時を止めるって聖女の能力にしてもチートすぎるんじゃないんでしょうか?

南 玲子

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サクラ 戦場に立つ

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真っ暗な闇の中に、魔法を放って戦う魔術士たちや騎士様の、攻撃の炎があちこち飛び交っている。
たくさんの逃げ惑う人たちの絶叫にも似た悲鳴の隙間から、ドーーンと爆発音が重なり合って聞こえる。
傷ついた人たちの呻き声、先遣部隊の騎士様達の無残な死体。

魔獣は熊よりも大きく、体表は鱗で覆われその牙からは誰のものかもしれない血が滴り落ちていた。六本ある足からは恐ろしく鋭い爪がのぞいている。
その背中からは羽が生えており、空中戦も繰り広げられている。

本で読んで大体の覚悟はしてきたが、実際に戦場に立つと、血と砂の混じった匂いや悲鳴に、全感覚が麻痺する。

甘かった。私、平和な国、日本から来たのを忘れていた。

「おばか!!あぶないでしょう」

とアイシス様が呆然と立ち尽くす私の手を引いて、建物の影に隠れる。

「あ・・・あれ・・が、魔獣・・なんですか?」

「そうよ、いろいろなタイプがあるけど、あれはジブリスね。厄介な魔獣よ。一発で倒さないと自発的に傷がなおってしまうの。キアヌス様達はどちらにいらっしゃるのかしら?魔力の感じからして、多分あっちのほうだと思うわ」

とにかく自分がしなければいけないことを思い出し、恐怖に駆られた自分を落ち着かせる。

時よ止まれ!!!

先ほどまで、アイシス様の声も集中しないと聞こえないほどの周囲の爆音が、一瞬で無音になる。

静寂が辺りを包む。

確かにそこには、狂気と殺戮、恐怖、死が入り混じっている世界が広がってはいるが、まるで一枚の絵のように全てのものが時を止めていた。
ほっとして、地味な作業に移ろうとしたときにアルから伝心魔法で連絡が来る。

「なにかあったのか!!」

・・・あ、アルに時を止める前に言っておくの忘れてた。

「ご・・・ごめんなさいアル。あまりにも混乱しすぎてて、連絡するのてっきり忘れちゃってた。大丈夫?周りに誰かいたりしたの?」

自分は時を止める際、帰り道のこととか気にしたりしていたというのに、アルのことはすっかり忘れていた罪悪感でいっぱいになる。

アルことアルフリード王子は、今回の大魔獣2体の襲撃で緊急会議をひらいている最中だった。そこにはセイアレス大神官、魔術庁長官に、騎士団総長のクラウス、宰相のリュースイ、補佐官のルーク。さらにはエルドレッド第二王子も同席していた。
今回の襲撃、隊長格の2名の戦死報告、20名の騎士全滅に、現在城は大混乱に陥っていた。その議論の最中に、時が止まった。

「一体何があった!説明しろ!!」

うわぁ。これ怒ってるやつだ。

私はしゅんとして、現状を話して説明した。アルは私がイワノフ町にいると知って、最初は怒りを顕わにした、でもその後一瞬で冷静に戻り、こう言い放った。

「今からそっちに行く。それまでお前は一歩も動くな」

え・・・?今からって、アル、どういう意味・・・?
そういって数分が経った後、アルが目の前に突然現れる。

「そ・・それって転移魔法?アル。そんな高位魔法も使えるの?」

私そういえばアルのこと馬屋番としか聞いてないけど、馬屋番が魔法を使うのがそもそもおかしい。高位魔法が使えるって言うのはもっと無理があるでしょう。だって高位魔法の使い手って、本に名前が残るほど希少で、現在国内で12名しか確認されてないって記してあった。
あ・・・アイシス様入れて13名か。
アル入れて14名ってこと!!そんなばかな。そんなにごろごろ高位魔法が使える人がいる訳が無い!!しかもそれだけの魔法力があれば、生活の保障はされるはず、なのにどうして隠していたりするわけ?

アイシス様はもともと貴族で、あと欲しいのは婿に入ってくれる裕福な家出身の有能な男っていう、明確な目的があったから理解できるけど、どうしてアルが・・・?

そこまで考えて、いやな想像が頭に浮かぶ。
もしかして、アルはセイアレス大神官となにか関係があるのではないか?私が聖女として召喚されたことを、知っているのではないか?
私が考え事に夢中になっていると、アルが驚いたような声で聞く。

「・・お前、クラマ・・・なのか?どうしてそんな格好を?」

あ・・・そういえば。今日一日女装していたから、全然自分でも違和感なかったけど、町娘の格好をしていたんだっけ。髪や目の色も本来の色に戻っているし、アルが驚くのも無理はない。

「これはアイシス様が、身元がばれないように変装をしようってことで、美容魔法をかけてくれたんだ。アイシス様は転移魔法ができることを、自分の玉の輿計画のために隠していたから・・・。それよりアル。アルはどうして高位魔法が使えることを、隠してたの?馬屋番なんて嘘なんでしょう?」

直球で疑問をぶつけてみる。

「・・・・・・」

アルが動揺しているのが伝わってくる。

それになにか、今日のアルはすごく違和感がある。いつもと雰囲気が違う。どこがどう違うんだろう。髪も目もいつもと同じ黒色で、前髪をいつもどおり長く額にたらしている。

その違和感の正体にすぐに気がついた。
服だ・・・。いつもと違う、上等な綿を使って、すっきりと仕立ててある。汚れ一つない貴族が着るようなその上等な服装と靴。
それと、動揺して無言のままの状態の彼を見て確信した。


アルは何かを私に隠している、そしてそれはきっと聖女がらみのことなのだろう。
彼に私の能力が及ばないのは、きっとそういうことなのだ。

だとしたら、今私がしなければいけないことは・・・逃げること・・・!!!

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