【完結】ネコミミ賢者は召喚獣と恋をする

紗雪あや

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賢者と街(3)

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ノルの優しさに甘えるかたちで、急遽僕達はピーク時間の過ぎた食堂に足を踏み入れた。
ここは街でも人気の店だけど、流石にこの時間だと人はまばらで、煩すぎない賑やかさが耳に心地良い。
ノルもいかにもな『異世界の食堂』の雰囲気に目を奪われている。
席に着くなりメニューを見て、周囲の食べる料理を見て興奮気味に僕に感動を伝えるノルは、やっぱり子供だった。
見た目はもう立派な大人で刀を構える姿なんて惚れ惚れしちゃうくらいカッコよかったのに、異世界を肌で感じる度にノルは夏休みの少年みたいに目を輝かせる。
頼んだ料理にもいちいち大袈裟に感動して、なんというか、世話の焼き甲斐がある。

「楽しい?」
「すげー楽しい!」

即答だった。可愛いなぁ。
ノルはきっと日本でも大人に可愛がられるタイプだったのだろう。もう、思いっきり甘やかして可愛がってあげたくなるオーラがすごい。
これくらいで喜んでもらえるなら、トゥイーシアにいる間はずっと甘やかしちゃいそうだ。
スッと配膳されたデザートをノルの方に寄せると、それにも興味津々と言った様子で説明を求めてくる。
それに答えようと口を開きかけた、その時。
ゾワッとお尻に嫌な感触が触れた。

「うぎゃっ」
「なんだ男かよ色気のねぇ声だな」

後ろを歩いていた男が捨て台詞と共に通り過ぎようとする。
いや勝手に人のお尻を撫でるなよ。しかも撫でておいて文句言うとかどういう了見だコラ。
振り返って睨みつけると、そこそこガタイの良い冒険者風の格好をしたおっさんが不愉快そうに見下ろしてきた。
ただ、さすがに食堂内で揉め事を起こしたくはないらしく、舌打ちひとつで去っていく。
僕も嫌な気持ちを引きずりたくはないのでこれ以上は無視する。蚊に刺されたと思って忘れよう、ごはんは美味しく楽しくが一番だ。

「あーあ。もう、せっかくの美味しいごはんが台無しになっちゃうよ」
「リューエ、今あいつに何されたんだ」
「後ろ通る時にお尻撫でられたー。これまでも何度か人混みではやられてたけど、やっぱ全然慣れないや。本当最悪だよねぇ」

皿の上のデザートにフォークを突き立ててから、少しむくれつつも口の中に放り込む。
温められたパイ状の生地の中から甘くて冷たいフルーツとクリームがとろけ出し、ジュワッと口に広がっていく。
日本にもあったけど、温度差スイーツって一種の芸術だ。

「あー……美味しい。幸せな記憶で上書きされるぅ」
「そんなに痴漢に遭ったりするのか?」
「遭う遭う。多分この可愛さ溢れる容姿のせいだね。僕は男だけど、この仕打ちを日々受けてる女子の苦労が偲ばれるよ……ってせっかく記憶を消そうとしてるんだからノルも変なこと聞くなよぉ」

えいっ、とノルの口にもデザートを突っ込めば、しばらくモグモグと口を動かしてからノルがぽつりと「美味い」と呟いた。

「はいノルもこれで記憶リセットね! ってことで残りも食べちゃおうか」
「……わかった」

うんうん、素直なのは良いことだぞ。
景気の悪い顔で食べてたらお店にもデザートにも失礼だからね!
どこか釈然としないながらもデザートに舌鼓を打つノルに癒されつつ、僕も残りのデザートへと手を伸ばす。
一部始終を見ていたのか、会計時に店員のお兄さんに小声で謝られたけど、ごはんは美味しいしお店に罪はないから、また来るねと笑って返した。
店内での出来事とは言え、力の強い冒険者が相手じゃ店員さんだって強く出にくいからね。
ああいうのは相手の特徴を覚えてから、後でギルドにチクるに限るんだ。それだけで少なくとも注意とペナルティは入る。
きっと冤罪だと騒ぎ立てるだろうけど、あのギルドではどう頑張っても僕の方が信用も貢献度も上だ。これまでの僕の被害総数を鑑みても、訴えは取り合ってもらえないだろう。
軽い気持ちだろうが人を不快にさせたんだ、それくらいは覚悟するべきじゃないかな。
泣き寝入りとか僕のガラじゃないからね!

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