご不満ですか?」

「ご不満?…じゃないです」

「子爵家の息子でも?」

「子爵家?…別に気にはしませんけど」

「良かった」

私から空いたグラスを取り上げたアンカー様は口付けした。柔らかく優しい唇が触れ、若葉色の瞳がじっと私を見つめている。

彼の舌が私の唇を押し割って慎重に舌に絡めた。驚いて体を引こうとすると彼の手が私の頭部を捉えていた。耳を指で擦りながら口内を掻き回した後は唇を離して抱きしめた。
彼の鼓動は異常なほどに早く、外に響きそうなほど強く動いていた。

「貴女を抱き上げたとき、一瞬表情か変わったんです。耳も赤くなって可愛いなと思いました。まだ貴女は若過ぎましたが少し待てばいいだけでした。
ですが貴女は殿下の婚約者。言い寄るべきではないと自分を律しました。お見かけする度に貴女を視界に入れては気持ちを飲み込んできました。
今回、その理性を殿下が壊したんです。表情を崩したいから他の男を近付ける?そんなこと許せるわけがない」

「私は、」

「レイス家の次男と距離が近くて、どれだけモヤモヤしたことか」

クリストファーと仲が良いことを知ってるの?

「クリストファーは友人で、」

「彼は友人以上に見ていましたよ。成人のパーティで貴女とダンスをしながら他の男を寄せ付けませんでした」

「あのときは殿下の代わりに、」

「風邪をひいた殿下の代わりにエスコートをしたのでしたね」

「そうです」

「さっき殿下を慕う令嬢を表情で見つけ出せたように、クリストファー・レイスも表情に出ていました。近過ぎて気付けませんでしたか?
とにかく、殿下の愚かな計画を利用して貴女に近付くことにしました。口説くのは殿下公認ですし問題ありません。キスは嫌ではなさそうでしたので、可能性はあると実感しました。私は一生に一度のチャンスを逃すつもりはありません」

「本気ですか!?」

「私の心臓が証明したでしょう」

「でも」

「殿下のことが嫌いですよね?」

「もちろんです」

「半年後の結婚までこのまま待つつもりですか?」

「結婚なんか…」

「私ではお気に召さないということでしょうか」

「そんなことはありません」

昔、王子に怪我をさせられてアンカー様に抱き上げられたとき、確かにときめいた。
王子の金髪に青い瞳より、アンカー様の方がタイプだった。微笑みの仮面を維持していたと思ったのに、一瞬表情を変えて耳を赤くしていたなんて。

上手い下手は未経験の私にはわからないけど、彼のキスは嫌じゃなかった。むしろ、彼とならと思ってしまった。

あの王子に散らされるくらいなら。

髪留めを取り、立ち上がると背を向けた。

「解いてください」

「バラン嬢!?」

「やっぱり本気じゃないんですね」

アンカー様はドレスの紐に手をかけ解き始めたけど、その手からは戸惑いを感じる。

「無理しなくていいんですよ」

「すまない、ドレスを脱がすのは初めてで。よし、解けた」

アンカー様は自身の服を脱ぐと灯りを小さくした。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

戦場から帰らぬ夫は、隣国の姫君に恋文を送っていました

Mag_Mel
恋愛
しばらく床に臥せていたエルマが久方ぶりに参加した祝宴で、隣国の姫君ルーシアは戦地にいるはずの夫ジェイミーの名を口にした。 「彼から恋文をもらっていますの」。 二年もの間、自分には便りひとつ届かなかったのに? 真実を確かめるため、エルマは姫君の茶会へと足を運ぶ。 そこで待っていたのは「身を引いて欲しい」と別れを迫る、ルーシアの取り巻きたちだった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

婚約破棄ありがとう!と笑ったら、元婚約者が泣きながら復縁を迫ってきました

ほーみ
恋愛
「――婚約を破棄する!」  大広間に響いたその宣告は、きっと誰もが予想していたことだったのだろう。  けれど、当事者である私――エリス・ローレンツの胸の内には、不思議なほどの安堵しかなかった。  王太子殿下であるレオンハルト様に、婚約を破棄される。  婚約者として彼に尽くした八年間の努力は、彼のたった一言で終わった。  だが、私の唇からこぼれたのは悲鳴でも涙でもなく――。

皇帝の命令で、側室となった私の運命

ぱんだ
恋愛
フリード皇太子との密会の後、去り行くアイラ令嬢をアーノルド皇帝陛下が一目見て見初められた。そして、その日のうちに側室として召し上げられた。フリード皇太子とアイラ公爵令嬢は幼馴染で婚約をしている。 自分の婚約者を取られたフリードは、アーノルドに抗議をした。 「父上には数多くの側室がいるのに、息子の婚約者にまで手を出すつもりですか!」 「美しいアイラが気に入った。息子でも渡したくない。我が皇帝である限り、何もかもは我のものだ!」 その言葉に、フリードは言葉を失った。立ち尽くし、その無慈悲さに心を打ちひしがれた。 魔法、ファンタジー、異世界要素もあるかもしれません。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

あなたの言うことが、すべて正しかったです

Mag_Mel
恋愛
「私に愛されるなどと勘違いしないでもらいたい。なにせ君は……そうだな。在庫処分間近の見切り品、というやつなのだから」  名ばかりの政略結婚の初夜、リディアは夫ナーシェン・トラヴィスにそう言い放たれた。しかも彼が愛しているのは、まだ十一歳の少女。彼女が成人する五年後には離縁するつもりだと、当然のように言い放たれる。  絶望と屈辱の中、病に倒れたことをきっかけにリディアは目を覚ます。放漫経営で傾いたトラヴィス商会の惨状を知り、持ち前の商才で立て直しに挑んだのだ。執事長ベネディクトの力を借りた彼女はやがて商会を支える柱となる。  そして、運命の五年後。  リディアに離縁を突きつけられたナーシェンは――かつて自らが吐いた「見切り品」という言葉に相応しい、哀れな姿となっていた。 *小説家になろうでも投稿中です

旦那様から出て行ってほしいと言われたのでその通りにしたら、今になって後悔の手紙が届きました

睡蓮
恋愛
ドレッド第一王子と婚約者の関係にあったサテラ。しかし彼女はある日、ドレッドが自分の家出を望んでいる事を知ってしまう。サテラはそれを叶える形で、静かに屋敷を去って家出をしてしまう…。ドレッドは最初こそその状況に喜ぶのだったが、サテラの事を可愛がっていた国王の逆鱗に触れるところとなり、急いでサテラを呼び戻すべく行動するのであったが…。

処理中です...