【完結】ネコミミ賢者は召喚獣と恋をする

紗雪あや

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賢者は悩みを打ち明ける(3)

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応接間に引きずり込んだティトにかいつまんで僕とノルの事情を説明すると、案の定ティトは頭を抱えてテーブルに突っ伏してしまった。
ごめんね、こうなることは予想済みだったけど巻き込まずにはいられなかったんだ。
内心でそう謝りながら、ティトの前にシロップが染みて糖分たっぷりのレモンケーキと熱々の紅茶を出してあげる。

「僕達の話は大体こんな感じだよ」
「リューエさん、それ俺に話してどうしろって言うんだよ……」
「どうっていうか、僕とノルとはまた別の視点から意見がもらえたらいいなってだけさ。それが解決の糸口になったらラッキー、程度だからそこまで深刻に考えなくていいよ。あとはそっと胸に秘めててくれればいいからさ」
「胸に秘めるにはやたら重たい内容なのは、気のせいじゃないよなぁ」
「まぁ、うん。それはそう」

そうだね。重いのは間違いない。
だからこそ、うっかり他言できないように誓約の紋様で制限を付けたんだ。そうすれば酒に酔っても薬で操られても、決められたことは外部に伝えられない。この誓約は僕達の秘密を守るのはもちろんの事、秘密を漏らしてしまいそうで怖い、と思ってる人への保護も兼ねているんだ。

「この情報が外部に漏れると、きっと僕は人間兵器扱いされるんじゃないかな」
「え、そこまでなのかよ」
「そりゃそうだよ。だって僕が刻んだ紋様全部が発動するんだよ、想像してみてよ」

一通りの属性攻撃に自身への防護、それだけだって街ひとつ破壊しても足りない威力がある。
僕が使われるとしたら、あれだね。さしずめ敵地で爆弾抱えて特攻する人みたいな感じだ。自陣で死なれたらこれ以上ないくらい迷惑だけど、敵陣ならば災害級の大打撃を与えられる。
この国に敵対してる勢力がこれを知ったら、きっと王都にいる時を狙って僕を暗殺しようとするだろう。それくらいテロとしては効果的だ。
権力を持つ人間が知れば、僕は大なり小なりそんな扱いになると思う。人間が考える事なんてみんな似たようなものだ。だからこそ、今まで誰にも話さなかったし、今こうして話すのも契約と信頼があるからこそだ。
僕の言葉に顔色を失ったティトは、いったん視線をテーブルに戻し、カップの中の紅茶を一気に飲み干すと大きくため息を一つ吐いた。

「リューエさん……アンタそれでなくても国家機密級の技術を持った紋様師なのに、まだそんなヤバいもん抱えてたのかよ……」
「えへへ照れるなぁ」
「褒めてねぇ」

しかし、とティトはうんざりした様子でノルに視線を移す。

「しかもリューエさんだけじゃなくてノルの能力も規格外だよなぁ、お前さんもなるべく能力は隠したほうがいいぞ」
「え、俺も?」

急に矛先を向けられて、困惑した様子でノルが自分をさすティトの指を見つめる。

「お前さんの能力がどこまでの魔術に通用するかは知らんが、少なくともリューエさんの紋様は消せるんだろ?」
「リューエが言うにはそうみたいだけど」
「あっ、そうか。ノルってばこの国の防衛紋様を消せちゃうんだ!」

僕が国から依頼されて、外敵を阻むために書いた巨大な防衛紋様。これは定期的に補強やメンテナンスはしてるものの、ほとんど手を加える必要もなく国の安寧を保証してる結界。通常の解呪やディスペルの魔術でも消すことのできない特別なものだ。
それをノルが壊せると知られれば、この国の上層からは危険視され命を狙われるだろうし、敵国は喉から手が出るほど欲するだろう。
自分のことばかりでそこまで気付けなかった。

「僕もノルも、この国の弱みを握ってるわけだ」
「リューエさん、その言い方は物騒だからやめようぜ……」

ティトがそう言ってから、ふと何か思いついたような顔になる。彼がそういう顔をする時は、妙に彼の頭が冴えている事が多い。
何事かと首を傾げると、ティトはチラ、とノルを見てから手を上げて僕の方へ向き直る。

「ちょっと思ったんだけどよ」
「うん、第三者からの貴重な意見だし、何でも言ってみてよ」
「その、リューエさんの力を封じる力がノルの家系能力なら、ノルの努力次第で自在に操れるようになったりはしないのか?」

その言葉にノルはハッとしたように僕を見る。
能力の制御、か。

「あっ、確かにそうだな……その辺はどうなのリューエ」
「えぇと……期待されてるところで申し訳ないんだけど、家系能力の仕様については能力ごとに差がありすぎて一概に言えないんだよね」

日本人に多い家系能力だと、死んで効力を発揮する人柱型とか、自分の意思に関係なく使い魔が動いてしまう憑き物型などは、自分で制御はできない。
でもノルの実家の話を聞く限り、能力を制御した上で憑き物落としや妖物退治をしていたのではないかという印象はあった。

「まあでも。僕はノルの実家については詳しくないけど、うん。制御できる可能性はあるかもしれない」

思えばノルが魔獣狩りの時に魔獣の外殻魔力を中和していたのも、無意識下で能力を行使していた可能性がある。
それを自分でコントロールできるようになれば、あるいは。
訓練、試してみる価値はあるだろう。

「意識的に僕の魂に刻んだ紋様だけ無力化できるようになれば、それだけ切り離したりもできるかも!」

それにはまずノルが自分の能力を把握してコントロールできるようになる事と、僕の魂や紋様を目で見て認識できるようになる必要がある。
まだ仮定の段階で確実性も全然ない。だけど、実現すればノルに僕を殺させるよりずっと穏便に済む方法だ。
具体的には何も解決してないけど、その可能性に賭けてみたいと思える程度には希望があった。

「うんうん、やっぱりティトを引き込んだのは英断じゃないか! さすが僕!」
「そこは俺を褒めるんじゃないのかよ!」
「勿論ティトもちゃんと考えてくれてありがとね、偉い偉い。お礼に恋人ちゃんと結婚する時には僕の権力を使って色々とお膳立てしてあげようじゃないか」
「これでリューエが助かったら、師匠は俺達の恩人だもんな」
「だねぇ」

気は早いけど、可能性が出てきただけでもティトには感謝していた。
この方法を検証してみるにせよ、他の方法を探すにせよ、何か少しくらい希望が見えないと滅入っちゃうからね。

「あ、いや、その、だから急にそうやって持ち上げるのやめろって……」
「いつまで経っても褒められ慣れないね、ティトは」

本人はちゃんと実力もあって人も良いのに、褒められるのが照れくさくて落ち着かないからと、わざと粗暴に振る舞うことがあるの、僕知ってるよ。多分、そんな事ノルだってわかってる。いい加減、素直に褒められちゃえばいいのに。
しかし三人寄れば文殊の知恵とはよく言ったものだ。単に僕の視野が狭まっていたのもあるけど、こんなにあっさりと別の可能性に行き着くとは思ってなかった。
もし、これで本当にノルが自分の能力を制御できるようになれば、僕は今のままで何の憂いもなく余生を送ることができる。
だけどあくまで慎重に。とらぬ狸の皮算用、なんて事にならないようにしないと。

「よし。じゃ、ティトが良いアイデアをくれたところで今日は難しい話はおしまい。海に行こう!」
「海……!?」
「う、海……?」

突然の提案に二人は驚きと困惑に満ちた返事を返してくる。
ふふふ、どうして海なのかって?
それは僕が夏の海に行きたいからさ!

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