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賢者は召喚獣の試練を見届ける(1)
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目を覚ますと見慣れた洞窟の中だった。
僕がまだリューエ・カランクゥルじゃなかった頃、紋様の弊害に気付いたばかりの僕は強い焦燥感と共にここに足を踏み入れた。そして、大事なものを失ったんだ。
懐かしい、でも苦々しい思い出の場所だった。
でもどうしてここに再び入れたのだろう、僕にはもうその資格はないのに。と、歩き回ろうとしてそこで初めて違和感に気が付いた。
足がない。腕もない。いや、そもそも今の僕には体がなかった。
なんとなくふわふわと浮いているような、そんな実体のない何かになってしまっていた。
いや何これ……って今更だけど今の僕、鎖で雁字搦めにされてるんだけど本当に何!?
動揺してキョロキョロと辺りを見回すと、前方に倒れてる人影があった。
……ノル!
転移で気を失ってしまっていたのか、少しするとノルは小さく呻きながら体を起こした。
「痛……ここ、洞窟の中か?」
「そうだよ、ここは試練の洞窟の内部。神様が創った、救いを求める者たちにとっての人生の大舞台」
洞窟の奥からひとつの人影がゆっくりと歩いて来る。
それは真っ白いローブにふわふわとした赤い髪を揺らす黒い瞳の愛らしい美少年……って、え。
「リューエ?」
僕じゃん、どこからどう見ても僕!
何故かはわからないけど、不思議と偽物だという気はしない。あれは間違いなく僕だった。
もしかして、今の僕がこんな状態なのと何か関係があるのだろうか。
「そして君の試練はね、ノル。僕を、僕の体を動かしているこの術式を斬ることだよ」
「君は、リューエ……じゃない?」
「僕はリューエだよ! とは言ってもあくまで『リューエの肉体』で、そっち……君の後ろで鎖に縛られてる光があるだろ。それが君のよく知ってるリューエ、いわゆる『リューエの魂』なんだ」
ノルが振り返ると僕の方をじっと見詰める。
いやぁ。ノルにそんなに見詰められたら照れちゃうなぁ……ってそんな事言ってる場合じゃないか。
なるほど、どうやら僕はノルの試練に必要な要素として洞窟に呼ばれたゲストのようなものらしい。しかも僕ってば、肉体を何かに乗っ取られて今は人魂みたいな状態なのか。
これは神様の課す試練だけど、勝手に試練に使われてるんだから、神様に肉体の使用料とか請求できないかな。あの人はお人好しが過ぎる神様だから、ごねれば何かくれそうな気はする。
というか鎖に雁字搦めになってるだけの人魂な僕って必要なの?
そんな誰にも届かない僕の疑問をよそに、ノルと僕の肉体は会話を続けている。
「リューエ……いや、君は偽物、じゃないんだよな?」
「そうそう。僕はリューエの肉体を借りた試験官とでも思ってくれればいいよ」
「ああ。わかった」
「うんうん良い返事だね! じゃ、これから僕は君の後ろにあるリューエの魂を壊しにかかるね!」
「えっ」
は?
なにそれ。僕、突然のピンチなんだけど!?
僕の動揺をよそに、僕の肉体はどこから出したのか、見覚えのない杖をノルに向かって構えた。
「今回の試練は単純。僕の体を操作してる術式を君が斬れたら君の勝ち。君が肉体ごと僕を斬っちゃったり、僕がリューエの魂を壊したら、僕の勝ちだよ」
「な、どうして……!?」
「そりゃあ、この試練で君にとって『必要なもの』はリューエの術式を斬れるようになることで『大事なもの』がリューエの命だからだよ」
僕の肉体が当然でしょ、と言わんばかりに首を傾げる。
いや、それが試練でいいの?
それってつまり、戦闘の中で極限状態に追い込まれる事で斬れるようになれってだけの、ただの気合スポコン脳筋全開な荒療治じゃない!?
ちょっと試練担当さん、内容がちょっと手抜きじゃないの!?
