【完結】ネコミミ賢者は召喚獣と恋をする

紗雪あや

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賢者は悩みを打ち明ける(2)

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それから少し経って、僕がようやく泣き止んで人型に戻った頃。
玄関の呼び鈴が鳴り、ティトの元気な声が玄関に響き渡った。

「おはようございます師匠」
「はいおはようさん。リューエさん、ノル、今日はどこに行……って、ノルどうしたんだそれ」

それ、というのはフードを目深に被ってノルの背中にぴったり付いている僕の事だ。おいこら指をさすんじゃない。
こんな、泣き腫らしてひどい状態で知人友人には会いたくなくて、せめてと思ってフードで顔を隠しているんだ。
自宅でローブを着込んだ上にフードまで被るとか、めちゃくちゃ怪しい絵面だけど、見られるよりは幾分マシだった。

「今はリューエ、ちょっと人に見せられない顔してるから嫌なんだってさ」
「見せられない顔?」
「なんだよぉ……別に僕がどんな顔になっててもティトには関係ないしいいじゃん……」
「うお、声もすげえ掠れ……って、ノルお前」

僕の声を聴いて何を思ったのか、ティトはあからさまに呆れた表情をノルに向けた。
うん、僕知ってるよ。それは碌なことを言わない顔だ。

「な、なに師匠……」
「いや、お前さん見た目に似合わず結構手が早かったんだな。昨夜は随分とお熱い夜だったようで……って、熱っ、ちょ、リューエさんやめてくれ袖燃やさないで!」
「うるさい……どうして僕の周りの中年はみんなこう下世話なんだよぉ」

パッと火を止めると、焦げた袖部分だけは修復の魔術をかけて綺麗にしておく。後から服を弁償しろ、なんてお金を請求なんてされるのも面倒だからね。
火傷にならない程度に炙られてふぅふぅと手に息を吹きかけるティトを無視すると、僕はノルの顔を見上げた。

「今日は二人共、ギルドの依頼は受けてないの?」
「うん、昨日は雨だったし天気とギルドの募集状況を見て決めようって師匠と話してたんだ」

まぁ、依頼を受けようが受けまいが、僕からティトの懐に流れる金額は変わらないから、これはティトも納得しての事なんだろう。それなら、今日は無理にギルドに行く必要もないのか。
正直なところ、この顔と声とテンションのままギルドに行きたくはなかった。だって、あそこにはティト以上に下世話な輩がうじゃうじゃいる。
そんな場所に今言ったら一ヶ月は僕とノルの関係が噂され続ける。そんなの面倒だし単純に不愉快だ。
だけど、今日くらいは一日中ノルと一緒に居たかったんだ。

「じゃあ依頼はお休みして僕達で一緒にお出掛けでもしようか」
「うん、いいよ。場所はリューエに任せる」
「そうだなぁ……三人で退屈しないってなると、ちょっと紋様使って遠出してみるのもいいね」

そう、海とかいいなぁ。この街から海は遠いから、久しぶりに潮風に当たりたい気分だ。
ふんふんと鼻歌を歌いながら場所の候補をいくつか思い浮かべる。どうせ転移で行くんだから、普段行かないような遠い場所もいいし、海産物の美味しい港近辺も捨てがたい。
なんて考えていると、思考を阻むようにティトが声を上げた。

「ち、ちょっと待った。それって俺も参加なのか?」
「え、うん。そのつもりだったから勝手に数に入れちゃってたね。ノルはどうしたい?」
「俺は師匠も一緒がいいな。リューエとはいつでも家で二人きりになれるし、今日とは別の日にデートもしたいな」
「そっか、それもそうだね!」

家でも一緒にだし、恋人なんだからデートもいつだって行けるんだ。それに、ティトとノルが依頼で出てる時は、それはそれで僕も本業が捗るわけだし。
でも、割と普段からそんな感じかも。そう思うと、僕達ってばこうなる前から結構べったり気味だったんだな。

「ティトも一緒に行こうよ。剣を振るわない外出って言うのもたまにはいいんじゃない?」
「いやお前らの新婚みたいな空気にあてられる俺の気持ちも少しは考えろよ……ってかやっぱりデキてんじゃねーか……」
「うるさいよ。ティトはお仕事扱いでも同行するのは嫌? 遊びついでにノルに稽古つけてくれるなら、ちゃんと規定額は出してあげるよ。あとティトだってたまに恋人ちゃん連れて惚気に来るだろぉ」
「う……ま、まぁ金が出るならいいか……」

もごもごとはしているがティトもそこまで嫌じゃなさそうだ。うん、ティトを釣るならやっぱりお金が一番だね。チョロいチョロい。
なんだかんだ言いつつも付き合いが良いのがティトの良いところだ。実力もそれなりにあるし、危機管理能力も高くて義理堅い。あと意外と口も堅い……
ああ。良い事を思いついたぞ。

「ねえノル。さっきので色々と吹っ切れたからさ、ティトにもさっきの話、ぶちまけちゃおうかな」
「そうか。確かに俺とリューエだけじゃ限界があるし、一緒に考えてくれる人は多い方がいいね」
「そゆこと」
「……ちょっと待て。なんか嫌な予感しかしねえんだけど」
「へっへっへ、流石ティトだね。良い勘してるじゃないかぁ。これから話すのは僕の最重要機密だ。ちゃんと他言無用の誓約紋様でも縛るからね」

やけくそになってるわけじゃ決してないけど、ずっと誰にも話したことがなかった反動か、もう近しい人には言っちゃってもいいかなって気分になってきた。
こうなったらみんなで一緒に悩みを共有しようじゃないか。

「待った、リューエさん目が怖い」
「大丈夫大丈夫、ちょーっと僕の命に係わる話ってだけだからさ」
「ものすごく聞きたくないなそれは!」

一気に青褪めて逃げようとするティトの腕をすかさず回り込んでがっしりとホールドする。見れば反対側の腕はニコニコと笑顔を浮かべたノルが押さえていた。
……今更だけど、ノルも結構いい性格してるんだな。
俺を巻き込まないでくれー、と尾を引くような悲鳴を上げるティトを二人がかりで家の中に引きずり込んでいく。
本気を出せばティトなら余裕で僕の腕を振り払えるんだから、彼もちょっと素直じゃないよねえ。

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