あっくんって俺のこと好きなの?

あんこ食パン

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溢れ出た想い

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(ねえちゃんのせいだ…)

ここ最近毎日姉の凛に敦也とのことを相談していたのだが、その過程で両親にも北斗が敦也の事を好きだということがバレてしまった
まあ、たいして隠していなかったのだが、バレたらバレたで面倒臭さかった
北斗の両親は北斗が幼馴染で同性の敦也を好きになったことに対しては何も気にした様子が無かったが、逆に応援が暑苦しい

「北斗ぉぉ!!!恋は気合いだ!」

「そうよ!とーちゃんだって、私に100回くらい告白して、気合いで落としたんだから!」

「……うぅ」

二人なら反対せずに寧ろ応援してくれるだろうとは思っていたが、まさか聞きたくも無い二人の馴れ初めまで披露して応援してくれるとは思わなかった
毎日毎日、息子の初恋を成就させようとあれこれ言ってくる
終いには「私があっくんに言ってあげようか?」なんてお節介を焼こうとしてくるので、流石にもう止めてくれと頼んだ程だ

体操部の大会も、敦也が応援に来ると知った両親は一緒に応援すると言って会場で敦也を捕まえて一緒に観ていた
幸い敦也に勝手に北斗の気持ちを伝えたりはしていないようだったが、ヒヤヒヤした

そして待ちに待った敦也の弓道大会
北斗はまた敦也の母を誘ったのだが、何故か北斗の両親まで来て敦也の両親と合わせて五人で会場へ向かった

今回も敦也はとても凛々しくて格好良かった
真剣な眼差しで的を見つめる横顔
弓を引く腕の力強さ
佇まいまで、どれをとっても最高に格好良い
北斗は興奮で頬を染めながら夢中で敦也を見つめた

残念ながら全国大会出場は叶わなかったが、それでも十分な好成績を残した敦也
今回は一緒に帰れそうだった為、早く感想を伝えたいと思って控え室前で待つ
両親達は先に外へ出て車の方で待っている
事前にメッセージで少し遅くなると連絡があったので気長に待っていたのだが、そんなに待たずに同じ学校の弓道部員達が出てくるのが見えた

(ってことは、あっくんももう直ぐ出てくるのかな?)

部員達が通り過ぎるのを見送っていると、その中の女子部員達数人がコソコソと話しているのが耳に入った

「小森のやつ、佐々木くん呼び出したらしいよ」

「えぇ~!あんなに噂全否定されてるのに?」

「さっき佐々木くんと小森が裏口の方に歩いて行くの見た」

「あぁ…私も見たかも」

「ってことは、告白する気かな?」

「そりゃそうでしょ~」

「うわぁ~勇気あるなぁ」

(小森って前に噂になってたあの子だよね?あっくんが頭撫でてた……)

敦也が女子に告白されるのなんてよくある事だ
しかし、北斗が気持ちを自覚してからそういう話を聞くのは初めてだった
しかも相手は敦也と距離の近かったあの子だ
北斗は居ても立っても居られなくなって、女子部員達が話していた裏口の方へ行ってみることにした

「わ………せ…………た……下さ…」

「………め…」

裏口が近付いて来ると微かに話し声が聞こえた
敦也と例の後輩部員だろう
真剣な告白の場ならば邪魔をする訳にはいかない為、二人に気付かれない様に少し離れたところで待機しつつ、二人の会話に耳を傾ける
盗み聞きなんて良くないと分かっていたが、北斗にも無関係では無い為どうしても気になったのだ

しかし、直ぐに北斗は自分の行動を後悔することになった
でもそれは例の後輩が敦也に抱きつく所を見て胸が締め付けられたからじゃ無い
振られても諦められないと、好きになってくれるまで努力するからと、縋ったその子に敦也が返した言葉を聞いてしまったからだ

「何回告白してもらっても俺は小森の気持ちには答えられないんだ…ごめん」

そう言って敦也は泣きながら抱きつくその子を引き剥がしていた
はっきりとした拒絶
相手に変に期待させない為の敦也なりの優しさだと分かっていたけれど、北斗はまるで自分が拒絶されたように感じて苦しくなった

"そもそも何回振られても簡単に諦める気無いよ俺!"

"一回の告白でダメでも俺、諦めないし!"

少し前に自分で言った言葉だ
その言葉を言った時はもちろん本気だった
だけど、あんな風に敦也に拒絶されても同じことが言えるだろうか?
振られても、振り向いてもらえるまで努力しようと思っていた
でも、その努力が敦也にとって迷惑なものだったら?
努力すればする程嫌われてしまうかもしれないのだとしたら?

