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賢者は召喚獣と同居する(6)
しおりを挟む結局この日は紋様の誤作動チェックを行って、紋様自体に欠陥がなかったことだけを確認して作業を終えた。あまり根を詰めると寝食を忘れて集中しちゃうから、やりすぎるとノルを放置して飢えさせてしまいかねない。
というわけで、次にすべきは夕食の準備だ。
「ふっふっふ。今日は久しぶりに和食モドキにしちゃおっかなぁー」
食料庫を開けてにやにやと笑う。
普段は食事を疎かにしがちな僕だけど、さすがに家に人がいる時くらいは料理もするし食事も摂る。
面倒だから最近は作っていなかったけど、生きてきた年数が人とは違う。これでも料理くらいは人並みにできるのだ。
ノルにメシマズ呼ばわりされるのは避けたくて、いつになく真面目に夕食の準備をしていると、珍しく来客のベルが鳴った。
「はいはーい。どちらさま?」
「お、珍しいじゃないか。リューエさんがベルのひと鳴らしで出てくるなんて!」
言って豪快に笑うのは、いつも店から薬草を配達してくれるおっちゃんだった。ちなみに名前は覚えてない。
おっちゃんはいつもの薬草と、前々から頼んでおいた魔術用の道具数点の入った木箱を床に置く。
「おっちゃんいつもありがとね、中身確認するよー」
言って箱を開けて種類と点数をチェックしていく。
近頃は質の良い薬草があまり採れないとかで、今回の品も結構値上がりしていた。
そろそろ自分で採った方が効率がいいかな、今度ノルと出かけるついでに採取するのも良いかもしれない。
と、そんな事を考えていると視界の端からひょこ、と黒い頭が覗く。
見ればベルの音に部屋を出てきたらしいノルが興味津々と言った様子で木箱に視線を向けていた。
「リューエ、それなんだ?」
「これは僕が紋様を書く時に使う道具と薬草だよ。変に弄り回さなければ好きに手にとって見ていいからね」
言ってチェックの終わった品からノルのそばに並べていく。
それを楽しそうに触れたり光に翳したりするノルを、配達のおっちゃんがしげしげと眺めていた。
「こいつはリューエさんの知り合いか何かか?」
「んー。ノルは僕の召喚獣だよ、まぁ色々あってね。しばらく家にいてもらう事にしたんだ」
「へぇ……あのリューエさんが召喚獣ねぇ」
あのって何だあのって。
僕は基本的に何でもできちゃうからあまり召喚獣を喚ばないだけで、別に必要に迫られれば普通に喚ぶぞ。
「でもあれだろ、召喚獣っていや労働力か主人への『ご奉仕』じゃねえか。そいつはどう見ても労働力って感じじゃねえよなぁ……見た目は別嬪さんだが、やっぱリューエさんも男の子だったんだなぁ」
「おっちゃん下品! 下世話! しかもまた僕を子供扱いしたな!?」
人を性欲を持て余した思春期の獣みたいに言わないでほしい。
思わず品物をチェックする手を止めて睨みつければ、おっちゃんはおお怖いと笑って流した。
「まったく……そんなだから奥さんに家出されるんだよ。今年何回目? あ、点数確認したよ、配達ご苦労さま」
「まだ二回目だな! じゃあまたなリューエさん」
愉快そうに笑いながらおっちゃんが帰っていく。
いやまだ上半期なのに二回目って多いよ、まだじゃないだろ。
毎度毎度、あれでよく離婚まで行かないよなと感心してしまう。あれはあれで相性がいい夫婦なんだろうなぁ……
「さて、と。じゃあ僕はこれを保管室まで運んでくるから……」
言って木箱を持ち上げようと伸ばした手を、ノルが掴んだ。
びっくりしてノルの方を向くと、何故かやけに真面目な顔をしたノルが、まるで睨むみたいにこっちを見ていた。
「リューエ、今の話……召喚獣が労働力か奉仕目的って言うの、本当なのか?」
「ん? あぁ、大抵はその二択だろうね」
「俺も?」
「ノルの場合は事故だけど……うん、まぁ目的としては概ね間違ってはいないかな」
ノルに僕の研究の適性があるかはさておき、もし手伝ってくれるなら簡単な作業をしてもらえたらとても助かる。
今回の場合は手違いで喚んでしまったから強制するつもりはないし、手を貸してくれたらありがたい話だなぁ、程度に思ってるだけだけど。
「どういうこと」
「え、どうって言われても」
実験動物として喚んだつもりは当然ないし、仮に助手にするなら意思疎通が容易なノルは最適だ。
僕としてはあくまで彼はお客様だけど。もしかしたらちょっとくらい、手を貸してくれたりしないかなぁ……なんて色気があるだけだ。
と、思ってたのだけど。
「俺、そんな風に見られてたわけ?」
「はぇ?」
「それじゃ、まるでデリ嬢みたいじゃん」
ノルが力任せに両腕を壁に叩きつける、立ち位置から僕は必然的にその腕に囲まれるかたちに。
これは。いわゆる。壁ドン。
だけどそんな色気のあるものではなく、間近まで寄せられたノルの顔は困惑と怒りの半々で……
って、あれ、今デリ嬢って言った!?
もしかして何か盛大に勘違いされてらっしゃる!?
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