【完結】ネコミミ賢者は召喚獣と恋をする

紗雪あや

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賢者の幸福

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夕方になると、ティトに連れられて無事にノルが帰ってきた。

「おかえりノル、依頼はどうだった……って、わぷ……またハグするの!?」
「ただいまリューエ、怪我はなかった? 変な奴は家に来てない? 危ない事とかもしてないよな!?」
「いや過保護ぉ!!」

帰ってくるなり飛び付くように抱き締めてきたノルに、ジタバタと手足を振って抵抗する。
ノルくんや、一体どうして急にこんなにも距離感がバグってしまったんだい!?
飛竜の件がトラウマになったとしても、これは結構過剰なスキンシップではなかろうか!

「リューエと離れてる間、俺もう心配で心配で」
「ノル、お前さんなぁ……」

ほら、君の師匠のティトだって呆れてるよ……ってノル全然そっち見てないしぃ。

「ティト、へるぷへるぷ!」
「あー……そうだな。おーいノル、そのままだとお前の大切なリューエさんが潰れちまうぞ?」

そう、そうなんだよ、もう本当に潰れそう!
ぺちぺちと背中を叩いて主張すると、ようやくノルは僕を絞め……じゃなかった抱き締める腕を緩めた。

「えっ、ああごめんリューエ! 大丈夫か?」
「だ、だいじょばないぃ……」

こっちはもう色々といっぱいいっぱいだよ、あとティトはよくやった。正直助かる。

「お前さんもう少し情緒を安定させた方がいいぞ」
「僕もそう思う!」
「そ、そんなに?」

そんなにだよ。自覚なかったのか。
思わず真顔になる僕とティトに、ノルは少し気まずそうに頬を掻いた。
これで少しは謎の過保護行動に自覚的になってくれればいいんだけど。
そして、無事にノルを送り届けてくれたティトは、僕をヘルプしてくれたお礼にちょっとだけ色を付けた報酬袋を手にほくほく顔で帰っていった。現金な奴め。
家に入って装備を外したノルは、改めて僕を上から下まで確認する。
いや、見すぎじゃないかなそれ。

「俺が出てる間、本当に何もなかった?」
「特になかったよ、実に平和なものさ。あ、でもちょっと研究が捗ってたから夕食を作るのは忘れちゃってた。ごめん……」
「謝らないで、いつも俺がリューエに作らせちゃってるんだから。じゃあ久しぶりに外で食べようよ。俺、結構収入が増えたから何かリューエに奢りたい」

抱き締める代わりに、今度は僕の手を取ってノルがそう提案してくる。
あの、だから距離感、距離感……もしかしてこれはノルを説得するんじゃなくて、僕がこれに慣れなきゃいけないのかなぁ。

「そ、そんなお金の事は気にしなくてもいいよ」
「俺が出したいの。だって最初の収入の時は、新しい装備を揃える事を優先したから。俺まだリューエに何もしてないだろ。ずっと何かしたいって思ってたんだ」
「えっ、そ、そうだったん、だ?」
「そうだったんだよ」

自力で稼いだお金でリューエに何かしたかった、と弾けるような笑顔で言われてしまえばもう僕に断れる道はなかった。

「あ、リューエまたネコミミ出てる」
「むぅ、うるさいよ。不意打ちで召喚主孝行とかされて嬉しくない奴なんていないじゃん」

ぴーん、と音が聞こえそうなくらい勢い良くネコミミが立ち上がった。服で隠れてるけど尻尾まで立っている。
ええい、全力で喜びをアピールするんじゃない!

「じゃあこれも喜んでくれるかな」
「?」

ちょっと上を向いてと言われてその通りに頭を上げると、首元にノルの腕が回る。
く、くすぐったい。あと顔が近い!
邪念を振り払うようにギュッと目をつぶっていると、ノルが何か首にかけている感触が伝わってくる。

「こうかな……これで良し。できたよリューエ」

そう言ってノルが離れるのを確認してから、自分の首元に手を当てる。
そこには琥珀色の艶やかな石を加工したペンダントがぶら下がっていた。

「これ……」
「あの、奢るのもそうだけど。師匠から『せっかくなら何か形に残るものでも贈ってみればいいだろ』ってアドバイスしてもらってさ。日頃の感謝を込めて……って何だか言ってて恥ずかしいなこれ」

照れ隠しに笑いながらノルが視線を泳がせて……はいないな。僕の耳に視線を集中させてる。やめてよ僕も照れちゃうじゃないか。
それでなくても好きな人から贈られたアクセサリーだ。テンション上げるなって方が無理なんだよぉ。
だから、お願いだから荒ぶる耳を凝視しないで!

「へへ、ありがとうノル。すっごく嬉しいから大切にするね。でもこういうのって就職した子供が初めてのお給料で親にやるやつじゃん。それ僕にしちゃっていいの?」
「いいんだ。それにリューエのくれた物ほどじゃないけど、それにも守護の魔術が籠められてるんだって。だから、それがあれば気休めでもリューエの事、守ってくれると思ってさ」
「ノル……」

ヤバい。泣きそう。
色恋沙汰を抜きにしても、その気持ちが嬉しくて。さっきまで近いから離れてくれ、なんて思ってたのに気付けば僕の方からノルに抱き着いていた。

「ありがとう、ほんとに嬉しいよ……!」

ノルのくれるこれが親愛からくるものだとしても構わない。僕はもうそれで十分なくらい満たされてしまった。
ノルにすりすりと頬ずりをすると、今度は向こうがわたわたし始める。
過剰なスキンシップ、するよりされる方が恥ずかしいよね。ふん、思い知ったか。
そうして一通りノルへの愛情表現を満喫してから体を離すと、僕達は笑いあいながら夜の街へと繰り出していった。

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