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第二十六章 小森の場合⑬
第1話 大事なこと
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誰のために、どんな料理を作るか。
その根本的な部分を忘れかけていた。
裕司は、料理をする上での……その大事なことを忘れかけていたのだ。もちろん、怜に振る舞う料理を手抜きにしたわけではないが……それでも、その根本的な箇所を忘れかけていたと思う。
バイトでのまかないもだが、誰のためにどんな料理をするのか。
誰のために、どんな料理を作っていけばいいのか。
単純で、でもとても大事で。
裕司が卒業試験のテーマにしていたもの、そのままだった。
「こもやん……山賊焼きって……チキンステーキ??」
裕司が下ごしらえしていると、怜は横で不思議そうにしていた。
「いやいや、唐揚げぽい作り方だけど……肉を丸一枚使ったものぜよ」
「えぇえ??」
まったく想像していなかったのだろう。目を丸くする顔が可愛らしかった。
下ごしらえだけをしてから、しっかりラップなどをして……山賊焼きの漬け込みをするのに、バットごと冷蔵庫へ。
片付けをしつつ、次の工程に。と言っても、メインの下ごしらえがほとんど出来たから……あとは漬け込みが終わるまではのんびりだ。
「じいちゃん達の住んでいるとこ……と言うか、長野の名物のひとつなんだけど」
「ほうほう?」
「スーパーとかだと、めちゃくちゃでかい鶏肉の唐揚げがあるんだよ」
「それが……山賊焼き?」
「火加減は難しいけど……絶対怜やんが好きなやつさ」
「聞いているだけで、お腹空くぅう」
あれだけところてんを色々食べたと言うのに、消化がいいのか……単純に唐揚げ料理と聞いて食べたくなったのか。怜はいい笑顔をしていた。
「地域によっては……味付けは同じだけど普通の唐揚げぽく作ってるとこもあるって、ばあちゃんが言ってたなあ?」
「そっちの方がお手軽なんじゃ?」
「いやいや、是非とも怜やんには本場のを食べてほしいぜよ」
「おー!」
とは言っても、鶏肉の火加減は本当に難しい。特に今回は肉丸々一枚を扱う。調理をしたことがないわけではないが……怜が笑顔になる料理を作りたい。
彼女と話しながら……料理はいくらでも浮かぶが、家庭的な料理……と言うことで、考えはまとまってきた。
ひと月以上悩んでいたのが嘘のようだ。
その試験内容については、ひとまず横に置いておくことにして。裕司は、怜のために渾身の料理を振る舞うことにした。
時間になって、冷蔵庫を開ければ……鳥もも肉は良い感じに浸かっていたのだった。
「怜やん、ちょっと離れててー」
「ほーい?」
家庭用の油鍋で、高温に熱していた油の中に……片栗粉をまんべんなくまぶした、その鳥もも肉を。ゆっくりと鍋に入れれば……すぐに、大きな音が上がった。
その根本的な部分を忘れかけていた。
裕司は、料理をする上での……その大事なことを忘れかけていたのだ。もちろん、怜に振る舞う料理を手抜きにしたわけではないが……それでも、その根本的な箇所を忘れかけていたと思う。
バイトでのまかないもだが、誰のためにどんな料理をするのか。
誰のために、どんな料理を作っていけばいいのか。
単純で、でもとても大事で。
裕司が卒業試験のテーマにしていたもの、そのままだった。
「こもやん……山賊焼きって……チキンステーキ??」
裕司が下ごしらえしていると、怜は横で不思議そうにしていた。
「いやいや、唐揚げぽい作り方だけど……肉を丸一枚使ったものぜよ」
「えぇえ??」
まったく想像していなかったのだろう。目を丸くする顔が可愛らしかった。
下ごしらえだけをしてから、しっかりラップなどをして……山賊焼きの漬け込みをするのに、バットごと冷蔵庫へ。
片付けをしつつ、次の工程に。と言っても、メインの下ごしらえがほとんど出来たから……あとは漬け込みが終わるまではのんびりだ。
「じいちゃん達の住んでいるとこ……と言うか、長野の名物のひとつなんだけど」
「ほうほう?」
「スーパーとかだと、めちゃくちゃでかい鶏肉の唐揚げがあるんだよ」
「それが……山賊焼き?」
「火加減は難しいけど……絶対怜やんが好きなやつさ」
「聞いているだけで、お腹空くぅう」
あれだけところてんを色々食べたと言うのに、消化がいいのか……単純に唐揚げ料理と聞いて食べたくなったのか。怜はいい笑顔をしていた。
「地域によっては……味付けは同じだけど普通の唐揚げぽく作ってるとこもあるって、ばあちゃんが言ってたなあ?」
「そっちの方がお手軽なんじゃ?」
「いやいや、是非とも怜やんには本場のを食べてほしいぜよ」
「おー!」
とは言っても、鶏肉の火加減は本当に難しい。特に今回は肉丸々一枚を扱う。調理をしたことがないわけではないが……怜が笑顔になる料理を作りたい。
彼女と話しながら……料理はいくらでも浮かぶが、家庭的な料理……と言うことで、考えはまとまってきた。
ひと月以上悩んでいたのが嘘のようだ。
その試験内容については、ひとまず横に置いておくことにして。裕司は、怜のために渾身の料理を振る舞うことにした。
時間になって、冷蔵庫を開ければ……鳥もも肉は良い感じに浸かっていたのだった。
「怜やん、ちょっと離れててー」
「ほーい?」
家庭用の油鍋で、高温に熱していた油の中に……片栗粉をまんべんなくまぶした、その鳥もも肉を。ゆっくりと鍋に入れれば……すぐに、大きな音が上がった。
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