「ん? 僕の魂がなんかごちゃごちゃ文句言ってるけど、知らないよ。だってこれは神様が決めた試練だもん」
「え、リューエはこの状態でも意識があるのか!?」
「あるよぉ。魂だけになっても君の後ろで元気に試練内容についてブーブー言ってるね」
クスクスと笑う肉体に我ながらイラッとする。いや僕の声もそっちに聞こえてるのかよ!
でも確かに今のノルに必要なのは『不可視の術式を認識して斬れるようになる』ことだ。それって与えられるんじゃなくて自分で掴むしかないものでもある。悔しいけど現実的な試練かもしれない、という気持ちはあった。
それに、これは朗報でもある。
ここの試練は創り出した当時の神の人柄もあってか、絶対に越えられないものは指定されない。つまりノルは今現在の技量からでも確実に紋様を斬れるようになる状態ではあるということだ。
そして、僕の魂がここにいる理由も納得できた。一番大事なもの、か。
ノル、そんなに僕の事を大事に思っててくれたんだ……えへへ、ノルの一番大事なものだなんて、なんだか照れちゃうな。
「ぅゎ……まぁいいか、じゃあ始めようか。ノル」
今、何か残念なものを見る目でこっち見たよな。肉体のやつ。
何だよぉ、文句があるならはっきり言えって。
「リューエ。俺、絶対乗り越えてみせるから。リューエを死なせたりしない」
うんうん。僕の恋人は本当にイケメンだなぁ。惚れ惚れしちゃうよ。
こうなったら観戦席から試合を見届けるノリで応援するくらいしかできる事なんてない。むしろ全力で心のうちわとかペンライト振っちゃう?
がんばれノル! 大丈夫、きっと君ならできる! かっこいいぞー!
大真面目に剣を構えるノルの背中越しに、肉体が僕へ何度目かのげんなりとした視線を向けてきたけど、やっぱり文句があるならはっきり言ってほしい。
僕は元からこういう奴なんだから、そんな目で見るなってば。
僕がまだリューエ・カランクゥルじゃなかった頃、紋様の弊害に気付いたばかりの僕は強い焦燥感と共にここに足を踏み入れた。そして、大事なものを失ったんだ。
懐かしい、でも苦々しい思い出の場所だった。
でもどうしてここに再び入れたのだろう、僕にはもうその資格はないのに。と、歩き回ろうとしてそこで初めて違和感に気が付いた。
足がない。腕もない。いや、そもそも今の僕には体がなかった。
なんとなくふわふわと浮いているような、そんな実体のない何かになってしまっていた。
いや何これ……って今更だけど今の僕、鎖で雁字搦めにされてるんだけど本当に何!?
動揺してキョロキョロと辺りを見回すと、前方に倒れてる人影があった。
……ノル!
転移で気を失ってしまっていたのか、少しするとノルは小さく呻きながら体を起こした。
「痛……ここ、洞窟の中か?」
「そうだよ、ここは試練の洞窟の内部。神様が創った、救いを求める者たちにとっての人生の大舞台」
洞窟の奥からひとつの人影がゆっくりと歩いて来る。
それは真っ白いローブにふわふわとした赤い髪を揺らす黒い瞳の愛らしい美少年……って、え。
「リューエ?」
僕じゃん、どこからどう見ても僕!
何故かはわからないけど、不思議と偽物だという気はしない。あれは間違いなく僕だった。
もしかして、今の僕がこんな状態なのと何か関係があるのだろうか。
「そして君の試練はね、ノル。僕を、僕の体を動かしているこの術式を斬ることだよ」
「君は、リューエ……じゃない?」
「僕はリューエだよ! とは言ってもあくまで『リューエの肉体』で、そっち……君の後ろで鎖に縛られてる光があるだろ。それが君のよく知ってるリューエ、いわゆる『リューエの魂』なんだ」
ノルが振り返ると僕の方をじっと見詰める。
いやぁ。ノルにそんなに見詰められたら照れちゃうなぁ……ってそんな事言ってる場合じゃないか。
なるほど、どうやら僕はノルの試練に必要な要素として洞窟に呼ばれたゲストのようなものらしい。しかも僕ってば、肉体を何かに乗っ取られて今は人魂みたいな状態なのか。
これは神様の課す試練だけど、勝手に試練に使われてるんだから、神様に肉体の使用料とか請求できないかな。あの人はお人好しが過ぎる神様だから、ごねれば何かくれそうな気はする。
というか鎖に雁字搦めになってるだけの人魂な僕って必要なの?
