1Kアパートのトイレからイケメン獣人が次々召喚されてくるんだが?

天城

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「しかしその一ヶ月の間に、幼いお前をこちらに定着させる方法は見つからなかった。だから、泣く泣く親元に帰したのだ。そちらにはまだお前の家族がいて、アリーセ亡き後もきっと大切にしてもらえるだろうと。……タイガは最後までお前を帰すことに抵抗した。次元の扉から帰す時には、今日のように鎖で繋いで見送りも許さなかったんだが。最後には鎖を引き千切って飛び込んできたな。……まあ、間に合わなかったが。それを今でも恨まれているんだよ。うん、猫科は執念深いというから仕方ない」

 ふふ、と笑う薄い唇が近づいてきて、震えるユウリの額にふわりと当たった。柔らかくて、慈しみに満ちたキスが何度も頬や額に与えられる。

「方法を模索し、実行に移すまでにこれだけ時間がかかってしまった。中途半端に試せば消耗だけして、アリーセの二の舞になる。だからこそ慎重にならざるを得なかったんだ。……皆、お前が無事に帰って来るのを心待ちにしていたんだよ。ユウリ」

 ぎゅうっと抱き締められて、ユウリは震えが止まったのを感じた。抱き締めてくる腕に身体を凭せかけ、力を抜いて身を任せてしまう。心地良くて、酩酊したようないつもの感じだ。
 ヴァルフレードといるとずっと酔っ払ったような感じになってしまう。
 これはもう、逢う度に甘やかされていた条件付け――パブロフの犬状態だろうか。
 
「――さあ、ユウリ。最後の仕上げといこう」
「……仕上げ?」
「向こうの世界では、タイガにたっぷり中出しされただろう。それは異世界でも『存在』が強くあるタイガだから出来ることだ。それ以外の者が試そうとすれば、無理が祟って死んでしまう。……そう、これは向こうの世界での話だ。ユウリがこちら側へ来さえすれば、誰でも同じように行えるんだよ」

 寝ていたベッドからふわりと持ち上げられ、横抱きにされて連れて行かれる。何処に行くんだときょろきょろしたユウリは、廊下に出て『ひっ』と小さく息を飲んだ。
 風景がまるでイメージと違ったからだった。
 寝かされていた部屋の内装とベッドは完全にヨーロッパのファンタジー風味だ。
 凄く豪華な一流ホテルの一室と天蓋付ベッド、といった雰囲気だった。しかしそれは、獣人のいるこの世界はきっとファンタジーだろう、というユウリの先入観から生まれた見方だったのかもしれない。

 扉を一歩出た廊下は白銀の金属で周囲を覆われ、真っ白い灯りに照らされた近未来風だった。
 まるで宇宙船の中みたいだ。認知がバグったユウリは硬直し、口をあんぐり開けたままになってしまった。

「こちらの世界で使う『エネルギー』は、とある金属から作られている。廊下の明かりも、部屋の暖房にも、服を乾かしたり台所で煮炊きするのにも使われているものだ。ユウリの世界での『電気』と似ているかな。ただしこれは発電所の要らない、金属数ミリグラムから生まれる膨大な『エネルギー』だ。……『エネルギー』とは、最近どこかで話したね?うん、その金属というのがユウリの神珠と同じく、向こうの世界の『存在』定義を削り取ったものだ。次元の狭間にあたる場所で採掘をして、こちらの世界に持ち込んでいる。つまりこちらとあちらは、離れられない関係にあるということだ。アリーセやユウリのような存在を、このために欲する獣人もいるけれど……」

 コツ、コツ、と金属の廊下をヴァルフレードが一歩一歩進んでいく。
 それから空港の金属探知機のような輪を2度ほどくぐり、景色が3度変わった。
 辿り着いたのは、大きなベッドのある部屋だった。天井から紗のカーテンが幾重にもかけられていて、中にヒトがいる気配はするがその姿はぼんやりとしか見えない。

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