【完結】捕虜のはずなのに 敵国の将軍が溺愛してくる

ユユ

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終戦

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涙が収まった頃に国王陛下が対応案を募集した。

アダモントの戦争という意見が多く出たけど、僕の意見を言ってみたい。
だからまた手をあげた。

「レミ、申してみよ」

「ありがとうございます、国王陛下。

アダモントの工作員は国王の密命だったことを自白しました。当然制裁は必要です。ですが戦争は確実に味方の死傷者を出す行為です。既にアダモントのせいでオネスティアとベルゼア両国に犠牲者が出ています。ベルゼアで言えば、アダモントの工作員に騙された警備隊長は、殺された家族の復讐をするために第三王子ベルトランとその一行を殺し、王子に関しては執拗に顔を潰しました。開戦後は第二王子ディミトリーが利腕を切り落とされましたし、どちらの兵士も民も犠牲者が出ております。
先ずは犠牲者を出さない方法を試してみませんか」

「具体的に何かあるのか?」

「何故、アダモントの国王は密命にしたのか。
戦争を引き起こすような決断は、普通は王太子や団長を含めた上層部に話をするはずです。
賛同を得られないと思ったから工作員を呼んで国王が直々に密命を与えたのだと思いませんか?
そのような謀をする理由が他に無く、明らかに第三王女可愛さに事を起こしたと思われるのが嫌だった、さらに大きな反発を危惧したのではないかと思います。

第三王女はベルゼアに渡り、自分より美しい王子に嫉妬して破談にして強行帰国しました。その道中でオネスティアの王太子殿下に色目を使い追い払われました。そして今も婚約者さえいない王女です。きっとアダモント国内でも様々な問題を引き起こしていたことでしょう。
第三王女可愛さに動きたくても、王女の腹違いの兄姉は冷め切っていたのではないでしょうか」

「それで、どうしたいんだ?」

「アダモントの世論を使うのです。第三王女がやらかしていればやらかしているほど、窮地に立たされるはずです。アダモント王は王太子に王冠を渡さなくてはならなくなるかもしれません。王太子達も国王の独断だと公表しなければ火の粉が降りかかります」

「そこまで世論を動かせるのだろうか」

「アダモントとオネスティアに隣接する別の国はアダモントとは国交を停止、反対側のもう一つの隣接する別の国は疫病で封鎖中です。それに加えてオネスティアとベルゼアからも国交の断絶の危機だと知れば黙ってはいないでしょう。
第三王女との馴れ初めも事細かくリークすれば、話題性も高まります。国王の独断による虐殺と戦争、第三王女のゴシップはアダモントの平民から貴族まで興味を引けるはずです。

工作員2名の似顔絵や所持品の絵も載せて新聞を発行してアダモントにばら撒くのはいかがですか」

「そうだな。大事な兵士達の命を賭ける前に試してみる価値はあるな。
他にこれ以上の案はあるか?」

手は上がらなかった。

「では、今の作戦で進めるが、アダモントとの戦争に発展した時のために多少の準備はしておいて欲しい。馬や装備の手入れや備蓄の確認、アダモントに繋がる道の整備などやっておいて欲しい。では解散」

ゾロゾロと会議室を出ていく人達を見送りながら、エドワード王太子は僕の頭を撫でていた。

「偉いぞ、レミ」

「兵士達は王族にとって身近な存在です。彼らに守られて生きていますから。そんな兵士達がアダモントのせいで怪我をしたり死んだりしたら辛いです。回避できる戦いは回避して元気に長生きしてもらいたいのです」

「そうだな。ロプレスト将軍を含めてな」

「え?」

「うわっ。怖い顔をしてこっちに向かってくるな。頭を撫でただけじゃないか」

そう言って王太子は僕を盾にした。

「エドワード王太子殿下、私の婚約者に無闇に触れないでいただきたい!」

「ば、馬鹿っ!そんなに大声でいうなよ。
あ~義父団長が笑顔でこっち見てるじゃないか」

「笑顔ならいいではありませんか」

「団長のあの笑顔の向こうに黒い塊があるのを知っているだろう」

「さあ、何のことでしょう。さあ、レミ。部屋に戻ろうか」

「はい」



その後、ベルゼア王国のバルロック辺境伯から、認識番号は存在して、該当者は手配中の国境警備兵の1人のものだと回答があった。

工作員の証言通り、オネスティア王国シトロエヌ領の隣領で、手配中のベルゼアの国境警備兵の遺体が6体見つかった。

それらも踏まえて、此度の戦争の経緯と現在までをバルロック辺境博とラファエル兄上に文書で報告した。

ラファエル兄上からは、陛下に報告するために一度王城へ戻ると返信が届いた。

アダモントへは、第三王女シャルロットとの見合いの時の様子や、オネスティアの王太子に言い寄った事も事細かに載せ、“シャルロット第三王女のために国王が下した密命”というタイトルの新聞をばら撒いた。
工作員がどんな虐殺をして戦争を引き起こしたか、それに騙されてベルゼアの遺族が何をしたか、開戦による犠牲者数や建物などの被害数、捕まえた工作員二人の似顔絵と所持品の絵を載せた。