そんな誰にも届かない僕の疑問をよそに、ノルと僕の肉体は会話を続けている。
「リューエ……いや、君は偽物、じゃないんだよな?」
「そうそう。僕はリューエの肉体を借りた試験官とでも思ってくれればいいよ」
「ああ。わかった」
「うんうん良い返事だね! じゃ、これから僕は君の後ろにあるリューエの魂を壊しにかかるね!」
「えっ」
は?
なにそれ。僕、突然のピンチなんだけど!?
僕の動揺をよそに、僕の肉体はどこから出したのか、見覚えのない杖をノルに向かって構えた。
「今回の試練は単純。僕の体を操作してる術式を君が斬れたら君の勝ち。君が肉体ごと僕を斬っちゃったり、僕がリューエの魂を壊したら、僕の勝ちだよ」
「な、どうして……!?」
「そりゃあ、この試練で君にとって『必要なもの』はリューエの術式を斬れるようになることで『大事なもの』がリューエの命だからだよ」
僕の肉体が当然でしょ、と言わんばかりに首を傾げる。
いや、それが試練でいいの?
それってつまり、戦闘の中で極限状態に追い込まれる事で斬れるようになれってだけの、ただの気合スポコン脳筋全開な荒療治じゃない!?
ちょっと試練担当さん、内容がちょっと手抜きじゃないの!?
「ん? 僕の魂がなんかごちゃごちゃ文句言ってるけど、知らないよ。だってこれは神様が決めた試練だもん」
「え、リューエはこの状態でも意識があるのか!?」
「あるよぉ。魂だけになっても君の後ろで元気に試練内容についてブーブー言ってるね」
クスクスと笑う肉体に我ながらイラッとする。いや僕の声もそっちに聞こえてるのかよ!
でも確かに今のノルに必要なのは『不可視の術式を認識して斬れるようになる』ことだ。それって与えられるんじゃなくて自分で掴むしかないものでもある。悔しいけど現実的な試練かもしれない、という気持ちはあった。
それに、これは朗報でもある。
ここの試練は創り出した当時の神の人柄もあってか、絶対に越えられないものは指定されない。つまりノルは今現在の技量からでも確実に紋様を斬れるようになる状態ではあるということだ。
そして、僕の魂がここにいる理由も納得できた。一番大事なもの、か。
ノル、そんなに僕の事を大事に思っててくれたんだ……えへへ、ノルの一番大事なものだなんて、なんだか照れちゃうな。
「ぅゎ……まぁいいか、じゃあ始めようか。ノル」
今、何か残念なものを見る目でこっち見たよな。肉体のやつ。
何だよぉ、文句があるならはっきり言えって。
「リューエ。俺、絶対乗り越えてみせるから。リューエを死なせたりしない」
うんうん。僕の恋人は本当にイケメンだなぁ。惚れ惚れしちゃうよ。
こうなったら観戦席から試合を見届けるノリで応援するくらいしかできる事なんてない。むしろ全力で心のうちわとかペンライト振っちゃう?
がんばれノル! 大丈夫、きっと君ならできる! かっこいいぞー!
大真面目に剣を構えるノルの背中越しに、肉体が僕へ何度目かのげんなりとした視線を向けてきたけど、やっぱり文句があるならはっきり言ってほしい。
僕は元からこういう奴なんだから、そんな目で見るなってば。
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