【完結】ネコミミ賢者は召喚獣と恋をする

紗雪あや

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賢者と飛竜と密猟者(2)

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ノルとティトに、密猟者と飛竜をどうにかする事を伝えると、二人とも僕と同じ様に絶妙に渋い顔になった。わかるんだけど今はこらえて。

「密猟者が卵を抱えたまま森の外に向かってるんだ、あのままじゃ人家に被害が出ちゃうよ。確か森を出てすぐのところに村があったはずだから、あいつらはそこに隠れようとすると思うし」
「それは……止めなきゃならんな」
「師匠とリューエで止められるのか?」
「僕なら倒せるけど、積極的に人を襲わない飛竜なら穏便に帰してあげたいかな。まず密猟者を拘束してから卵を飛竜に返す。同時に僕達も離脱すれば飛竜は卵を優先するだろうから帰っていく……と思う」

飛竜の怒りが鎮まらなかったら……まぁ、拘束した密猟者に責任を取ってもらおうかな。馬鹿なことをした彼らをリスクを負ってまで助けるほど僕はお人好しじゃない。
でも、きっとそんな上手くはいかないだろうなぁ。

「ノルはなるべく身を守りつつ、できる範囲でティトの援護をお願い。少しでも駄目そうだと思ったら隠れてて」
「わかった」
「無理はするなよ」

軽く段取りを決めると、僕の誘導のもと密猟者がいるポイントまで急ぐ。
あぁ、密猟者なんて森を抜ける前に飛竜の報復を受けて全滅しちゃえばいいのに。
ちら、とそんな非人道的な思考も掠めたけど、一応生きてるうちに見つけちゃったからには死なせるのも気が引けた。
ノルの事をお人好しだと言うけど、僕も大概だなぁ。
やがて前方からギャアギャアと騒がしい声が聞こえてきた。怒りに満ちた咆哮と、複数人の悲鳴と怒声。

「もう飛竜に見つかってるし」

穏便に済ませるプランが早速潰されてしまったけど、もうここまで来たら引けない。
杖の先を密猟者達に向けると、防護と拘束の紋様を同時に起動する。
自業自得の奴らを保護なんてしたくなかったけど、戦闘の邪魔だけはさせるわけにいかないから。

「ティト、ノル、倒しても追い払ってもいいからこの場を切り抜けて。僕は卵を回収するよ」
「了解」
「わかった!」

紋様で二人の能力を補強すると、僕は密猟者のいる防護術式の中に入る。
中に入ると男達が敵意に満ちた視線を向けてきた。
いや、なにその態度。

「せっかく飛竜から助けてあげたのに、睨まれる筋合いとか無いんだけど。剥き出しの卵を馬鹿みたいに晒してさ、自殺願望があったなら助けない方が良かったかな」
「うるさい! お前等、恩着せがましい真似をして俺達の卵を横取りする気だな」
「これは俺達が命懸けで取ってきたんだ、それを奪うなんて卑怯だぞ!」

ええー……この期に及んで命より卵を気にするんだ……
覗いてた時から馬鹿だとは思ってたけど、こいつらの思考回路どうなってるの。
本気で助けなきゃ良かったかも……
こめかみを押さえつつ、拘束されている男の背負ったナップサックから卵を取り上げる。
なおも煩く喚くものだから、面倒になった僕は王都の騎士団長宛にサラサラと事情を交えて一筆書いてから、それを男達に括り付けて紋様でさっさと転送した。転送紋様は指定座標にしか使えない。今回はとりあえず王都のギルドに飛ばしておいたから、騎士団にはそこから取り次いでもらえるだろう。
しかし飛竜に襲われながらも微塵も反省してなかったな、あいつら。
最後まで卵を返せとか怒鳴ってたけど、本当にそれしか見えてなかったんだ。ある意味凄い。
これで、飛竜なんかに手を出さなきゃよかった、なんて後悔の一つもしてれば情状酌量の余地もあったのに。
正直、もう二度と関わりたくない。
さて、とノル達の方へ意識を戻すと、二人は僕に向かって突進しようとしてる飛竜を牽制していた。
どうやら密猟者がいなくなったことで、飛竜は僕を卵泥棒の一味と見做したらしい。
ひどいね、冤罪だ。

「おーい、君の子はちゃんと無事だぞー」

呼びかけながら、ふわりと卵を浮かせて飛竜の足元まで運ぶ。
だけど返ってきたのは怒りが冷めやらぬ激しい咆哮のみ。

「あー。駄目かぁ、そりゃそうだよね」

悪漢に拐われた我が子を必死に追ってきたのに、待っていたのは「もう用はないから返すよ」と言わんばかりの相手。許せないのは当たり前だ。僕だってひとまず吹き飛ばすね。
だけど僕達だってそんな事をされる謂れはない。抵抗はするし、それでも駄目なら可哀想だけど狩るだけだ。

「ノル、ティト、離脱できそう?」
「ちょっと、きついかも」
「この激昂状態が治まらない事には、どうにもならないだろうな」

そりゃそうか。
じゃあ僕も加勢しようか……と思っていると、上空から急降下した飛竜の爪が、攻撃を受け流しきれなかったノルの腕を切り裂いた。
反動でノルが地面に倒れこむ。

「大丈夫ノル!?」
「少し掠っただけだから平気!」

見れば防具に覆われていない二の腕のあたりから血が流れていた。
その場で治癒と防護の魔術を飛ばすと、起き上がろうとするノルに駆け寄って肩を貸す。

「やる事やったし、もう適当に攻撃魔術ぶつけて撤退でいいよね、飛竜狩りはリーチのある攻撃を身に着けてから、で……あ、れ?」

ふっ、と体に入れていたはずの力が抜けるのを感じた。
ぐるん、と勢い良く視界がひっくり返る。そこから一瞬の間を置いて、叩きつけられるような衝撃。
どうしてかはわからないけど、肩を貸したはずのノルの前で、僕は崩れ落ちるように地面に倒れていた。
何が起きたのか数秒は理解が追い付かなくて、自分の置かれた状況に気が付いた時には、もう全てが手遅れだった。

ぐしゃり。

体の内側から、何かが潰れるような音を聞いた。

「リューエ!」
「リューエさん!」

悲鳴のような二人の声を最後に、僕の意識は暗転した。
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