その上でアダモントとの国境を閉鎖した。

結果は早かった。
あの会議から1か月経たないうちに、アダモント王国の王太子が三国会議をオネスティアで行いたいと連絡が入った。

数週間後にオネスティアにて、オネスティアの国王とエドワード王太子と団長と将軍達とシトロエヌ辺境と僕、ベルゼアからはラファエル兄上とバルロック辺境伯と騎士団長、アダモントからは王太子と第二王子と外交大臣が非武装で出席した。

「私はアダモント王国を代表して参りました。愚行を命じたの長男レオンスと申します。オネスティア王国とベルゼア王国と死傷なさった方々や財産を失った方々に心よりお詫びを申し上げます。

アダモントの誠意をお見せしようと思いますが、刺激のある物をテーブルにお出しします。苦手な方は見ないようお願いします」

レオンスは王太子だった。さっき父王にを付けたから、今は彼が新国王なのだろう。
その彼が僕だけを見て 見ない方がいいと言った気がする。
彼の従者が二つの大きな箱をテーブルの上に乗せた。重そうだった。
 
合図で箱が外されると、大きな瓶が出てきて中には生首が入っていた。

「腐敗防止の関係でアルコール漬けにしました。一つは問題の元アダモント王、もう一つは元第三王女シャルロットです」

「なるほど。国王と王女を処刑したのですな?」

「はい、陛下。すぐさま公開処刑にしました。
これも、この愚か者とその娘の独断だと仰ってくださったのでこの方法が取れました。その説明がなければ、王家転覆の末、王族全て殺されていたでしょう。温情に感謝いたします。

ラファエル王太子殿下。ベルトラン王子殿下の件も直接手を下したわけではありませんが発端はアダモントにあります。そしてディミトリー王子殿下の負傷の件にも心を痛めております。経過はいかがでしょうか」

「ディミトリーは一時危篤になりましたが 持ち直して傷口も塞がりました。まだ長い治療が必要ですが乗り越えるでしょう」

「医師の派遣や薬のご希望があればお申し付けください。

そしてレミ王子殿下、アダモントのせいで女装をさせることになり申し訳ございません」

アラン様以外の将軍が一斉に僕を見た。

「ご存知でしたか」

「各国の王族の肖像画を持っております。王子の10歳の肖像画を拝見しました。その時よりも美しさに磨きがかかり化粧もしていますが、ほぼお変わりはございません。レミ王子殿下ほどの美しさは他に存在しませんので確信できました」

「恥ずかしいです」

「実際にお会いするとシャルロットが瞬殺されたのが頷けます」

「本当に会ってすぐ機嫌が悪くなってしまわれて」

「シャルロットの首を斬り落とせてせいせいしました」

笑顔た…。よっぽど嫌いだったんだな。

ふと周りを見ると、ファルム将軍は青ざめていた。
僕がベルゼアの平民むすめだと思って、感じ悪かったからな。王子だと分かってまずいと思ったのだろう。

「僕の平民のフリも終わりですね」

「はい?平民のフリ? まさかレミ王子殿下を平民と信じる者がいるのですか?」

「そういう設定にしましたので」

「普通は訳ありの貴人だと思いますよ。こんなに美しくて品のある平民なんていませんから。察して話を合わせていただけでしょう」

ファルム将軍は俯いてしまった。そのだからなぁ。


その後は、アダモント王国からの賠償などの話の後に、ヨラン隊長達がやったことへの賠償の話になった。シトロエヌ領の町で何軒も火を付けて中にいた人達を焼き殺しているし、開戦へ拍車をかけたのだから。

「ラファエル王太子殿下、放火で死傷した者や燃えた物への賠償と、レミ王子の婚姻を要求します」

「はい!?」

「え?」

オネスティアの国王陛下の言葉に兄上も僕も驚いた。

「ロプレスト将軍とレミ王子は正式に婚約しています。国法にも違反しません。2人は既にパートナーとして同じ部屋で寝泊まりしていますし、レミ王子の同意も得ています。両国の和平の象徴にもなるでしょう」

え?いつの間に!?設定じゃなかったの!?

「レミを渡せなどと仰るなどあんまりです!
レミ、将軍は男だぞ?しかも他国だなんて。
同意したなんて誤解だよな?」

「ちゃんと同意は取りましたぞ。
自国へ戻ってゼルベア王の判断を仰いでもらいたい」

もしかして、聞いていなかったときに聞いているフリをして返事をしちゃったやつかな。

アラン様を見ると不安そうな顔をしていた。

「兄上。確かに僕は同意しました。
ロプレスト将軍は僕の命の恩人ですし、オルネティア王国に来てから僕は嬉し涙を流すくらい大事にしてもらっています。
相手が男とか僕が男とか、気になりません。僕は人としてアラン・ロプレストが好きなのです」

「レミ…」

そんな悲しそうな顔をしないで、兄上。

「ラファエル王太子殿下。私アラン・ロプレストは生涯レミ王子を愛し守り抜きます。
彼は素晴らしい王子です。彼のおかげでこの戦いを終わらせることができたのですから。他国でも十分やっていけます」

「兄上、お願いします」

「持ち帰って判断を仰ぎます」

「ありがとうございます、兄上」


これで戦いは完全に終わったわけだけど、兄上の帰国の際に二人で話がしたいと言われて挨拶がてら貴賓室を訪ねた。

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