時を止めるって聖女の能力にしてもチートすぎるんじゃないんでしょうか?

南 玲子

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ユーリス騎士団5番隊隊長

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アイシスとのデートは、私にとってとても有意義なものとなった。当初、これは修行だと自分に言い聞かせて、嫌々出かけていった。

案の定アイシスは、いつものごとくミニ丈の体のラインが強調された服を着ている。胸の谷間はこれでもかと強調され、そのぽったりとした肉厚な唇には、真っ赤な口紅がさされていた。

私はげんなりとしながら、何とか最初の目的地、町の中心街にある公園に向かった。待たせておいた馬車に乗りこむ。

私は女性との会話は得意ではない。女性の好むような話題には関心がない上に、興味も無いからだ。
アイシスがどこのお菓子がおいしいだとか、どこそこの貴族がだれと婚約したとか、くだらないことを延々と話し続ける。
それに適当なところで相槌を打つ。女性の話を否定すると、ろくなことにならないのは経験上知っているので、これが一番の解決策だ。
これで乗り切れなかったことは、一度も無い。
あとは花やお菓子などを買ってやって、おいしい食事でも奢っておけば、いずれ解放される。

無心だ。

あらかじめ予約しておいた、公園のティールームで食事をし、食後の紅茶を飲んでいる時、アイシスがとんでもないことをいいはじめた。

「あなたクラマの秘密、知っているんでしょう?」

私は一瞬驚いたが、直ぐに思い直した。アイシスは医療班としてクラマの体を治療したのだ。クラマの体に巻きつけてあった布を取らないように言っておいたが、やはり医療班のエキスパートの目は騙せなかったに違いない。

そう私は気がついていたのだ。
クラマが、実は女の子であるということを・・・。

それに気がついたのは、あの日だ。彼女が訓練場でドルミグに傷つけられた日。
今思い返しても、ドルミグを半殺しの目に合わせたくなるほどの怒りに襲われる。
私は地面に倒れこもうとしたクラマを、間一髪で受け止めた。
あまりの軽さにびっくりした。

すぐに伝心魔法で医療班を手配し、重傷のドルミグとキースはすぐに医療棟に運ばれた。
現場でクラマをみた医療班の者は、打ち身と擦り傷だけで、脳には異常がないようなので後で医療班の者を向かわせると言った。他の騎士もクラマの心配をして周りにいたが、私は自分の部屋に運ぶことにした。

私の部屋なら安全だ、こんな状態のクラマの傍を離れるのは嫌だった。
少年に抱くような思いではないことは、うすうす感じていたが、今回のことで自分の気持ちにはっきり気がついた。
私はクラマを好きだ。愛している。男だとかは関係ない。
クラマだからいいのだ。理屈ではない。

ベットの上で、傷だらけで血を流しながら小さな息をしている様を見て、胸が締め付けられる思いがした。
守ってやれなかった自分を悔いた。

医療班の者には、クラマがここにいることは伝えてあるので、きっと手が空けば誰かが来るに違いないが、クラマをそのままにして眺めているだけいうことは、到底できなかった。
シャツに手をかけ、そっと脱がせる。
胴体に布が硬く巻きつけられているのが、目に入る。
防具のつもりなのだろうか。

その時少し違和感を感じたがそのまま、ズボンも脱がせた。
色白の肌がところどころ青黒くなっていて、皮膚は擦過傷で血がにじんでいた。
特に太ももの辺りにも大きな斬り傷がありかなり出血していたので、思い余ってそっと手を当てた。医療魔法は得意ではないが、少しは扱える。

手に魔力を集中し、魔法を精製する。その時偶然、反対の手が股間に当った。本当に偶然だった。あるべきものが無いことに、呆然とする。

気を取り直して、紳士的ではない行為だが手をそこにあてて探ってみた。

「っつ・・・・!!!」

クラマが女の子だと確信するのに、あまり時間はかからなかった。
いくら布を巻いていようが、その腰のくびれは隠せなかった。さっき感じた違和感はこれだったのだ。

私は常日頃、神など信じたことが無かったが、この時だけは神様に感謝を述べた。
クラマは女の子だった。その事実がこれほど嬉しいとは、思ってもみなかった。
その瞬間ドアがノックされる。医療班の者に違いない。


少し待たせておいて、クラマに・・・彼女に自分のシャツを着せる。彼女の服は血と泥で汚れきっていたからだ。
そして愛しい彼女に、そっとくちづけた。
大丈夫だ。ドルミグのいいようにはさせない。

君の事は、私が必ず守る。

そう誓った。


「アイシス。君も気がついていながら、どうして言わなかったのだ?」

アイシスが私の質問に質問で返す。

「ユーリス様こそ、どうして女だと暴露して自分のものにしなかったの?」

そうだ・・・。私ならそんなこともできたろう。
公爵家とはいえ5番目の息子だ。しかも自力で騎士団隊長にまでなった。その自分が無理を言えば、平民だろうとも嫁にもらうことは、簡単なことではないだろうが、不可能ではなかった。

それをしなかったのは、何故だろう。
自分で自分に問う。

「そんな方法で彼女を手に入れたくなかったから・・・かな。彼女は強い。

今必死で何かを成そうとしている。それを止めたくは無かった。訓練場に彼女がいる以上、慌てなくても、時が来れば私の物にするのは可能だろうと思った・・・」

「そんなにも愛しているのね。妬けるわ」

そういいながら目の前のケーキを、フォークで突き刺した。
ユーリスの目が敵を射るときの、それに変わった。

「そんな怖い顔をしないで、あなたの敵になるつもりはないの。どう、わたくしと組まない?わたくしの実家。ルベージュ子爵家はお父様の投機の失敗で、火の車なの。
わたくしは持参金つきで婿に入ってくれそうな、3男以下でよい家柄の優秀な騎士を探している。あなたはあの子を守りたいのでしょう?わたくしならあなたが戦闘にいっている間、他の男から守ることができるわよ。いい話じゃなくて?」

たしかにそうだ。聖女が召喚されてからこの2ヶ月の間、魔獣の大規模襲撃は報告されていない。
だが、いつまでもそうだとは限らない。ひとたび襲撃があれば突然戦闘にたたなければいけない。その間彼女を守ってくれるという申し出は、ありがたいものだった。
アイリスは騎士団訓練所の所属だから、戦闘に派遣されることはよほどのことでもなければ、無いだろう。

「契約成立だね。明日には何人か見繕って、書類にして君の部屋に届けさせるよ。その中で気に入った男を選べばいい。そこから結婚まで持ち込めるかは、君次第だけどね」

「大丈夫よ。わたくしの色気が効かないのは、あなたくらいのものだわ。これでもかなりもてるのよ」


私は苦笑した。
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