(盗み聞きなんてしたからバチが当たったんだ…)

こんな会話聞かなければ、ただ直向きに努力しようって思えていた
何回だって思いを伝えてやる!ってただ純粋に思えていた
北斗の目から堪えようの無い大粒の涙が溢れ落ちると同時に、後輩の女の子が走り去って行く
北斗は裏口近くの通路にいたのだが、泣きながら走り去った彼女には見えなかったようだ

(俺も早くここから離れなきゃ)

このままここに居たら敦也に見つかってしまう
そう思うのに、北斗は立ち尽くしたまま動けずにいた
今泣いて良いのは、勇気を出して告白したあの子だけだ
まだ何もして無い自分が泣く資格なんて無い
そう思うのに、なかなか涙を止めることが出来なくて、どうしたら良いのか分からなくて
半ばパニックになった北斗はあっさりと敦也に見つかってしまった

「北斗?……っ!!!」

北斗が泣いていることに気付いて驚いた顔をする敦也
それはそうだろう。北斗は子供の頃から滅多に泣いたりしなかった
その北斗が、目を真っ赤にして大粒の涙を流しているのだ
直ぐに心配そうな顔をして側に寄る敦也
今の北斗にはその優しさも痛みとなって胸を刺した

「どうしたんだ?何でこんな所で泣いてる?」

「っ…ひっ……あっく…んっ」

直ぐに平気だって言って誤魔化してしまいたいのに、泣き過ぎて上手く喋れない
頬に次から次へと溢れる涙を敦也の指が拭ってくれる
その温かくて大きな手に、北斗は自ら頬を寄せて瞳を閉じた

(あっくんが好き…大好き)

「あっくんが好き…大好き」

「っ!!!?」

その言葉は想いと共に自然と口から出ていた
先程まで北斗の頬に添えられていた敦也の手がビクッと動いて離れて行く
急に頬にあった温もりが消えて、北斗はハッと我に返った

「あ……ち、違くて…あの…今のはっ……俺っ…」

まだ許可が出てないのに、心の準備だって出来なくなってたのに、勝手に口から溢れてしまった
拒絶される怖さを知った北斗には、まだ敦也の返事を聞く勇気が無い
何とか誤魔化そうと口を開いても、全然言葉が出てこない
結局、何とか傷を浅くしたくて絞り出した懇願はとても小さな声だった

「嫌いにならないで…」

敦也に北斗の懇願が聞こえたのか聞こえなかったのか分からない
ただ、言い終わるか終わらないかのタイミングで勢いよく敦也に抱きしめられた事だけは分かった
ギュッ
敦也が力強く北斗を抱き締めている
あまりに強くて少し息苦しさを感じるほどだ
ただ、北斗を抱き締める敦也の腕は少し震えていた

「…………あっくん?」

「…好きだ」

「え?」

「俺も北斗が好きだ。ずっとずっと好きだった」

「っ!!」

敦也は声も少し震えていて、絞り出すように告げられた言葉には痛いくらいに敦也の想いが込められていた
心臓がドクンドクンと激しく脈打つ

(あっくんも、俺のこと好きって…言ってくれた)

身体中が熱い
嬉しくて嬉しくて叫び出したいのに、胸が詰まって何も言えない
代わりに敦也の背中に腕を伸ばしてギュッと北斗からも抱きしめ返す
ドクンドクンドクン…
大きく心臓がの音がする
ピッタリとくっついている為、どちらの音か分からないが、きっと二人の音なのだろう

ドクンドクンドクン…
聞いているうちに少し落ち着いてきた北斗が、抱きしめていた腕の力を緩めて顔を上げると、敦也も同じように力を緩めてこちらを見た
敦也の目は真っ赤に充血して潤んでいて、頬どころか耳まで真っ赤に染まっていた
多分自分も似たような表情なのだろうと思いながら、もう一度
今度は自分の意思で想いを伝える

「俺、あっくんのことが好き…俺の恋人になってくれる?」

見つめ合った敦也の瞳から涙が溢れた
そうして敦也は顔をクシャクシャにしながら何度も頷いてくれた
それを見て、北斗もまた涙が止まらなくなる
泣きじゃくる北斗を敦也がもう一度強く抱き寄せた

「夢みたいだ…北斗と恋人になれる日が来るなんて」

「俺も……嬉しい」

その後は、殆ど人が居なくなった会場から出て両親達の待つ駐車場へと一緒に向かった
すぐ隣を歩く敦也
いつもよりちょっと距離が近くて、それが嬉しくて、ムズムズする
駐車場が近付くと、敦也が急に立ち止まった

「…………これ、俺達今、明らかに泣いた顔してないか?」

「……………してるね」

「はぁ………」

「まあ、大丈夫だよ」

両親達に泣いたのがバレることを心配する敦也の手を取って歩き出す
突然握られた手に焦りながらも敦也はしっかり握り返してくれた
横顔を盗み見ると、敦也の耳は真っ赤になっていて、照れているのが伝わってきた
胸がギュッとして好きな気持ちがもっともっとと膨れ上がっていく

(あぁ…俺、あっくんが大好きだなぁ~)

自分自身も耳を真っ赤にしながら、幸せを噛み締めた北斗だった










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