【完結】ネコミミ賢者は召喚獣と恋をする

紗雪あや

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賢者と街(1)

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測定結果の確認を終え、無事に登録も済ませた僕達は、今度はノルに合う装備を求めて武器屋へと向かうことにした。
武器屋という名前ではあるものの、今向かっている武器屋は防具も取り扱っている装備全般をカバーできる素晴らしいお店だ。

「ガイウス、いるかい?」

ドアを開けて中を覗き込みながら呼びかける。
カウンター越しに顔を上げたのは中年に差し掛かったというのに衰えを感じさせない、整った顔立ちにガッシリとした体格の男前。
この武器屋の店主であり僕の友人でもあるガイウスだった。

「どちらさま……ってリューエじゃないか。どうしたよこんな所に来るなんて」
「今日はこの子の装備を見繕いに来たんだ。何か良さげなのある?」
「何かってザックリしすぎだろ……」

呆れたように言ってからガイウスはこっちに来いとノルを手招きする。
ノルの事を上から下まで眺めて、ガイウスは何か一人で頷いているけど、まぁそれはいつもの光景だから気にすることじゃない。
チラリとガイウスが僕に視線を向ける。

「予算は?」
「完全にお任せだけど、威力や強度よりノル自身が扱いやすいものがいいかな。彼、これから初陣の初心者だからまずは装備する感覚っていうのを知ってもらおうと思って」
「了解、じゃあ防具は軽めの皮を使ったようなものがいいか」
「鎖トカゲの鱗かモエナの繊維が使われてるのが理想だね!」
「それなら良いのが在庫にあったはずだから持ってきてやる」
「ありがと助かるー!」

ガイウスは立ち上がってバックヤードへ向かう前に、軽くノルの方を振り返った。

「武器の種類に希望はあるか?」
「あ、はい。できるなら剣を。あまり重くない、取り回しが良い物があるとありがたいです」
「じゃあそこの棚の辺りにあるショートソード類だな。両刃が定番だが、片刃のファルシオンなんかも悪くないぞ」

それだけ言うとガイウスは奥に引っ込んでいく。
その間に僕とノルは彼に教えられた棚周辺の剣を見ていく事にする。
元々が冒険者でもあったガイウスの目利きに関しては、この街で一番だと僕は思っている。
実際に見ても感じたけど、この店に陳列されている時点でどれもそれなりの質をしている。
もっとも僕は剣とか今世ではあまり振らないから、使い勝手とかは良くわからない。
それでも、いまいちな武器は何となく嫌な感じがしたり、モヤーっとした怨念が宿ってたりするものだ。
ガイウスの店にはその手の商品がひとつもない。
ギルドのシャミアちゃんにしろガイウスにしろ、こんな小さな街に留めておくのは勿体ない優秀な人材なんだけど、二人共この街が好きで、ここを選んで住んでいる。
……気持ちはちょっとわかるんだ。
僕も、賢者と呼ばれる才能がありながらもこの街が好きで居を構えてる一人だからね。
何となく居心地が良い街。
それってとても大切なことだ。

「リューエ、ちょっといいかな」
「ん、どうしたの?」

ちょいちょいと手招きされてノルの視線の先を覗き込む。
そこにあったのは、掘り出し物の一角に置かれた細身の剣。
形状もさることながら、どことなく清廉な雰囲気に僕も首を傾げる。
こんなの、この国では見たことがない。

「これ、ちょっと日本刀みたいじゃないか」
「本当だねぇ。ねぇガイウスこれは?」

僕の呼び声にひょこっと裏から顔を出したガイウスは、僕が指さしたままの剣を目に留めて思い出すよう視線を彷徨わせてから、あぁ、と声を漏らした。

「それは遠方の国から来た奴から買い取った剣だな。珍しいから仕入れてみたんだが、慣れないものは使いたくないとかで全然売れないんだよなぁ」
「でもこれ、防錆防汚の術式が練り込まれてるよ。手入れいらずで便利そうなのに」
「ここらの冒険者連中は、振ることを考えると薄いし折れそうで怖いらしいぞ」
「あー……」

こっちの剣は西洋剣に近いから力で叩き斬る感じだもんね。
日本刀みたいな滑らせるように斬りつける動作に慣れてないと、確かに刃を傷めるかも知れない。

「少し抜いてみても良いですか」
「ああ、構わないよ。ただし店のものは壊すなよ」

すらりと抜刀するノルの動作は妙に慣れていて、今までにも真剣を恐れない程に握った事があるのだとひと目でわかった。
そして上段……霞に少し似た独特の構え方をしてから、店内に気を付けつつ軽く振って感触を確かめている。

「うちの刀に感じが似てる」
「それ、現代日本で普通に生きてきた子から出るセリフじゃないよね」
「祭りの余興で披露する時に持たされるのは真剣なんだよ」
「いやだからそれが既に普通じゃないってば」

ノルってば思ったより特殊な環境で育ってる。
もしかしたら僕がノルを喚んでしまったのは事故や偶然じゃないのかも知れない、なんてふと思った。
刀を手にしたノルは何度か構えを変えたり抜刀から納刀までの動作を繰り返してから、満足したように頷いた。

「それにするの?」
「うん、日本刀の感覚で使えそうだし。初めて自分用に持つ真剣なら持ち慣れたものの方が良いかなって」

「初心者向けとはかけ離れたチョイスだな。まぁ触って相性が良いものが一番さ。それ買ってくれるなら防具の調整料金の方はまけてやるよ」
「いいんですか?」
「ずっと売れ残ってて可哀想だったからなぁ……欲しがってる奴の手に渡るなら俺もひと安心だよ」
「ありがとうございます!」

ノルが嬉しそうに頭を下げるけど、お金出すのは僕なんだから値段なんて気にする必要なんてない。
お金の心配なんてしないで欲しいものがあれば遠慮なく言ってくれればいいんだ。
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