【R18完結】敗者に情けをかけることなかれ

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 魔物の討伐を終えて、仕留めた魔物の数とランクを登録するため、登録所に来ていた。今回は、取り急ぎの登録だ。
 登録は、魔物の首の骨、人間で言うところの第一頚椎を持参する。確実に仕留めたことを証明するためだ。爪や鱗を剥がしただけでは討伐したとは認められない。
 「どうぞ」と示された場所に魔物の第一頚椎頚椎を置く。係のお姉さんは、胸を強調するような派手な服を着ている。申請受付ではなく、褒賞金受け渡しの席に座っていれば、チップを入れる奴が出てきそうなくらい見応えがあった。脊椎のランク分けをされている間、お姉さんのボロンとはみ出そうな胸を吸い寄せられるように見ていた。眼福だった。
 「確かに」
 「よろしく」
 「ええ、健闘を祈ります」
 「ありがとう」
 あれだけ胸を凝視してしまったあとだが、努めて平静にお姉さんに別れを告げる。
 「おう」
 「あ…」
 さて帰ろうと踵を返したところで、扉を塞ぐ大男に気づいた。ペルシアンヌスだった。先にこっちに気づいて、声をかけてくる。態度も体もデカい。馴れ馴れしい。一気に室温が上がった気がする。
 嫌なヤツに会ってしまった。こちらの微妙な顰め面など気にしないペルシアンヌスはマイペースに話しかけてくる。
 「討伐すすんでるか?」
 「当たり前だっての…」
 嘘だ。先日の討伐で、罠にかかった魔物をギリギリで逃した。手負いだった魔物を仕留め損なったのだ。これできっちり3日間を無駄にしてしまった。大損害である。小遣い稼ぎに小さい魔物を何体か討伐してきたのだ。気負ったものの、覇気のない姿にどう思ったのか、ペルシアンヌスがいらぬことを言う。
 「はぁん、さてはやっと俺のオンナになる気になったか」
 「なるわけないだろっ!!」
 「そんなことを言って、ここはもう覚えているだろ?」
 と、お尻を鷲掴みにする無駄にデカい手にぞーっとする。
 いつの間にか背後を取られている。
 「はぁーー?離せ!何を覚えてるっていうんだよ?」
 「俺の味」
 「下品なことを言うな!ばかっ!」
 「ってぇ!」
 弁慶の泣きどころを思いっきり蹴ってやった。
 係のお姉さんはポカンとしていた。ペルシアンヌスは脛をさすりながら、「ねーちゃん胸の谷間すげーな、これ頼む」とシンプルにセクハラをしていた。
 こんな馬鹿に付き合っていられない。
 しかし、こんな馬鹿だが強さは折り紙付きで、持ってきた魔物の骨もSランク並だ。ムカつくが、自分はかなり遅れを取っている。魔物は油断したら人里にやってきて村や街を荒らす。共存は難しい生き物なのだ。少しでも多くの魔物を倒さないといけないのに無駄にした3日間を思うとヘコみそうだ。故郷と同じ末路はもう見たくない。それが縁もゆかりもない村だったとしても二度と見たくないのだ。   
 
 「待てよ」
 「待つ必要ない」
 「行き先は一緒だろ」
 「お前はいつも一人だろっ」
 「うるせぇなぁ…」
 登録所を出てからもついてくるペルシアンヌスにイライラした。これは嫉妬だ。同時に、洞窟動物のねぐらの方角でもあるなと冷静に考えていた。
 「あんなに激しく乱れちまったから照れてんのかぁ」
 「んなわけないだろっ、ばかっ!」
 下手な挑発に乗ってしまったと後悔しても遅い。
 その時、わあぁぁと空気を裂くような悲鳴が聞こえ、二人して声の方へと走り出した。
 登録所の裏手の山からヴォォォッと唸り声を上げながら人の3倍はありそうな魔物が近づいてくる。魔物にしては大きくはないが、硬そうなウロコをびっしり纏って、目はギラつき、大きく開いた口からは鋭い牙がびっしり生えている。好戦的な魔物が草をかき分け、木をなぎ倒しながら前に進んでくる。
「…っ」
 情けないことだが、一瞬怯んでしまった。一人で戦うには大きすぎる。しかしペルシアンヌスは違った。
「ペルシアンヌス…!!」
 魔物の方へ走っていくペルシアンヌスの背中を追う。
 大きな魔物に対して、戦士同志でグループを組んで討伐することが多い。一人で大きな魔物に立ち向かうことは難しいからだ。俺は一人で討伐しているが、魔物の大きさによって武器を変えたり、罠を張ったりなどしながら工夫して戦っている。一瞬躊躇ったのはそのためだ。
 だけど、ペルシアンヌスの戦い方は違う。武器は一剣だけ。特異すぎる。誰に打たせたのか、その一剣が恐ろしく切れる。武器の凄さだけではない。筋肉だるまとは思えないほど、身のこなしも軽いのだ。そのくせ一振りが重くて、一瞬で魔物の息の根を止めて、脊椎を取り出している。魔物と戦うために話し合って役割分担する必要も、罠を張るなどの下準備もいらない。ふらっと森に入って、半日もしないうちに何体かの魔物を討伐して森を出てくる。あまりにも桁が違いすぎて、やっかむ戦士も媚を売る戦士もいない。やっかんで自分からわざわざ下にいくほどプライドの低い戦士は首都にはいないし、媚を売らせる隙がペルシアンヌスにはない。単純に友達になりたいと思わせない性格なのもペルシアンヌスだった。
 あのとき、「尻を貸せ」と言われていなければ、挑発に乗っていなければ、”憧れのペルシアンヌス”のまま、強さだけを求めて戦い続けていられたのに。浮かれて話しかけてしまったことを後悔しても遅い。

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